ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~
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第9章 その後 第99訓練施設にて
宇宙歴792年 7月私は予備役将校訓練課程教官として惑星レンボガン エーゲ第99訓練施設に赴任した。
予備役将校訓練課程とは、大学生に一定額以上の学費免除を条件に大学2年生から4年生にかけて3年間予備役将校としての訓練を行い、予備役少尉任官後7年間の現役勤務と3年間の予備役勤務についたのち本人の希望により現役勤務に行くか、予備役兵として一般生活に戻るかを選択できるという制度である。
開始当初はどの予備役士官も10年間も持たずに戦死又は負傷してしまっていたが、中には10年間の軍務を勤め上げ、現役勤務を望んで将官まで昇進したものもいた。
彼らは非常に優秀な頭脳を持っているが、根からの軍人ではなかった。
また、1年の3分の2は普通の大学生であり訓練期間中でもかなりの人数の学生が自分の専攻科目の勉学にいそしんでいるのを見た。
私が担当した予備役士官候補生たちは全員大学3年生。ハイネセン国立大学の秀才たちがそろっており、年齢は20歳前後であった。
ちなみに当時私は19歳だったが書類上は21歳として登録されていた。
私の教官としての任務は10人の学生の統括と射撃教官であった。
また、学生自体50名程度で5個教練小隊に分かれて訓練を行うことになっていた。
教練隊学生指揮官はマリー・カルナック予備役軍曹であった
彼女は亡命3世で父も母も軍人ではなかったが使命感に燃えた将来有望な指揮官だった。
教育長はアレックス・ラープ予備役中佐で、教育長付はクレア・バーリモンド予備役少佐が務めた。
ラープ予備役中佐は名前からもわかるようにフェザーン人の移民4世で、第2方面軍第11補給基地司令や統合参謀本部第4課補給参謀を務めたなかなか人当たりの良い40代の予備役士官で、クレア予備役少佐は士官学校戦史研究科を出て現役時代は士官学校教官・統合作戦本部戦史資料室長・第9方面軍司令部第1課人事参謀等を務めていた50代のおっとりした女性予備役士官であった。
ほかにも教官が10人いてそのうち7人が予備役士官であった。
教官の半分は人事・教育の世界をずーと渡り歩いてきた人だったが、残りの半分は実戦を潜り抜けてきた猛者ぞろいであった。
私と同じく教練小隊総括教官で装甲車操縦教官であったヒロキ・ルブルック大尉はアルレスハイム・ヘンシェルなどいわゆる激戦地中の激戦地を潜り抜けてきた兵士たたき上げの士官でお互い話が合った。
ほかにも、戦艦の砲術士官、スパルタニアンパイロットなどがいた。
しかし、私を含めて彼らにはある共通点があった。
それは 体のどこかを欠損していることである。
ヒロキ大尉は左足が膝からなく、ミサイル艇の艇長であった、ルイ・マッカートニー予備役中尉は右眼球が義眼であった。
最初は不思議に思ったがどうやらこれはラープ予備役中佐の教育方針として
「実戦の現実を知る」
がもとになっているらしい
確かに誰が見ても外見的には全然不自然ではない私の義手を見たとしてもやはり義手は義手でしかなくそれ以上でもそれ以下でもなかった。
学生たちは私の左腕を見た瞬間義手だとは分からなかったようだったが
私が左手をとって見せ
「これが現実だ」
ということを見せた時さすがに空気が凍ってしまったが
やはり、現実を彼らに突き付けたほうがよいのでやった。
とはいってもそんな話ばかりしてたわけではなく
戦術や射撃方法、重火器の扱いなどを教えていた。
彼ら候補生たちは日課が決まっていて
起床、朝食の後は訓練・座学が詰まっていた
射撃訓練のときだった
私は久しぶりに歩兵用の迷彩戦闘服を着て射撃場で射撃を教えていた。
彼らはライフル射撃といってもM11 6.5㎜レーザーライフルとラスターしか撃ったことがなく、M15 7.5㎜レーザーライフルや火薬式6.5㎜や7.75㎜ライフルはやったことがなかったらしい
火薬式ライフルは古代アメリカで開発されたM16ライフル、古代ソ連で開発されたAK-47などがもとになって作られたライフルが主であった。これらのライフルで特に7.75㎜以上の口径の火薬式ライフルなら、擲弾装甲兵の装甲服を打ち抜くことが可能である。
