ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~
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第10章 エル・ファシル掃討作戦 中編-①
宇宙歴792年 12月 1日
われわれ、エル・ファシル掃討作戦部隊は惑星エル・ファシルに展開した。
ローゼンリッター連隊はエル・ファシルで2番目に人口の多い南部大陸の掃討作戦を担当した。
この南部大陸を担当する部隊は第2攻撃任務軍と命名されローゼンリッター連隊、第200装甲白兵戦師団、グリーン・デビル師団(第1山岳師団)、第9山岳師団、第11歩兵師団そして、急きょ掃討作戦部隊に組み込まれた第43予備役空挺歩兵旅団で編成された。
司令官はアル・サレム中将が務める。
中将の紹介を少ししておこう
アル・サレム中将はその年で51歳の将官だが、佐官まで艦隊陸戦隊勤務一筋の士官で第2次アルレスハイム攻防戦では帝国軍遠征軍旗艦に自ら乗り込み遠征軍司令官を打ち取る功績をあげている。
しかし、大佐の後半期~中将に至るまで艦隊勤務になっており、宙陸両用部隊司令などを歴任しているがこれといって功績をあげていないどころか失敗続きで一時期少将降格の可能性もあったくらいであった。それでも彼が中将でいられるのはやはり、副司令官ライオネル・モートン准将のおかげであろう。
准将は中将が大佐時代の副司令・参謀長などを歴任し、ことあるごとに中将を救ってきた。偶然にも、エル・ファシル奪還作戦時宙陸両用任務軍司令官はアル・サレム中将であったが、エル・ファシルへ降下を開始したとき大気圏外での抵抗は軽微と思っていたがそんなわけはなく、駆逐隊・ワルキューレ空戦隊が反撃に出て降下部隊の実に3割が撃破されそれにビビった中将は撤退をいきなり命令してしまったのだ!それに対して当時参謀長・大佐であった准将はその混乱を収拾し、スパルタニアン空戦隊を適切に配置し敵に逆撃を加えたという。
こんなそんなでどちらかというと頼りがいのない司令官であったが我々は自分のことをもくもくとこなすだけであった。
まず、ローゼンリッター連隊を第43予備役空挺旅団は南部大陸の中心都市「トリポリ」に降り立った。
トリポリ第7軍港周辺とトリポリ中心街は比較的人口密集地だが、他はほとんどゴーストタウンといってよかっただろう。最高時にはトリポリとその周辺には5万人を超える人口が住んでいたが、今日では1万人2000人であった。
それにもかかわらず、トリポリはエル・ファシルで3番目にテロ発生件数が多かった。駐屯する第20国境警備隊の装備は2線級のもので装備に勝る帝国残党軍にかなわなかった。唯一の救いは行政組織が健在であったことくらいしかなかった。
第20国境警備隊は1個軽歩兵大隊規模で指揮官もエル・ファシル出身の予備役少佐が務めていたはずだったが、現在その指揮官は戦死し予備役中尉が指揮しており戦力も戦死以外に脱走などで1個中隊と2個小隊分にしかならなかった。
そういうこともあり、この部隊は一時作戦参加を停止となり特殊作戦コマンドFチームが再教育を施すこととなった。
我々にとっての最初の任務はトリポリの治安維持から始まった。
心の奥底ではローゼンリッター連隊の隊員たちは「こんな任務くそくらえ!」としか思わなかったが、シェーンコップ中佐は
「まあ、気休め程度に任務をこなしとけば給料が降ってくるし、危険地手当がつくんだ。こんなにいい条件はない。」
といって何とかユーモアセンスで励ましていた。
テロ攻撃はもっと苛烈なものと思っていたのだが、正直陸戦に比べれば圧倒的な見劣りがした。
たとえば、遠距離からの迫撃砲攻撃はいつも通りの要領で打ってきた方角を割り出して、狙撃ないし即応作戦チームがヘリで急行し敵を撃破する。
もちろん敵も馬鹿ではないので、移動してるだろうが我々は奴らの退路を断ち、敵を袋の鼠のごとく殲滅する。
しかし、あるときから状況が一変した。
掃討作戦開始から2か月たったある日の作戦でのことだった
いつも通り、我々第3中隊管轄下のトリポリ市第2管区のパトロールを行っていた。
装甲車5両、その周囲を第3中隊員が徒歩で警戒する。
第2管区はトリポリ市の中で最も山岳地帯に近く、テロ発生件数は最多である管区であった。
周囲はほとんどゴーストタウン状態。
パトロール開始から20分後であった。
第2管区で最も高いビルの上から狙撃援護を行っていた狙撃・偵察小隊から連絡で、第2管区西方の建物でロケット弾らしき物品を運搬中の人物を確認。監視中とのことであった。
