ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第2章 滅殺姫の憂鬱と焼き鳥の末路
第43話 波乱の幕開け
火織が焼き鳥の首を跳ね飛ばした瞬間グレイフィアさんのアナウンスが流れ、俺達の視界は光に包まれ気が付くと部室に戻っていた。今度こそ、今度こそ俺達は勝ったのか。
「イッセー、その腕……!」
その声に振り向けば部長が口元を手で抑えて俺の左腕を凝視していた。まあ仕方ないかな? なんたって俺の左腕は肘から先が赤い鱗に覆われ、指先には鋭い爪が生えた龍の腕になっちまってるんだから。
「あの力を得るためにドライグに支払いました。お得だったんですよ。たったこれだけであんなにすごい力が使えたんですから。まあこれだけじゃあいつは倒せませんでしたけど、それでもおかげで部長を助けられました!」
そう言って俺は笑うんだけど、部長はさらに泣きそうになっちまった。ぶっちゃけ半分以上は火織に追いつくための自己満足でしたことだし、部長がそこまで責任感じる必要はないのに。
それにやっぱ部長には恩があるからな。悪魔にしてくれたおかげで火織たちと長い間一緒にいられるようになったんだから。だからそれを考えれば左腕一本なんて安いもんだ。
それから個人的にも部長には幸せになってほしい。ちゃんと好きな人見つけて、恋愛して、それで結婚して欲しい。やっぱ好きな人と結ばれないなんて間違ってるよな。
「……今回は破談に出来たわ。でもまたこんな事があるかもしれないのよ? こんな事を続けてたらそのうち……」
「大丈夫ですよ。火織が交渉してくれたお陰でもう結婚に関しては実家の方に何も言われないようになるはずじゃないですか。それにもし何かまた言ってきたとしても部長も火織たちの強さ見たでしょ? 俺がまたこんな無茶しなくても部長を守れるほどの力持ってたじゃないですか。だから大丈夫ですよ。でも……」
そこで俺は決意を新たにする。
「この先また同じようなことがあれば今度は左腕の残り、その次は右腕、その次は目を支払います」
「っ! やめて! どうして、どうして私なんかのためにそこまで……」
「私なんかのためなんて言わないで下さい。俺はそれだけ、部長には感謝してるんです。何度でも何度でも部長を助けに行きます。どれだけの代償を払おうとも。俺はリアス・グレモリーの兵士ですから」
そう言った瞬間部長の目から涙が一筋流れ、そのまま部長は俺に顔を寄せてきて……って!?
チュッ
「……どうして避けるのよ」
「いや『どうして避ける』じゃないですよ! いきなり何するんですか!?」
「助けてくれたご褒美に私のファーストキスあげようと思ったのに。日本では女の子が大切にするものなのよね?」
「ファーストキス!? いやそうですけどなら尚更そういうことはほんとに好きな人にして下さい!」
「……むぅ~」
なんでそこでむくれるんですか!? そ、それに俺だってファーストキスなんですよ!? とっさに避けたから頬にキスされちまったけど、これはノーカンだよな!? 火織にキスされるとこなんて見られたら、あまつさえもし勘違いなんてされちまったらさすがに立ち直れない!
ってあれ? 火織だけじゃなく、ここには黒歌姉たちもいるんだよな? ヤ、ヤバイ、なんか寒気が……。
おれはそろ~りと背後を振り返る。そこには……ものすごい怒りの形相の黒歌姉、龍巳、白音ちゃんが! っていうか龍巳! お前表情出すのが苦手な無表情キャラじゃなかったっけ!? なんか最近良く表情が出るようになってきた気がするんだけど!? 感情豊かになって嬉しい半面それがだいたい俺関連で怒っている時ってのがお兄さん複雑だよ!
ってこんな事考えてる場合じゃなかった! 早くこの場から逃げないと! 部長も早く逃げ……って部長が真っ向から黒歌姉たちの視線を受け止めた!?
