ハイスクールD×D 新訳 更新停止
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第5章
冥界合宿のヘルキャット
第101話 覚醒
前書き
過去最大の長さになったかも。
「……トライ……イェーガーズの一人だと…!?」
しかも、兄貴のダチだと……?
なんだってそんな奴がテロリストなんかに……!
「どうでも良いから、とっとと用を済ませろ」
神威が心底どうでも良さそうに淡々と告げる。
「だいたい、黒歌。そいつを連れて行く意味あるのか?」
「あら、オーフィスもヴァーリも喜んで受け入れてくれるにゃ。だってその娘には…」
黒歌が目を細めながら塔城を見る。
「私と同じ力が流れてるんだもの」
「……私は……リアス・グレモリー様の眷属です……!」
「力づくでも連れていくにゃ」
塔城が否定の色を見せても、黒歌は関係無いと言う体だった。
「小猫ちゃんは絶対に渡さねえぞ!」
「そう言う事だ!」
俺とイッセーは塔城の前に出る。
「ま、少しは抵抗してくれた方が時間潰しになるってもんだぜぃ」
「……時間潰しですって?」
どう言う事だ?
「妹を呼び出したのは、待機中の暇潰しってこった。ある男をここまで誘導してくれってヴァーリに頼まれてな」
「ある男?」
「ネタバレすると、ロキって奴だよ」
「ロキ!?ロキってまさか!?」
「そっ。北欧神話のロキ」
「今夜の集まりに文句があるんだとさ」
「なんでも「我らが主神殿が我ら以外の神話体系に接触していくのは耐え難い苦痛でな。他の神話体系と和平を結んでは我らが迎えるべき『神々の黄昏』が成就できないではないではないか」だとさ。今頃、会場で暴れ回ってるんじゃねえか?特にロキが使役する魔物…いや、息子がさ」
ッ!?ロキの息子って確か!?そんなのに暴れられたら、確実に犠牲が出るぞ!?
「みんな、急いで戻るわよ!」
「もう遅いにゃ。この森ぜーんぶ結界で覆って、下界から遮断したにゃ」
時既に遅しってか!
「ずいぶんとドス黒いオーラだ」
突然、空から第三者の声が聞こえた。
「タンニーンのおっさん!」
空中にいたのはタンニーンのおっさんだった。
『どうやら、ドライグの波動を追ってきたみたいだな』
「そうだ。赤龍帝の波動は常に捕捉していた。兵藤一誠に関して、少し気になる事があってな」
イッセーの事で気になる事?
「オーオー!元龍王じゃないかぃ!筋斗雲よ!」
おっさんが現れた事に美猴が嬉々としながら雲を呼び出して乗り、おっさん目掛けて飛び出して行く!
「伸びろォッ如意棒ォォォッ!」
空かさず、手に持つ棍を伸ばして攻撃するが、おっさんも巨体に似合わない素早い動きで避けて、口から出す火炎で応戦する!
「アッハッハッハ!やるねぃ、元龍王!」
「フン!孫悟空め。なんとも楽しませてくれるわ!」
その戦いはもはや別次元と呼べる様な物だった。
「孫悟空と龍。ま、お似合いよねぇ」
「チッ」
「ハハ。先を越されたな、神威?」
「フン」
神威もおっさんと戦いたかったのか、見るからに不機嫌な様子だった。
「さーて、とっとと妹を渡してくれる?じゃないと、この場で殺すにゃん?」
黒歌からドス黒いオーラが滲みだし、背筋が凍る様な殺気を放ってくる!
「ちょい待ち、黒歌。俺は冬夜の弟に用があるから。確か明日夏って名前だよな?ちょいと二人で話がしたいから、場所変えようぜ」
「ふざけるな!そんなのに応じる訳が…」
「残念。無理矢理移動しま〜す」
「っ!?」
「明日夏っ!?」
いつの間にか夜刀神竜胆が眼前に迫っており、気付いた時には既に眼前を掴まれ、 そのままその場から連れ去られていた!?
ー○●○ー
クソッ!竜胆って奴に明日夏が連れ去られちまった!
なんなんだよあれ!あいつの動きが全然見えなかったぞ!?
「人の心配をしている場合か?」
神威って奴からも震えるくらいの殺気が放たれていた!
「リアス嬢、兵藤一誠!この猿は俺が相手をする!あの男も士騎明日夏に任せて、お前達はその猫と男を倒してみせろ!赤龍帝とその主だろう!」
簡単に言ってくれるなよ、おっさん!
「……姉様、私はそちらへ行きます」
突然、小猫ちゃんがそんな事を口走る!
「小猫ちゃん!?」
「何を言っているの!?」
俺と部長が物申すけど、小猫ちゃんはお姉さんの下まで行こうとする。
「……だから、みんなは見逃してください」
「小猫、貴女は私の下僕で眷属なのよ!勝手は許さないわ!」
「……神楽のお兄さんの事は分かりませんが姉様の力は私が一番よく知っています」
部長が間髪入れずに小猫ちゃんを抱き締める。
「安心なさい。貴女は私が守ってあげるわ」
「……っ……」
「ウフ。貴女より私の方が白音の力を理解してるわ。おいで、白音。一流の仙術使いにしてあげる」
「………いや……あんな力……いらない…………人を不幸にする力なんていらない……!」
「黒歌、力に溺れた貴女はこの子に一生消えない心の傷を残したわ!貴女が主を殺して去った後、この娘は地獄を見た。私が出会った時、この娘に感情なんて物は無かったわ。小猫にとって、唯一の肉親であった貴女に裏切られ、頼る先を無くし、他の悪魔に蔑まれ、罵られ、処分までされ掛けて、この娘は辛い物をたくさん見てきたわ!」
「……リアス……部長……」
「だから私はたくさん楽しい物を見せてあげるの」
部長の言葉を聞いて、小猫ちゃんはボロボロと涙を零す。
「………行きたくない………黒歌姉様……貴女と行きたくない……!私は塔城小猫!私はリアス部長と生きる!生きるのッ!!」
小猫ちゃんの姉への拒絶の叫びをあげる。
「この子はリアス・グレモリーの『戦車』塔城小猫!私の大切な眷属悪魔!貴女に指一本だって触れさせやしないわ!」
部長!これだから部長は最高なんだ!