しかし、火薬式ライフルは風の影響やライフリングの影響、そして何よりも発射時の反動から弾道がそれる傾向にありこの点は注意が必要であったし慣れてない兵士が撃つと味方の誤射の可能性があった。
そう考えると一般歩兵にも、擲弾装甲兵に対しても有効なM15ライフルは非常に有効なライフルであった。
そんなこんなで射撃訓練のときまずM11ライフルとブラスターの腕前を見た。
結果としては、なるほど新兵よりは圧倒的に良い射撃術を持つのは事実であったが、あくまでも敵が標的が見えている時であった。
実戦はそんなに甘くない。
敵だって撃たれまいとして遮蔽物に隠れて撃ってくるし、何よりも標的はこっちを狙っているから早撃ちが必要だった。
それを確かめるために、一般歩兵の実戦軽装備20㎏(防弾チョッキ、予備弾薬、ブラスター、水など)をつけて最初は銃口を下に向けて標的が跳ね上がった瞬間に射撃、また銃口を下に向けて、標的が上がった瞬間に撃つ…という実戦初歩的訓練を繰り返した。
最初はだれもできなかった。
というか、できるわけがなかった。
実戦装備は肩に負担がかかるうえに集中力をそぐ
しかも、教官たちがみている
という状況の中で候補生たちはよく頑張ってくれた。
訓練開始時500点満点中の129点だったある候補生は2週間後には492点まで上げてきた。
ほかの学生もほぼ満点を出すなどで彼らの頑張りが実ってきたのであった。
しかし、訓練期間の中で射撃訓練はあくまでもその一部であって主ではなかったためその初歩的訓練で終わってしまった。
それでも候補生たちからは「良い経験になりました」とかいろいろと感謝の言葉を聞けてそれなりにうれしかった。
ほかの訓練としては艦艇要員訓練用施設で、砲術・航宙術・操艦術などを学び、スパルタニアンの模擬訓練機でシュミレーションを行ったりした。
候補生たちには一応日曜日のみ休日があり、彼らは制服着用を義務付けられながらもエーゲの町に繰り出していった。
士官学校と違って門限はなく、月曜日の朝起床時にベッドの上で寝ていればOKという結構甘いものだった。私たち教官陣もあれこれ言うのが面倒であったし、そんなこと大学生なんだから自分でやれというスタンスであったので彼らの生活には特別注意しなかった。
このエーゲの街並みは非常に素晴らしかった
透き通るような青い海
きれいな白い家が立ち並び
そして、親切な人々
前線は比較的安定しているようだった
イゼルローンでは双方が大損害を受けたわけで大攻勢をかけようもなかったし、かけられるだけの余力がなかった。
私の士官学校同期の親友だったナセル・ガルシア少佐はここエーゲ出身で生粋のエリート軍人一家だった。
彼の父クリス・ガルシアは同盟軍士官学校を卒業後生粋の戦艦乗りとして少将:第9艦隊副司令官まで勤め上げて退役した将官で母メイリン・ガルシアは女性としては珍しいスパルタニアンのパイロットで第88独立空戦隊指揮官:中佐で退役しているエースパイロットだった。
彼らはその時エーゲで小さな宿屋兼レストランを営んでいた
ナセル少佐がよく
「母が作るアクアパッツァがうまいから絶対来いよ!」
としょっちゅう誘われてたのに結局彼が生きているうちに一回も行くことができなかった。
赴任してから1か月がたち、我々教官たちにも1週間の休暇が順番で回ってきた。
その頃はニコールの在籍する軍医士官学校は長期休暇に入っておりニコールは長期休暇前に行われた上級医師国家試験(軍医士官学校では3年生時に医師国家試験を受けており、上級は専門医への第1歩目)の予備試験に合格したため、このまま実技・口頭試問・訓練で合格すれば念願の医務官になれるというところまで来ており、それの前祝も含めてニコールをエーゲに呼び寄せた。
教官たちには休暇が与えられてるといっても1週間だけなので自動的にレンボガンで過ごすことになるので私たちもレンボガンで1週間を過ごした。
教官宿舎は快適できれいなところだったがニコールをそこに泊めるわけにもいかなかったのでナセル少佐の両親の経営する宿屋に1週間滞在することにした。
エーゲは中心街と郊外があって宿泊先は郊外の海辺にあった。
ニコールとはエーゲ軍港で落ち合った。
とりあえず彼女と会うときはわかりやすいように軍服を着て待つことにしていたが
周囲には長期休暇のせいか軍人が多かった。
彼女の到着を待つ間待合ロビーの時計に寄りかかりながら待っていた。
すると、
「エーリッヒ?