「そういうわけだから、悪いけど私も参戦させてもらうわ。黒歌、龍巳、白音、それからアーシアとレイナーレもかしら? 随分後発になっちゃったけど……負けないわ」
……は? え、いや、え……? 今のどういうことだ? その言い方、それじゃあまるで俺のこと、っていやいやいや! ないないない! あるわけない! 部長が俺を好きになるなんて! それにその言い方じゃまるでアーシアとレイナーレまで俺の事好きみたいじゃないか! さすがにそんなことあるわけ……
「くっ、イッセーのかっこいい所見たいがためにやったことがこんな裏目に出るにゃんて!」
「でもイッセーは渡さない!」
「うぅ~、なんでこう次から次へと。しかもまたスタイルいい人です」
「はぅぅ、ライバル多いのにまた増えちゃいました。元からあまり勝ち目がなかったのに」
「ただでさえ私は不利なのに……でも私は使い魔だし一緒にいる時間は一番長いはずだから何とか巻き返して……!」
……え? この反応、まさか本当に!? ど、どうなってるんだ!? 幼馴染の黒歌姉たちはまだ分かるから納得してたけど、なんで部長まで!? それに今のアーシアとレイナーレの反応もそれじゃまるで……! 出会って僅かなのになんで俺なんかのこと!? 俺がしたことなんて我が身を顧みず助けたことくらいしか……あれ? ちょっと待てよ?
アーシア
初めての友だちになった。加えて殺されそうなところを命をかけて助けだした。
レイナーレ
本来消し飛ばされるところを敵である俺が助けるよう頼んだ。お互い心の傷をさらけ出した上、敵の悪魔や人間の中とはいえ今まで得られなかった居場所を手に入れるきっかけとなった。
部長
結婚したくなかった婚約相手をぶっ飛ばして破談にした。その際左腕を代償にし、これからも同様にどれだけ代償を払っても助け続けると約束した。
………………
………………………………
………………………………………………これかぁ!?
え、じゃあ何? 本当に部長たち俺のことが好きなの!? ただでさえ俺は火織のことが好きで、さらに黒歌姉たちの気持ちに気付きつつ気付いてないふりをするっていう爆弾まで抱えてるっていうのに! いやこれはまあ本人たちにはバレてるっぽいんだけどさ!?
「というわけでイッセー、私もあなたの家に住むことに決めたわ」
「ってどういうわけですか!?」
いや好きな人のそばにいたいって気持ちは分からなく無いですがアグレッシブ過ぎません!?
「下僕との交流を深めたいのよ。アーシアやレイナーレだって住んでるし、もちろん私もいいわよね?」
「いいわけないにゃ!」
そこからは俺をそっちのけで激しい言い合いが続いた。っていうか俺の家に住むか住まないかの話なのに俺の入る隙ないよね? これ、どう抵抗しようとなし崩し的に部長転がり込んでくるんだろうなぁ~。
「ふふ、イッセーも大変ね」
そんなふうに黄昏れてると火織が話しかけてきた。あの中に火織が混ざってたらどんなに嬉しいか……。
「……下僕と交流するにしても、なんでうちなんだろうな? それもこんな急に」
「ま、色々あるのよ。頑張りなさいよイッセー」
う、この反応絶対火織も気付いてるな。部長たちの気持ちのこと。でも俺が気付いてることには気付いてなさそうだからそれだけが救いか?
「それよりイッセー、お腹の方は大丈夫?」
「へ? お腹?」
その瞬間、俺のお腹がグルルルルッと盛大に鳴った。でもこれはもちろんお腹が空いた音なんかじゃない!
し、しまった忘れてた! 俺あんな量の浣腸されたんだった! ヤバイこのままじゃ……!
「か、火織、俺ちょっとトイレに……」
そう言って急いでトイレに行こうとしたんだけど
「「「「イッセー!」」」」「イッセーさん!」「お兄ちゃん!」
ってえぇ!? 皆様急に掴みかかってきた!?
「私も一緒に住んでいいわよね!?」
「ダメって言うにゃ、イッセー!」
「イッセー、我の!」
「私のご主人様よ!」
「わ、私はずっと一緒に居ていいって約束しました!」
「約束だったら私もです。お兄ちゃん、抱いてくれるんですよね?」
「「「「「「って何その約束!?」」」」」」
「って白音ちゃん、間違ってないけど誤解を招くような言い方すんな! 抱くって言っても抱きしめる方だろ!」
「それだって問題よ!」
「白音、いつの間にそんな約束したにゃ!?」
「ゲーム中です。可愛いから思わず抱きたくなるって」
そんな頬を赤らめてくねくねしないでくれ! 俺も変な気分になっちまうだろうが!