俺は二人の前に出る!
「俺が部長と小猫ちゃんを守ります!」
明日夏の方もきっと大丈夫だ!あんな訳の分かんねえ奴なんかに負けねえ!
「……弱えくせに、ずいぶんと吠えるな?」
「うるせえ!」
見下した雰囲気を醸し出す神威の言葉にムカッとしていると、俺の制服の裾が引っ張られる。
「神楽?」
引っ張っていたのは神楽で、その表情は影になっていてよく見えなかったけど、怯えているのは確かだ。
「……イッセーさん、ダメです…。小猫ちゃんのお姉さんもですが、神威お兄ちゃんは強いです…。……戦ったら殺されます……!」
「そんなの分かってるよ。けど…」
「……だから………小猫ちゃんのお姉さん……」
「ん、何かしら?」
「……猫魈の力が欲しいんでしたら……小猫ちゃんの代わりに私を…」
「神楽!?お前まで何を言ってるんだよ!」
小猫ちゃんも神楽もいくらあの二人がヤバイからってそんな自己犠牲みたいな事見過ごせねえよ!
「あいにく、私が欲しいのは白音の力よ。同じ猫魈と言っても、よく知らないあんたの事なんていらないにゃ」
「そもそも、お前を連れて来たところで、大して益にもならねえよ。むしろ、邪魔なだけだ」
当の二人は神楽の事なんて目もくれてなかった。
「邪魔って事無いんじゃないの?その子、私や白音と同じ猫魈なんでしょ?」
「確かに潜在能力は高いぞ。だが、それ以前にそいつは誰よりも戦いを恐れる臆病者なんだよ。力ある者は誰であろうと前にしただけで、そのざまになるからな」
それを聞いて、神楽はますます震え出す。
「どっちみち、小猫ちゃんも神楽もお前らなんかには渡さねえよ!」
「敵わないって分かってるのに。バカじゃないの?」
お姉さんは呆れた様子を見せる。
「じゃあ、死ね」
瞬間、一変して冷たい雰囲気になったと思ったら、お姉さんから薄い霧みたいな物が発生する!
「な、なんだ!?」
「あっ……!?」
「これは……!?」
「部長!?小猫ちゃん!?」
突然、部長と小猫ちゃんが膝を落とす!
神楽は平気の様だけど。
「これは…毒霧!?」
「毒!?」
「悪魔や妖怪なら効果抜群なのに。その神威の妹ちゃんは仙術で中和してるとして。赤龍帝の方はドラゴンだから効かないのかしら?」
神楽が平気なのは仙術のお陰で、俺はドラゴンを宿してるから平気なのか?
そう言えば、和平の会談の時もドラゴンを宿しているからって、テロリストにギャスパーの停止能力を利用された時に停止させられなかったんだよな。
「毒を弱めたから、短時間では死なないにゃ。ジワジワッと殺してあげるにゃん」
エグい事考えるな、この猫娘は!
「ハッ!」
部長が膝をつきながらも魔力を撃ち出す!
魔力が当たったお姉さんは霧散したけど、部長の様子を見るかぎり、手応えを感じてる様子じゃなかった。
「良い一撃ね。でも無駄無駄」
見ると、お姉さんがあっちこっちで現れては消えるを繰り返していた。
神楽も戦える様子じゃないし。
ここはまともに動ける俺がなんとかするしかねえ!
「ブーステッド・ギアッ!……って、あれ!?」
篭手を装着したけど、なぜか反応が無かった!?
お、おい!?肝心な時にどうなってんだよ!?
「やはりか」
「どう言うこったよ、おっさん!?」
『タンニーンとの修行の成果だ、相棒。パワーアップか禁手化するか、次の分岐点にたったのだ』
禁手に到れる可能性もあるって事か!
『だが、禁手化するには劇的な変化が生まれなければ到れない。後はお前次第だ』
劇的な変化って。いきなりそんな事を言われても、何をどうすりゃ良いんだよ!?
「余所見してる余裕があるのか?」
「っ!?」
いつの間にか、神威が眼前に迫っていた!?
ドゴンッ!
「ごふっ!?」
神威の拳が腹に打ち込まれ、思いっきり吹き飛ばされる!?
ドカッ!
しかも、後ろにあった木に叩き付けられて、意識が持ってかれそうになる!?
「あららぁ、赤龍帝ちゃんは神器も動かずじまい?でも、私は撃っちゃうにゃん」
お姉さんが毒で苦しんでいる部長と小猫ちゃん、震えでへたり込んでいる神楽目掛けて魔力の玉みたいなのを撃ち出そうとする!?
俺は痛む体を強引に動かして、壁になろうと三人の前に駆け出る!
ドォォォン!
「ぐあっ!?」
なんとか間に合ったけど、痛てェ!チクショウ!
「イッセー!?」
「ダメですよ、部長!動くと毒が回ります!」
ドドドドォォォォン!
「ぐあぁぁあああっ!?!?」
さらに追撃の魔力を連続で食らってしまう!?
そして、魔力の攻撃が止んだので、今の内に意識をしっかりさせようとする。
瞬間、俺の目に入ったのは拳を振り上げてる神威の姿だった。
ドゴンッ!
「ぐはっ!?」
そのまま拳を振り下ろされて、俺は地面に叩き付けられる!?
ヤベェ!本気で意識が持ってかれそうだ!
「弱。これがヴァーリのライバル?本当にヴァーリを退けたの?」
お姉さんの嘲笑が聞こえる中、突然、体が少し楽になってきた。
見ると、神楽が俺の体に手を当てていた。
たぶん、前みたいに仙術で俺の体を治療してくれてるんだろう。
お陰でなんとか立ち上がれた!
「……イッセー先輩……!……お願いです!もう止めて……!?」
小猫ちゃんの制止の言葉を掛けられるけど、俺は構わずお姉さんと神威を見据える。
スタスタ。
なっ!?神威の奴が俺を素通りして部長と小猫ちゃんの方へ!
「……待ちやがれ…!二人には指一本…」
ドカァッ!
神威に食って掛かろうとした瞬間、奴の回し蹴りでまた吹っ飛ばされてしまう!
