ハイスクールD×D 新訳 更新停止
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第5章
冥界合宿のヘルキャット
第100話 邂逅
前書き
いつの間にか100話になってるな(文字数が大した事無い話が多いけど)。
「酷い!酷過ぎる!?」
厳しい…って言うか、俺と明日夏はガチで死にそうな修行を終え、それぞれの成果を報告していたのだが、俺と明日夏だけあまりにも酷い生活を送っていた!?
みんなそれなりにキツいメニューをこなしてた様だけど、ちゃんと寝泊りできる場所が用意されてたって言うじゃねえか!
「俺も少し驚いたぜ。逃げ帰ってくるんじゃねえかとか想定してたんだが。まさか、普通に山で生活してくるとはな。明日夏もぶっ倒れてくるんじゃねえかとも思ってたんだが。逞しいな二人とも。ある意味悪魔を超えてるな」
「酷いっ!毎日毎日、ドラゴンに一日中追っかけ回されて生活してたのにぃぃぃぃっ!!部長に会いたくて、会いたくて、毎晩部長の温もりを思い出しながら葉っぱに包まって寝てたのにぃぃぃぃっ!!」
「ああ、イッセー。こんなに逞しくなって」
部長が胸元に寄せて抱き締めてくれる!
もう、これだけでも、癒されるぅぅぅっ!!
「体力は相当向上した様だな。しかし、禁手には到れなかったか」
「……はい……すみません……」
あれだけ厳しい修行を耐え抜いても、結局禁手には到れなかった。
「ま、到れない事は想定内だ。やはり、劇的な変化が必要と言う事か」
劇的な変化か。
木場の時は同士達の魂と出会い、本当は木場に何を願っていたのかを知った事で聖魔剣の禁手に至った。
あれが木場にとっての劇的な変化って事になるんだろう。
俺にとっての劇的な変化って何だろう?
「んで、明日夏。お前もお前で成果はあまり芳しくない様だな?」
「………」
明日夏は何も言わないけど、成果が芳しくなかった事は誰の目から見ても明らかな程、表情は優れていなかったし、全体的な雰囲気からも察せた。
どういう訳か、あれだけの苦行を乗り越えたのに、得た成果は体力とサバイバル技術、回避力の向上だけで、明日夏が望む様な成長、神器に関する成長がほぼ得られなかった。
タンニーンのおっさんもその事に疑問に思ってた。
「……神器に問題があるのか?あるいは明日夏自身にあるのか?」
先生が目を細めながら明日夏の事を見ながらブツブツと何かを呟いていた。
「ま、仕方ねえ。明日夏、一辺落ち着いて、自分と向き合ってみろ。もしかしたら、お前自身も気付いてねえ、深層心理的な問題かもしれないからな」
「……ああ……」
明日夏の深層心理的な問題?
「とりあえず、報告会は終了だ。今夜は各勢力の代表が集まるレセプションだ。俺は先に行ってる。向かいを寄越すから、準備しとけよ」
そう言って、先生は部屋から退室していった。
「そんな凄い所に私達も?」
「私達だけじゃないわ。名目はVIPの護衛だけど、将来を担う若手悪魔の交流を計ろうと言うお兄様のご発案よ」
「部長の眷属として、恥ずかしい真似は見せられませんね」
若手悪魔かぁ。きっと、下僕も強いんだろうなぁ。
「ちょっとしたパーティでもあるから、明日夏達も是非参加して楽しんでくれと仰っていたから、貴方達も是非参加してちょうだい。明日夏も少しは気分転換になって、何か分かるかもしれないわよ」
「……はい……」
明日夏はただ、無機質な声で返事をするだけだった。
ー○●○ー
「………」
夜、俺達はとあるパーティ会場にいた。
そこでは多くの貴族悪魔が参列しており、サーゼクス様とセラフォルー様もいた。お二人の側にはグレイフィアさんと知らない顔の男性二人がいた。おそらく、あの二人が魔王ベルゼブブとアスモデウスなんだろう。
