魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico?時空を超えて今ふたたび~Return of Rivals~
かつては死に瀕していた世界、エルトリア。死蝕という現象によって水や大地は腐敗して、人が住めない星へと刻一刻となろうとしていた。しかし、その死蝕現象を食い止め、元の美しい世界に戻そうとその生涯を捧げた1人の研究者の成果のおかげで、死蝕現象は僅かながら腐敗の拡散を止めた。
その研究者の名は、グランツ・フローリアン。紛れもなくエルトリアの歴史に名を残すであろう偉大な人物だ。そんな彼には数多くの家族が居る。死蝕の研究・対策の実験過程で製作された死蝕地帯の復旧機材・自動作業機械ギアーズ。その普及型の試作機である2人の少女。
「博士~? そろそろ朝ご飯ですよ~?」
その内の1人が、グランツ博士の研究室の扉を開けてそう声をかけた。研究室はカーテンが閉められており、朝日が弱々しく室内を照らしている。少女は研究室の中に踏み入り、「昨日、片付けたばかりなのに・・・」と、複雑な計算式が書き殴られた紙が百十数枚近くがデスクや床に散らばっているその様に嘆息した。
「博士。朝ですよ。3日に1回は休みを取る、そういう約束ですから起きてください」
少女は床に散らばった紙を拾っては胸に抱え、デスクの上にドサッと置く。始めから積まれていた別の紙束がぐらりと倒れそうになるも「おっと」少女は余裕を以って上から押さえつけることで防いだ。そして少女は窓へと向かい、シャッとカーテンを開けた。温かで眩い陽の光が室内に差し込む。
「・・・ん・・・む・・・う・・・」
男性の呻き声が少女の耳に届いた。少女は明るくなった室内を見回して、「またベッドじゃなく寝袋で寝たんですか・・・」芋虫のように蠢く寝袋を見た。その寝袋から「アミタかい・・・?」少女の愛称が発せられた。
「そうですよ、3日間も研究室に籠っていたんですから、今日1日くらいは部屋を出て陽に当たりましょう」
少女――アミティエ・フローリアンが寝袋に向かって微笑んだ。歳は10代後半ほど。深桃色の長髪をおさげにし、カチューシャを付けている。青いキャミソールとデニムパンツといった格好だ。
「約束・・・あー、そうだったね。判った、起きるよ」
寝袋のファスナーがジーっと音を立てて開き、Yシャツ姿の男性がもそもそと起き上がった。寝ぼけ眼でフラフラな足取りの博士は「おはよう、アミタ」と、フローリアン家の長女であるアミティエに朝の挨拶をした。
「おはようございます博士♪」
それからアミティエと博士は研究室を出、陽の光に照らされて眩い廊下を歩く。そんな中で「あ! おはよう博士♪」窓の外から博士に挨拶が掛けられた。外には1人の少女が居り、博士に手を振っていた。博士とアミティエは窓へ近寄り、ガチャッと窓を開ける。
「やあ、おはよう、キリエ」
挨拶をしてきたのはフローリアン家の次女、キリエ・フローリアンだ。桃色の長髪を結うことなく流し、2つに割ったような花飾り付きのカチューシャを頭の左右に付けている。白のTシャツにサロペット、そして麦わら帽子、軍手という、何かしらの外作業に適した服装をしている。軍手やサロペットの膝の辺りには土汚れが付いているため、土に触れる作業をしていたのだろう。
「キリエ。私にこんな力仕事なんてさせて・・・って、あら? おはようございます、博士。3日ぶりですわね」
「おや? アイルも一緒だったのかい? おはよう、アイル。今日もまた見惚れてしまうほどの純白な美しさだね」
「まあ! お上手ですわね博士♪」
