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ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~

作者:akamine0806
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第10章 エル・ファシル掃討作戦 前編

宇宙歴 792年 9月
レンボガン エーゲ第99訓練施設での訓練教官としての任務が終わった。
というのも、彼らの訓練はまだ11月まで続くが私は緊急でローゼンリッター連隊に呼び戻された。
私はかなり急ぎでハイネセンへ帰還した。
そして、ローゼンリッター連隊本部に入るなりリンツ大尉が
「おう。元気だったか?左腕の調子がよさそうでなよりだ。」
とあいさつを交わすと周りにいた隊員たちも声をかけきた。
一通りのあいさつにもまれたのちに連隊長室に赴いた。
ヴァーンシャッフェ大佐は
「うむ。明日から訓練でも支障はなさそうだな。
これを見てくれ。」
といきなり作戦資料を渡してきた。
まじかよとは思ったがいるべき場所に戻ってきたという感触がした。
作戦資料には機密の大きなスタンプとともに少し意外な題名だった。というのも
「エル・ファシル掃討作戦」と書いてあったのだから
エル・ファシル自体は宇宙歴788年に帝国軍に奪取されたものの、同盟軍が宇宙歴789年に同盟軍が奪還したはずであった。しかし、当時はヘンシェル攻防戦のことで世論が持ちきりでそのこと自体はヘンシェル攻防戦の記事の隅っこに書いてあったのは記憶にあった。
作戦資料に目を通す。
概要から行くと
エル・ファシル自体は同盟軍が奪還したもののエル・ファシルは8大陸あるうちの実に5大陸は山岳地帯が7割を占め、残りの大陸も4割から5割は山岳地帯という山岳部が多い惑星でその山岳部に奪還から3年がたつのに帝国軍がいまだに立てこもっている。
また、それが同盟市民や駐屯軍に対しテロ攻撃を行うため791年だけでも7000名近い死者が出た。
そのため、いまだに復興がなされず中心都市以外の地方都市はゴーストタウン状態で、テロの拠点になりかねない。これを掃討すべし。
ということであった。
しかし、惑星1個の掃討だったら残敵はいても2個師団分くらいなので数個歩兵師団を送り込んで決着をつけれるものだが今回は1個惑星の掃討でもエル・ファシルにはなんと10個歩兵師団・7個山岳師団・そして厄介なのは12個擲弾装甲兵師団が陸上兵力として残っており、さらに驚きなのは普通に1個航空軍に匹敵するワルキューレ部隊を持ち、小規模ながら駆逐艦・ミサイル艇をかき集めた宇宙戦力を保持しているとのことであった。
私は苦笑しながら大佐に
「もはや残敵じゃないじゃないですか」
と言ったら大佐はムッとした顔で
「だからこそ我々が行くのだ。」
苦笑しながら「冗談の通じない人だ」と思いながらさらに資料に目を通す
このような戦力が残ってしまったのは同盟軍がイゼルローン要塞攻略のために補給拠点を複数個所無理やり設けようとしたため奪還後の掃討作戦が緩やかになってしまい、きっちり行われなかったことがあげられていた。
そして、次の紙へ目を通した。
掃討作戦派遣戦力であった
同盟軍はこれに対し都市防備・テロ対策用として5個歩兵師団、対山岳戦部隊として10個山岳師団、そして、対擲弾装甲兵部隊として15個装甲白兵戦師団と艦隊陸戦戦力から3個特殊強襲揚陸白兵戦連隊を地上戦力として、航空・宇宙戦力として第4艦隊・第9艦隊という陣容であった。