「イッセー、我も抱く」
「いやだから誰も抱かねぇって!」
「イッセー、自分の使い魔をもう少し可愛がってもいいと思うんだけど」
「お前ホント変わったな!」
「イッセー、姉妹丼なんてどうかにゃ?」
「可愛い顔で下品なこと言うな!」
「んにゃ~、可愛いなんてそんな」
「黒歌さんだけずるいです! わ、私はずっといっしょにいるんですから子供が1人くらいいてもいいですよね?」
「落ち着けアーシア! 何を言っているのか分からない!」
「これはうかうかしていられないわ。来なさいイッセー! すぐに引越しの用意よ!」
「今からですか!?」
ってこんな事してる場合じゃない。臨界点がすぐそこに! や、ヤバイ、そろそろ限界。
「み、皆、話なら後から聞くからとりあえず今は離して……」
「だからそれはダメって言ったにゃ!」
「私だけ一緒がダメなんてズルいじゃない!」
「抱きしめるなら幼馴染よりペットの私よ!」
「私だって猫です! カラスよりは猫の方が抱き心地いいです!」
「皆勝手。イッセー、我の」
「龍巳さんも勝手です! 私だって欲しいです!」
って皆様聞いてらっしゃらない!? あ、ヤバ、もう、限……界……。
その日、俺の尊厳は完膚なきまでに死んだ。
☆
「さて、先程の試合、皆はどう思う?」
我が主、サーゼクス・ルシファー様の呼びかけにすぐに答える者はいませんでした。今私の前では四大魔王の方々が先ほどの試合に関して1つのテーブルについて話し合っています。そしてそれぞれの後ろには私を含め眷属が全員揃っています。これだけのそうそうたる面子が揃うのはなかなかありませんね。
「まず言えることは……」
まず最初にアジュカ・ベルゼブブ様が口を開きました。
「赤龍帝の幼馴染という姉妹たちはなかなか刺激的な格好だった」
……は?
「うむ、やはりそう思うか」
「だよね~、なかなかエッチで眼福だったな~」
「ゴスロリの娘などほぼ丸出しだったな」
「実にいい物を見せてもらった」
「これからもあんな格好で試合してくれるんなら今後が楽しみだよ~」
『『『『………………』』』』
ズパパンッ!
「「「へぶっ!?」」」
私はサーゼクス様の後頭部を思いっきりハリセンでぶっ叩きました。見ればアジュカ様、そしてファルビウム・アスモデウス様もそれぞれの眷属にハリセンを叩きつけられています。
「もうっ、3人とも今はそんな話してる時じゃないでしょう!?」
魔王の中で唯一の女性、セラフォルー・レヴィアタン様がそれらの言葉に異を唱えてくれました。まあ女性ですし、色香に惑わされることはないでしょう。
「今は何よりドライグ君の浣腸プレイだよ! 戦場のど真ん中であのハードなプレイ、心踊るものがあるよね!」
ズッパァーーーン!!
「ひぎゃあ!?」
私は我慢ならず、彼女の眷属が動く前にハリセンを彼女の顔面に投げつけました。
「皆様、話が進みませんのでここからは私が司会進行をさせて頂きます。よろしいですね?」
「「「「は、はい」」」」
まったく、何故この方々はこうなのでしょう? 火織様の教育はライザー様よりもまずこの方々に必要なのかもしれません。
「では当初からの懸念、神裂家三女、神裂龍巳の正体に関してです」
「ふむ、彼女か……」
その言葉を最後に皆黙り込みました。
「グレイフィアの報告通り、確かに彼女の力の底は見えなかった。アジュカ、君はどうだ?」
「残念ながら俺もだよサーゼクス」
「っていうか彼女自分の力では一切戦ってないから正体の見極めようがないよ!」
「僕達が見てるってのを教えたのが良くなかったかもねぇ~。でもさ、力の底が見えないっていうのは皆共通の見解なんだよね」
「そうだな。そして我々を持ってしても力を見極めることが出来ない龍など……数えるほどしかいない」
「まずは二天龍だな」
「でもその2匹は神器に封印されてるし、っていうか片割れはあの場にいたじゃない」
「そうだね~。それにもう片っぽの片割れも堕天使の方にいるらしいしね~」
「では次に考えられるのは……真なる赤龍神帝グレートレッドか」
「それこそまさかだ。奴は次元の狭間から出てくることはない。それにこのために予め確認も取った。今も奴はそこに存在していた」
