魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico?崇拝者の復讐~Code 3 of the Dragon heart~
管理世界や無人世界などの衛星軌道上に設けられている軌道拘置所。そこは世界規模レベルで犯した次元犯罪者やテロリストの中でも、特に危険とされる手段・思想を持った人物とされた重犯罪者を収容するための施設だ。
その拘置所の一室に、1人の女性が収監されている。囚人服を着用しているその女性は、ぶつぶつと何かを呟いてばかりいた。
「シュヴァリエルさん・・・シュヴァリエルさん・・・シュヴァリエルさん・・・」
彼女が呟いていたのは、身寄りも家も家族も何も無いストリートチルドレンだった頃の自分を救ってくれた男の名。彼女は床に座り、壁に背を預け、涙を流しながら恩人の名前を呼び続けている。
彼女の名はエルマ。元ロストロギア専門蒐集組織リンドヴルムに所属していた違法魔導師だった女性。コードネームはハート3。ロストロギアの回収実行部隊の最精鋭部隊ドラゴンハートの実質的な副隊長だった。
「どうして・・・死んでしまったんですか・・・どうして・・・私を置いて逝ったんですか・・・どうして・・・どうして・・・」
チーム海鳴、古代遺失物管理部・機動一課、特別技能捜査課の三隊の協力によってリンドヴルムは壊滅した。エルマはシュヴァリエルの死を聞かされたことで精神に異常をきたし、逮捕後はずっと精神病院に入院していた。しかし、ようやくまともに会話も出来るまで回復したことで、通常通り聴取や裁判が行われ、その結果ここ軌道拘置所に収監されたのだった。
「私も・・・どうしてまだ生きているの・・・一緒に死にたかった・・・一緒に連れて逝ってください・・・シュヴァリエルさん・・・」
エルマの中にはシュヴァリエルへの崇拝の心しか存在しない。死ね、と言われれば死ぬだろう。それほどまでに彼女の世界の中心だったシュヴァリエルの死は、彼女そのものの世界崩壊を意味していた。それでも自死しないのは、シュヴァリエルから自分が死ぬことの許可を貰っていないから。彼女にとっては生死の選択もシュヴァリエルの指示が全てなのだ。そんな彼女の耳に・・・
「シュヴァリエル、愛されていて羨ましいね~」
そんな声が届いた。エルマは驚くこともなく、というよりは無関心で声の出どころへと目をやった。そこにはベッドがあり、その真下に広がる影の中から音もなく1人の少女が顔を出した。が、「痛っ。狭っ」ベッド下は当然狭いため、その少女は頭をぶつけていた。
エルマはそれを一切の感情が籠っていない目で見ている。が、その少女が、彼女の崇拝しているシュヴァリエルの仲間であるということに気付き、「あ・・・」ようやく感情を見せた。だが、檻の中にはカメラが設置されているため動くことはなかった。
『やっほー、やっほー♪ えっと・・・名前なんだっけ?』
『エルマ・・・。ただのエルマです』
『そうそう。エルマ、エルマ。僕、レーゼフェア。殺されたシュヴァリエルと同じエグリゴリなんだけど。何度か会ってるけど憶えてる?』
エルマの頭の中に直接語りかける念話を使ってレーゼフェアは自己紹介。エルマは『憶えています。そんなあなたが何故ここに?』そう答る。すでに自分の在るべき家も、存在意義も失ってしまった。ただ生きているだけの自分に何の用があるのか、と。
『シュヴァリエルの仇を討ちたくない?』
『シュヴァリエルさんの・・・仇・・・? 無理ですよ、私なんか。神器という特殊な武器をフル装備したのに、ただの子供たちに負けた。こんな私が、あのシュヴァリエルさんですら勝てなかったあの子供に勝てるわけが・・・ない』