一通り作戦概要を読み終わったところで2,3質問をして連隊長室から退出した。
その足で第3中隊室へ向かう。
第3中隊の中隊旗がかかった部屋の前に来る。
中隊旗には中隊として表彰された時の帯がぎっしりとついている。
そして、扉の横の壁を見て敬礼をする。
そこには自分の指揮下で戦死した隊員たちの顔写真がならべてある。
みんな自分にはもったいないくらい優秀な軍人であった。
彼らのためにもまた、戦って戦い続けなくてはいけなかった。
中隊室の扉を開ける。
まず最初にいたのは、儀仗ライフルを持って整列した第3中隊279名であった。
中央にいたリューカス中尉は
「280番目到着の遅刻してきたわれらが第3中隊長 エーリッヒ・フォン・シュナイダー大尉に敬礼!」
と言って全員の敬礼を受ける。
あまりに突然だったことからびっくりしたが、さっきからこそこそと第2中隊員たちがトランシーバーを持ってうろうろしていたのはそういうことだったらしい。
私が来るタイミングを待ち構えていたということだった。
私は目が涙で滲みながらも彼らに敬礼を返した。
リューカス中尉が中隊長用の儀仗剣を返却してきた。
「大尉。教官勤務お疲れ様でした。
指揮権をお返しいたします。」
私は
「この約3か月本当にありがとう。
よくやってくれた。
礼を言う。」
と涙を流してしまったのを今でも覚えている。
本当にいるべき家に戻ってきた瞬間であった。
第3中隊は実に約9割の隊員を失った。
これにより、大幅な人事編成が必要になったがマッケンジー中尉は私が不在の間これをすべてやってのけてしまった。
人事編成は連隊本部人事・総務主任とかいろんな面倒な人たちと話して決めるので一人でやるのはさぞかしつらかっただろうことが想像に難しくなかった。
新規中隊人事編成は以下の通りになった

中隊長 エーリッヒ・フォン・シュナイダー大尉
副中隊長 マックス・リューカス中尉
中隊本部小隊長 モレッティ・ハボック中尉
第1小隊長 クレメンツ・ホリー 予備役中尉
第2小隊長 アラン・ベイ 予備役中尉
第3小隊長 マースト・リヒトフォーフェン 少尉
第4小隊長 グレン・クライスト 准尉
第5小隊長 コール・シューベルト 曹長
という通常の5個小隊+本部小隊という編成に加え連隊の第1~3中隊には新たに
狙撃・偵察小隊と重火器小隊がついた。
それぞれ小隊長にはエミール・レイ 曹長とベン・インスラン 曹長が着任した。
クレメンツ予備役中尉とアラン・ベイ予備役中尉はもともと私の部下で、ほかの隊員は昇進や連隊内から自ら志願して第3中隊に来てくれたらしい
思わず、、胸がいっぱいになりそうだった。


予定より1か月早く復帰した私は早速1週間後には大規模演習に駆り出された。
我々派遣予定部隊はハイネセンでも有数の山岳地帯「大モナーク山岳地帯演習場」に派遣された。
ここで約1か月間の実戦演習を経てエル・ファシルに向かうことになっていた。
宇宙歴792年 9月12日 大モナーク山岳地帯演習場 A-44地区
その時我々は第101山岳師団と演習を行っていた。
アグレッサー部隊は第200装甲白兵戦師団と第1,33山岳師団
特に第1山岳師団は危険な存在だった。
少し、第1山岳師団の戦歴を紹介しておく
第1山岳師団はイゼルローン方面総軍の一つ第9方面軍の警備地区の一つである惑星クレンシーという高山地帯かつ鉱石産出惑星で非常に重要な惑星に駐屯している。
惑星クレンシーは辺境地帯過ぎて警備艦隊が置かれていなかったが、その時から約50年近く前に帝国軍が大挙してここに攻めてきたことがあった。
守備兵力は第1山岳師団のみというなかで、第1山岳師団はその攻防戦を実に半年も耐え続け、最後には帝国軍撃退へ功績をあげ頭角を現し始めた。
その時彼らが帝国軍からつけられたあだ名は
「緑の悪魔」
というのも、彼らは区分としては一般にライフルを持って戦う一般歩兵であったが、彼らの迷彩術は想像を絶するものであった。
彼らは狙撃手が着用する「ギリースーツ」という全身から草や布きれをもさもさに生やした服を着用し、しかも彼らの服には体熱探知センサーを遮断する特殊なものであった。
第1山岳師団はどこからともなく敵に接近しては痛烈な一撃を加えていつの間にか去っていくという一撃離脱戦法で帝国軍を苦しめた。その伝統を継ぐ彼らは当時も同じ精強さを保ちエル・ファシル奪還作戦では殊勲部隊の一つとして表彰されていたはずだ。
そういうこともあり、我々も装甲服を野戦迷彩パターンにして演習、実戦に出ることになった。
山岳戦は奇襲したほうが勝ちと相場が大体決まっている。
であるため、土地勘を瞬時に掴みどこが奇襲されやすいかを探るために狙撃・偵察小隊は非常に重要な存在であった。

