ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第25話黒の奥の手、隻竜覚醒
オレは先程偶然見掛けたPoHとの接触を終え、74層の迷宮区の塔にいる。何の問題もなくここまでこれたけど、さっきまでPoHと一緒にいたのに何もなかったのは良かったというよりむしろ不気味に感じた。まあアイツのカーソルはグリーンだったし、いつまでもフィールドにいられる程余裕がなかったんだろうな。
とにかく今は先に行った未来とキリトとアスナさんに合流しようーーーと思った矢先に見つけた。随分でかくてゴツイ扉だな。ボス部屋か?
「おーい三人共。悪いな遅くなった・・・って、何だよ・・・コレ?」
「遅いなんてもんじゃないよお兄ちゃん!」
「わたし達が知りたいくらいよ!」
「何してる!?早く《転移結晶》を使え!!」
三人が立っている目の前にある扉は開かれており 、中では大きな剣を振り回す巨大な蒼い悪魔ーーー《ザ・グリームアイズ》とのボス戦が行われていた。だが戦っているのは《血盟騎士団》でもなく《聖竜連合》でもなければソロプレイヤーでもなかった。
《アインクラッド解放軍》ーーーかつて第25層攻略の際、多数のプレイヤーを犠牲にした大型ギルド。今ここにいる人数は10数人辺りといった所。あれ以来ボス戦には来なくなった連中が無謀にもあの蒼眼の悪魔と戦闘を初めていた。
だが戦況は良いものではない。四段あるHPバーは全段緑色。つまりまともにダメージを与えられていないという事だ。キリトが《転移結晶》で避難するように叫ぶがーーー
「ダメだ!け、結晶が使えない!」
あの悪魔の領域は《結晶無効エリア》ーーー結晶アイテムが役立たずの石ころとなる領域だった。今までのボス戦ではそんなトラップはなかった。これはもしかしたら、この先は今までのように行くと思うなという茅場晶彦からの忠告なのだろうかーーー逃げろ。今すぐその空間から離脱してくれ。
「我々《解放軍》に撤退の二文字はありえない!戦え!戦うんだ!!」
「あのバカ野郎・・・!」
オレの思いは虚しく、《軍》のリーダーらしき大柄の男の言葉が撤退を許さない。キリトの声も、恐らく途中で出くわしたであろうギルド《風林火山》リーダー・クラインの声もオレには聞こえなかった。
大柄の男の全員突撃命令を受け、纏めて斬り込む《アインクラッド解放軍》。キリトがやめろと叫ぶもその勢いは止まらない。ここで《ザ・グリームアイズ》の口から放たれた禍々しい薄紫色の咆哮が彼らを飲み込み、黄金の光を纏った大剣が降り下ろされる。その直後にリーダーの男があの悪魔の大剣に斬られ、オレ達の前に飛ばされる。
「おい!しっかりしろ!」
キリトがこの男の安否を確認しようと駆け寄った瞬間、この男の兜が砕け散った。
「うぅ、あ、ありえない・・・」
ありえないーーーそれだけ言い残してこの男の身体はポリゴンとなって消滅した。
「ありえない、だぁ・・・?」
オレの中から何かがフツフツと沸き上がってくる。その現象の名前は解ってるーーー怒りだ。一つはあの悪魔に対する怒り。そしてもう一つがーーー
「ありえないのは・・・お前らだろうがァーーーーーー!」
気付けばオレは走り出していた。後ろでオレの名を呼ぶ仲間達の声ですらもはや怒りでかき消されている。オレは腰の抜けた《軍》の一人に狙いを定めたグリームアイズの背中を《ドラゴンビート》でーーー竜の翼で切りつける。そのせいか悪魔の標的はオレに替わった。まっすぐ突き出された左の拳を上手く受け流し、オレが助けた男の前に立ち、その男の方へ振り向く。
「お前ら・・・」
言いたいことがあるから。
「あのボス戦の後から、一体何をしていたんだ!一体何を学んだんだ!!」
25層攻略の時と全く変わってないーーーあれから一年以上経っているのに、何も変わってなかった。それだけでオレの怒りはヒートアップしてくる。
怒りのあまり忘れていた、気付かなかったーーー後ろで大剣を降り下ろそうとする悪魔の気配に。すぐにカッとなって周りが見えなくなるのは悪いクセだ、自分でも認めてる。流石にもう回避は間に合わない、そう諦めかけている時ーーー
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
《黒の剣士》の最強の魔剣がグリームアイズの大剣の軌道をずらし、オレと《軍》の男はその刃を受けずにすんだ。
「ミラ!そいつを避難させろ!ライリュウ!俺と一緒に突っ込め!」
「了解!全く・・・一人で突っ走るお兄ちゃんもお兄ちゃんだよ!」
「みんな・・・ゴメン!」
キリトと未来の呼び掛けに目が覚めた。未来アスナさんとクライン達《風林火山》は他の《軍》のプレイヤーを避難させている。そのみんなにさっきと同じ禍々しい咆哮を放とうとするグリームアイズにオレとキリトが後ろから切りつける。だけどーーー
「硬い・・・!」
オレ達の一撃が大して効いていない程に硬い悪魔の肉体に思わず悪態を吐く。その後はグリームアイズの大剣がキリトの脇腹、オレの太股を掠める。
パワーがちょっとーーーいや、かなり強い。オレもキリトもHPがどんどん削られてる。このままじゃ本気でヤバイーーー
「キリトくん!」
「お兄ちゃん!」
「キリト!ライリュウ!」
アスナさんと未来、クラインがオレ達の名前を叫ぶーーーというか最後がクラインかよ。仮にオレがここで死ぬとしても、最後に聞く声がおっさんだなんてーーー
「冗談じゃねぇっての!」
ヤケクソ染みた一撃でグリームアイズの大剣を弾き返す。そのすぐ後にグリームアイズは一刀両断の如く大剣を降り下ろし、それに反応したオレとキリトは互いに横に跳び避ける。
こうなったらーーーやっぱりアイツの力が必要だ。
「キリト!」
オレは親友である《黒の剣士》の名を叫ぶ。オレの声に反応したキリトはオレに顔を向ける。
「オレ達が時間を稼ぐ、その間にアレの準備しろ!そうしないと《月夜の黒猫団》の・・・サチって子の二の舞だぞ!」
「ッ!!」
アイツは以前、ベータテストの時にはなかった《結晶無効エリア》で素性を隠して入っていたギルドを亡くした。自分が《ビーター》だって事を隠していなければ彼らはーーーサチって子は死ななかったかもしれない。以前そう言っていた。だったらほとんど同じ状況である今はどうするべきだ?隠してる場合じゃないーーー迷うな!