少し離れた場所にはアザゼルが柱に背を預けていた。
ちなみに、オカ研女性陣のみんなはドレス姿になって参列していた。あと、ギャスパーもドレス姿だ。
しかし、こんな所で妹のドレス姿を見る事になるとはな。せっかくだから、記念にとこっそり写メを撮る。後で兄貴達に送るか。
ついでに雲雀さん宛用と神音さん宛用に鶇達の写メも撮る。
そんな暇潰しをしながら、アザゼルに言われた事を思い出す。
『一辺落ち着いて、自分と向き合ってみろ。もしかしたら、お前自身も気付いてねえ、深層心理的な問題かもしれないからな』
タンニーンのおっさんにも似た様な事を言われた。
『成果が芳しくないのは、お前自身の深層心理に問題があるのやもしれん』
深層心理。二人がそう指摘したのも納得はできていた。
神器は想いの強さに応える。想いが強ければ、それだけ力を発揮する。逆を言えば、想いが弱ければ、力は発揮されない。
だから、神器関連の成果が無かったのも、俺の深層心理に俺自身も分からない神器の成長を阻害する何かがあるかもしれないとは、俺自身も思った。
だが、いくら考えても、自分を見つめ直しても、それは分からなかった。
「力が欲しい!」と強さを求めているのに、『幻龍の緋衣』はその想いに応えてはくれない。
一体何がいけないって言うんだ…!?
「おい、明日夏!」
「ッ!?イッセー……?」
「お前大丈夫かよ?みんな心配するぐらいスゲー難しい顔してたぞ」
「……そんなに顔に出てたか……?」
「ああ」
表情に出さない様にしてたつもりだったが、意味無かった様だ。
「どう言う気持ちかはなんとなく分かるけど、思い詰め過ぎじゃねえか?」
そうは言われても、あいつから守りたい物を守る為には今よりもはるかに強くなる以外にねえんだ。
あいつ、レイドゥンはそれだけ強い。
「俺だって、あいつにお前や千秋、みんなに手なんか出させたくねえよ!ヴァーリの奴にだって!だから俺は…いや、みんな強くなろうとしてるんじゃねえか!お前一人だけで何もかも守ろうとする必要はねえだろ!少しは俺達を頼れよ!」
「……ッ……」
「……そりゃ、俺はお前よりも、ましてや眷属の中でも一番弱いよ。あいつもめちゃくちゃ強いんだろう。でも、いざって時は、俺の譲渡の力が役立つかもしれねえだろ。みんなで戦えばなんとかなるかもしれないし。もっと俺やみんなを頼れよ」
「だが、あいつは……」
「元々自分達を狙ってるから、自分でケリを着けるってか?そんな事言ってみろ?返り討ちに合おうともぶっ飛ばすからな!」
「………」
「水臭いんだよバカ」
「……あ……」
それは、イッセーが一人で何かを背負い、一人で解決しようとした突っ走ろうとした際に決まって俺がイッセーに言っていた言葉だった。
まさか、こいつに言われる日が来るとはな。
「クスッ」
自然と笑みが零れた。
「お、久々に笑ったな」
「そうなのか?」
確かにここ最近、笑ってなかったかもしれなかった。
「つうか、俺より弱い奴が生意気言ってんじゃねえよ」
「うるせえ。今に禁手に至って、お前を越してやる!」
「なら俺も、追い越されない様にしねえとな」
レイドゥンの強さを思い知り、先日見たあの悪夢からみんなは俺が守ると気持ちが先走っていた。そのせいでイッセーやみんなを全く信じてなかったんだろうな。だが、イッセー達だって強くなろうとしている。焦る必要はねえんだ。
問題の解決には至ってねえが、気は大分楽にはなった。
「大分落ち着いたよ。サンキュー」
「でも、結局伸び悩んでいた原因は分からねえんだろ?」