訓練開始から3日後の14日
私はA-44地区の偵察へ狙撃・偵察小隊とともに同行していた。
山岳戦で白兵戦になることはまずない。
少しがっかりであったが、しょうがなかった。
自分の愛用のM-15ライフルにスコープを装着して草の生い茂った山道を歩いていた。
全体的に肌寒かった。
狙撃強襲をかけられないように上部に尾根のある山道はかなり警戒して歩く。
自分の隣を歩くのはエミール・レイ曹長だ。
彼は元々連隊本部の斥候狙撃手で弱冠22歳にして公式射殺件数311件という驚異的な数を持つエース・スナイパーだった。今回は偵察任務であるので愛用の狙撃ライフルは持っていなかったが彼なら静止標的だあれば3㎞先の標的には百発百中で当たるそうだ。
偵察任務には狙撃手としての慎重さが必要らしく、彼は狙撃以外にも適任であった。
今回の偵察任務達成目標はこの地区にある敵の迫撃砲陣地とあわよくば狙撃陣地の発見である。
演習開始1日目にして輸送車両がこの方角からの対戦車ミサイル(模擬弾)と迫撃砲による攻撃を受けローゼンリッター連隊で護送任務に就いていた2名がドロップアウト判定をくらって、輸送車両も5両中2両が撃破された。
しかし、その2名のドロップアウトは爆発によるものではなく狙撃によるものであった。
これに危機感を覚えたヴァーンシャッフェ大佐はこの地区を我々第3中隊管轄にし、掃討作戦を命じた。
こうして、演習開始2日目には3つの迫撃砲陣地と6つの対戦車ミサイル陣地をレイ曹長の偵察報告に基づき撃破したものの狙撃陣地は見つからないばかりか我々と共同でこの地区の掃討作戦を担当していた第101山岳師団第145山岳歩兵連隊から派遣されてきたマコ・ラッシュ中尉指揮下の中隊員が3名狙撃されてドロップアウトした。
マコ中尉は私と士官学校同期で同じ陸戦士官として協力し合ってた。
中尉はそれを見て
「ホークアイ(鷹の目)だわ。」
と一言つぶやいた。
私はわからなかったので聞いてみると
「グリーン・デビルス(第1山岳師団)のエース・スナイパー。
本名は知らない。っていうかあの師団直属の狙撃手の中でだれがやつなのかは奴らの中でも知らないらしいのよ。
でも、ひとつだけわかってるのは奴は「目」にこだわるのよ。
必ず、敵の「目」を狙ってくる。
確実に延髄を打ち抜けるのもあるけどなぜかそこばかりを狙ってくる。
おたくのデアデッケン大尉がよくご存じのはずよ。」
ということで大尉に聞いてみると
「俺も奴のことは詳しく知らんが、奴の射殺体は何体も見た。
エル・ファシルでな。
当時俺は准尉になりたてでな、ローゼンリッターではなく第10山岳師団にいたときだ。
市街地戦闘の時に師団直属の狙撃手が俺たちの小隊の援護についてきたんだ。
市街地戦闘はどこから敵が来るかわからん。
それで彼がついてきたわけだが、正直な話をすると俺たち小隊は敵をいぶりだしただけで誰一人としてトマホークをふるったり、ライフルを打たなかった。
なのに、左目から血を流して頭から出血して死んでいる帝国軍兵士が転がっているんだ。
つまり、その師団直属の狙撃手がやったってことは一目瞭然だったんだ。」
そういう、デアデッケン大尉も特級射手の一人としてかなり名をはせていたらしいが、ローゼンリッター連隊赴任が決まった後も誰がホークアイなのかは結局わからなかったそうだ。
常に見られていると思って行動しろ
これが鉄則だった。
そんなことをぼやぼや思い出してる時だった。
いきなり聞きなれた音が「ヒュルルルル…」という音が
聞こえてきた。
しかし、こっちに飛んでこないことは一瞬で判断がついた。
レイ曹長が探知機をいじって
「この尾根のほぼ真下に敵の迫撃砲陣地があります。」
と申告してきた。
これはまたとないチャンスだった
私は
「よし!ロベール兵長」
と言って無線兵であったロベール兵長を呼ぶ。
そして彼の背中についている遠距離無線機をいじって衛星軌道上に待機する第9艦隊第24空母打撃群第224飛行団第7対艦攻撃飛行隊を呼び出した。
私は
-こちら、アルファ・ロミオ01 ブラボー・ジュリエット01 聞こえますか?