タイヤが2つ付いた手押し車を押してやって来たもう1人の少女が、グランツ博士からの褒め言葉に頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。少女の名はアイル・ザ・フィアブリンガー。
雪のように真っ白な長髪と肌。キリエと違って真っ白なブラウスとティアードスカート、そしてカプリーヌという帽子を被っており、どう見ても作業服ではない。そんな白だけの中で一番のインパクトを放っているのが炎色の瞳だ。
アイルは、新たにフローリアン家の家族となった新入り組の1人だ。新入りとは言ってもフローリアン家の一員となってからすでに7年近くが経っているが。
「キリエ、アイル。そろそろ朝ご飯にしますよ。花壇仕事は後にして、もう入って来てください」
アミティエが朝食の時間だとキリエとアイルに伝えると、「判りましたわ。すぐに行きます」アイルは園芸用こてや中身の無いビニールポットなどが積まれた手押し車を放置して駆け出した。
「ちょっ、アイル!? やーん! 片付けはジャンケンで決めたのに~!」
キリエは放置された手押し車と、逃げ出したアイルに肩を落とした。そして「んもう。花の移植を手伝いたいって言ったのはアイルなのに~・・・」キリエは渋々と片付けに移った。
「いやいや。朝から良いものが見れたよ!」
「毎朝ちゃんと研究室から出て頂ければ見れますよ?」
「あー、努力はしているんだけどね。やはり僕が生きているうちに少しでもこのエルトリアを生き返らせたい。そう思うと、どうしても自分のことが後回しになってしまうんだ」
「博士・・・」
博士は人間だ。その命には限りがある。彼の研究によって死蝕現象を食い止めることが出来始めている。少なからず腐敗した大地も徐々にだが元に戻りつつある。しかし、完全にエルトリアが元に戻るまで3ケタ近い年数が掛かる。当然、彼はその景色を見れないだろう。それゆえに、生きている間に少しでも元に戻ったエルトリアを見たいのだ。
「あはは。朝から不景気な話をしてしまったね。さ、ダイニングへ行こう」
「・・・はい」
さらに廊下を進んでT字の角へ差し掛かった時、「なんですかこれはぁぁぁぁぁ!!」アミティエが叫んだ。博士も「おやおや、これは・・・」苦笑い。玄関からリビング・ダイニングへと続く廊下が泥で汚れていた。
屋内土足OKのフローリアン家だが、それは屋外から戻って来る際にはマットで靴裏に付着した汚れを落としてから入ることを決めていたからだ。だと言うのに、廊下には2人分の泥の靴跡が廊下を縦断していた。アミティエは「一体誰が・・・!?」と唸った直後、「あ!」足跡の犯人が誰か察したようだ。
「レヴィ、フラム! あなた達ですね!」
アミティエは博士を置いて泥の靴跡が向かう先、風呂場へ向かった。そして風呂場へ繋がるドアをノックして「入りますよ!」返事を待たずに開けた。洗面所とカーテンで仕切るタイプの脱衣所に居たのは「やはりあなた達でしたか・・・」アミティエの推測通りの2人の少女だった。
「あー、アミティエ~! おっはよー!」
アミティエに向かって元気いっぱいに挨拶した少女の名はレヴィ・ザ・スラッシャー。前髪以外の毛先が紺色になっている水色の長髪はツインテール、瞳はワインレッドのツリ目。服装は私服ではなく、バリアジャケットと呼ばれる魔力で作られた服を纏っていた。
「おはようであります! 廊下を汚して申し訳ないであります!」
朝の挨拶と謝罪を述べた少女の名はフラム・ザ・リヴェンジャー。ツーサイドアップにされた薄紫色の長髪、アホ毛が3本と立って揺れている。黄金に輝く瞳は少しツリ目掛かっている。そして彼女もまたバリアジャケットと呼ばれる魔法の服を身に纏っていた。