「なに、落ち着いて考えれば、案外早く見つかるだろ。お前も禁手化に必要な自分にとっての劇的な変化が何かさっさと見つけろ」
「劇的な変化ねえ……」
「お、お久しぶりですわね、赤龍帝」
気持ちが大分和らいで、イッセーと話し込んでいたら、イッセーに話し掛ける少女がいた。
確かこの少女は…。
「焼き鳥野郎の妹か?」
「レイヴェル・フェニックスです!」
ああそうだ。部長の元婚約者のライザー・フェニックスの妹だ。
「……これだから下級悪魔は……」
イッセーの対応に不満を感じたのか、ブツブツと文句を言っていた。
「兄貴は元気か?」
「……貴方のお陰で、塞ぎ込んでしまいましたわ」
メンタル弱いな、おい。まあ、それまでは挫折知らずだったんだろう。んで、初めての挫折のショックが思いの外効いたって事か。
「ま、才能に頼って調子に乗っていたところもありましたから、良い勉強になったはずですわ」
「アハハ……容赦無いねぇ。一応、兄貴の眷属だろう?」
「あの後、お母様の眷属にトレードされましたの。お母様はゲームしませんから、実質フリーの『僧侶』ですわ」
「フリー?そんなのもあるのか?」
確か、『王』同士の間で同じ駒の眷属同士の交換の事をトレードって言ったな。
「それと、これはお近付きの印ですわ」
そう言い、イッセーにフェニックスの紋様が入った黒い入れ物みたいなのを渡す。
「こんな物もらえねえよ!?」
「本来上級悪魔へのお土産ですわよ!赤龍帝は下級悪魔なのだから、ありがたく頂戴されるのが礼儀ですわ」
イッセーは遠慮するが、レイヴェル・フェニックスは有無を言わさず渡す。
にしても、赤龍帝とは言え、一介の下級悪魔にわざわざお土産とは。
そう言えば、ライザーとの戦いの最後で兄を庇おうとイッセーの前に出た時にイッセーの勇姿に魅入ってたな。
「その赤龍帝ってのは止めてくんねえかな?一応、一誠って名前があるんだからさ」
「なんだったら、俺達みたいにイッセーって呼んだらどうだ?」
「うん、そうそう」
「コ、コホン。で、では、遠慮無くイッセー様と読んで差し上げてよ」
「様って……」
「では、イッセー様。今度お会いできたら、お茶でもご馳走して差し上げてもよろしくてよ」
「は?」
イッセーが疑問符を浮かべると、レイヴェル・フェニックス途端にモジモジしだす。
「わ、私、最近手製のケーキに凝っておりますの…」
どうやら、部長と違って、素直になれないタイプみたいだな。
弄ると燕みたいに良い反応しそうだな?
なんて考えるあたり、大分いつもの調子に戻ってるな。
「そ、それでは。他の方々とのご挨拶もありますので。ごきげんよう」
そう言って、そそくさと走って行ってしまう。
「ゼノヴィア以上に訳分からん娘だな?」
「……そう思ってるのはお前だけだろうな」
「ん、なんか言ったか?」
「なんでもねえ」
その後、会長達シトリー眷属と出会い、式典が始まるまで若手悪魔達と交流を計る為にグレモリーとシトリーの両眷属は主に連れられて別室に移動していった。
ー○●○ー
「他の若手悪魔はもう来てるのよね?何も無ければいいけど」
「ええ」
移動しながら部長と会長がそんな事言っていた。
若手悪魔が集まるとなんかあるのか?
ドゴォン!
『っ!?』
いきなり目的の部屋の扉が吹っ飛んだ!?
何!?何事!?
慌てて部屋の中を見ると、一人の女性と男性が睨み合っていた!
女性の方はメガネを掛けて、冷たく鋭い眼つきの美少女。男性の方は顔にタトゥーを入れた怖い風貌のヤンキーみたいな奴だった。
「どうしても死にたいのねぇ、ゼファードル?」
「処女クセーってホントの事を言っただけだろぉ?このクソアマ」
何!?ケンカか?
二人とも物凄い危険なオーラを発してるよ!?