「………ぐっ……うぅ……!」
もう体のあっちこっちが激痛で酷い。今直ぐにでも意識を手放したくなる。
クッソォッ!俺はいつもそうだ!?
アーシアを助けた?部長を救った?
みんなが褒めてくれるけど、そうじゃない!そうじゃないんだ!?
一度アーシアを死なせた!一度部長を泣かせた!一度目で救えないで、何が伝説のドラゴンだよ!?
誰かが一度は傷付かないと生み出されない、そんな力、なんの意味もねえよ!?
ドォォン!
「ぐあぁぁっ!?」
「イッセー!?」
「イッセーさん!?」
背中に衝撃が走って、前のめりに吹っ飛んでしまう!?
後ろを見ると、お姉さんが手を突き出していた。
たぶん、魔力の玉で吹っ飛ばされたんだろう。
ガシッ!
倒れてる俺の胸倉を神威が持ち上げる!
「まだやる気か?」
「あたりめえ…だろッ!」
ゴォン!
俺を持ち上げてる神威の額に思いっきり頭突きを当てる!
けど、あんまり効いてる様子は無かった。
「一応評価してやるよ。その心の強さはな」
ドゴンッ!
「ごふぁっ!?」
「だが、その心に見合った力が無いんじゃ、結局は弱者だ」
腹に拳を打ち込まれて、口から盛大に血を吐く!?
さらに神威は肘を引く様な動作をする!
再び拳を打ち込むつもりなんだろう。
ヤバイ!あれを食らったら、確実に意識が飛ぶ!?
だが、神威の拳が打ち出される事は無かった。
「……ッ……!」
神楽が神威の腕をガシッと掴んでいたからだ。
「邪魔だ。殺すぞ?」
神威の冷徹な言葉を聞いて、神楽は震え出すけど、腕を掴んでる手の力は決して緩める様子は無い。
ドカッ!
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
神楽を巻き込む様に部長と小猫ちゃんの前まで俺は投げ飛ばされる!
「……ぐっ……大丈夫か…神楽……?」
神楽の身を案じながら、痛む体にムチを打って立ち上がる。
「いい加減倒れろ」
神威は心底うんざりした様子で冷たく言い放つ。
「……倒れるかよ……!お前らが小猫ちゃんのお姉さんや神楽の兄貴でも、俺は二人を泣かす奴だけは許さない!」
「白音も神威の妹ちゃんも大変ねぇ。こんな泥塗れの血塗れで言っても、女は引くだけにゃん。キモいキモい」
「……イッセー先輩」
「……イッセーさん」
俺は小猫ちゃんと神楽に今の心情を吐露してしまう。
「……小猫ちゃん…神楽……俺は伝説のドラゴンが身に宿ってんのにさ、何もできないんだ……!俺は才能の無い駄目悪魔なんだ……!?」
俺の言葉を聞いた二人は首を横に振る。
「……イッセー先輩は駄目なんかじゃないです」
「……え?」
「……さっきお兄ちゃんが私の事を言っていましたよね。私は臆病者だって。その通りです。私は戦いとかそう言うのがとても怖いです。特に戦いの中心となる強大な力を持つ存在は。当然、絶大な力が宿る赤龍帝も例外じゃないです」
「え、じゃあ……」
「でも、イッセーさんが赤龍帝だと知っても、特に怖いとは思わなかったんです」
「……俺が歴代よりも弱いから……?」
俺の問いに神楽は強く首を横に振る。
「強いとか弱いとかそう言うんじゃないんです」
「……歴代の赤龍帝は絶大な力に溺れた者が多かったと聞いています。私の姉様も同じです。力があっても、優しさが無ければ必ず暴走してしまう」
「そして、イッセーさんは誰よりも優しい心を持っています。だから、赤龍帝だと知っても怖くなかったんです」
「……イッセー先輩はきっと歴代の中でも初めての優しい赤龍帝です。だから…」
「歴代の中で弱くても…」
「「優しい『赤い龍の帝王』になってください」」
二人は微笑みながらそう言ってくれた。
二人とも……俺は……。
ドガッ!
「がはっ!?」
そこへ突然の衝撃音と誰かの苦悶の声が響く!
この場にいる全員が音がした方を見る。
「………ぐっ……」
そこには木に背を預けて呻き声をあげている明日夏がいた!
ー○●○ー
「この辺で良いかな?」
そう言い、夜刀神竜胆は俺の顔面を掴んでいた手を離す。
当然、いきなり手を離された俺は地面に落ちる。が、連れてこられた際の勢いを利用してなんとか体勢を立て直す。
夜刀神竜胆は俺から少し離れた場所で勢いを殺していた。
「さて、何から話そうかな?」
こいつは本気で俺と話す為だけに俺とイッセー達を引き離したのか。
「チッ!」
俺は舌を鳴らすと同時に戦闘服に着替え、マジックスラッシャーを手にする!
「俺は話がしたいだけなんだけどなぁ」
当の夜刀神竜胆は敵意に晒されながらも気を抜いた様なやる気が感じられない雰囲気だった。
が、実際は全く隙が無かった。
「俺とどんな話をしたいってんだよ!」
警戒を最大限にしながら、語気を強めながら聞く。
「そうだなぁ。「冬夜は元気か?今どうしてる?」とか、「先輩『賞金稼ぎ』たる俺に後輩として質問はあるか?」みたいな話かな」
「ふざけるな!ましてや、テロリストになって事実上のはぐれになったお前を先輩なんて思えるかよ!」
「おっと、これは耳が痛い」
夜刀神竜胆は終始あっけらかんとしていた。
「ああ、だが…」
「ん?」
「聞きたい事は一つあるぜ」
「お、何かな?何かな?」
「……レイドゥンについて知ってる事を洗いざらい吐いてもらう!」
「あー、レイドゥンの事ねぇ。そりゃ知りたいか。親の敵だしな。でも、復讐しようって空気は感じねえな?」
「……父さんと母さんの事は許せねえさ。だが、今はそれよりも、あいつから大切な物を守りたい。それが今の俺の想いだ!」
「なるほどねぇ。やっぱ冬夜の弟だよ、お前」
「……そうかよ」
奴と会話しながら、俺は後方…つまりイッセー達の方の様子を伺う。
大分離されたのでイッセー達の姿は見えないが、戦闘が発生している様子は無い。
その上空ではおっさんと美猴が地毛の違う戦いが行われていた。
おっさんの事は心配いらないだろう。問題はイッセー達の方だ。
塔城の姉である黒歌と言う女と神楽の兄である神威と言う男。この二人の強さもパッと見た限りでも美猴に負けてない。今のイッセー達では相手が悪過ぎる。
……状況は最悪だな。
「友達が心配なのは分かるが、こっちに集中した方が良いぜ?」
チッ、気付かれてたか。
「よし、いっちょ勝負しようぜ」
「……勝負だと?」
「そ。俺に勝てたら、レイドゥンの事で知ってる事洗いざらい教えてやるよ」
「……俺が負けたら?」
「そうだなー。うん、お前の友達を殺す、で」
ッ!?こいつ!