エーリッヒじゃないか!?」
と少尉に声をかけられた。
左胸につけてある略綬を見ると
殊勲十字勲章、ブロンズスター勲章、捕虜生還勲章、第1・2級勲功章、第1級戦功章、ヘンシェル星系攻防戦従軍章、などの戦功章、従軍章を10個も付けた男性陸戦士官に声をかけられた。
一瞬わからなかったが、顔の右頬に大きくついた傷を取り除けば見覚えのある顔だった。
そいつは
オスカー・アルントだった
やつとは同盟軍一般志願兵訓練課程で同期で最初は喧嘩ばかりしていたがなぜかいつの間にか仲良くなっていて、最初の赴任地が同じヘンシェル星系だった。
オスカーは戦闘中行方不明となっていたはずだがどうしたんだと聞くと
「帝国軍の捕虜になっててやつらが撤収するときになぜか兵卒の俺を連れてこうとしたんだ。
で、駆逐艦に押し込まれた後ヘンシェルから2日間離れたところで同盟軍に捕捉、砲撃されてヘンな小惑星に不時着したわけ。
それで、帝国軍のやつらと話して生き残るにはここから出せってね
船を修理してやると」
そう、やつは陸戦士官だが工兵科だ
地雷設置・除去、橋の作成とかが主任務だがやつはなぜか船舶修理資格も持っていた
それで本人いわく
「それで、船を修理してなおった瞬間にやっこさんときたら俺のことを忘れてて独房にもぶち込まないでそのままの成り行きで自由の身になってやつらのシャトルをちょっと拝借して帰ったわけ。
それでさ、同盟軍の哨戒網に引っかかって救助され、事情を全部話したらいきなりハイネセンに償還されて1か月くらい隔離された。
まあ、当時同盟は帝国軍のやった虐殺事件のひどさをどこまで拡張できるかがかかってたしな、こんな人道的なことなのかわからんが、そんなことが外部に漏れたらとんでもないっていうことで隔離されたみたいだ。」
やつはその後、解放されて殊勲十字勲章を授与されてまた前線配置になって幸運に恵まれまくって幹部養成所を経て今現在少尉ということであった。また、今回は長期休暇帰省で帰ってきている途中とのことであった。
隣には若い女性下士官がいた
するとオスカーは
「あ、紹介するよ
彼女は俺の妹 クレア・アルント曹長だ
第9幹部養成所にいる。」
見ると、軍人とは思えないくらい華奢な女性でとてもシャイっぽそうだった。
私は
「エーリッヒ・フォン・シュナイダー大尉です。
ローゼンリッター連隊にいますが、いま第99訓練施設に出向中です。」
と敬礼していったら
めちゃくちゃ小さい声で
「クレア・アルント曹長です。」
と返してきた
オスカーは苦笑しながら
「実はさ、クレアはああ見えて艦隊陸戦隊所属でさ
お前が憧れの的なんだと。」
と意地の悪そうな目で私を見るオスカー
クレア曹長は顔を真っ赤にさせて兄に抗議の目を向けている
オスカーはそんなことお構いなしにクレア曹長をからかっている
その様子を見てどこかうらやましいような感覚にとらわれた。
自分にも生き別れの兄がいた
もし、生き別れていなかったらこんな感じだったのかなーなんて思ってみてしまう。
するとアナウンスで
「ハイネセン発 13時45分着の便が到着しました。
お迎えの方は第9ロビーまでお越しください」
私は2人に
「そろそろいかなくちゃ
良い休日を!」
と言ったら向こうも
「良い休日を!」
と返してきた。
第9ロビーに走っていく
人がぞろぞろと出てくる
めちゃくちゃ人が多い
あーくそ
みんなおんなじような服装しやがって