レヴィとフラムの髪や肌、バリアジャケットには泥が付き、履いている装甲付きのブーツなどにも当然泥が付いていた。その動かぬ証拠と、フラムからの先の謝罪によって、家の中を泥だらけにした犯人が2人であることが確定した。
「一体何があったんですか? バリアジャケットなんか着て。いつもの早朝ランニングだけでこんなに汚れることなんてないですよね?」
「それがさー。ランニング先でモンスターと遭遇しちゃってさ~。人が住んでない区画だったけど、いつか住んでた人が戻って来た時に家が壊されちゃってたら悲しいって思って・・・」
「ゆえに私とレヴィで退治したでありますよ」
「えっと・・・。汚してごめんなさい」
「ごめんなさいであります」
アミティエに泥だらけになった理由を訊かれ、レヴィとフラムは素直に事情を話し、そして家を泥で汚したことを謝った。2人のやんちゃな性格からして泥遊びでもやって帰って来たと思っていたアミティエは自分を恥じ、「私もごめんなさい」2人に謝った。もちろんなぜ謝られたのか解らない2人は「んん?」小首を傾げることに。
「素晴らしい!」
バンッと勢いよく扉が開くと、泥で汚した理由を聞いて感動して涙ぐんだ博士が脱衣所に入って来て、博士を3日ぶりに見たことで表情を輝かせていたレヴィとフラムを称えた。博士は2人に歩み寄り、「君たちのことを誇りに思う、うん!」肩に手を置いて、うんうんと何度も頷いた。
「あ、ありがと博士・・・」
「ありがとうでありますよ・・・」
そのテンションに僅かばかり引いたレヴィとフラム。アミティエは最初、「そうですね。素晴らしい行いですよ、レヴィ、フラム」博士と同様に2人を褒めた。しかし、すぐに「コホン!」と大きく咳払いして博士をジト目で見た。
今から正に泥を洗い落とすために風呂に入ろうとしていた2人の居る脱衣所へノックもせずに入って来た博士。それはあまりにも「デリカシーがありません!」だった。アミティエの怒声に博士は「わわ、すまない!」大慌てで脱衣所を出て行った。
「はぁ。レヴィ、フラム。ゆっくりで良いですから体を綺麗にしてください。着替えは私が持ってきます」
「は~い!」「はいであります!」
レヴィとフラムからの元気いっぱいの返事を聴いたアミティエは脱衣所から出た。そこでドタドタと足音を立てて、廊下をぞうきん掛けしている1人の少女が目の前を通り過ぎて行ったのを見た。
「あ、おはようございます、アミティエ」
「シュテル。あ、おはようございます。掃除してくれているのですか? それに博士も」
シュテルと呼ばれた少女。フルネームをシュテル・ザ・デストラクター。栗色のショートヘア、青い瞳をし、サファリシャツとハーフパンツといった服装だ。彼女はレヴィとフラムが汚した廊下を濡れぞうきんで拭いて掃除していた。そして博士もシュテルの手伝いをしていた。
「はい。一応、妹に当たるレヴィとフラムの仕出かしたことですし」
「まぁ食事前の軽い運動をと思ってね」
あははと笑う博士に「本音は?」アミティエがそう訊ねると、「可愛いシュテルが目の前で掃除し始めたのに黙って見ているなんて無理さ」そう答え直した。
「ありがとうございます、博士」
「いやいや。当たり前のことをしたまでさ」
微笑むシュテルに満面の笑顔を返す博士。アミティエも「では、私も手伝いますね」そう言って、まずはレヴィとフラムの着替えを取りに行った後、すでに裸になって浴室できゃっきゃっ♪と洗いっこしている2人の影が映るすりガラスの扉に向かって「着替え置いておきますね~」伝えた。
「ありがと~♪」「感謝でありま~す♪」