一気に殺気が溢れ出る!
「まあ待て。まだ勝敗条件を提示してないぜ」
勝敗条件だと?
「こいつが見えるか?」
そう言い、奴は腰に差してる刀を叩く。
「俺にこいつを完全に抜かせたらお前の勝ちで良いぜ。んで、諦めたらお前の負けな」
舐めやがって!
まあ良い。だったらその隙に付け入ってやる!
俺は駆け出すと同時にバーストファングを投擲する!
バーストファングを避けたところを斬り捨てるつもりだが、どうせ通用しないだろう。あくまで様子見だ。
「よっ」
なっ!?
俺は奴のやった事に驚愕する!奴は避けるでも、ましてや打ち落とした訳じゃない。
ただ受け流した…いや、打ち返してきた!
刀を鞘に納めたまま腰から抜き、投げたバーストファングに衝撃を与えない様に鞘に乗せて受け流し、そして、勢いをそのままに俺目掛けて打ち返したのだ。
「クッ!」
俺は向かってくるバーストファングにマジックスラッシャーを投げ付け、緋のオーラを纏う!
ドォォォン!
マジックスラッシャーに当たったバーストファングが爆発する。
爆風が俺を襲うが距離があった事と緋のオーラで防いだのでダメージは無い。
だが、今の一手だけで、奴の技量の高さを垣間見た。
兄貴と並ぶ若手最強の三人の一角なだけはあると言う訳か。
「どうした?それで終わりか?」
俺は二本目マジックスラッシャーを取り出しながらどうやってこいつに一矢報いるか思案する。
どうにも奴は自分から仕掛ける気は無いみたいだ。
いくらか戦略の考案や奴が行うであろう対処法を想定して再び駆け出す!
そして、肉薄する瞬間にマジックスラッシャーを右薙に振るう!
さあ、どう出る!
「よっ」
奴は鞘から少しだけ刀身を出して俺の斬撃を止める。
だが俺は止められる瞬間にマジックスラッシャーから手を離し、斬撃の勢いを利用して緋のオーラを一点集中させた膝蹴りを放つ。
それを奴は身を引いて避ける。
そこへさらに膝蹴りの勢いを乗せた後ろ回し蹴りで追撃。
だがそれも刀で防がれる。
だがそれも想定済み。奴の刀につま先を引っ掛けて力強く足を引く!
「おっ」
さすがに意表を突かれたのか、奴は引っ張られるようにバランスを崩す。
これでどうだ!
「猛虎硬爬山ッ!」
さらに猛虎硬爬山を放ってる右腕全体を緋のオーラで覆って素手で受け流せないようにする。
クリーンヒットするとは思えないが、確実に一撃が入る!そう思った瞬間…。
「なんてな」
「なっ!?」
だが、俺の攻撃は当たる事は無かった。
奴はバランスを崩された体勢にも関わらず身を捻るだけで俺の攻撃を避ける!
「そりゃ」
「っ!?」
終いにはその状態からあっさりと体勢を立て直した奴に投げ飛ばされる!
「グッ!?」
なんとか受け身を取ってダメージを軽減、勢い利用して体勢を立て直す。
だが、今の攻防、完全に奴の方が何枚も上手だった。
さっきの体勢崩しはわざとだったんだ。意表なんて全然突けていなかった。
「なあ」
再び警戒する俺に奴は疑問を感じてる様な様子で聞いてくる。
「確かに俺は舐めプしてるけど、お前まで手を抜く必要無いだろ?」
「何……?おちょくってんのか!?さっきから俺は全力だ!」
「そんなはずねえだろ?俺の見立てじゃあ、技術はともかく、神器の出力はまだまだ上があるだろ?」
なんだと……?
確かに俺は修行の成果なのか、出力は上がったが、それは微々たる物だった。
正直、奴の言う様な出力は出せない。
「……買い被り過ぎだ。さっきので全力の出力だ……」
「ふーん」
奴は首を傾げながら注意深く俺を見る。
「一つ質問。お前、レイドゥンの事をどうしたいんだ?」
「……?言ったはずだ。奴から大切な物を…」
「守る為に倒すのか?」
「何……?」
俺は奴が何を言いたいの分からなかった。
「なるほどな。そう言う事か」
奴は何かを得心したのか、ウンウンと頷いていた。
「お前さぁ…」
奴は淡々と告げる。
「レイドゥンの事が怖いんだろ?」
「……な…に……?」
怖い?俺があいつを?
「……何を……?」
俺は何故か言いようの無い程動揺していた。
「さっきの攻防で疑問に思ったんだよ。俺の見立てだと、その緋色のオーラをもっと放出できると思ったんだよ。そうだなぁ、お前膝蹴りの時に一点集中させてたよな?あれを全身にやるなんて余裕なはずなんだよ。でもお前は圧倒的に少なく放出している。んで、神器と言えば、想いの強さが物を言う。そして想いは心の状態に起因する。そしてたぶん、お前のあいつへの恐怖心が原因で…」
「……出力が弱まってる……そう言いたいのか……?」
「そうそう」
「ふざけるな!俺はあいつに恐怖なんて…」
「だってお前、俺が大切な物を守る為にあいつを倒すのかって聞いたら、思いっきり疑問符浮かべてたろ?」
「っ!?」
「普通疑問に思うか?だってあいつを倒す事が一番確実だろ?」
「……俺とあいつとは…」
「実力差がありすぎるってか?だったらあそこは苦い顔をするはずだ。つまり、お前の中ではレイドゥンを倒すって概念が一切無い。それはあいつの事を避けてる。つまりあいつが怖いから戦いたくないって言う心が現れてる証拠なんだよ」
「っ!?」
違う。違う!違う!?俺はあいつの事なんて……!?