エルマは知っている。シュヴァリエルがどれほどの実力を持った存在なのかを。そのシュヴァリエルを1対1で撃破したルシリオンの実力をエルマ自身の実力と比べ、勝てないことを理解している。
『ま、神器王が完全ならね。だけど今の王は・・・――』
レーゼフェアはエルマに伝えた。ルシリオンの戦い方を、シュヴァリエルの敗因を、そして今の状態を。エルマの表情がみるみる怒りに変わっていった。ドーピングによるシュヴァリエルへの勝利。1対1を好むシュヴァリエル。それを真っ向から汚ない手を使ってねじ伏せたルシリオン。シュヴァリエルはそれでも責めないだろう。負けた自分が悪いのだと。エルマは知っている。だが、それでも許せなかった。
『どうすれば仇を討てますか・・・!?』
『神器も用意したし、ここから脱獄もさせてあげよう』
『お願いします!』
『オッケー♪ じゃ、行こうか』
レーゼフェアがベッド下より這い出て来る中、ガシャンと音を立ててカメラが破壊された。カメラが作り出していた影を利用して破壊したのだ。そしてレーゼフェアは、しっかりとした足取りで歩み寄って来たエルマの手を取って『さ、久しぶりの外だよ♪』彼女を影の中に引っ張り込んだ。
†††Sideルシリオン†††
リンドヴルム・ドラゴンハートのハート3ことエルマが今朝、軌道拘置所から脱獄した。そのニュースが機動一課や特別技能捜査課に回ってきた。非常線も張られ、脱獄犯エルマの捜索を行っている。
「それにしても衛星軌道上の拘置所からどうやって逃げたのかしら? 船の出入りも無かったって話だし」
人差し指を顎に当てているシャマルが首を傾げる。あそこにもトランスポーターは設置されてはいる。とは言っても、使われた形跡はないと言う。使われるのは本当に緊急時。刑務官や受刑者が、常駐している医務官や医療施設で手に負えない容体に陥った時に使用される。ゆえに普段はロックが掛けられている。解除するには、拘置所ではなく本局の許可が必要だ。だからトランスポーターを使っての脱獄は不可能だ。
「レーゼフェア・・・だろうな」
俺がボソッと呟くと、はやて達が目を見張って俺を見た。俺たちチーム海鳴は2班に分かれてエルマの捜索の手伝いをしている。俺たち八神家となのは達の2班で、拘置所があった無人世界の近隣にある管理世界、第10管理世界ファトーと第11管理世界ロヌムイに赴き、八神家はファトーを担当することになった。
「あー、確かレーゼフェアもリンドヴルムと関係してたって話やもんな~」
「レーゼフェア。アギトの記憶を奪いやがった・・・!」
「ああ、絶対に許せんな。アギトも、戻るのであれば記憶も一緒に取り返す!」
ヴィータとシグナムが怒りを露わにする。俺とて許せないさ。レーゼフェアはベルカ時代にてリインフォース・アインスを殺した。ジュエルシードを巡る戦いでは、フェイトに精神操作を施した。さらに今度はアギトの記憶をいじった。その償いだけはさせなければならない。
「ルシル君。レーゼフェアに勝てそう?」
「あんま無茶も、無理もせえへんようにな。創世結界が使えへんなら・・・」
「大丈夫だよ、シャマル、はやて。ルシルは強いだけじゃなくて頭も良いんだから!」
不安一色のシャマルとはやてだが、アイリは俺を信じ切っており、創世結界が使えなくても知略で勝てると断言した。信用にも信頼にも応えてやりたいんだが、創世結界無しで勝てるほど“堕天使エグリゴリ”の強さは甘くない。シュヴァリエルのように他の神器からのドーピングが出来れば良いんだが、今回はそんな都合の良い物はないだろう。それでも・・・
