ロックマンゼロ~救世主達~
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第69話 流星
前書き
バイルを撃破したゼロ達。
バイルを倒し、バイルの吐き散らす呪詛を聞き流しながらゼロ達はゆっくりと膝をついた。
ラグナロクでの復活したアインヘリヤル八闘士との再戦、そしてバイルとの戦闘によるダメージと大気圏の熱でどんどん体力が失われていく。
転送はもう、間に合わない。
「ゼロ…エックス…終わったね…」
「ああ…」
「…少し、暑くなってきたね…ラグナロクの中に戻らないかい?」
「…うん」
ルインはエックスを見遣ると、死が間近で迫っているのにエックスの表情はとても穏やかであった。
ゼロも同じなようだし、多分自分もエックスと同じ表情を浮かべているだろう。
三人は激痛によってふらつく体を叱咤しながら内部に戻る。
まだラグナロク崩壊までは時間があるようだし、少しだけ話したい気がした。
ラグナロク内部の中もかなり暑いが、それでも外よりは少しだけマシな気がする。
三人は窓のある場所まで歩くと窓を背にしてゆっくりと座り込み、窓の方を見遣ると自分達の母星が見えた。
美しい地球の蒼が。
「っ…」
息を吐いた途端に体から火花が出る。
一瞬顔を顰めたが痛覚を切り、これで少しはマシになったとゼロは目を閉じた。
ルインは地球を見つめながらゆっくりと呟いた。
「エックス、ゼロ」
「…?」
「どうしたんだい?ルイン?」
呼ばれた二人がルインを見遣ると、ルインは疲れ果てた表情でありながらどこか感動しているように見えた。
「あれが…地球…なんだね…綺麗…っ」
「そっか…ルインは…宇宙から地球を見るのは初めてだったね」
「うん…あんなに…綺麗だったんだね…エックスとゼロが守ってきた星…そして」
「俺達がお前と共に守ってきた星だ…」
それを聞いたルインは表情を綻ばせた。
二百年間の時を経て、ようやくエックスとゼロの隣に立てたことを嬉しく思う。
少し前までバイルとの激戦が繰り広げられていたなどとは想像もつかないほどに静かだった。
もう間もなくこの衛星は地球の大気圏へ突入しながら崩壊するのだろう。
自分達と共に。
「約束…守れなかったね…シエルに帰ってきてって言われたのに…」
「……………」
ルインの呟きに、ゼロは無言で返した。
言葉にはしないが、ゼロもシエルに対して申し訳ないと感じているのだろう。
「っ…みんな、そろそろ大気圏に突入するよ」
「うわあ、ラグナロクの外壁が水飴のようにぐにゃぐにゃになってきてる」
「ふう…どうやら時間はあまりないようだな…」
「うん、私達…死んじゃうんだ…。ハルピュイア達はどうしてるかな…?」
地上のどこかにいる息子達の身を案じるルインに、エックスは安心させるように口を開いた。
「彼らならきっと、今でも人間達のために戦い続けているはずだよ」
「うん……エックス、ゼロ…」
「ん?」
「何だい?」
二人は穏やかな表情でルインを見遣る。
こういう風に穏やかに会話をするのは久しぶりだ。
「これからは、シエル達が“明日”を作っていくんだよね」
「ああ…」
「うん…これからはハルピュイア達とシエル達が“明日”を作るんだ」
穏やかな表情で言うエックス。
本来ならオメガとの戦いで消滅するはずだった自分が新たなボディを得て、人間とレプリロイドのために再び戦い、ようやく自身の理想に辿り着けたことに満足していた。
ただ残念なのは…。
「死にたくないなあ……」
「…………」
「私、まだ生きたいよ。生きてシエル達が創る“明日”を見たいよ…ハルピュイア達と、家族としてもっともっと話がしたいよ………………でも、駄目なんだよね」
苦笑を浮かべるルインにゼロは少しの間を置いて、ルインの頭を撫でてやった。
人工血液が髪に付いたことで、少し髪が固くなっているが、撫で続ける。
ルインを少しでも元気付けてやりたかったから。
「生きたいと思うのは…恐らく誰でも同じことだろう。お前だけじゃない。」
シエル達が創る“明日”を見たいと思うのはゼロも同じことだ。
「ゼロ…」
「だが、俺達はレプリロイドから見ても、あまりにも長く生きすぎた。そろそろ休んでもいい頃だろう。もう、コピーエックスもバイルも、ネオ・アルカディアもないんだからな」
珍しく饒舌なゼロの言葉に、ルインとエックスは穏やかに微笑んだ。
確かにゼロの言う通り、もう自分達のような戦うことしか出来ない存在はシエル達が創る未来には要らないだろう。
もう地上はこれで平和になるはずだ。
オメガもバイルも、コピーエックスもネオ・アルカディアもない。
自分達もこれから死ぬ。
これで世界に英雄と呼ばれる存在は無くなる。
ネオ・アルカディアはもう過去の理想郷。
人間やレプリロイドを縛っていたものは無くなり、英雄という名の幻想に惑わされることもなくなった。
人間もレプリロイドも自分達の意志で生きていけるはずだ。
シエルやネージュ達のように。
「ふう…これで…終わるんだね…本当に……」
「ああ」