そして洗濯機に汗で汚れた2人のジャージや下着を放り込んでスイッチ・オンしたアミティエは「さてさて」物置からぞうきんを取って来て、彼女もまた掃除の手伝いを始めた。そこに「何をしていますの?」アイルと、「あら~、泥だらけ~」キリエが戻ってきた。そんな2人にアミティエが事情を伝える。
「――と、いうわけでして」
「へぇ~。レヴィも良いことを言うわね~」
「お馬鹿だからこそ本能のままに動いたのですわね。ですが、良い行いですわ」
キリエとアイルも、レヴィとフラムの行為を称えた。そんな2人も掃除を手伝おうかと提案したが、さすがにアミティエと博士とシュテルの3人がかりでの掃除とあってもう終盤だったため「2人は先にダイニングに行っていてください」アミティエがそう言った。
「そう? じゃあお言葉に甘えて♪」
「お先に失礼しますわ」
キリエとアイルは手を洗うために風呂場へと続く扉をがちゃっと開けた。もわっと湯気が溢れ出て来て、アミティエ、博士、シュテル、キリエ、アイルの目の前に素っ裸なレヴィとフラムの姿が現れた。シャワーを浴びたことで白い肌は赤くなっていて、バスタオルで拭いている途中だからか2人の艶やかな髪が肌に張り付いていた。
7人の視線が交わり、「・・・・」無言の時間が僅かに続いた後、「わぁぁぁぁぁぁ!」レヴィとフラムは慌ててバスタオルで体の前を隠し、その場に縮こまった。そしてアミティエとキリエは「博士は目を閉じて!」バシッと博士の顔を両手で押さえ、「仕切りカーテンくらい閉めなさいなお馬鹿!」アイルが扉を閉めた。
「すまない、すまない、すまない、すまない、すまない!」
裸を見たことに対して何度も謝る博士。その謝罪は、ペザントブラウス・ブルームスカートに着替えたレヴィ、スモックブラウス・ゴアードスカートに着替えたフラムが脱衣所から出てくるまで続いた。
「すまない、レヴィ、フラム!」
「いいよ、博士。ボク達の不注意だったし」
「でありますな」
「まったくですわ。仕切りカーテンを閉めていれば見られることはありませんでしたわよ」
照れくさそうに笑みを浮かべるレヴィとフラムに、アイルが注意した。ようやくアミティエとキリエの両手から解放された博士はそれでも申し訳なさそうにしているため、「ほら、博士!」レヴィと、「朝ご飯でありますよ♪」フラムが、博士の両腕に抱き付いた。もうこの件は忘れようと言う意志表示だと察した博士は「ありがとう」感謝した。
「私とシュテルで後片付けしますから、博士たちはダイニングに行っていてください」
「そうですね。2人で片付けられますし」
「そうかい? じゃあ、アミタ、シュテル。すまないけど、あとは頼むよ」
「はい!」「お任せを」
そして博士とレヴィとフラムは一足先にダイニングへ向かい、キリエとアイルは改めて風呂場の扉を開け、中に入っていった。アミティエとシュテルは泥水の入ったバケツを手に外へ出て、水を捨てて空になったバケツや綺麗に洗ったぞうきんを干す。
「朝から大変でしたね、シュテル」
「ええ。ですが・・・楽しいです」
「ふふ、そうですね♪」
こんな騒がしい日常が楽しいと微笑み合うアミティエとシュテル。その2人も家へと戻り、綺麗になった廊下を進み、そしてリビング・ダイニングに続く扉を開けた。そこには博士たちが朝食をダイニングテーブルに運んでいた。
「お待たせしました~! 王様、ユーリ!」
「お待たせして申し訳ありませんでした、王、ユーリ」
アミティエとシュテルは、キッチンで朝食を作っていたと思われる2人の少女に挨拶した。
「うむ。朝餉の準備は準備は出来ておる。シュテルとアミティエは先に席に着くと良い」
王や王様と呼ばれた少女。名をロード・ディアーチェ。前髪以外の毛先に黒のメッシュが入った銀色のショートヘア、翠色の瞳をし、キャバリアブラウス・プリーツスカートといった服装で、調理時にはエプロンを着用するようだ。