「勝つしかないだろう。呪いを掛けてきた術者本人がレーゼフェアだ。創世結界に頼らず、いま扱える全てをフルに利用して、勝利をもぎ取る。それだけだ」
勝率はシュヴァリエル戦に比べれば高いだろうが、それでも決して高くはない。最悪、記憶を削って勝つしかないだろうな。それでアギトを取り戻せるなら安い代償だ。
「レーゼフェアが関わっているとして、奴にメリットはあるのか?」
「どうだろうな。今のアイツはプライソンという次元犯罪者の元に居るようだから、プライソンの指示だとすればその行動に納得も行くが・・・。どちらにしろハート3を脱獄させることが出来るのはレーゼフェアくらいだ」
そう考えるとハート3はもう付近の世界には居ないかもしれないな。だからその事を本部に報告しようとした時、ゾワッと悪寒が走った。俺たちがいま居るのはファトーの郊外にある廃墟区画。犯罪者がよく潜伏するという情報を受け、やって来たんだが。明らかに俺たちに、いや正確には俺にだけ殺意が向けられている。
「どうやら当たりやったようやな・・・! シャマル、ハート3を発見したことを本部に連絡! リイン、わたしとユニゾン!」
「あ、はい!」
「はいですっ!」
「えっと、アイリはどうすればいい!?」
「お前はあたしとユニゾンだ!」
「ですよね~」
はやてとリイン、ヴィータとアイリがユニゾンを果たす。それぞれデバイスを構えて臨戦態勢に入った直後、「やはり来たなっ!」囚人服を着た1人の女性――ハート3がある廃墟ビルの中から飛び出して来た。当時はベリーショートだった赤髪も今は腰に届くまでの長髪と化している。
「アレは・・・!」
「「「神器!?」」」
「未回収の最後の1つか!」
ハート3の右手には黄金に輝く片刃剣、左前腕には縦長な六角形の黄金の盾を携えられていた。捜していた6つ目の神器・“ブリギッド・スミス”で間違いない。入手方法はおそらくレーゼフェア。脱獄してから半日も経っていないからな。偶然見つけるなんてことはまずない。
「シュヴァリエルさんを卑怯な手で討って! 恥知らずめがぁぁぁぁぁーーーー!!」
そう言って片刃剣を振り被った体勢で突撃してくるハート3。俺の前に躍り出たヴィータが「はあ!? 犯罪者風情が何を!!」“グラーフアイゼン”に装填されている神秘カートリッジを2発とロード。
「まったくだ。それに卑怯な手ではなく戦術だ!」
「うるさい、うるさい、うるさい!」
シグナムもまた“レヴァンティン”のカートリッジをロードし、ヴィータに続いてハート3に立ちはだかった。2人の右手首には“ドラウプニル”が装着されている。装着者の魔力に神秘を付加し、疑似的に魔術師化できる神器だ。さらに俺の魔力が込められた神秘カートリッジをロードしたことで、2人は対神器戦にも十分ついて行ける神秘持ちとなっている。
「はやて達は魔法で生身を攻撃! シグナムとヴィータは生身には当てるなよ!」
――瞬神の飛翔――
「了解や!」「了解!」
「ああ!」「解ってんよ」
俺も“エヴェストルム”のカートリッジをロードして、“エヴェストルム”の2つの穂に刻まれたルーンを発動させて神器化にする。ハート3は「邪魔をするな!」怒声を上げて、左腕の盾を掲げた状態で突撃して来た。
「おらぁぁぁぁぁぁ!」
――フリーレンシュラーク――
冷気を纏う“アイゼン”の一撃が盾に打ち付けられた。その一撃で霜に覆われた盾は大きく弾かれ、ハート3が丸見えとなる。彼女は突きの構えを取っており、片刃剣が突き出されたと同時、「紫電・・・一閃!」シグナムが火炎を纏う“レヴァンティン”を振り下ろした。