先手必勝であったので、疑いであってもその場に急行する。
5分後。その疑いのある建物に到着する。
そこは廃工場で前々からテロ拠点疑いの一つとして監視していたところの一つであった。
テロ掃討作戦であったので専守防衛の必要はなく、むしろやられる前につぶしに行くことが鉄則であるのでその建物に一気に踏みこむことにした。
入口から入るのも芸がないので、近くにあった工業廃水処理施設から侵入することとなった。
工場排水処理施設の排水管を伝って侵入する。
第3小隊のリヒトフォーフェン少尉の部隊がマンホールに爆薬をしかける。
少尉の「爆破!」
といった瞬間にマンホールが上に吹き飛び、少尉の投擲したフラッシュパンの破裂音がきこえる。
一気に第3小隊が侵入する。
しかし、そこには我々が期待した帝国軍ゲリラ兵はおらずパッケージが開封された対戦車ロケット弾の箱しかなかった。
地下1階の制圧を完了し、1階に駆け上がる。
1階に上がった瞬間にいきなり銃撃を受ける。
すぐさま攻撃体制に移行する。
見る限り、敵は10名とちょっと。
楽勝であった。
ベルトコンベヤーを盾に第3小隊を移動させ、正面から第2小隊を突入させる。
第2小隊が正面扉をけ破って突入。
これに驚いた敵はいきなり銃を捨てて、降伏するかに見えた。
リヒトフォーフェン少尉が小隊員に捕獲に向かわせる。
第3小隊員のクリス・メッケル伍長とマルクス・クライスト2等兵がライフルを構えながら接近する。
残りの隊員はライフルを向けて援護射撃体勢をとる。
帝国語で伍長が武装解除を行い、身体検査をしている時だった!
捕虜の一人がいきなり戦闘服のポケットの中から手榴弾を取り出して自分の目の前に落下させたのだ!
私は瞬時に
「全員伏せろ!」
と叫んだ。
5秒後、手榴弾は爆発するかに見えたが、爆発しなかった。
そいつは、手榴弾のピンを焦って引き抜かずに落下させたのだった。
それに気づいていた伍長はすぐさまそいつをライフルの銃床で殴り倒し、逃亡しようとした残りのゲリラ兵を撃ち倒した。
そののち、この廃工場内の探索とその銃床で殴り倒された捕虜の詰問から驚くべきことが発見された。
まず、地下1階で発見された対戦車ロケット弾は同盟軍のものであったこと。
捕虜の持っていた手榴弾も同盟軍の正式採用のものであったこと。
以下のことが極め付けに驚きであった。
その入手ルートはなんとエル・ファシルに司令部を置く第9方面軍後方支援集団 第8補給司令部であったということであった。
この情報は先述の捕虜の情報と、対戦車ロケット弾に記載された配備データを読み取り、それを調べ上げたところ巧妙に輸送船事故に紛れて遺失ということになっていた。
ただちに、これを連隊本部に通達した。
これを重く見た第2攻撃任務軍司令部は中央情報局と共同で調査を開始した。
他の管区でも同様のことが見つかり、同盟軍に強烈な打撃が走った。
だが、バクダッシュ少佐の指揮する中央情報局の対応はさすがともいうべき迅速さで行われた。
まず、第8補給司令部 司令官であったクレソン・マッキンリー准将の身柄を確保し事情聴取を行った。
自白剤をも強要する勢いで行われた強烈な尋問の前に准将はあっさりと崩れ去り、すべてをされけ出した。
ことの始まりは宇宙歴 789年にエル・ファシル奪還作戦の一環として発生したケルトリング星域会戦であった。
この会戦で同盟軍第2・9・10艦隊のの一方的な攻撃で敗れ去った帝国軍は多数の輸送船を含む艦船を放棄し撤退した。そのため、それらはすべて同盟軍の手に落ちた。
そして、問題だったのが同盟軍が拿捕した輸送船であった。
この輸送船の中身を臨検していた陸戦隊と憲兵隊は大量のサイオキシン麻薬を押収した。
通常押収品はいったんその方面軍の後方支援集団に保管されその後の処理の指示を待つ。この押収された麻薬は当然そのように扱われた。
これに目を付けたクレソン准将(当時大佐 第9方面軍 司令部第4部:後方支援部長)はそれを輸送中の同盟軍輸送船を護衛艦もろくにつけずに自ら手まわしをした海賊に拿捕させ、これを手に入れて同盟軍内で流通させた(させられるくらい大量に捕獲された)。
サイオキシン麻薬は1㎏であっても一大佐の給料を軽く凌駕するような金額で取引される。
これで一定期間金儲けをした准将は何事もなかったように足を洗おうとしたがそうは問屋がおろさなかった。
その海賊を海賊掃討作戦を実施して丸ごと証拠隠滅を図ろうとしたが、その海賊こそエル・ファシルに残る帝国軍ゲリラ部隊であった。