「スゲー動揺してるな。どうやら無意識の内に恐怖し、恐怖心を否定してたっぽいな」
「……無意識……?」
「たぶん本能的に恐怖を感じ、それを自覚する前にあいつと戦う為には恐怖心が邪魔になるって無意識に思って、気付かぬ内に否定した。そんな感じだろうな。で、指摘されてようやくあいつへの恐怖心を自覚してきたみたいだな」
「……ッ……」
ああ、そうか。俺はあいつが怖かったのか。
そして、その恐怖心が神器の力を阻害していたと。
アザゼルやおっさんが深層心理に原因があるって言うのは的を得ていたと言う訳か。
「なあ、もしかして、あいつへの恐怖心が神器の力を阻害しているなんて思ってるか?」
「……お前がそう言ったんだろうが……?」
「ごめん、言い方が悪かったわ」
「……何……?」
「確かに恐怖心が原因って言ったけど、恐怖心が神器の力を阻害している訳じゃないぜ」
「……どう言う事だ?」
「恐怖心自体は問題じゃないんだよ。一番の問題はそれを否定している事だ」
「否定?」
「恐怖心を否定するって事は恐怖している自分を否定するって事だ。自分を否定する奴が強くなれる訳ねえだろ?」
それを聞いてハッとする!
アザゼルも副部長や塔城に言っていた。否定が弱くしていると。
自分の中にある物なのならそれは自分の一部。それの否定は自分の否定と同義。
自分を強くしたいのに、その自分を否定してたら本末転倒ってやつだ。
「そもそも、怖いって感情のどこが悪い事なんだ?」
「え?」
「怖いってのは人なら…いや、生物なら当然の感情だろ?怖いって感情が無かったら、今頃生物の大半が死滅してるぜ。ほら、群れで大きい塊になる小魚がいるだろ。あれだって自分達を襲う大魚が怖いからどうにかしようってした結果だろ。恐怖心があるから生き残る為に必死になれるんだ。本当は自分を脅かす存在なのに恐怖を感じなかったら、自分を脅かさないって認識しちまうからな。っとまあ、長々と語ったけど、何が言いたいかと言うと、恐怖を感じる事は恥ずべき事じゃねえって言いてえの。大事なのはその恐怖心に負けない事だ。勇気ってやつだな」
「………」
「冬夜だって、『賞金稼ぎ』になりたての頃はビビって震えてたぜ。で、俺が指摘するとこう返すんだ、「確かに怖いよ。でも、家族の為って思うと頑張りたいから」ってな」
兄貴。そんな事を思いながらやってきてたのか。
「さて。お前はレイドゥンが怖いか?」
「………ああ…怖えよ……」
あぁ、認めたらウソの様に動揺が消えたな。
って言うか、やけにすんなり受け入れてるな?
いや、少し前までの気持ちが先走ってた俺だったら意地でも否定してたな。
アザゼルはたぶん気付いてたんだろう。俺の恐怖心を。そして、それを否定している事も。だからああ言ったんだろう。自分で気付かせ、その事認めさせる為に。
だが、イッセーに諭されて気持ちを落ち着けられて、夜刀神竜胆の話と兄貴も怖かったと言う事実を知って、ようやく認められたんだろう。
「あいつとは戦いたくねえか?」
「ああ。戦いたくねえな」
「じゃあ、あいつがお前の大切な物に手を出そうとしていて傍観するか?戦える奴に任せて」
そんなの決まってるだろ。
「……寝言は寝て言え。そんな事できる訳ねえだろ……」
「へえ」
「大切な物が危険に晒されてるってのに、黙ってられる訳がねえだろ!」
ああ、認めた今、あいつが怖いよ。
だが、だからなんだ。むしろ、怖いからこそ守りたい!兄貴を!姉貴を!千秋を!イッセーを!オカルト研究部のみんなを!
ドゥオォォォオオオオオッ!
覚悟が改まった瞬間、俺の体から膨大な緋のオーラが溢れ出た!
「ヒュー!ワーオ!元々の下地に覚悟が改まった事による想いが加わった事で見立て以上な事になってるな!オイ!」
夜刀神竜胆のテンションが異様に上がってるが、この際無視だ。
『ようやくかこの野郎』
ドレイク?その様子じゃ、俺の事は把握してたっぽいな?
『まあな。つっても、俺が言っても意味無かったろうがな。そもそも、そう言う事でフォローできる様な性分じゃねえし』
だろうな。言われても否定して平行線になってたろうな。
『で、やり方は分かってんだろうな?分かんねえなら土下座で良いぜ?』
するか。ちゃんと分かってる。
緋のオーラを操るのに大事なのはイメージ。特に強くイメージする必要がある。
俺は瞑目する。これだけの量を操作するのは初めてだからな。
まずこの垂れ流し状態から球体を象る。
そして、その球体を人型に。特に手足を重点にオーラを集中させる。
目を開けると今までとは比べ物にならない量のオーラを纏った状態になっていた。
よし、上々だな。
後はこれを戦闘中にできるようにするだけだな。
俺は夜刀神竜胆を見る。
奴は心底楽しそうで嬉しそうな表情をしていた。
「もう一つ聞かせろ」
「なんだ?」
「なんで俺に助言する様な事を?」
「うーん、それも勝負に勝てたらな」
そうかよ。
俺は体を落とす様に構える。
そして、一気に駆け出す!
「ッ♪」
奴も嬉嬉として身構える。
「フッ!」
まずは肉薄するなり上段蹴りを放つ!
奴はそれをしゃがんで避ける。
そこへ蹴りの勢いを乗せて突く様に回し蹴りを放つが、奴は後方に飛んで避ける。
飛んでる奴目掛けてバーストファングを近距離で投擲!
奴は先程の様に打ち返さず、バーストファングを受け流す。
だが、その隙に肉薄した俺は猛虎硬爬山を打ち込む!