「まあそうだろうな。では残る可能性は……」
「……無限の龍神オーフィス、か」
やはりそこにたどり着きましたか。その答えもなかなか信じることの出来る答えではありませんが、他の選択肢がありえない以上もうその結論しか残っていません。
「……グレイフィア、人間界の記録の方はどうなっていた?」
「はい、人間界の記録では確かに戸籍が残っていました。6歳の時にあの家に養女として迎え入れられています。その後、学校などにも人間同様通っており、怪しい点は見受けられませんでした」
「無限の龍神が人間に引き取られ、人間同様に暮らす、か。にわかには信じられんな」
「もしかしたら新種、っていうのはないのかな? 無限の龍神と真なる赤龍神帝は次元の狭間で生まれたんでしょ? だったら新しい個体が生まれた後、すぐさま人間界へ行ってそのまま住み着いたとか」
「可能性はなくはないがそうであったならお手上げだ。もはや調査しようがない」
「……結局この件は本人たちに接触してでしか解決しないな。しかし急に刺激してもどうなるかわからない。ここはもう少し様子を見よう。なお、監視などは極力避けよう。彼女が相手では見つかる可能性が高い。リアスにも話さない方がいいだろうな。今後はリアスから近況を聞くと同時にそれとなく聞き出してくれるかい、グレイフィア?」
「かしこまりました」
結論は現状維持ですか。妥当ではありますね。
「では次に試合を見て発生した事案、すなわち彼女の姉妹たち、まずは長女、神裂黒歌と四女、神裂白音についてです」
「……彼女たちは猫又だったな? 加えて仙術も扱えるとなると……」
「はい、間違いなく絶滅危惧種、猫魈の生き残りであると思われます」
「まだ生き残りがいたことが驚きだな。どこで出会ったか聞いているかな?」
「日本の箱根の温泉街で餓死寸前だったところを拾われた、とのことです」
「日本で猫といえば彼女がいたよね? 確か……」
「野井原の緋剣、天河の守り刀ですね。裏から接触し確認を取りましたが……彼女も知らないとのことでした」
「一度妖怪の方に接触して確認を取る必要があるかもね~。それに……あの仙術は危険すぎるよ」
「でも実際可能なの? 生命の核を壊すなんて」
「それにつきましては同じく仙術を使える別の転生悪魔にも確認を取りました所、可能とのことです。ただしそこまで練度が高い仙術使いは滅多におらず、それこそ闘戦勝仏、もしくはそれに連なる者達のみではないかと……」
「ふむ、その者たちと接触したような形跡は?」
「ありません。神裂龍巳同様拾われた後はずっと人間界で暮らしていたようです」
「……こちらも結論は出ずか。こちらも様子見だな」
「……では最後に次女、神裂火織、その神器に関してです」
「確か神器は魔剣創造ということだったが……」
「ありえないな。確かにそれもレアで強力な神器には違いないが……あの力は異常だ。それこそ神滅具でないと説明がつかない」
「でもあんな神滅具、私は知らないよ?」
「可能性があるとすれば……永遠の氷姫かな~?」
「だがそれでは彼女のあの長大な刀を含めた他の魔剣について説明がつかない。彼女は他にも様々な能力を持った魔剣が創れるのだろう?」
「はい、そのことに関しては間違いありません。お嬢様たちと初めて接触した際部屋中に魔剣を創ってみせたそうです」
「でも天候まで操ってたし、魔剣創造でそこまでできるかな?」
「天候を操るといえば煌天雷獄だが……」
「それこそありえない。あれの使い手は今天界が確保しているはずだ。そもそもその神滅具も魔剣の説明が出来ないさ」
「では何らかの亜種か……それとも未確認の14番目の神滅具か……」
「「「っ!?」」」
「神滅具が他にもあるっていうの?」
「私もそんなことはないと思うが……実際我々の前に正体不明の神器が現れたんだ。可能性は捨て切れない」
「こちらも要警戒か。使い手自身の方はどうなんだい?」
その言葉に全員が私の方に向き直った。
「私の主観的な評価になりますが、昨今の若者とは思えないくらい出来た娘でした。怒ると恐ろしいですが、それも怒る対象を教え導くためであり、理不尽な怒りを振りまくような娘ではありませんでした。むしろ普段はとても温厚で、高い知性も感じられます。信用できる人物かと……」