「まだ準備中だから大丈夫ですよー♪」
新入り組の中で一際小さな少女。名をユーリ・エーベルヴァイン。綺麗な金色の長髪はウェーブが掛かり、瞳もまた見惚れてしまうほどに綺麗な金色をしている。Tシャツにキャミソール・カーゴパンツと言った服装だ。そんな彼女もまたエプロンを着用している。
グランツ博士、アミティエ、キリエのフローリアン家。ディアーチェ、シュテル、レヴィ、フラム、アイル、ユーリの通称・紫天一家。この9人が今の新しいフローリアン家として、ここエルトリアを救うために日夜活動している。
家事、特に料理に関して一番腕の良いディアーチェと、そのサポートを喜んで行うユーリの作った朝食がダイニングテーブルに全て運ばれ、「いただきます!」と紫天一家から教わった食事前の挨拶をして、食べながら和気あいあいと談笑する。
「あー、そうそう。みんなに伝えるのを忘れていたよ」
朝食も終盤になっていたところで、博士が話題を切りだした。フローリアン家の娘たち全員の視線が博士に集中したところで、「時間遡航機能を持ったあのオーパーツ・・・」博士がそう口にすると、娘たちはどこか懐かしそうな表情へと変わった。
「かれこれ6、7年くらいになりますか・・・」
「毎日がバタバタしてたからまだ最近のように思うわね~♪」
アミティエとキリエが当時の事を思い出しているのか、懐かしげに微笑を浮かべた。
「ふんっ。子鴉のことなんぞ思い出したくもないわ」
「なのはとの再戦の約束、いつかは果たしたいですね」
「ボクも! ボクも、オリジナルともう一度戦いたい! あとアホ犬を泣かしてやるんだ!」
「私もアリサとの再戦、それに紅の鉄騎に貰った1敗の雪辱を果たしたいでありますな~」
「私はすずかとは後腐れなく別れましたし、シュテルやフラムのようにオリジナルと引き分けたわけでもありませんし、レヴィのように負けたわけでもありませんし♪」
ディアーチェ、シュテル、レヴィ、フラム、アイル達もまた思うままに声に出していった。そして「助けてくれたことにもう一度お礼を言いたいですー」ユーリもまた、当時の事を思い返しているようだ。
紫天一家は、チーム海鳴とかつて敵対していた“紫天の書”と呼ばれる、“夜天の魔導書”を乗っ取るためのプログラム群・マテリアルであった。
ユーリ・エーベルヴァイン。“紫天の書”の盟主の称号を有す、システム砕け得ぬ闇という、未知の魔力素を無限に生み出し続ける動力炉。マテリアルの頂点に立つそんな彼女の存在が、かつてチーム海鳴、マテリアル、フローリアン姉妹を交えた大事件を引き起こした。
ロード・ディアーチェ。闇統べる王の称号を有す、マテリアルのリーダー的存在で、“王”のマテリアル。システムU-Dであるユーリの制御を行える唯一の存在で、正しく“紫天の書”の王であり管制人格的立場でもある。
シュテル・ザ・デストラクター。星光の殲滅者の称号を有す、マテリアルの参謀的存在で、“理”のマテリアル。ロード・ディアーチェを支える補助プログラム――王下四騎士の1基。
レヴィ・ザ・スラッシャー。雷刃の襲撃者の称号を有す、マテリアルの末っ子的存在で、“力”のマテリアル。ロード・ディアーチェを支える補助プログラム――王下四騎士の1基。
フラム・ザ・リヴェンジャー。炎壊の報復者の称号を有す、マテリアルの使えない良心的存在で、“義”のマテリアル。ロード・ディアーチェを支える補助プログラム――王下四騎士の1基。
アイル・ザ・フィアブリンガー。氷災の征服者の称号を有す、マテリアルのブレーキ的存在で、“律”のマテリアル。ロード・ディアーチェを支える補助プログラム――王下四騎士の1基。
