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戦国異伝

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第二百五十二話 壇ノ浦へその六

「これは一体」
「どういうことじゃ」
「まさか我等の妖術が効かぬ」
「打ち消されるというのか」
「そうじゃ!」
 ここでだ、信長が彼等に叫んだ。自身が乗る鉄甲船から。
「御主達の妖術は最早効かぬわ!」
「織田信長か」
「暫く振りだな」
 信長は老人も見据えた、船の高さは鉄甲船の方が上だがそれでも視線を交わせて火花を散らしていた。
「しかも元気そうだな」
「今何と言った」
 老人は信長に答えずに言葉を返した。
「我等の妖術が効かぬと言ったな」
「うむ」
 その通りだとだ、信長も答えた。
「御主達の術は最早な」
「効かぬというのか」
「この旗を見よ」
 右手の旗を指し示す、そこにだ。
 果心居士が彼等に授けた呪文が書いてあった、その呪文を指し示して言うのだった。
「これが何かわかるか」
「それは」
「果心居士と呼べばわかるか」
「あ奴か」
 その名を聞いて自然にだ、老人の顔が歪んだ。
「暫く飛騨に引き籠もり今は何処にいるのかわからぬと聞いたが」
「あの者も御主達の敵だな」
「御主と同じくな」
「その果心居士が我等に授けたくれたものを」
「我等の妖術を破る呪文をか」
「そうじゃ、あの者が編み出した様じゃがな」
「くっ、それでか」
「御主達の妖術は最早効かぬ」
 全く、というのだ。
「一切な」
「おのれ・・・・・・」
「さて、御主達の幼獣は最早何の意味もなくなった」
 また言った信長だった。
「これでどうするか」
「それで諦めると思うか」
 これが信長への言葉だった。
「我等が」
「やはりそうか」
「御主達の妖術は効かずともじゃ」
「まだ術を使うか」
「この術がある」
 こう言ってだ、老人も他の棟梁達もだった。
 次から次にだ、傀儡を出した。舟も付けて。忍術を使う者達も分身をしてだった。その数をこれ以上はないまでに増やした。
 そしてだ、老人は力を使い果たした様な顔で目を血走らせて言った。
「ここで決着をつけようぞ」
「力の全てを使ったか」
「最早逃げることはせぬ」
「その力も使ったからじゃな」
「我等が滅びるか御主がここで死ぬか」
「その戦じゃな」
「さあ、来るのじゃ」
 こうも言った老人だった。
「思う存分相手をしてやろうぞ」
「その言葉確かに受けた」
 信長は臆することなくだ、老人に告げた。
「では御主達をここで滅ぼしてやろう」
「それが出来るのならな」
「出来るのではない」
 信長は老人のその言葉は訂正させた。
「必ずするのだ」
「我等を滅ぼすというのか」
「そうじゃ」
 まさにと言うのだった。
「この壇ノ浦でな」
「この壇ノ浦で平家は滅んだな」
「そしてわしもか」
「そうなるとは考えぬか」
「何一つ考えることはない」
 信長は轟然とさえしていた、そのうえでの言葉だった。 
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