ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~
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神風と流星
Chapter2:龍の帰還
Data.30 コントローラー・チェンジ
「グルゥオォォォォッ!」
「チィッ!」
横合いから聞こえたブレスのチャージSEを頼りに後方に転がり、眼前を通り過ぎる黒炎には目も暮れずにブレスを放った《赤黒の道化龍》に向かって剣を投擲する。
結果は確認せず、すぐさま後ろから迫る《黒の槍剣龍》の尻尾を避け、こちらにも眼を狙って反撃。
ドラゴン共との戦いが始まって既に体感で数時間――――実時間ではおそらく一時間くらいだろう――――が経過している。その間ずっと俺は敵に攻撃を当ててタゲを取り、逃げ続けていた。
常に全方位からの攻撃を警戒し、咄嗟の判断で戦闘を続行するのは正直言ってしんどいとかいう次元ではないが、ギリギリ崩壊せずに何とかなっている。
それに、敵の数も減っている。《黒の白詰龍》と《赤の片喰龍》はもう倒した。今乗っている《赤の金剛龍》も先程の道化龍のブレスでHPが一割を切った。
もちろん、俺も無傷というわけではない。
複数のタゲを取っている以上、同時に攻撃されると流石にダメージを喰らってしまう。それに、
「ったく、しつけえんだよクソが!」
HPが減り暴走する金剛龍が複雑な軌道を描き高速で飛行する。俺は振り落とされないように必死にしがみつく。
動きがランダムなお陰で他の龍から攻撃を喰らう可能性は低くなっているのが不幸中の幸いだが、それでも色々なものがごっそりと削られていく。
そしてもちろん、それだけでは終わらない。
金剛龍がようやく落ち着きを取り戻し飛行を緩やかにしたところで、間断なく他の龍の攻撃が襲い掛かってくる。
高速かつ無軌道な動きでやられた三半規管を無理やりに酷使し、他方向からの攻撃をなんとか捌く。が、そこでついに限界が訪れた。
「くっ……」
身体がふらつき、後ろに倒れる。更に運悪くダメージを受けた金剛龍が暴れ出し、俺は空中へと投げ出された。
高度はざっと200メートルほどだろうか。もちろん、このまま落ちれば地面とぶつかって即死だ。
しかし、ここでようやく作戦その2が生きてくる。
「クライイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンン!!!!!!!」
「わかってらぁ!」
大声で叫び合図を出すと同時に、眼下でクラインたちが集まり一斉に操作を開始する。
SAOには、システムメニュー階層の奥深くにとあるコマンドが存在する。
自らのアイテムを奪われたり、もしくは失くしてしまったときの最終手段。
――――《コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ》。全アイテムオブジェクト化コマンド。
自分が所持している全アイテムをオブジェクト化し、足元にぶちまけるという不便極まりないが絶大な効果のシステムコマンド。
そのコマンドが今、クラインたちのパーティによって一斉に行われた。
ドサドサッ。
やや重たげな音を伴い彼らの足元に、大量の干草が現れる。
これが作戦その2、脱出用の秘策だ。
そもそも俺とシズクやクラインたちは、今しがた俺が落下したポイントより遥かに高い位置から落ちてきた。それなのにも関わらず俺たちは死亡どころかダメージを受けることさえなかった。
それはつまり、この干草を大量に用意すれば、落下ダメージを0まで軽減できるということだ。
SAOのアイテムストレージは容積ではなく質量で計算される。重い武器やアイテムは出来るだけ外に出し、干草だけを限界まで詰め込めばそれなりの数を持ち出せる。
ボフッ。
衝撃を吸収された柔らかな落下音を文字通り全身で感じ、すぐに跳ね起きる。
「クライン!悪いが作戦通りすぐにしまってくれ。戻って待機だ」
「あいよ、了解!」
無事に地上まで降りてこられたが、一欠片も気を緩めず俺は指示を出す。
何故なら――――
「グルオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!!」
「あーもう!気づくのが早いんだよクソッタレ!」
迫り来るドラゴンに悪態を吐きながらも、手近に落ちていた拳大の石ころを牽制用に投擲する。
ドラゴンたちのターゲットはまだ俺にある。ならば、地上に降りた俺を奴らが追ってくるのは当たり前のことだ。
しかし勿論、対策は打ってある。
吐き出されるブレスを何とかクラインたちから離れたところまで誘導して躱し、上を見上げる。
「ヘイ!そこなドラゴンくんたち!おねーさんとイイコトして遊ぼうぜい!」
などと大声でほざきながら、崖を垂直に蹴って槍剣龍に向かって超高速でぶっ飛ぶ変態。その手に携えられた剣は幽かに光の残滓を残している。
どうやらソードスキルの勢いを使ってあの速度を出しているらしいのだが、まったくもって原理は分からない。つーか出来るわけねーだろそんなこと。
が、細かい理屈はどうあれシズクはすぐに龍との間合いを詰め、一閃。
片手剣汎用ソードスキル《ブラスト》により、槍剣龍の硬い鱗を数枚弾き中の肉を抉って突き刺す。
そのまま鱗の凹凸を使って背中へとよじ登り、大きく助走をつけてジャンプ。今度は金剛龍の上へと移動する。
こうして龍たちのターゲットは俺からシズクへと移り、同時に作戦の実行役もバトンタッチだ。
何はともあれ、龍狩りの前半戦は無事に終了。
決着が、見え始めていた。
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