聞きなれた男性パイロットの声が聞こえる
-こちら ブラボー・ジュリエット01 フライトリーダー マベリック01 どうぞ
私は
-アルファ・ロミオ01 近接航空支援を要請します。 大気圏内にスパルタニアンはいますか? どうぞ
パイロット
-ブラボー・ジュリエット01 了解した。大気圏内には2個中隊が待機中。近接航空支援可能を行う 座標を送れ どうぞ

-アルファ・ロミオ01 了解。A-44地区 E-43・N-47地点 対象迫撃砲陣地 どうぞ
パイロット
-ブラボー・ジュリエット01 了解。3分後爆撃開始でいいか どうぞ

-アルファ・ロミオ01 大丈夫です。協力に感謝する ミスターコリンズ どうぞ
パイロット
-礼には及ばないよ。 マッド通信終わり 

つまりこのパイロットは第7対艦攻撃飛行隊指揮官のマッド・コリンズ少佐つまりニコールの父であった。
たまたまではあったが近接航空支援の時の訓練でどっかで聞いたことのある…とおもったら少佐だったという感じだ

かくして3分と立たないうちにスパルタニアンの聞きなれた飛行音がしたのちに下の迫撃砲陣地ではドロップアウト判定を知らせるヘルメットの点滅が確認された。
爆撃後の迫撃砲陣地へ向かう。
情報収集のためだ。
おそらく本当の戦場だったら紙媒体は燃えてしまうので、実戦同様に今回も情報媒体のチップだけを抜き取る。
迫撃砲の種類は重迫撃砲に分類されるもので連隊迫撃砲小隊に配備される級のものであった。
そして、鹵獲したチップを情報媒体で確認する。
どうやら第1山岳師団自体はここら辺には歩兵部隊しか展開しておらず山岳砲兵部隊は展開していなかった。しかし、その地図の中には歩兵部隊が重要ポイントを上から見下ろせるところに配置されており、侵攻作戦自体速やかに行く気配がなかった。
情報を回収したところで我々は撤収した。
情報を連隊本部に送信し、連隊作戦主任幕僚のアーロン少佐と情報主任幕僚のリンツ大尉に根掘り葉掘りいろいろと聞かれまくった。