「ふむ、グレイフィアにそこまで言わせるか……」
「ただ……」
「? どうした?」
「彼女の、いえ彼女たちの両親についても調べました。何重にも隠蔽されていたのですが調査の結果……」
そう言って私は調査結果を記した書類を机の上に拡げた。
「なっ!? これは本当か、グレイフィア!」
「はい、間違いないかと」
「でもこの2人が人間以外を拾うなんて……そんなことあるのかな?」
「にわかには信じがたいな」
「こちらも情報がまだ足りないな。グレイフィア、今後も調査を継続してくれ」
「かしこまりました」
そうして、この日の会議はお開きとなった。
☆
「どう思う、曹操?」
「なんとも興味深かったよ。この強さは異常だ。調査結果の方は?」
「それについては殆ど何も分からなかった。記録は普通の人間のものだ。改竄された跡も見られなかった。唯一分かったことといえば両親のことか」
「両親?」
「ああ、これだ」
「ほう……まさかあの2人の娘だったとは。人外の連中はともかくこの神裂火織は是非ともうちに欲しかったな」
「接触するか?」
「どうしようかな? 彼女はもう悪魔だし……だが能力は惜しいな。経歴も申し分ない。少し考えてみることとするよ、ゲオルク。念のため今後も調査の続行をしてくれ」
「分かった。それから……例の魔崩掌女のことだが」
「待て! その呼び名で決まったのか!?」
「ああ、ただし君の考えているのとはおそらく字が違う。前回の総会で話し合われたのだが連中が魔法少女を名乗っている以上意思の疎通にはこちらも同様にその名で呼ぶ必要があるのではないかという意見が出た。だがその名で呼びたくないという意見が、特に魔術派の連中から出てな。激論の末、魔法崩壊掌打漢女、略して魔崩掌女と呼ぶことに決まった」
「そ、そうか。で、連中がどうした?」
「ああ、連中のお陰で既に大きな被害が出ている。最も被害を被っているのは旧魔王派だが、俺達英雄派にも被害が出ていてな。早急に対策をせねば行動を起こす前に組織が瓦解しかねないということになった」
「対策か。あんなものどうしたら良いんだ? 幹部全員で当たるか? 正直総力戦でもしないとあれは止まりそうにないぞ」
「それも含めて幹部全員で話し合いとなった。君も出席してくれ」
「やれやれ、こんな所で計算が狂うとは。今回こそは無限の龍神様も出てくるのかね?」
「いや、今回も顔は出さないらしい。いつも通り旧魔王派の連中が窓口となって会議の結果を報告するそうだ」
「組織の存続に関わる事態でもそれか。さすがに怪しいな。ゲオルク、そちらの方も調査しておいてくれ」
「了解した」
☆
レーティングゲームから一週間。今日も私たちは部室に集まって仕事の時間までだべってる。この一週間であったことといえば部長がイッセーの家に住み着いたことかしらね? 原作通りではあるんだけど……黒姉や龍巳、白音のことを思うとちょっと複雑だわ。
そうそう、イッセーの左手だけど、原作通り龍の気を口で吸い出すことで何とか見た目は人間の手に戻った。ドーピング液を代償にして左手の龍化は免れないかなと思ってたんだけど、甘かったみたい。まあ原作は肩まで龍になってたし、幾分マシだとは思うけど。
この件に関しては龍巳が落とし前つけてたわ。先日ゲーム後に盛大にやっちゃった後塞ぎこんだイッセーを慰めて、なんとか回復した後にこんな一幕があった。
「ドライグ、左手、どういうこと?」
『い、いやこれは、相棒が力がほしいというから代償でな? 相棒も了承済みだ』
「そんなこと分かってる。我、聞いてるの別のこと。イッセーの体内、ドーピング液あった。そっち代償に出来たはず」
『い、いや確かにそっちも使ったんだが足りなかったんだ!』
「……そんなはずない」
そう言って龍巳は赤龍帝の籠手の宝玉に手を触れると目をつぶった。すると
『待て! どうしてお前がここにいる!?』
『ドライグ、おしおき』
『ま、待ってくれオー』
『その名で我を呼ぶな!』
『ギャアアアアアアアアアア!!』
そんなことがあって以降、ドライグとの会話はできなくなった。赤龍帝の籠手の力は消えてないから死んではないと思うんだけど……大丈夫かなドライグ?