「よっ♪」
だが、奴は刀を地面に突き立て、それを支柱にして片手で逆立ちの様にして避ける!
「残念♪」
「ああ……お前がな!」
「ありゃっ!?」
俺は猛虎硬爬山が避けられると同時に武装指輪の魔法陣に腕を突っ込んでいた。緋のオーラで作った腕を。
そして、緋のオーラの腕を引くと、その手に三本目のマジックスラッシャーが握られていた。
俺は緋のオーラの腕を奴目掛けて振るう!
ズバッ!
確かな手応えを感じたが浅い!
「ッ!」
体勢を整え、奴を見る。
「………」
奴は棒の様に立ち、自分の胸の位置を見ていた。
奴の胸には横一文字の切り傷ができていた。
だが、やはり特に深い傷ではなかった。
「………」
奴は無言で自分の傷に手を当てる。
そして、手に付いた血を無言で見つめる。
「どうした?まさか傷付けられるとは思わなかったか?」
奴は顔をこちらに向ける。
その表情は非常に晴れやかだった。
「ああ。全然想像してなかった」
そう言い、奴は刀の柄を握る。
「この勝負、お前の勝ちで良いぜ」
そう言い、奴は刀を抜いた!
「いやー、負けてもてっきり、「残念だったな」「だが抜かせてやったぜ」的なのを想定してたんだよな。まさか傷の礼の為に抜く事になるとはな」
傷の礼、つまり初めて奴から仕掛けるって事か。
それよりも気になるのは奴の刀だ。
正直どう言えば分からないんだが、一言で言えば普通の刀じゃない。
何も感じないのに異様な感じがする、そんな矛盾した物が感じられる刀だった。
「そうだ、勝者報酬がまだだったな」
「ッ!」
「じゃあまずはレイドゥンの事だな。まず、あいつと俺だが、協力関係じゃない」
「何!?」
「あ、もしかしなくとも、あいつに買収された口だと思ってたろ?」
「まあな」
「まあ、実際買収を求めてきたけどな。断ったけど」
「なんで?」
「ほら、俺『三狩王』だろ。結構儲けてたから、金には困ってなかったしな。なにより…」
「?」
「俺あいつ嫌いなんだよな。こう、生理的に受け付けないって感じで」
ずいぶんと身も蓋もねえ理由だな。
「じゃあ、なんでテロリストなんかに?」
「それは報酬に無いから秘密♪」
「………」
「ま、話戻すぜ。あいつが色々な奴を買収してるのは知ってるな?」
「ああ」
それで、『はぐれ賞金稼ぎ』になる奴が増加の傾向にある。
「その金の出処は知らねえんだけど、かなりの財力を持ってるのは確かだぜ。んで、買収されてる奴は主に『賞金稼ぎ』だったり、賞金首だったりするな。おっと、忘れちゃならねえのがいたな」
「?」
「情報屋。ギルド、フリー両方のな」
「なっ!?」
奴の言葉に驚愕する!
フリーの奴はともかく、ギルドの情報屋まで!
だとしたら……!
「察した様だな。そ、今まで奴の詳しい情報が集まらなかった要因の一つにそう言うのがあったんだよ」
奴の話が本当なら、この情報は急いで知らせねえとヤバイぞ!
ギルドの情報の主な物ははぐれの情報。つまり、本来はぐれになる様な奴がはぐれに認定されずにはびこる様な事になる!
「ま、帰ったら冬夜辺りにでも伝えるんだな。え〜と、他には〜……あ、そうそう。あいつ、あっちこっちに妙な研究施設を持ってるみたいなんだよ」
「研究施設?」
「詳細は知らんけど、まあ、碌でもない研究なんだろうけど。レイドゥンに関してはこんなところかな。一緒に行動してる訳じゃねえし、そんなに詳しくは知らねえんだよな」
まあ、一方的に嫌ってる訳だからな。
それでも、本当の事なら色々重要な情報を得られたのは確かだな。
「もう一つはなんで助言したかだったな」
正直言うと、レイドゥンの事よりも気になっていた。
なんで敵である俺にそんな事をしたのか。
「まあ、冬夜の弟だってのもあるんだが、なにより俺…」
そう言いながら笑顔で告げる。
「頑張ってる後輩を応援したかったからだよ」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「俺結構頑張り屋の後輩ってのが好きなんだよ。っと言うか、お兄さんポジションってのが好きなんだよ。だから、頑張り屋の年下ってのが大好きなんだ」
なんと言うか…。
「変わってるな……あんた」
「よく言われるよ」
「ある意味兄貴の親友なだけあるよ…」
「そりゃどうも。んじゃ…」
っ!?奴から異様なプレッシャーを感じた!
「報酬も払ったし、傷の礼をさせてもらおうかな」
俺は即座にオーラを纏えるだけ纏う!
さらには奴の攻撃を見切ってオーラを一点集中できるようにする!
「え?」
だが、気付いた時には奴は肉薄しており、腹に峰打ちが打ち込まれていた。
どう言う訳か、腹の部分のオーラが抉られた様に消失していた。
そして激痛が俺を襲い、俺は後方へと吹き飛ばされた。
ー○●○ー
「明日夏!?」
「ぐっ……がっ……」
意識はある様だが、ダメージは明らかに深刻そうだ!
「ちょっと飛ばし過ぎたかな?」
そして、その要因たる男、夜刀神竜胆が歩いてきた。
その胸には横一文字の傷があるけど、明日夏がやったのか?
「その傷どうしたんだ、竜胆?」
「いやー、ちょっと舐めプしすぎちゃってな。見ての通り、スパッてやられた。で、傷の礼って事で一撃加えたって訳」
一撃で明日夏をあんなにしたってのかよ!?
「ぐぅぅ……!?」
明日夏が無理して立ち上がろうとしてるけど、ダメージが深刻すぎるのか、まともに動けないでいた。
「無理しない方が良いぜ。手応え的に骨結構逝ってるはずだぜ?」
「明日夏!無理すんじゃねえ!?」
「うるせえ…!お前の方が……ボロボロだろうが……!」
俺は一応お前と違って立てるんだよ!