アミティエやキリエは、エルトリアを救うためにユーリやマテリアル達を求めた。そしてある事件を経て共にエルトリアへ戻り、彼女たちの協力や博士の研究のおかげで、エルトリアに巣食う死蝕現象への対抗策を生み出すことが出来たのだ。
博士の言う時間遡航機能を持ったオーパーツとは、その名の通り時間旅行を可能とする物だ。フローリアン姉妹はそれを使って、ユーリやマテリアルの居る世界――地球は海鳴市、その時代――過去へ時間移動したのだ。
「それで博士。そのオーパーツがどうかしたのですか?」
「僕もね、前々からチーム海鳴の子供たちにお礼を言いたかったんだ。アミタやキリエに協力してくれたこと。それに・・・僕の病を治してくれたエフェルを送ってくれたルシリオン君と言う少年に」
博士は不治の病を罹り、その寿命が残りわずかとなった。キリエが過去に遡ってでも紫天一家を手に入れたかった理由がそれだった。エルトリアの復興を願う博士の研究成果に芽が出たことを、博士が亡くなる前に見せたかったのだ。
そして紫天一家と共にアミティエ達がエルトリアに帰る際、チーム海鳴の1人であるルシリオンは、いかなる病気や怪我をも治せる魔術コード・エイルを使えるように設定した使い魔・エフェルヘリンズを、彼女たちに気付かれないように一緒に送り出したのだ。その魔術のおかげで、博士の体を蝕んでいた不治の病は完治し、こうして何年もアミティエら娘たちと一緒に過ごせていた。
「僕たちはこれからもっと忙しくなるだろう。その前に、チーム海鳴の子供たちにお礼をしたいんだ」
博士の真剣な声色と表情に、娘たちも自ずと同じような表情になる。博士は「だから、オーパーツを再調整したんだ。安全にチーム海鳴の子供たちの居る世界・時代へ跳べるように」と続けた。その話に目を見張って絶句する娘たち。
素直ではないディアーチェとアイルを含めた彼女たちは、やはりチーム海鳴と再会したいと願っていた。しかし、それは願わないかもしれないとも思っていた。時間遡航のオーパーツの使用回数も当時で限度を超えており、もう二度と使用できないかもしれないと判断が下されたからだ。
「だから死蝕現象の研究の片手間にずっと調整していたんだよ。7年も掛かってしまったけど、安定して時間遡航が出来るようになった」
「またあの子たちに逢えるのですね♪」
「わーお♪ さすが博士ね~♪」
「子鴉らと再びまみえる・・・か。ふふ」
「素晴らしいです、博士!」
「おお! オリジナル達とまた逢えるのかー!」
「燃えるでありますな!」
「わ、私は別に嬉しくもありませんわ!」
「博士、ありがとーですぅ~♪」
それぞれ喜びを表す娘たちの姿に「喜んでもらえて何よりだよ!」博士も嬉しそうに笑ったあと、「エフェルー! アレ頼むよ~!」エフェルヘリンズに声を掛けた。ピョコピョコと足音を立ててダイニングへやって来たのは、それはそれは奇妙な姿をした存在だった。
「持ってきましたー、どうぞ~!」
全体的に薄い桃色で、体長は約90cm。40cmほどの長方形状の体の四角からちょこんと三角形の手足が突き出していて、指は無いが物は掴める。頭部は50cmほどで。のっぺりとした顔があり、鼻の穴は無い。目はパッチリと開き、口の大きさは自由自在。頭部は胴体と切り離すことが可能で、それぞれ別個に動くことも出来る。
スライムを基にした汎用人工精霊プロトタイプで、ルシリオンがかつて作成した使い魔。硬軟自在(液状からゴム、果ては鋼鉄並にまで)のスライムを素体にしている。
「ありがとう、エフェル」
エフェルヘリンズの頭に乗った1枚の携帯端末を手に取った博士。それをテーブルの上に置いて「コレをチーム海鳴の子供たちに渡してほしい」と伝えた。ディアーチェが「コレは?」と訊ねる。