刺突と振り下ろしとでは威力差が如実に出る。派手な金属音が鳴り響いて、ハート3の片刃剣は大きく弾き落とされた。さらに俺が「せい!」“エヴェストルム”を振り回して、片刃剣をその手から弾き飛ばす。ハート3はすかさず左腕の盾による打撃を繰り出してきたため、「この程度で・・・!」チェーンバインドで左腕を拘束する。
「はやては攻撃、シャマルとザフィーラは捕縛!」
「ん!」
『ブラッディダガー、行くです!』
問答無用でハート3に撃ち込まれる血色の短剣型高速射撃魔法。着弾時に発生した煙の中に「戒めの糸!」シャマルのバインドと、「鋼の軛!」ザフィーラの拘束杭が突っ込んでいく。その衝撃で煙は晴れ、シャマルとザフィーラのバインドで完全拘束されたハート3の姿が現れた。
「くそっ、くそっ、目の前に仇が居ると言うのにぃぃぃーーーー!!」
バインドから逃れようともがくハート3。俺は「お前を脱獄させたのは・・・レーゼフェアか?」問い質す。すると「だったらなんだ!? あの方はくれたんだ、貴様を討つチャンスを!」簡単に答えてくれた。
「馬鹿が。利用されたんだよ、お前は・・・!」
「それでも構わない! 公務員のクセに卑怯な手を使ってまで勝ちに拘ったお前がシュヴァリエルさんを討ったという事実に変わりない! 殺す、殺す、お前はここで・・・殺す!!」
これはもう何を言っても無駄だな。俺は“ブリギッド・スミス”を回収するため、ハート3の左腕に装着されている盾に触れようとしたその時、「っ!?」奴の、レーゼフェアの神秘を至近距離で感じ取った。ハッと彼女の顔を見て、「な・・・!」目を見張った。両目からどす黒い泥・・・ではなく、影が溢れ出て頬を伝ったからだ。
「レーゼフェアめ・・・!」
バッと大急ぎで後退した直後、ハート3の目だけでなく顔の穴という穴から影が溢れ出してきたかと思えば、その影は彼女の肌を覆い隠してコーティングした。それと同時にシャマルとザフィーラのバインドを破壊。
「ルシル君!」
「距離を取れ!」
俺の元に来ようとしていたはやて達に叫ぶ。同時にハート3の着ている囚人服が弾け飛び、全身をピッチリと覆っている影の装甲から何十本と針が突き出してきた。戦友フォルテシアと似た攻撃だ。それらを避けている間、影の針を切り捨てたハート3は地上に突き立っている片刃剣の元へ急降下を始めた。
「させるか!」
――舞い降るは、汝の煌閃――
闇黒系の弱点である閃光系の魔力で創り出した魔力槍30本を一斉射出。それと一緒に“ドラウプニル”を装着したはやては「ナイトメア!」砲撃を、「おっらぁぁぁぁ!ヴィータは冷気を纏ったシュワルベフリーゲン・アイス6発を撃ち放った。
俺のマカティエルを含めてその全てが「チッ!」背中から翼のように生えた10本の人の腕のような物が盾代わりとなって防いだ。10本5対の影の腕がバッと広がり、まさしく翼のように見える。
「ルシリオン!」
「ああ、解っている! 一筋縄じゃ行かないようだ!」
レーゼフェア本体には遠く及ばない神秘だが、それでも今の俺に比べればずっと上だ。こいつは八神家総出で挑まないと面倒なことになりそうだな。片刃剣を拾い上げたハート3は一度“ブリギッド・スミス”を輪に戻し、再び武器へと変形させた。その武器の形は「極剣メナス・・・!」シュヴァリエルの大剣と同じものだった。
「ふふ、はは、あはは! シュヴァリエルさん、シュヴァリエルさん。あぁ、今、あなたを殺した罪深い王を――」
大剣に頬擦りするハート3の声に狂気が満ちている。そして「あなたの元へ送ります!!」地を蹴って俺の元へ突撃して来た。肩に担ぐようにしている大剣を見るに、一番威力の高い振り下ろしなんだろうが・・・。
(背中の10本の腕がきな臭い・・・!)