と少し人ごみに慣れない中イライラしそうになってると
水色のワンピースを着た女性が歩いていた
不安そうにきょろきょろと周囲を見回している
私はすかさず
「ニコール!」
と呼ぶとその女性は立ち止まってにっこりと笑ってこっちに向かって走ってきた
思いっきり受け止める
人前ではあまりにも恥ずかしかったがニコールはお構いなしだった
「長旅お疲れさま」
と声をかけると
「どうも。教官」
と微笑みながらこっちを見てきた。
相変わらずのチャーミングさに惚れ直してしまった。
宿までの無人タクシーの間は教官としての話や笑い話、休暇期間中どこに行くかの話に花が咲いた。
軍港からエーゲ郊外までは2時間近くかかる
途中で長旅の疲れが出たのかニコールがうとうとし始め肩を貸して寝かした。
本人曰くではあったが軍医士官学校での飛び級は結構例外で周りの学生からは尊敬もあるが疎まれることもあるらしく結構精神に来るといっていた
私は第2艦隊旗艦パトロクロスの外科部長であったコーネリア・ケインズ軍医少佐から聞かせてもらったがニコールは並外れた外科のセンスがあるらしい
本人に経験がないからなのかどうなのかは不明であるが、結構ベテラン軍医でも躊躇するような応急手術を平然とこなして成功させてしまうらしい。
しかし、彼女はよく言えば冷静、悪く言えば冷酷であるらしい
そのよい例が私の左腕だった
私の左腕は結果論からいけば切断しなければ非常にまずい状況に陥って敗血症を引き起こした可能性があったらしいが、ニコールは私が担架で運ばれてきた瞬間動きが止まって私の首にかかってる認識票を2度も見直したらしい。といってもものの1分程度らしいが
そして、彼女はいつものように即決で切断の有無を決定した。
「シュナイダー大尉の左ひじ以下の腕を切断します。」
ときっぱりと言い切ったそうだ。
周りの軍医が抗議したら(まあ、破片がぶっ刺さってただけだったので)
彼女は強く
「今ここで切断しなければ大尉は死にます。
左腕を選ぶか、死を選ぶかの二択です!」
と言い切ったそうだ
これには周りの軍医も引いて承知した。
コーネリア軍医少佐は最後に
「良い彼女を持ったな。大切にしろよ。」
と言って病室を去って行った。
要は私の命はニコールによって、ニコールの強靭な決断によってつなぎとめられたようなものであった。
それを知らずに私はあんな冗談めいたことを彼女の前で発したわけで、それは平手打ちの1発や2発では足りなかったであろう。
予定通りではあったが、2時間ほどで到着した
ニコールは起きていたが、寝ぼけていたので無人タクシーで待たせておいた
宿は小さかったがとても清潔でエーゲの伝統的な白い漆喰壁が神秘さと美しさをさらに醸し出していた。
フロントに入ると初老の男性がいた
すると男性が
「シュナイダー大尉だね
私は、クリス・ガルシアだ
よろしく。」
と言って握手のために右手を出してきた。
大きく、厚みのある手だった
「エーリッヒ・フォン・シュナイダー大尉です。」
すると、奥さんのメイリン・ガルシア元中佐がやってきて
「はじめまして
メイリン・ガルシアです
ナセルがいろいろとお世話になったと聞いています」
と暗そうに言った
ナセルの顔が頭に浮かんでくる
彼はどちらかといえばメイリン元中佐の雰囲気に似ていた
そこから少しの間ナセルの士官学校で親友であったこと、彼には事あるごとに助け合ったことなどを話した