そして、翌朝。
連隊本部から攻撃命令が下った。
昨日回収した地図やその前に回収していたものから敵の死角となるところを見つけ出しヘリ空中強襲作戦によってこの地帯の突破を図ることになった。
この作戦には我々第3中隊と第2中隊が参加することとなり第3中隊は空中強襲作戦を行い、第2中隊の突破を側面から援護するということであった。
演習場近くにある第91航空基地からUH-99中型輸送ヘリ15機が離陸した。
今回はトマホークを装備せずにライフル、グレネードランチャー、小型対物ミサイルなど普段あまり使わない兵器を携行していたので変な感じがした。
離陸から30分後
降下地点には狙撃・偵察小隊が先にパラシュートで降下しておりラぺリング誘導を行う。
パイロットのエルンスト・レーダー中尉が
「ラぺリング開始してください!ハッチ開きます!」
といったので開きつつあった後部ハッチの前立つ。
機上機関銃射手の軍曹がロープをおろし
「降下よし!」
といったので、彼に敬礼しながら
「中隊降下開始せよ!」
と言ってラぺリング降下を開始した。
ロープを手に取る。
そして、ロープを伝ってするすると降りていく
装甲服の外で風を切ってるのがわかる。
そして、着地!
ライフルを持って警戒陣地構築を急ぐ。
訓練通り陣地形成を行う。
ヘッドセットから全員降着完了報告を受け、前進を開始した。
完全な警戒態勢で前進する。
あらかじめ探索していた敵の砲撃陣地と迫撃砲陣地を空爆したのちの侵攻だったので敵は間違いなく防御線を張っているに違いなかった。
といっても、第2中隊の侵攻方面の陣地をつぶしたのでこちら側に防御陣を張るのか、後背の空中強襲を恐れてこちら側に陣地を張るのかは微妙なところであった。
もっともわれわれとしてはあくまで第2中隊の突破の援護であるため前者が好ましかったので、我々は第2中隊指揮官のブルームハルト大尉と小細工を練った。
小細工としては、まず広域無線でわざと半暗号化された傍受解読されやすい無線で相互交信し無線で敵を誘導することになった。
降下完了から10分後大尉から最初の連絡があった。
「こちら第1大隊アレン・ハルトマン少佐
第3大隊現在地確認 送れ」
私ー こちら第3大隊ユーリ・グスタフ少佐現在地ポイント-12 どうぞ
ブルームハルト大尉ー 了解 第3大隊はこれより15分後にAー13地点へ攻撃を行え 第1大隊は予定通り側面援護を行う どうぞ
私ー 了解 通信終わり
といった感じで普通はコールサインで行うところを実名でやったり作戦をもろでそのまま話したり展開兵力をわざと誇張したりやりたい放題これ以外にもやった。
この提案はリンツ大尉がしたもので全部台本まで作ってくれた
まあ、全部覚えるまで飯抜きはさすがに答えたが
といってもおかげさまで上空待機中のスパルタニアンの偵察映像からは敵部隊の1個歩兵大隊の移動が確認されしかも、こっちが予測した方向に動いてくれていた。
敵は我々に一撃を加えてから第2中隊を撃破しに行くようであった。
敵が強襲を加えるに絶好の場所が1箇所だけあったので我々はそこで逆撃加えるように待つだけであった。
そこは細い山道でそれを見下ろすことのできる小高い峰があった。
我々がやるのはその小高い峰にブービートラップを仕掛け歩兵用ミサイルの誘導装置を設置し、その小高い峰の右100m付近にある同じくらいの高さの山頂付近に潜伏し狙撃の機会を待ち構えた。
待つこと10分
敵の斥候小隊が例の小高い峰に侵入していくのが確認された
ブービートラップは巧妙に隠したつもりだったが、正直心配であった。
続いて敵の本隊であろうか1個中隊程度の部隊が強襲陣地を構築し始める
待機開始から20分後ブルームハルト大尉から敵の別の大隊の側背につき、攻撃目標であった敵の迫撃砲陣地およびミサイル陣地を視認完了ときた
このたった30分も経たないうちにこれらを完了するとはさすが大尉と言わざるをえなかった
敵をこの地点に釘付けにして、攻撃目標撃破後、敵歩兵部隊殲滅が目標だったので攻撃開始は同時に行うことになっていた。
そして、ブルームハルト大尉が
「賽は投げられた」
と無線交信がきた
古代ローマのユリウス・カエサル将軍の言葉だ
その無線は第2中隊・第3中隊全隊員につながっていたのでその瞬間に第3中隊のミサイルが発射されと続いてブービートラップが作動した!
峰からは模擬爆弾のカラースモークが立ち上り、模擬ミサイルが空中を飛んで目標直前で判定用ペイントをばらまく
敵はまさかのことで慌てていた。
私は続いて狙撃の開始を命令した
中隊のライフルによるクロスファイアポイントをその峰の先端から後方へ柔軟に移動させつつ狙撃・偵察小隊に狙撃させる。
しかし、攻撃開始から20分後には敵は体勢を立て直し攻撃対象は少なくなっていた。
私は潮時とおもい陣地変更を命じた瞬間だった