ならば機能できないように閃光系の一撃で消し飛ばしてやる。右手に閃光系の魔力球を創り『広域攻撃、行くぞ!』はやて達に伝える。ハート3に向かって突っ込もうとしていたシグナムとヴィータがそれを中断した。
「曙光神の降臨!!」
突っ込んで来るハート3へと投げた手の平サイズの魔力球が直径10mにまで大きく爆ぜた。その間に俺は“エヴェストルム”を魔力剣生成のフルドライブ・イデア、さらにそこから二剣一対のゲブラーフォルムへと変形させる。
「こんなものぉぉぉーーーー!」
爆ぜている最中でもハート3が飛び出してきた。影の腕の数本がチリチリと崩れているが、10本とも残ってはいる。そこに「翔けよ、隼!」シグナムのシュトゥルムファルケン。さらに「行くぜ、アイリ!」ヴィータと『ヤー!』アイリのコメートフリーゲン・アイス1発。続けて「リイン!」はやてと『はいです!』リインのクラウ・ソラスが、ハート3へと一斉に襲いかかる。
「あはははははははは!」
狂気の笑い声を上げたままのハート3の背中に生える10本の腕が勢いよく伸び、はやて達の攻撃を広げた手の平で受け止めた。もちろん完全に防げるわけもなく、シグナムとヴィータの一撃で4本の腕が消し飛んだ。はやての一撃は腕の破壊にまでは至らなかったが、それでも破損はさせた。
――女神の宝閃――
そこに追撃の閃光系砲撃4発を撃ち込んでやれば・・・よし、はやての分も合わせて5本の腕を消し飛ばせた。が、本体にはダメージが入っていないようだ。純粋に神秘が足りていないんだろうな。とにかく、大剣を振り下ろしたハート3の突撃を横に移動することでやり過ごし、すれ違いざまにカウンターの砲撃「ゲルセミ!」を腹に撃ち込んでやる。
「むぐぅ・・・!」
爆発に呑まれる前に苦悶の声が聞こえたが、影の装甲を打ち破れた手応えはなかった。まだ墜ちてはいまい。俺の持つ閃光系でもっとも威力が高いのは広域無差別多弾砲撃バルドル。次いでバルドルの前身である広域多弾攻撃ダグ。その下は似たり寄ったりだ。バルドルは被害が大き過ぎるため却下。ならば・・・
「ダグで影を剥ぎ取るか・・・。『儀式詠唱に入る! サポート、お願い出来るか!?』」
そう伝えるとはやて達から『了解!』快諾を貰った。
†††Sideルシリオン⇒はやて†††
ルシル君が儀式魔術を使う。数あるルシル君の魔術の中でもその威力は絶大や。ハート3の全身にぴったりと張り付いてる影(スタイルラインがハッキリ出るから見てるこっちがなんや恥ずかしい)の装甲はかなり硬くて、それを貫くための儀式魔術や。
「逃げるな卑怯者め!」
シュヴァリエルを斃したルシル君を仇として戦うハート3・エルマさん。脱獄させたんはシュヴァリエルとおんなじ“エグリゴリ”のレーゼフェアって話で、きっと最後の未回収神器・“ブリギッド・スミス”もレーゼフェアが渡したに違いない。
「いと尊き幸いなる天の門の先、輝ける世にて生まれし聖光の主、我らが祈りに応え給え」
どうしてレーゼフェアがそんなことするんか解らへんけど、ルシル君の命を狙ってることだけは間違いない。それに、シグナム達の昔の家族であり、アイリのお姉ちゃんでもある、炎熱の融合騎アギトの記憶をいじって支配下に置いてるってゆう外道っぷり。絶対許せへん。
「主よ、願わくは、過去、現在、未来のすべての悪より、我らを救い給え」
「シグナム、ヴィータ、ザフィーラ! 3人は近接で押さえて! わたしとシャマルとは後衛や!」
「「「はいっ!」」」「おう!」
詠唱を始めたルシル君の元へ向かって来るハート3の行く手を遮るようにシグナムとヴィータが迎撃に入る。ハート3の振るう大剣を紙一重で躱しながら、「せい!」シグナムと、「おらぁ!」ヴィータがデバイスを振るって、「おおおお!」ザフィーラは魔力を纏わせた拳で、斬撃と打撃を与え続ける。