正直ヤバイけどな。
「で、こっちはどんな状況なんだ?」
「そこの赤龍帝ちゃんがしつこくてしつこくて、鬱陶しいのよ」
「さっさと諦めれば良い物を」
「へえー。つまり、絶賛諦めの悪い赤龍帝君が粘ってるって訳か。良いね。俺そう言うガッツある奴好きだぜ」
男に好かれても嬉しくねえよ!
当の夜刀神竜胆は俺の事をジーッと見ていた。
「なるほどなるほど」
しかも、勝手に一人でなんか納得してるし。
「どうやら、成長の分岐点にたったせいで、一時的に神器が使えなくなってるみたいだな」
なっ!?ちょっと見ただけでそこまで分かったってのかよ!?
「その成長って禁手か?」
「だったらなんだよ!」
「んー、自分にとっての劇的な変化ってのが分かんねえのかな?」
なんでそこまで分かんだよ!
「難しく考える事は無いぜ。要は自分の今までの価値観が覆る様な事が起これば良いんだから」
自分の今までの価値観が覆る様な事?
「そうだなぁ。例えば…」
「ちょっと、竜胆。何敵にアドバイスなんかしてるのよ」
「まあ、良いじゃん。面白い事になるかもしれないだろ?ってな訳で例えだけど…」
そう言い、夜刀神竜胆は人差し指を立てる。
「ある所にグルメ家がいるとするぜ。そいつは数々の美味を味わい尽くした。けどある日、天にも昇る様な美味を味わう。そしてグルメ家はこう思った。自分が今まで食べていた物は何だったんだとな。そしてグルメ家は今まで食べていた物を料理とは思えなくなった。それ程までにその料理の味が自分の料理の味に対する価値観が覆える程の極上の美味だったのであった。おしまいってな」
「って、長々と何語ってんだ、お前!?」
長々となんか語って、美猴にツッコまれてた。
って言うか、ますます訳分かんなくなったぞオイ!
って、待てよ?なんか、今の話と似た様な事が最近あった様な?
ッ!そうか!そう言う事だったのか!?
「部長!俺、自分に何が足りないのか分かった気がします!俺が禁手に至るにはおそらく部長の力が必要です!」
「……私で良ければ、どんな事でも力を貸すわ!」
俺は意を決して言う。
「……おっぱいを突かせてください!」
「……ッ……分かったわ。それで貴方の想いが成就できるのなら」
部長は一瞬だけ絶句するが、決意の眼差し言う。
「……本当ですか……!?突くんですよ!?俺が部長の乳首を押しちゃうんですよ!?良いんですか!?」
まさかの部長の快諾に俺が驚愕している中、部長は震える手でドレスの胸元をはだけさせ、その豊満なおっぱいをさらけ出した!
「………早くなさい……恥ずかしいのだから……」
毒のせいで真っ青になっていた顔が羞恥で赤くなっていた。
「戦闘の最中、何をしている!?」
上空からおっさんの驚愕の声が聞こえてきた。
「……おっさん、俺が部長の乳を突く間、もってくれよ!」
「乳を突く!?乳を突くだと!?お前は戦場のド真ん中で何をしようとしているのだ!?」
「決まってんだろ!禁手に至る為だ!」
「俺との修行は無駄か!?お前がそこまで馬鹿だったとは!?」
「……なんかすまない、おっさん……」
明日夏が額に手を当てながらおっさんに謝ってるが無視だ。
「ねえ、美猴。あれは何か作戦かしら?リアス・グレモリーが乳房をさらけ出して、赤龍帝と何かするつもりだわ?」
「俺っちに聞くな!」
「……それともただの馬鹿なのか?」
「だから、俺っちに聞くな!」
美猴達が何か言い合ってるが、今は目の前の事に集中だ!
夜刀神竜胆が言っていた価値観が覆るって言葉。そして、温泉で聞かされた先生の おっぱいを突くと言う言葉。あれは俺の中で確かにおっぱいに対する何かが変わった!
話を聞いただけでも衝撃だったんだ。突いたらきっと、俺は変われるはずだ!
だが、おっぱいを目前にして、重大な問題が発生する!?
「おっさん、大変だ!?」
「どうした!何かあったのか!」
「右のおっぱいと左のおっぱい、どっちを突いたらいい!?」
「馬鹿野郎ォォッ!!右も左も同じだ!さっさと乳を突いて至れェェェッ!!」
「ふざけんなァァッ!右と左が同じな訳ねえだろ!大切なんだよ!俺のファーストブザーなんだぞ!人生掛かってんだ!真面目に答えろォォッ!」
クソッ!おっさんには分からねえんだ!この重要性が!
「だったら、同時で良いんじゃねえか?」
「何ッ!?」
突然、夜刀神竜胆がそんな事を言ってきた!
「どっちを先に味わうか迷ってるんだったら、いっそ両方味わえばいいだろ。ほら、カレーかラーメン、どっちを食べようか迷うんだったら、両方味わえるカレーラーメンを食べれば良いだろ」
「ふざけんな!部長のおっぱいとカレーラーメンを一緒にしてんじゃねえ!」
って言うか、腹抱えて笑いを堪えてんじゃねえよ!
だがまあ、両方味わう…つまり、同時に突けば良いって言うのは、敵ながら革新的な意見だぜ!
「では、部長。両方同時に行かせていただきます!」
「もう、それで良いから、早くなさい!馬鹿!」
「行きます!部長!」
俺は篭手を消し、人差し指を突き出す。
恐る恐る指を部長の乳首へと近付けていく!
俺の脳内でアザゼル先生の言葉が再生される。
『押すと鳴るんだよ』
押すと鳴る!
むにゅ。
そしてついに指が部長の乳首に到達する!
そのままゆっくりと指は胸に埋没していく!
もう、それだけでも俺の中の何かが弾けそうだった。
「………いやん……」
鳴った!
『至ったッ!本当に至りやがったぞォッ!』
ドライグの叫びを聞きながら、俺も自分の中の何かが弾けたのを感じていた!
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
その音声と同時に膨大な量の赤いオーラが吹き出る!
「……最低です。やらしい赤龍帝だなんて……」
ごめんね、小猫ちゃん!やらしい赤龍帝で!
「禁手『赤龍帝の鎧』!主のおっぱいを突いて、ここに降臨ッ!!」
オーラは全身を包み、赤い鎧と化していた!