家族の命とこの一件をばらさないことを条件に准将は帝国軍ゲリラ部隊に武器・艦船・物資を横流しすることとなってしまった。
これを調べ上げた司令部はただちに、エル・ファシル内のすべてのサイオキシン麻薬精製工場(サイオキシンは1gでもあればそこからいくらでも再合成できる人工合成麻薬であるため)と武器の取引場所を一斉に押さえる作戦を開始した。
当然我々も駆り出された。
第3中隊が行ったのは第43予備役空挺歩兵旅団第2大隊が第2管区内のセメント工場内で武器取引を押さえる作戦の支援であった。
この第43予備役空挺歩兵旅団は予備役とついているが対テロ作戦部隊の一つとして訓練されており、ハイネセンに本部を置く首都防衛軍の即応予備部隊の一つだ。
我々の任務は彼らの作戦中の狙撃援護と逃亡する敵の排除または捕縛である。
第1~5小隊を道路の要所に配備し、狙撃・偵察小隊を工場から300mから500m離れたビルや建物に展開し敵を待ち構えた。
私は第1小隊とともに行動していた。
帝国軍の取引屋は0400時にやってくるように仕向けられていた。
作戦開始は0300時
第3中隊の駐屯する第12前進基地で各小隊準備完了の報告をもらい出発する。
軽装甲車に乗って付近まで接近して、そのあとは徒歩で展開となった。
装甲車内はしんとしていたが、久しぶりの近接白兵戦と思うとぞくぞくし、思わずトマホークを握る手が強く感じられた。
作戦開始45分前には各小隊は展開を完了し、敵を待ち構えた。
待つこと、30分。
第2小隊の監視する道路から1台の黒いバンが接近してきた。サーマルセンサーで内部を確認するとライフル・トマホークで武装した兵士が4名、背広を着た交渉屋が2名、ホルスターとトマホークを隠し持った運転手が確認された。
ビンゴだった。
第2大隊指揮官のマークス・フレッチャー中佐にそれを伝えた。
私
-コンドル1 ラビットを視認。 繰り返す。コンドル1 ラビットを視認。 どうぞ。
中佐
-イーグル2 了解。 Dタイムは20分後 どうぞ
私
-コンドル1 了解。 通信終わり
しばらくするとそのバンは工場の前に止まった。
背広が2人降りて工場の中に消えていく。
バンからは4名の兵士が降りてきて、大きなテレビ局が持つようなカメラ・三脚ケースを一人ずつ降りてきた。
当然、それ自体が防弾盾になり、その中にライフル・トマホークが入っているのは当然であったが。
内部の様子は同盟軍の交渉人につけられた隠しカメラで丸見えだ。
彼らは普通に帝国語で会話をし、交渉に入り始めた。
監視されていることに気づいていない。
そして、Dタイム:突撃開始時間になった。
中佐
-イーグル2 Dタイム開始!
の一声で突入が開始された。
それと同時に、表にいる4名の守備兵と運転手は頭をぶち抜かれる。
300m手前にいる狙撃・偵察小隊によって
内部ではフラッシュパンがさく裂し、銃撃戦が開始された。
交渉人の1人が肩を抱えて車に戻ってきた。
どうやら負傷しているらしい。
ブラスターを握って、ドア越しに応戦している。
私は各小隊に発砲命令を下していたが、どの小隊からも遮蔽物となる場所に立てこもって応戦しているようで残念ながら打てない。
少々イライラしながらタイミングを待っていたが、そいつは巧妙に死んだ運転手を引きずりおろし頭を下げ、車の中に頭をちぢこめるようにして運転し始めた。
このままでは逃げられると思った私は第1小隊と第2小隊を道路正面に展開させ、その暴走するバンに向かって一斉射撃を加えることにした。
射撃線を整えるのに10秒と掛からなかった。
300m先にバンが見えた。
150mまで我慢
そして、150m!
私は
「撃て!撃ちまくれ!」
と言って、ライフルによる一斉射撃を命令した。
バンは横転して我々の射撃線50m手前で止まった。
あたりはシンとしていた。
私は、第2小隊から1個分隊引き抜いて、そのバンに向かった。
トマホークを握りしめて、走る。
そして、バンによじ登り、扉を開けた瞬間だった!
交渉人の右手にはブラスターが握られていた!
私は瞬時にトマホークを横振りして、そいつのブラスターとともに右手を破壊した。
その次の瞬間に私は運転席に飛び降りてそいつを取り押さえた。
こうして、この一連の市街地掃討作戦は終了した。
そして、捕虜からもたらされた情報をもとにローゼンリッター連隊を含めて第2攻撃任務軍は次の段階である山岳地帯掃討作戦へ移ったのであった。
宇宙歴793年 3月のことであった。
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