「僕のメッセージと、これまで君たちが研究成果として撮影してくれたエルトリアの大地の映像が収められている」
「博士のメッセージ?」
「博士は一緒に行かないの?」
「・・・うん。安定して時間遡航できるようにはしたけど、やはり人には耐えられないものでね。いつかはチーム海鳴の子供たちを招待できるように調整していきたいんだが。それはまた今度という感じかな。今はとりあえず、忙しくなる前に一度ご挨拶とお礼をしたいんだ」
ディアーチェの問いに答えた博士にアミティエとキリエが再度訊ねると、僅かばかり寂しそうに笑う博士はそう答えた。いつかは人間でも時間遡航できるようにして、今以上に元に戻り始めているエルトリアの大地をチーム海鳴に直接見せてあげたいと。
「そういうわけで、お願いできるかな? 僕の依頼」
娘たちは「もちろん!」力強く首肯した。が、「ですが博士。我々が居ない間の食事などはいかがなさるのですか?」料理担当のディアーチェはそれが不安だった。面倒を見る者が居ない中で博士を1人にすると、高確率で孤独死するのではないか?と。
「誰か1人くらいは残った方が良いかもしれませんわね」
「そうですね。帰還後に博士のピーな姿は見たくありませんし」
「そうね~ん。あ、王様かアイルが残るっていうのはどうかしら? 別にはやてちゃんやすずかちゃんに会いたくないって話だし♪」
「「な・・・!」」
1人ではまともに生きられない博士の生活のために誰かが居残りをしないといけないと判断した娘たち。誰が居残るかを決めることになり、そして真っ先に挙げられたのがツンデレなディアーチェとアイル。
マテリアルは、チーム海鳴の少女メンバーの外見をモデルにしている。ディアーチェは八神はやて。アイルは月村すずか。シュテルは高町なのは。レヴィはフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。フラムはアリサ・バニングス。その特異な出生に、マテリアルとチーム海鳴はライバルであり友人であり、そして姉妹と言っても過言ではない関係でもある。
「い、いや、我は王の務めとして子鴉らに挨拶の1つくらいせねば!」
「す、すずかは私に会いたいでしょうし、で、ですから私も行きますわ!」
居残り組に挙げられたことでディアーチェとアイルが慌てて反論。ユーリが「素直になれば良いのに~」と呆れ笑い。シュテルも「全く以ってそうですね」と同意した。
「いやいや。みんな一緒に行ってくれ。エフェルが居てくれるから、僕は1人でも大丈夫さ♪」
「はい。でも王様。出発前には食事は日持ちする物をよろしくです」
そう提案したエフェルヘリンズがグニャリと蠢き、グッと高身長の人型に形を変えた。エフェルヘリンズの通称・家事モードだ。すると目に見えてホッとするディアーチェとアイル。その様子に博士たちみんな笑った。
「では、決まりですね!」
「そうね~♪」
「ふ、ふん。しょうがない、行ってやろう」
「なのははどれだけ強くなったのでしょうか。今から楽しみです!」
「シュテルも燃えているでありますな!」
「ボクもやる気満々だぞー!」
「うるさいですわよ、フラム、レヴィ」
「今からすごく楽しみですー♪」
こうして、フローリアン家は再び時空を超え、海鳴市へ行くことが決まった。
後書き
ジェン・ドーブリィ。ドーブリ・ヴィエーチェル。
久しぶりの紫天一家とフローリアン姉妹が登場。そう。彼女たちが次話でのスマウグ竜決戦の援軍です。ユーリという超絶戦力も加わる大決戦。文字数が半端じゃなくなりそうです。
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