それになんか前までは無かった翼みたいなのも生えてた。
『相棒、おめでとう。しかし、酷い。俺は本格的に泣くぞ、そろそろ……』
ドライグが賛辞を送ってくれるけど、その声は涙声だった。
「何はともあれ、ついに至ったか!大した力の波動だ!」
タンニーンのおっさんも結構テンションが上がっていた。
ともあれ、これで少しはなんとか戦えるかな?
『そう謙遜する事も無い。ほら、いつもの様に魔力の玉を撃ち出してみろ』
言われるがままに、俺は神威に照準を向けてドラゴンショットを撃ち出す!
ドッ!
「ッ!?」
撃ち出された魔力の玉を神威は慌てて避ける。
ドォォォオオオオオオンッ!
次の瞬間、遥か先で爆音が鳴り、爆風がこちらまで襲ってきた!
「たーまやー♪」
なんて言いながら手で爆風から顔を守ってる夜刀神竜胆以外の俺を含む地上にいる全員がこの事に驚愕していた。
「フハハハハッ!兵藤一誠、この先にある山が消え去ったぞ!」
マジで!特に倍増した一撃じゃないのに!?
「……これが赤龍帝の一撃って訳か。大したもんだぜ、イッセー!ついでにこの辺一帯に張られてた結界も消し飛んでるぜ!」
明日夏の言う通り、この辺一帯を包んでた結界が消えてた。
それにさっきの爆風で毒霧も吹っ飛んでた。
「少しはマシになったようだな!」
神威が一瞬で距離を詰めて、拳を打ち込んできていた!
ドゴォン!
腹に拳が打ち込まれたが、さっき程のダメージは無かった!
俺はそのまま神威の腕を掴む!
「……本気で殴ったはずなんだがな……」
表情は変わってなかったけど、その瞳には明らかな動揺の色があった。
「とりあえず、さっきまでのもろもろの礼をさせてもらうぜッ!」
ドゴォォォン!
俺の拳が神威の顔面を捉え、奴はそのまま遠くまで吹っ飛んでいった。
「ウフ!面白いじゃないの!なら、妖術仙術ミックスの一発お見舞しようかしら!」
ドゥッ!
小猫ちゃんのお姉さんの手から二種類の波動が混ざった一撃が撃ち込まれる!
「こんなもんか?」
けど、俺の鎧は全くの無傷だった。
さっきの神威の一撃でも思ったけど、この鎧の硬さは相当だぜ。
「調子に乗らないでよ!」
そう言い、先程の攻撃を幾重も撃ち出す。
俺はその攻撃を弾き飛ばしながらお姉さんに肉薄し、拳を打ち込み、当たる寸前で止める!
拳を止めた余波で周囲の空気が振動する。
「っ!?」
「俺の可愛い後輩を泣かすんじゃねえよ!」
「……ッ……」
「次に小猫ちゃんを狙ったら、あんなが女だろうが、小猫ちゃんのお姉さんだろうが、俺の敵だッ!」
「クソガキがッ!」
そう毒づきながら、お姉さんは後方に飛ぶ。
よっしゃ!戦えてる!禁手様々だぜ!
ザッ!
そこへ、さっき吹っ飛ばした神威が顔を俯かせながらヨロヨロと歩いてきた。
結構手応えがあったんだけどな。まだ動けるのか。
神威は俯かせてた顔を上げる。
「っ!?」
その顔を見た瞬間、異様なプレッシャーを感じた!
なにより、あの眼力!
さっきまでのあいつの目を人の目と例えるなら、今のあいつの目は獣みたいだった!
そして、あの狂った様な笑み。明らかに普通じゃねえ!
「イッセー、気を付けろ!さっきまでの奴とは何か違う!」
明日夏もヤバイと感じたのか、動けない体を無理矢理動かしてた!
特に神楽に至っては、涙まで流して震えてた!
たぶん、神楽はあの状態のあいつの事を知ってるんだろう。
ヤベェ!勝機が見えた気がしたけど、一気に不安が押し寄せてきた!
パンッ!
「ッ!?」
突然、神威の目の前に夜刀神竜胆が現れたと思ったら、神威の眼前で掌同士を叩く!
あれって確か、相撲とかでやる猫騙しってやつだよな?
当の神威はビックリした様子で目をパチクリとしていた。
「落ち着こうぜ、神威」
「……ああ……」
どうやら、さっきまでの神威に戻った様だ。
「黒歌、美猴、帰ろうぜ」
「何言ってるのよ!まだ終わってないじゃない!」
「そうだなぁ。一旦帰った方が良いかもな」
「ちょっと!?美猴まで!?」
「熱くなり過ぎて気付かねえのか?」
「え?……ッ、ロキの気配が……」
「……消えてるな」
なんだ?どう言う事だ?
「どうやら、悪伸様がヘマしたみたいだからさ、俺ら帰るわ」
それから、夜刀神竜胆達はそそくさと魔法陣でどこかに転移して行ってしまった。
「……逃げた…のか……?」
「……っと言うよりも、クライアントが消えたから、用が無くなったって感じか?時間潰しなんて言ってたしな」
明日夏が無理しながら俺の隣に来て、そう言う。
クライアント…つまり、ロキって神様がどっかに行ったから、用が無くなったあいつらは帰ったって事か。
「って事は、会場の方は無事って事か!」
「損害が全く無いとはいかないだろうが、まあそうなるな。ま、あそこには魔王やアザゼルなどの三大勢力のトップ達もいた訳だしな」
そうか!会場にいるみんなも無事って事か。
って、ヤベ。安心したら、力が抜けてきた。
鎧の方もそれに合わせて消えちまった。
明日夏も俺と背中合わせする様に腰を下ろす。
「……さすがにすぐには戻れそうにねえな」
「……だな」
もう、体のあっちこちが痛ぇ。
「ひとまず、禁手おめでとう。酷ぇ至り方だったが」
「お前こそ、なんかさっきよりもスッキリした様子だぜ?」
「ま、色々あったんだよ」
「そうかよ」
そんな、他愛の無い話をしながら休んだ後、俺達は会場に戻るのであった。
後書き
とりあえず、イッセーの禁手と明日夏の神器の成長回でした。
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