「レプリロイドって、死んだらどこに行くのかなあ…?人間みたいにちゃんとあの世に行けるかなぁ……?」
「どうだろうね…もしかしたら行けるかもしれないし…行けないかもしれない……。」
「ケイン博士やみんなに…会いたいなあ……」
「僕もみんなに会いたくなってきたかな……」
ずっと昔に共に苦楽を共にした戦友であるエイリアやシグナス、そしてアイリスと言った死んでいった知り合い達にも。
もしかしたらサイバー空間に行くことになるかもしれないが、可能性は低いので期待しないでおこう。
「ふふ……」
ルインは穏やかな笑みを浮かべながらそのまま目を閉じた。
「シエル……お前達が創るんだ…懐かしい未来を…な」
ゼロも珍しく口元に笑みを浮かべながら穏やかな表情で目を閉じた。
「さようなら…みんな……これからの世界は……君達が守るんだよ」
エックスも目を閉じ、誰も何も言わないまま、急速に、ラグナロクの崩壊が始まっていく。
もう少ししたら、大気圏突入の摩擦熱によって、ラグナロクは燃え尽きるだろう。
意識を失う寸前にゼロ達は聞き覚えのある声を聞いた。
『本当にそれでいいの?ゼロ君達?』
崩壊したラグナロクから紅、蒼、朱の三つの光が空間の歪みに吸い込まれていった。
一方、地上のトレーラーではシエルが目を見開きながらモニターを見つめていた。
「…ラグナロク…沈黙…崩壊を始めました…。ラグナロクの残骸が、大気圏への突入を開始しました。恐らく…ほとんどの残骸は大気圏での摩擦熱で燃え尽きると思われます…。ラグナロクの…エリア・ゼロへの落下阻止に、成功しました…ミッション…終了です…」
「ゼロ…!ゼロ!!返事をして…!!ルイン!!エックスも!!…お願い…返事を…して…」
「…通信回線、応答…無し…接続…不能です…」
ルージュはオペレーターとして事実をシエルに震える声で伝えた。
「……………」
「…シエルさん!!」
転送室を飛び出したシエルにルージュが叫ぶが、アリアに止められた。
「そっとしてあげなよルージュちゃん…今は一人にしてあげよう。さあ、アイリスちゃん」
「はい」
「私達も外に出よう。」
「分かりました…シエルさん、大丈夫でしょうか…?」
「大丈夫だよ。シエルちゃんは強いし…(後はラグナロクの破片浄化か…忙しくなりそうだねえ……)」
胸中で呟きながら、アリアはアイリスを伴って外に出る。
エリア・ゼロの集落では、人間達とセルヴォ達が空を見上げており、そこにはハルピュイア達の姿もあった。
「あっ!流れ星!凄い、凄い!流れ星がいっぱいだよ!!」
「いや、これは…ラグナロクの破片…俺達は、助かったのか…」
ティフォンがはしゃぐ隣でトルナードは自分達が助かったことの実感がまだ沸かないのか呆然としていた。
「…クラフト…ゼロ…ルイン…エックス様…」
ネージュが呟いた直後にシエルが集落に来た。
「…ゼロ達と…連絡は、取れたのかい?」
「……………」
シエルの表情を見て、ハルピュイアとセルヴォはゼロ達に何があったのかを悟り、悲しげに口を開いた。
「エックス…様…母上…」
「…ゼロ…ルイン…何てことだ…」
「そんな…せっかくみんなが助かったっていうのに!せっかく…人間とレプリロイドが歩み寄れたのに…!俺達…これからどうすればいいんだ…」
自分達のために戦い続けてくれたゼロ達の死にコルボーは悲しむ。
「………」
「…………」
トルナードもネージュもゼロ達の死を悲しむレジスタンスや元四天王達に何も言えずに黙るしかなかった。
「大丈夫…ゼロは…ゼロ達は、きっと生きてる…私達のために…きっと帰って来てくれる…!!」
そう言って走り去るシエル。
動揺する仲間達や集落の人々を元気付けるため、悲しみを隠して笑顔で言う姿にネージュは悲しげに俯いた。
「シエルさん…」
気丈に振る舞うシエルの気持ちを察したネージュは走り去るシエルをそっと見送る。
大切な存在を失った悲しみを吐き出すために一人で泣きたいだけ泣かせてやるために。
クラフトを失ったネージュには、シエルの気持ちが痛いほど分かる。
アリアは誰にも気付かれないように集落を離れた。
集落から大分離れた場所に出ると、シエルは静かに崩れ落ちた。
目からはとめどなく涙が零れ落ち、嗚咽が漏れる。
しばらく泣いてゆっくりと立ち上がると、ラグナロクの破片が流れる空を見上げる。
「ゼロ…あなたは私を…私達を信じて戦ってくれた…。ルインもエックスも、私達を何度も助けてくれた…。だから、今度は私達がゼロ達に応えなくちゃいけない…。見ていて…ゼロ、ルイン、エックス。みんなを…きっと幸せにしてみせるわ…あなた達が望んだ人間とレプリロイドが手を取り合えるような、平和な世界を見せてあげる…だから…絶対、帰ってきて…私は…ゼロ達を信じてる…!!!」
いつかゼロ達と再会出来ることを日を信じて前向きに生きていくと、目の前にいないゼロ達に誓うシエル。
こうして、永い時をかけたゼロ達の戦いは終わりを迎えた。
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