「砕き給え、我らの歩みを妨げし恐怖という名の足枷を」
そんな中で、背中から新しく生えてきた影の腕が急速に伸びて、シグナム達に殴り掛かった。それに対処するんがわたしとシャマルや。
「ロックオン!」
『はいです!』
「『ブラッディダガー!』」
ダガー16本を一斉発射した後、第二波の16本をスタンバイして「ってー!」それも発射する。シャマルは「クラールヴィント!」の魔力ワイヤー4本を使ったバインド・戒めの糸で影の腕の根元を縛り上げる。
「我らを罪より救い、我らを惑わすものより解き放ち給え」
シグナム達に襲いかかる直前に影の腕を迎撃できたんやけど、わたしのダガーは10本すべてを破壊できたわけやないし、シャマルのバインドもほんの少しの時間しか通用せえへんかった。そやけど「あんがと!」ヴィータと、「感謝します!」シグナムとザフィーラがお礼を言うてくれた。
「滅牙ッ!」
「紫電・・・清霜!」
「クリスタレスハンマー!」
影の腕の動きがのろなったその一瞬の隙を的確に突いたみんなの攻撃が「むが・・・!?」ハート3を大きく弾き飛ばして、近くにあった崩れかけの建物の屋上に墜落させた。少ななってた影の腕での防御は全て砕かれて、大剣もザフィーラが全身を使って制してくれてたことで使えんかったからの結果や。
「導き給え、助け給え。そして与え給え。我らが願い奉る主の御威光を・・・! 行くぞ!」
――昼神の閃星――
ルシル君の合図でわたしらはハート3から大きく離れる。ルシル君の儀式魔術に巻き込まれたら間違いなくアカン結末になってまうからな。距離を取った直後、ソレは起きた。空からルシル君の魔力光サファイアブルーに光り輝く柱が降ってきた。
先端に四角錐のある、上に向かって少しずつ狭まってく四角柱。その数20本。それらが連続でハート3の倒れる屋上に降り注いでく。決まった、って思うたけど「Ahhhhhhh !!」ハート3の絶叫に応えるように10本の影の腕が一対の巨大な両手の平になって、ルシル君の魔術の迎撃に入った。
「無駄だ! レーゼフェア本体の影ならまだしも、与えられただけの影にコード・ダグは止めることは出来ん!!」
巨大な両手の平に着弾する光の柱の1本目と2本目。影の手がすごい勢いで掻き消されてく。さらに3本目、4本目と着弾したことでとうどう影の手が消滅して・・・
「ああああああああああああああああ!!」
次々とハート3やその周囲に光の柱が突き刺さってく。着弾と同時に爆ぜた光の柱は無数の光球に分裂して、それがまた破裂して閃光爆発を引き起こす。ひょっとしてハート3は死んでしもうたんやないか?って思えるほどの容赦の無さっぷりに「アイツ、死んでねぇよな・・・?」ヴィータが戸惑った。
『まぶしいですぅ・・・!』
目の前はもう真っ青。ビリビリと感じる神秘を含んだ閃光爆発は今もなお続いてて、ハート3の生死が不安になってきた。そんな閃光爆発もようやく治まってきて、晴れてきた粉塵の中から見えた廃ビルは影も形も無くなってた。瓦礫の山と化した廃ビルの中心に「ハート3・・・」は居った。
「馬鹿な・・・! ルシリオンのあれほどの魔術をその身に受けて、なおも倒れないのか・・・!」
「冗談キツすぎんだろ、おい!」
ハート3は神器の大剣を支えにして瓦礫の上に佇んでた。それに影の装甲もボロボロやけど、まだ残ってる。ルシル君を見ると、まさしく絶句って感じでハート3を見てた。
「耐えた・・・耐えた・・・耐えてやった!」
キッと鋭い目をわたしら、とゆうよりはルシル君に向けたハート3が1歩2歩と足を踏み出す。ルシル君は「もう少しで墜ちるんだ・・・!」そう言うて、ハート3に向かって急降下を始めた。シグナムとヴィータとザフィーラも続いて、「主はやてとシャマルはその場に!」シグナムからの指示に「うん・・・!」わたしは頷き返した。