クリス元少将は
「そうか。ナセルがそんなことをしてたのか
昔はやんちゃ坊主で親泣かせ、兄弟泣かせの悪童だったんだがな
なあ、母さん」
元中佐は
「そうね~
今思えば手に余るくらいやんちゃでしたね」
とナセルの幼少期の話を聞かせてもらった。
そんなこんなで結局30分くらいナセルの個人的な話になぜかなっていた。
すると、元中佐が
「よく考えたら、チェックイン手続きまだでしたね
あなた
その表とって」
と言って、チェックイン手続きを済ませてから部屋に案内された。
そこから7日間はビーチで散歩をしたり、ナセルがおすすめしていたメイリン元中佐の作る料理を食べたり、ゆっくり過ごしたりしてニコールと一緒に時間を過ごした。
休暇5日目のことだっだ
私はこのエーゲ近郊にある軍人墓地にニコールと一緒に行った。
この軍人墓地にはエーゲ出身の軍人が眠っている
エーゲでは気温が年中高いためか遺体は火葬に付す習慣があり、灰のほとんどはは海にまかれる。
一方で、残した一部の大きな遺骨はツボに入れて墓に入れられる。
前夜にクリス元少将に彼の自宅に招かれニコールはメイリン元中佐から料理を教わって、私はクリス元少将と夜の海とエーゲの美しい夜景を見ながら話していた。
元少将曰く
「エーゲの人は海とともに生まれ海とともに死ぬ
ナセルは遺体が残らなかったが、ナセルの魂はここエーゲに必ず帰る」
と話していた
ナセル少佐はトールハンマーが直撃したところのど真ん中であったためほぼ一瞬にして消滅という形で遺体も破片も残らなかった。
さらに元少将は続ける
「エーゲからは私も含めて多くの軍人が出征したが半分は戦死した。
エーゲ出身で私の士官学校同期だったのは12人もいたが、無事に退官できたのはたったの3人だけだった。しかも、かの有名な第3次イゼルローン要塞攻略戦で7人も戦死した。それも遺体が残らずにな。」
と話し始めて第2次イゼルローン要塞攻略戦の話を元少将はしはじめた。
当時、宇宙歴761年
クリス・ガルシア元少将は25歳になったばかりの少佐
第3艦隊 第333戦艦打撃群 戦艦アトレリオ 艦長 の時だった。
ガルシア少佐は第2次イゼルローン要塞攻略戦に少尉の時に参加したことがあり、トールハンマーの威力をいたほどよく知っていた。
戦艦を量産していたため、少佐に25歳で昇進したクリス少佐は最年少の戦艦艦長に任命された。
もっとも少佐自身砲術士官出身であったので1艦の戦艦の運営はさほど苦にはならなかったらしいが、25歳という若さが周囲から不安がられたそうだ。
しかし、艦隊戦で3隻の大型空母および8隻の戦艦を撃沈したことで一目置かれるようになったという。
初戦の艦隊戦で勝利した同盟軍はイゼルローン要塞を圧迫し何とか1個陸戦隊を要塞内に侵入させることに成功した(帝国軍輸送艦が同盟軍に拿捕されたのを逃げ出した。その間が救援を求めた。という形でその補給艦に陸戦部隊を詰め込んで侵入させたらしい)
その1個陸戦隊こそローゼンリッター連隊1個大隊を主とした艦隊陸戦隊であった。
そして、ついに要塞の流体金属表面に入港指示が出たのを確認し少佐の第333戦艦打撃群を先頭に要塞に入港しようとした瞬間だった
入港指示の的なりに光の円が浮かび上がってきたという
少佐は少尉時代の時に見たトールハンマーを覚えていたので広域回線で
「全艦天頂方向へ急速発進!」