隣にいたハルバッハ准尉のヘルメットの左目のあたりにペイント弾が直撃し一瞬のうちにドロップアウト判定が出た
私は瞬時に
「狙撃兵だ!
中隊!遮蔽物に隠れろ!」
しかし、時すでに遅し
狙撃がやむまで7名が狙撃でドロップアウト判定を食らった
それも全員左目に直撃を食らって
私は弾丸飛翔方向を測定しその方向に迫撃砲とスパルタニアンによる近接航空支援を行ったが直撃したかどうかは不明だった。
それでも、とりあえず黙らせるのに成功し、第2中隊が標的の陣地を攻撃している間の側面援護の任務を完遂した(といっても我々が到着する頃には敵のほとんどは壊滅していた。さすが、ブルームハルト大尉というべきであっただろう)
この攻撃によってこのAー44地区の掃討作戦は完了した。
しかし、例の「ホークアイ」による狙撃による狙撃ドロップアウト判定数はこの地区だけで実に21名にも及んだ。そのうち第3中隊は9名と最多であった。
実戦であったらと思うと背筋が凍ったのをいまでも記憶している。
その後何度となく山岳地帯での演習が行われ、何度となく狙撃手特に「ホークアイ」に悩まされた。
これを聞いたローゼンリッター連隊副連隊長 ワルター・フォン・シェーンコップ中佐は自ら狙撃手を選び抜いて「ホークアイ」掃討作戦を展開した。
その掃討作戦部隊の面子は豪華というだけでは言葉足らずだっただろう。
まず、指揮官はライフル・ブラスター・狙撃ライフルいずれも特級のシェーンコップ中佐。副隊長は狙撃ではシェーンコップ中佐をも凌ぐと言われるデアデッケン大尉。指揮下の3個小隊には我が第3中隊からはクロイシュナー軍曹を含めた4名の狙撃手とエミール・レイ曹長が選出され、その他の中隊からも狙撃特級の射手が集められた。
そして、彼らは最後の演習で7日目の潜伏でデアデッケン大尉自らが「ホークアイ」狙撃に成功し、重症判定を与えて捕虜として連れ帰った。
その「ホークアイ」を見た瞬間私は目を疑った
そいつは私と同盟軍一般志願兵訓練課程で同期で、同時期にヘンシェルに赴任したミッキー・モレッティだった。
彼らは私を見た時笑顔で
「よう!エーリッヒじゃないか
元気だったか?」
と話しかけてきた。
捕虜詰問と兼ねて彼からヘンシェルの後の事を聞いた。
彼はヘンシェルで奇跡的に重症を負わずに済んだが、PTSDがひどくなり、一時予備役になって軍をやめようかと思っていた。そんなところに声をかけてきたのが、フェザーン駐在武官補だったヴィオラ中佐という風船を膨らませたような体格の男だった。
モレッティは優秀な射手だったので、連隊の狙撃手として活動していた。
そこで、中佐は彼にフェザーン駐在武官事務所の警備狙撃手として傭いたいと言ってきたそうである。当時彼自身、麻薬・酒に溺れており借金も抱えていた。
そこに中佐はつけ込んだのだ。
モレッティは二つ返事でそれを承諾した
結局フェザーンでやっていたのは警備ではなく帝国・フェザーンなどの要人を暗殺することだった。
これをやりながらもありとあらゆる激戦地へ予備役という肩書きで派兵されたそうである。
これが嫌になった彼は中佐に退職を希望したが中佐は彼に自ら現役兵として復帰を志願するかとこれを続けるかの二択を迫ったそうで、彼は止むを得ず前者をとったそうである。
また、彼からシェーンコップ中佐のとった捕縛作戦の概要を聞くことができた。
まず、中佐は無線を使ってまるで迫撃砲陣地が射撃を行っているところにヴァーンシャッフェ大佐自らが来ていると思わせモレッティをおびき寄せた。
さすがに不審に思ったモレッティは3日間待ち構えたが、結局4日目に偵察を兼ねてスポッターとともにその陣地へ向かった。
陣地を見ればなるほど、ヴァーンシャッフェ大佐と思わしき人物がいた。
そして距離500mまで接近して、完全に射程に収めた
そして引き金を絞った瞬間だった
2時の方向ちょい上のあたりの峰から12.5mm大口径狙撃銃の実弾訓練弾が隣にいたスポッターの伍長の頭をぶち抜き、続いてモレッティのスコープに直撃し、重症判定を食らった。
そこに待って待ってましたと言わんばかりに2人の若い兵士に取り押さえられ連れてこられたとのことであった
その後、デアデッケン大尉に詳細を聞いてみると
その12.5mmを放ったのは大尉で作戦を立案したのはもちろんシェーンコップ中佐だったらしい
大尉はモレッティが中佐を狙うまでに5秒とかからなかったと言っていたが、その相手に狙いをつけてスポッターをドロップアウトし、射手を負傷させた大尉の腕前も素晴らしいものだと感動したものだった。

かくして、我々ローゼンリッターを含めたエル・ファシル掃討作戦部隊は訓練を終了し宇宙歴792年 11月20日 ハイネセンを出発した。
 
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