「はぁ、やっぱり……」
部長はなんかこうなる事が分かってたかの様に溜息を吐いていた。
「若手悪魔が集まると、大抵こうなってしまうのだ」
俺達の所に黒髪の短髪で野性的なイケメンが話し掛けてきた。
「サイラオーグ」
部長がイケメンの名を呼ぶ。
サイラオーグってのがこの人の名前か。部長の知り合いみたいだな。
「話は後だ」
サイラオーグさんは睨み合っている二人の元へと歩いて行く。
「その辺にしておくんだな。アガレス家の姫シーグヴァイラ。グラシャラボラス家の問題児ゼファードル」
「誰が問題児だ!ふざけた口を聞くと…」
「いきなりだが最後通告だ。これ以上やるなら俺が相手をする」
サイラオーグさんが迫力のある言葉がヤンキーの言葉を遮る!
スゲェ迫力だ!
その迫力にメガネの姉ちゃんはオーラを鎮める。
「クッ、バアル家の無能が…」
ドゴンッ!
キレたヤンキーがサイラオーグさんに殴り掛かるけど、逆にサイラオーグさんの一撃で壁まで吹っ飛んで叩き付けられた!
ヤンキーはそのまま崩れ落ちて動かなくなる。
一撃かよ!?
「ス、スゲェ……」
「彼はバアル家の次期当主サイラオーグよ。私の従兄弟なの」
へぇ、だから知り合いだったのか。
「そして彼は若手悪魔のナンバーワンよ」
ナ、ナンバーワン!?そりゃ強いはずだぁ。あんな人がいるのか。
その後、式典が始まるまで、部屋にいる事になったけど、仲良さげなのは部長と会長の眷属くらいで、さっきのメガネの姉ちゃんとヤンキーの眷属はさっきの事があるせいでピリピリしてるし、他の眷属は我関せずみたいな感じだ。
部長がこの交流に乗り気じゃなかった理由がなんとなく察せた。
ちなみにここにいるのは部長のグレモリー家、会長のシトリー家、サイラオーグさんのバアル家、メガネの姉ちゃんのアガレス家、ヤンキーのグラシャラボラス家、もう一つのアスタロト家の眷属が来てるみたいだ。
しかもグレモリー家、シトリー家、グラシャラボラス家、アスタロト家は魔王を輩出したお家で、バアル家は魔王の次に偉い大王、アガレス家は俺達悪魔に命をくだす大公と物凄いドリームメンバーだったりする。
「ん?」
そんなドリームメンバーに呆気に取られていると、小猫ちゃんの様子がおかしい事に気付く。
なんか、血相を変えて辺りを見回してる。
って、あ!?小猫ちゃんが走り出してしまった!
気になった俺は慌てて小猫ちゃんの後を追う。
ー○●○ー
イッセーとの会話で気が楽になった俺は、今度は別の事で気が滅入っていた。
「……場違い感がハンパねぇ……」
『賞金稼ぎ』などの異能絡みの事を除けば普通の一般平民である俺にとって、この会場の上品過ぎる空気は馴れない。
こう言う時はマイペースな兄貴や姉貴、鶇が羨ましく感じる。
そんな感じで俺は柱に背を預けて項垂れていた。
ゾクッ!
「っ!?」
なんだ!?今のは!?
突然、背筋がゾッとし、それが殺気を向けられた事による物と分かり、俺は周囲を見渡す!
そして、ある一点に目線が止まる。
そこには明らかに場違いな服装をし、腰に日本刀を差した青年がいた!
「明日夏兄、どうしたの?」
「あ、いや……」
俺の様子を訝しんだ千秋に声を掛けられ、さっきの青年の事を言おうと青年がいた 場所をもう一回見ると、そこに青年はいなかった。
「いや、なんでもねえ。大丈夫だ。気のせいだった様だ……」
そう言って、未だ訝しげんでいる千秋を強引に納得させる。
そして、千秋が離れたのを確認すると、急いでさっきまで青年がいた場所まで駆け寄る!
「……どこに行った?」
あの殺気は間違い無くあの男が発した物だ。
挑発的な物ではなく、完全に俺を殺そうとする殺気だった。
「クソッ!」
まさか、もう外に出たのか!