で、龍の気を吸い出す係なんだけど、これがまた揉めた。現状それが出来るのは私、黒姉、龍巳、白音、部長、朱乃さん。黒姉、龍巳、白音、部長の間で誰がやるか揉めた上、何故か私も絶対ダメとアーシアやレイナーレにまで言われた。その結果残った朱乃さんが担当になったんだけど……。この人選絶対ミスってると思うのよね。黒姉たちは唯一イッセーに惚れてない人に頼もうと思ったんだろうけど、しっかり見てると朱乃さんも目が怪しい気がする。これは近々もう一波乱あるわね。まあここもある意味原作通りかな?
ところでなんで私はダメだったんだろう? 別に私はイッセーが好きってわけじゃないのに。後何故かイッセーは私にしてほしそうだったのよね。なんでだろ?
で、そんなイッセーはというと今膝の上に白音を乗せてるわ。いつの間にか抱きしめるなんて約束してたらしいんだけど、その後イッセーの膝の上が白音の定位置になっちゃった。おまけに必ずイッセーの手を自分の腰に回させる周到さ。白音も意外と大胆ね。
一方新たなメンバーを加えたイッセーラヴァーズはそれを苦々しげに眺めてるわ。でもまだ誰も諦めてなさそうね。でもこれは白音が一歩リードかしら?
と、そんなことを考えてた時
カッ!
魔法陣が急に光り出した。なんだろう? グレイフィアさんでも来るのかな? と思って魔法陣の紋様を見てみると……え!? フェニックス!?
皆の驚く中魔法陣はさらに光を強め、その光が収まるとそこにはライザーとその眷属たちが。これは驚きだわ。原作ではライザーってゲームの後引き篭もりになるはずだし、てっきり両親かレイヴェルあたりかと思ったらライザーが来るとは。どういうことだろ?
一方部長たちは私達姉妹を覗いて皆警戒してるわ。まあ無理ないかな? 何の前触れもなくいきなりだったし、相手は婚約破棄を叩きつけた相手だしね。
「ライザー、一体何の用かしら? もう私達の婚約は破棄されたのよ」
私はこの部長の言葉にライザーが諦め悪く食い下がるものだと思ってた。でもライザーの口から出てきた言葉は
「ああ分かってる。もう俺もそのことでとやかく言うつもりはない。ああただ……この間の試合は見事だったよ。完敗だ」
「っ!?」
その言葉に部長が、いいえ皆が驚いているわ。まあ無理もないわね。今までを考えたらライザーから出るとは思えない言葉、しかもなんだかライザーも憑き物が落ちたような顔をしているわ。
「そ、そう。ならいいのだけど。では今日は何のためにここに来たのかしら」
「ああ、それは……」
そう言ってライザーは部室を見回し……私に目を止めた。っていうか私!? あ、もしかしていろんな事したことに対して文句言いに来たのかな? まあ色々したしな~。言われてもしょうがないか……。
そんな風に思っているとライザーは私の前までやってきてソファーに座る私の前に……跪いた!?
「あ、あの?」
混乱する私のことなどお構いなしにライザーは私の手を取ると……
「神裂火織、俺は……お前のことを愛している。これからはお前のことだけを見るとここに誓う。だから……俺と結婚してくれ」
………………
………………………………
………………………………………………え?
『えぇ~~~~~~~~っ!?』
皆の驚愕の声が部室に木霊したけど、私には正直それが耳に入ってこなかった。だって……結婚? 私が? ライザーと!?
「あ、あの、なんで……」
こんな時なのにそんな事しか言えなかった。
「本当はゲームの時には気付いてた。俺が君に惹かれていることに。気付いたのは屋敷で君と別れる時だ。あの時初めて気付いた。俺がどうしようもなく君に惹かれていることに。君はこれまで出会ってきた人の中で唯一、俺のことを対等に家のことなど関係なくライザーとしてみてくれた。俺がどれだけ高圧的に接しても君は折れることなく気高く美しく在った。俺はそんな君に……どうしようもなく惹かれていたんだ」
ど、どうしよう。これ、ガチだ。今まで何度も告白されてきたけどこんなに本気な心が伝わってきたのは初めてだ。でも私は原作始まったらいい男探そうって決めてたし……ってあれ? もう原作始まってるんだっけ? 加えて以前はともかく今は……ライザーもいい男よね? 前までホストみたいだったのに今は好青年って感じだし。格好とかは変わってないのに表情一つでこんなに変わるものかな?
