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戦国異伝

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第二百五十二話 壇ノ浦へその五

「奴等また妖術を使おうとしておるな」
「上様の読み通り」
「ここでも使ってきますか」
「一ノ谷でそうした時の様に」
「まさに」
「そうじゃ、しかしじゃ」
 それでもと言うのだった、信長は。
「ここでな」
「はい、それでもですな」
「ここでもですな」
「その妖術は効かぬ」
「左様ですな」
「妖術はじゃ」
 その術についてもだ、信長は話した。
「所詮左道じゃ」
「左道では天下は手に入れられぬ」
「そうですな」
「そうじゃ、邪道は邪道じゃ」
 妖術、即ち左道はそうだというのだ。
「邪道は正道には勝てぬわ」
「だからこそですな」
「妖術は効かぬ」
「そうなのですな」
「所詮は」
「そうじゃ、思えば果心居士が我等のところに来たのもじゃ」
 そして魔界衆の妖術を破る呪文を授けたこともというのだ。
「それもじゃ」
「邪道では天下を手に入れられぬ」
「闇に堕とせもしない」
「所詮は惑わすだけのもの」
「そうしたものでしかないが為に」
「運命だったのじゃ」
 妖術が破られる、それが為のというのだ。
「わしはそう思えてきた」
「ですか、あの御仁が上様のところに来たのも」
「そうであったのですか」
「おそらくな、ではじゃ」
 信長はさらに言った。
「撃ち方を整えよ、奴等が妖術を使いな」
「それが破られた時に」
「まさにですな」
「一斉に撃つ」
「そうされますな」
「うむ」
 こう二人に答えてだ、信長は実際にだった。
 砲撃、銃撃の用意をさせた。そうしてだった。
 全軍をまさに撃とうという状況に置いた、そして。
 海は遂に完全に闇色になった、それを見てだった。
 老人は意を決した顔になりだ、こう言った。
「ではな」
「はい、これよりですな」
「いよいよ」
「妖術を使う」
 ここで、というのだ。
「よいな」
「はい」
 皆一言で答えた、そして。
 老人もほかの棟梁達もだ、一斉に。
 印を結びだ、そこから。
 懇親の術を放った、すると。
 空も暗くなりだ、闇に覆われ。
 雷が鳴り響き様々な妖獣達が出て来た。だが。
 それ等の獣達も闇も何もかもが消えた、これにはだった。
 老人達も驚きだ、口々に言った。
「まさか」
「またか」
「また効かぬのか」
「妖術が消されたというのか」
「ここでまたか」
「どういうことじゃ」
 皆呆気に取られたのだった。 
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