「この程度の影、晴らせることが出来なければレーゼフェアに勝つなど到底・・・!」
「あははははは! 感謝します、レーゼフェアさんんんん!!」
大剣を肩に担いだハート3は地を蹴って飛び上がって、急降下するルシル君へ真っ向から突っ込む。そんでルシル君の振り払った右の“エヴェストルム”と、ハート3が振り下ろした大剣が衝突。ガキィンと甲高い金属音が響くと、ルシル君がすかさず左の“エヴェストルム”を振り下ろす。
「もっと、もっと、もっと!!」
ハート3がそう言うと、ボロボロやった影の装甲がまだ復活した。背中からまた影の腕が10本と生えたかと思えば急速に伸びて、周囲に転がってる大きな瓦礫を鷲掴んだ。それは振り下ろされる“エヴェストルム”の斬撃を躱す為の手段やった。腕が縮んだことでハート3は高速でルシル君の側から離れて、その斬撃を回避した。
――崇め讃えよ、汝の其の御名を――
12枚の剣翼だけがルシル君の背から離れて、影の腕と瓦礫を利用してここ廃墟区画を飛び回るハート3に向かって突撃。剣翼はハート3に追い縋りながらその先端から砲撃を撃ち続けて、ルシル君自身も「どうした、俺を討つんだろう!」砲撃を撃ちながらハート3へ接近を試みる。
『はやてちゃん。リイン達、何も出来ないです?』
「う、うん・・・。ううん! 出来ることがあるはずや!」
ルシル君もシグナム達も少しずつハート3に攻撃を直撃させて、影の装甲を削っててるのが見て取れる。ハート3も負けじと大剣や背中から生える影の腕による反撃を行うんやけど、さすがにルシル君、シグナム、ヴィータ、ザフィーラの4人相手には通じひん。それでも拮抗は崩れへん。影の装甲を砕こうとも、すぐに修復されてくから。
「リイン! ナイトメアハウル、スタンバイ!」
『は、はいです!』
リインの補助でわたしの周囲に3つの魔力球を展開。そんで「シャマル、旅の鏡お願いや!あれ、リンカーコアを取り出す奴!」シャマルに指示を出す。シャマルは「お任せを!」頷いてくれた。
『みんな! シャマルの旅の鏡でハート3のリンカーコアを抽出する! ハート3の動きを止めたって!』
『『『了解!』』』
『あぁ、そうか、その手があったよな・・・。魔術に拘ってしまったのが俺のミスか。旅の鏡のことを失念していた。さすがは俺たち八神家の主はやてだ。ありがとう』
ルシル君が褒めてくれた。それだけでわたしはもう有頂天や。ニヤつくんを止められへん。シャマルが「良かったですね♪」って言うてくれらから「うんっ♪」笑顔で頷く。っと、今はそんな場合やないな。
『多弾砲撃、いきます!』
そう伝えておけばルシル君たちはしっかりと対応してくれるから、返事を待たずに「発射!」魔力球3基と“シュベルトクロイツ”からの計4発の砲撃が、ハート3へと向かって行く。そんでルシル君が“エヴェストルム”で大剣を押さえ込んでくれたおかげで直撃した。
『動きが止まった!』
『我々でこのままハート3の動きを止めます!』
ヴィータとシグナムの報告に、わたしはすぐさま「シャマル!」に指示を出す。みんながハート3をその場で押さえ込んでくれる。その隙を見逃すわけにはいかへんからな。シャマルは「はい!」“クラールヴィント”で鏡を作って、スッと右手を掲げる。
あとはハート3が完全に動きを止めるのを待つだけ。ハート3は大剣から小回りの効く二剣一対のナイフに変えた神器で、ルシル君たちの攻撃を押さえ込んでる。神器頼りやなくて純粋に騎士としての実力が高いのが嫌でも解る。
「「はぁぁぁぁぁぁっ!!」」
「っぐ・・・くぅぅ・・・!」