もはや指揮権がどうとかこうとか言ってる暇ではなかった
少佐が指揮する戦艦アトレリオと少佐の命令を群司令の命令と思い込んだ数隻を残して第333戦艦打撃群は壊滅した。
その後の調査で分かったことであったが、中に侵入したローゼンリッター連隊の1個大隊を直接指揮する連隊長 コール・フォン・メッテルニヒ大佐が裏切って起きたことであった。
続く第2,3射で同盟軍の派遣艦隊4個中実に2個艦隊が壊滅した。
少佐の士官学校時代の大親友・教官・そしてはじめての恋人もその犠牲の中に含まれていた。
その大親友と恋人はエーゲ出身でお互いに士官学校時代切磋琢磨し合ったなかであったという。
もちろん遺体は残らなかった。残るはずもなかった。
絶望の淵に立たされたという
そんな中支えになってくれたのが奥さんであるメイリン元中佐であった。
という話をしてくれ、最後に元少将は
「エーゲ人は遺体がなくても、宇宙の塵になってもその人たちの友人・恋人・両親の心そしてこのエーゲの地に生き続ける。大尉。どうかそこを忘れないでほしい。」
と繰り返し言っていた。
私はつい敬礼をしてしまったが、元少将は照れ臭そうに
「もうここ5年間近く敬礼をされてないんだ。恥ずかしいからよしてくれ。」
と笑いながら言った。
その後、メイリン元中佐とニコールが作った料理を食べた。
そして、元少将の話を聞きナセルの墓を訪ねた。
軍人墓地は整然ときれいにエーゲ産の大理石で作られた白い墓標が並んでいた。
ナセル少佐のを探した。
ナセル少佐の墓は一番古い地区にあった。
しかし、私はリストを見て目を疑った。
リストの順番はファミリーネームのアルファベット順で並んでおりそれを見ると
「ベン・ガルシア 中尉 宇宙歴 789年戦死 ヘンシェル星系攻防戦
ディック・ガルシア 少尉 宇宙歴 789年戦死 ヘンシェル星系攻防戦
エレン・ガルシア 少尉 宇宙歴 787年戦死 第4次イゼルローン要塞攻略戦
ナセル・ガルシア 中尉 宇宙歴 792年戦死 第5次イゼルローン要塞攻略戦
…」
と書いてあった。
確かナセルには兄弟がいたはずだがまさかと思って
詳細資料を見ると
全員父母はクリス・ガルシア、メイリン・ガルシアとなっていた。
つまり、ガルシア家にはすべての子供たちを失ったということであった。
これを見ていたニコールも言葉を失っていた。
私はいたたまれなくなって献花用の花をもう3つ購入しナセル含めて4人の兄弟に献花した。
ナセルの墓標には
「ナセル・ガルシア 少佐 宇宙歴 792年戦死 第5次イゼルローン要塞攻略戦
エーゲ人として死す」
宿に帰ってクリス元少将にその話をすると
「5人の子供のうち4人を戦争で失った。
残りの末っ子の女の子は今大学生だが予備役将校訓練課程をうけるそうだ。
私は止めはしないし、止める権限もない
ただ、本人とその時代の流れに任せるしかない。」
と言って顔を伏せられた。
その翌日私たち2人の休日は終わりを告げた。
会うたびに今度はいつ会えるかを考える。
そして、最後には次必ず会えるようにお互いの幸運を祈って口づけをして別れる。
こうして私にとっての休暇は終わりをつげ、教官としての勤務も終わりに近づきつつあった。
そして、10月1日の前線復帰をただただ待ち続ける日が続く宇宙歴 792年 8月であった。
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