「・・・アスナ!クライン!ライリュウ!ミラ!頼む・・・10秒だけ持ちこたえてくれ!!」
「お前ら聞いたか!?10秒だ・・・あの悪魔さんにキリトの邪魔させんな!!」
『解った!!』
オレと未来、アスナさん、クラインはグリームアイズに向かって走り出す。その隙にキリトは大急ぎでシステムウィンドウを操作し準備に取り掛かる。
クラインが雄叫びを上げながら大剣を受け止め、飛ばされる。アスナさんが突っ込みグリームアイズの注意を反らし、右側からオレが《両手剣》突進系ソードスキル《アバランシュ》を叩き込み、左側から未来が刀の斬撃で衝撃波を飛ばす《刀》遠距離系ソードスキル《残月》を叩き込む。
「よし、良いぞ!スイッチ!」
準備が完了したキリトと前衛を交代するために先に硬直が解けたオレはまだ硬直が終わっていない未来を抱き抱え離れる。
飛び出したキリトの右手には黒き魔剣《エリュシデータ》。そしてーーー左手には、オレの《ドラゴンビート》と同じ《白竜ゼーファン》が生成する鉱石から生み出された白竜の剣《ダークリパルサー》が現れる。その黒と白、左右非対称の剣が蒼眼の悪魔を斬る。
この空間にいる全員が驚いている。それもそのはずだ。あれは取得条件を満たせば修得出来るエクストラスキルとは違う。取得条件不明、使用出来るのはサーバー内でたった一人のスキルーーーユニークスキル《二刀流》。
再び降り下ろされたグリームアイズの大剣を、二本の剣をクロス状にして受け止め、鳥が翼を広げるように弾く。
「スターバースト・・・ストリーム!!」
その両手に握る剣の蒼白い輝きは星の如く。その蒼白く輝く数多の剣撃はまさに流星群。《二刀流》16連撃上位ソードスキルーーー《スターバースト・ストリーム》。
技の途中で何回か蒼眼の悪魔に身体を斬られても、速く、もっと速く、目の前の敵を斬り続ける。最後は左手の白き剣がグリームアイズをーーー貫く。
「キリトくん!」
「何アレ!?お兄ちゃん知ってたみたいだけど・・・何なのアレ!?」
「ユニークスキル《二刀流》。前にキリトに偶然会った時見たんだ。キリトもギリギリだったけど、あんな大技を浴びたら流石のグリームアイズでも・・・」
ひとたまりもないと言おうとしたけど言えなかった。だって《スターバースト・ストリーム》を喰らい、ポリゴンとなって消滅すると思っていたグリームアイズのHPがよく見るとギリギリ残っていてーーー最後のHPバーが満タンの状態まで回復した。
「回復したぞ!?」
「キリト!早くそこから離れろ!!」
「無理だよ!あんな強いソードスキルの硬直なんてそんなにすぐに解けないよ!」
「キリトくん・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
グリームアイズの回復にクラインは当然驚き、オレも戸惑いながらキリトに逃げろと言うが未来が長時間の硬直で逃げられないと若干怒鳴りながら指摘する。アスナさんは耳がつんざくような大きな悲鳴を上げる。
キリトに向かって止めと言わんばかりに大剣を降り下ろすグリームアイズ。助けに行こうにももう間に合わないんじゃーーー
ーーー神鳴・・・じゃなかった。ライリュウ、ちょっとスキル上げ付き合ってくれよ!ーーー
「ッ!?」
何だ今のーーー
ーーーう~~ん悔しいわ~!もう一回や!ウチが勝つまでやめへんで!ーーー
走馬灯?
ーーー帰ったらDVD揃えてオールナイトの約束・・・忘れるなよ?ーーー
そうだ。オレはーーー
ーーー竜k・・・ライリュウくん、よかったら一緒にショッピングに行かない?////ーーー
どんなに絶望的な状況でも、命を懸けて友達をーーー
「守る!」
そう叫んだ瞬間、オレはーーーグリームアイズを切り裂いていた。
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