や、ヤバイ、どうしよう? 正直私はライザーのことどう思ってるのかいまいち分からないし、そもそもライザーをそういう相手として候補にあげてなかったし、でもこれを逃すともういい男なんて現れないかもしれないし……。
もしOKしたら皆どう思うだろう? そんなことを思って顔を上げると…………あ、そうか。そうだよね。なんで気付かなかったんだろう? 答えなんて決まってた。
私はライザーに取られていた手をゆっくり引き抜いた。
「あ……」
ライザーは愕然としてるけど、OKするわけにはいかないのよ。今はね。
「ライザー様、お気持ちは嬉しいです。それにとてもいい表情をするようになりました。これも教育のおかげであるならばとても嬉しく思います」
「で、ではなぜ?」
「一人の女性を愛する。これは私が教えたいい男の条件でしたね? 確かに間違いではありませんしライザー様が本気だということも伝わって来ました。でも……」
そう言って私はある方向に目を向ける。そこには……目に涙を溜めつつも泣き声を上げまいと我慢するライザーの眷属たちが、いえ、恋する女の子たちがいた。ライザーもそちらに目を向け、ようやくそのことに気付いたみたい。
「お、お前たち……」
「……ライザー様」
「私達、ライザー様のことが好きです……」
「でも、だから……」
「ライザー様が、幸せに、なる、ためなら……」
「私たちは……喜んで……」
「身を……引いて……う」
「うぇぇ……」
それ以降は言葉になってなかった。ライザーもここまで慕われてるなんて思ってなかったんでしょうね。眷属たちに歩み寄って慌ててるわ。
「ライザー様、無闇矢鱈に女の子に手を出すのはあまり褒められたことではありません。一人の女性を愛するというのもいい男の条件に間違いないでしょう。でも……自分のことを愛してくれる女性くらい、全員まとめて幸せにしてみせると言い切るのも、同時にいい男の条件だと思いますよ?」
そう言われたライザーは寄ってきた眷属を抱きしめながら固まっちゃった。それからしばらく部室には眷属たちのすすり泣きの声が響いてたんだけど……
「帰るぞ、お前たち……」
そう言ってライザーは魔法陣の方へと歩いて行った。
「ライザー様?」
眷属たちも混乱しつつもライザーに付いて行ってる。
「神裂火織……いや火織。どうやら俺はまだ君の言ういい男ではないらしい。この場は一旦引こう。だがいつか必ず君の言ういい男になって再び訪れる。その時に……答えを聞かせてくれ」
そう言うと魔法陣が光り出した。
「ええ、楽しみに待ってます」
そう言って私は笑顔を浮かべる。ほんと変わったわねライザー。しかも私の笑顔見て顔赤らめてるわ。可愛いんだから。あ、そうそう。
「それからもう1つ、ライザー、私自分より弱い男はお断りだから」
これだけは譲れない。修行して強くなったけど……やっぱり私も女の子なんだから。出来れば相手は私のこと守ってくれるような男性がいい。
一方その言葉を聞いたライザーは
「首を洗って待っていろ」
という言葉を残して光の中を消えていった。
「火織、あなた……」
ライザーが去ってすぐ、部長が話しかけてきた。その顔は……なんか複雑そうね。分からないでもないけど。
「彼、なかなかいい男になりそうですけど。いいんですか部長? 私が貰っちゃっても?」
「い、いいわよ別に。もともと私のものでもないし、それに私は……」
そう言って部長はほんのり頬を赤くしてイッセーのことをチラッと見た。ふふ、やっぱり部長はイッセーにゾッコンですか。
はてさて、意外な展開になったけど悪い気はしないわね。未だに私自身ライザーのことどう思ってるか分からないけど、次会う時が楽しみだわ。
それにしてもイッセー、ずっとカッチンコッチンに固まってるけどどうしたんだろ?
後書き
魔法崩壊掌打漢女、略して魔崩掌女はハーメルン時代、Nation様からのご提供です。
ありがとうございました。
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