戦国異伝
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第二百五十二話 壇ノ浦へその四
軍勢の中央の魔界衆の軍勢の中で一際大きな船にいてだ、周りの者達に強い声で言い切ったのだった。
「案ずることはない」
「囲まれてもですな」
「今の状況になっても」
「それでもですな」
「そうじゃ、案ずることはない」
全く、というのだ。
「間もなく時が来る、見よ」
「見よとは」
「何処を」
「海をじゃ、海は静かじゃが」
それでもというのだ。
「暗くなってきておるな」
「確かに」
「海がです」
「確かに暗くなってきております」
「闇の様に」
「我等の気が溜まってきておるのじゃ」106
その海にというのだ。
「だからな」
「この海が完全に闇に染まれば」
「その時にこそ」
「使う」
その妖術をというのだ。
「よいな」
「これまでで最大の」
「その妖術をですね」
「幕府の軍勢に向ける」
「そうされますか」
「海におる者達だけでない」
老人は陸の方も見た、見れば対岸には天下の軍勢が集結していて彼等が丘に逃げることも許さない状況だった。
「あの者達もじゃ」
「陸にいる者達も」
「妖術で、ですな」
「討つ」
「そうされますな」
「一気にじゃ」
まさにというのだ。
「滅ぼしそしてじゃ」
「その勢いで」
「天下を闇に包み込む」
「そうされますな」
「そして闇の中に堕とす」
日本という国自体をというのだ。
「わかったな」
「はい、では」
「これよりですな」
「時を待ちましょうぞ」
「これから」
「それは間もなくじゃ」
妖術を使うその時はというのだ。
「待っておれ」
「はい、それでは」
「敵が妖術で討たれれば」
「我等はですな」
「その時に動きましょうぞ」
「是非共」
魔界衆の兵達も言う、彼等は妖術が出されたその後で動くつもりだった。その時を待ち続けていたのだ。
その時にだった、不意に。
信長は海を見てだ、こう言った。
「随分と暗いのう」
「はい、闇ですな」
「闇の色になっていますな」
ここでだ、平手と信行が言った。二人は信長の船に同乗しているのだ。
「まさに」
「これは」
「妖術か」
信長はその海の色から瞬時に見抜いた。
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