ルシル君とシグナムからの連続斬撃をまともに受けたことでハート3が吹っ飛んだ。そこに「鋼の軛・・・!」ハート3に向かって拘束杭が伸びる。弾き飛ばされてる中でもハート3はナイフを振るってそれらを寸断した後、「いっけぇぇぇぇっ!」ヴィータの冷気弾8発もまた斬り払った。
「「紫電・・・十字閃!」」
そこにルシル君とシグナムの挟撃が入って、ハート3の持つナイフが2本とも弾き飛ばされた。その瞬間、シャマルが鏡に手を差し入れた。シャマルからハート3へと視線を戻すと、胸からシャマルの右手が突き出てて、その手の平にはハート3のリンカーコアがあった。
「終わりだ!」
――女神の救済――
ルシル君がすかさず右手をリンカーコアに翳して、その魔力を吸収し始めた。苦悶の呻き声を漏らすハート3は「おのれ・・・!」ルシル君へと両手を伸ばして、その首を絞めようとした。そやけど、それより早く魔力吸収が終わって「シュヴァリエルさん・・・」ハート3は膝から崩れ落ちて、ドサッと倒れ伏した。わたしとシャマルはルシル君たちの側に降り立って、影の装甲がチリチリと霧散してくハート3を見下ろした。
「神器の回収完了だぜ」
「ようやく機動一課としての任務も完了だね」
ヴィータとアイリが二剣一対のナイフに変形してる“ブリード・スミス”をそれぞれ持って来て、ルシル君に差し出す。ルシル君は着てるコートを脱いで裸になりそうなハート3に被せた後、ヴィータ達から神器を受け取って「ああ、終わったな」本来の黄金の輪に戻した。
「こちら八神チーム、リーダーはやてです。ハート3・エルマの確保、神器の回収・・・完了」
・―・―・―・―・
ルシリオン達がハート3・エルマと戦闘を繰り広げていた廃墟区画より3kmと離れた山の頂に、1人の少女が佇んでいた。バイオレットのショートヘアはカチューシャを付けていることでインテーク化。クリムゾンの瞳は猫目で、口もどことなく猫口。ハイネックの黒セーターに白のロングコート、裾から覗くズボンも黒、そして茶色のブーツという格好。
彼女の名はレーゼフェア・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリア。今は“堕天使エグリゴリ”として、ルシリオンの命を狙っている人型の戦術兵器だ、
「なるほど~。あれが今の神器王の実力か~」
彼女はこの山頂からルシリオン達とエルマの戦闘を観戦していた。その目的は、左目の視力を失い、創世結界のパスも失いながらもルシリオンがどれだけ戦えるのかという、戦力確認だ。そのためにルシリオンに殺意を向けるように煽り、脱獄させ、事前に回収しておいた神器“ブリギッド・スミス”を授けた。
「ま、ただの人間に神器王を殺せるわけないのは解ってたし、こんなもんか♪ それにしてもあの魔法、旅の鏡・・・。あれは僕でも防げないかもな~。・・・八神シャマル、か」
あくまでエルマは捨て駒として捉えていたレーゼフェアは踵を返した。そして「とりあえず、ありがとう。えっと・・・ごめん。名前忘れた♪ いいよね、もう会うこともないし」エルマに向かってそう言った後、影を使っての移動・影渡りを使ってその場から消えた。
後書き
ドーブロエ・ウートロ。ドブリ・ジェン。ドーブルイ・ヴェーチェル。
最後の神器、ブリギッド・スミスもアッサリ回収。これで神器回収編は完結ですね。今後の予定は、先のあとがき通りに進めます。対スマウグ竜のための援軍と合流、決戦。最終話の卒業式。番外編のウラばなと魔法・魔術紹介。そしてEP.Ⅳですね。
あ、余談ですが、投稿し忘れていたフノスのイラストをUPしました。これでアンスールメンバーは全員でしょうかね。
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