そう思い、エレベーターがある方を向く。
「ん、塔城?」
すると、血相を変えた塔城がエレベーターに乗り込むのが見えた。
その後、慌てた様子のイッセーがエレベーターの前で止まる。
「どうした、イッセー!」
二人の様子とさっきの事でただ事じゃないと思った俺はイッセーに慌てた理由を聞く。
「いや、小猫ちゃんがいきなり部屋から飛び出していったんだ。まるで、何かを追う様に」
何かを追う?あの男の事か?
「どうしたの二人とも。血相を変えて」
「イッセーさん、明日夏さん」
そこへ、部長と神楽もやって来た。
俺とイッセーは塔城の事とさっきの男の事を話す。
「今はあまり大事にしたくないわ。私達で小猫を探しましょう。明日夏が言っていた男の事もあるわ。注意して」
「はい」
「はい。神楽、塔城の場所は分かるか?」
「待ってください」
神楽が瞑目すると、猫の耳と尻尾が出現する。
「小猫ちゃん、外の方にいます」
それを聞き、俺達もエレベーターで一階に降り、外に出る。
「こっちです」
仙術を使う神楽に連れられ、塔城の下まで走る。
「神楽、塔城が向かう先に誰かいるか?」
「えっと……います!複数人。その中に小猫ちゃんのと似た気を持っている人がいます」
塔城のと似た気?
「……まさか……!」
それを聞き、部長が何かに勘づいていた。
いや、イッセーと神楽も何かを察している感じだった。
そうこうしていると、塔城の姿が見えた!
「……少し様子を見ましょう……」
部長にそう言われ、俺達は近くの木陰に隠れて、塔城の様子を伺う。
塔城は何かを必死で探している様子だ。
「久しぶりじゃない?」
「ッ!……やっぱり……」
知らない声が聞こえ、塔城の視線の先を見る。
そこには黒い着物に身を包み、頭部に猫耳を生やした女性がいた。
「ハロー、白音」
「……黒歌……姉様……!」
白音?姉様?どう言う事だ?
「黒歌……」
「……もしかして、あの猫娘が小猫ちゃんの……!」
「……姉よ」
「どう言う事だ?簡潔に説明してくれ、イッセー」
あの女が塔城の姉って事は会話から察せるが、それ以外はさっぱりだ。
「そっか、明日夏は知らねえんだったな」
そして、イッセーから簡単に塔城の過去について説明してもらった。
……塔城の過去にそんな事があったのか。
白音ってのは、部長から名前をもらう前の旧名って事か。
「私の気をちょっと送っただけですぐ来てくれるなんてお姉ちゃん感動しちゃうにゃー」
「……姉様、これはどう言う事ですか!」
「そんな怖い顔しないでー。ここで大きな催ししてるって言うじゃなーい。だからー、ちょっと気になっちゃって。にゃん♪」
塔城の姉は可愛く言うが、塔城は構わず続ける。
「……ここに来た目的は何ですか?」
「白音、あんたを迎えに来たにゃ。前は逃げるのに必死で連れてってあげられなかったからねー」
今更になって塔城を迎えに来たってのか。
「なあ、黒歌」
そこへ割って入ってくる男がいた。
「……あいつは……!」
「……確か美猴って言う……!」
「……『渦の団』……!」
さらにそこへ二人の男が現れる。
一人は中国風の服を着た白髪の男。もう一人はさ腰に日本刀を差したさっきの男だった。
「………そんな……!?……どう…して…っ……!?」
「神楽!?」
「おい、どうした!?」
突然、神楽が非常に怯えだしていた!
視線は白髪の男に向いている。
知り合いなのか?
「何よ、美猴?」
「そこに隠れてる奴ら、ずっと無視する気か?」
「「「「っ!?」」」」
「それで隠れてるつもりだったのか?」
「まあ、お前らは仙術使えるからなぁ」
「仙術なんか使うまでもねえよ。お前だって気付いてたんだろ?」
「まあな」
バレてるのなら隠れてても意味ねえか。
意を決して、俺達は木陰から出る。神楽は未だに怯えており、イッセーの制服の裾をギュッと掴んでいた。
「イッセー先輩、明日夏先輩に神楽、部長も!?」
塔城は俺達の事を確認して驚いていた。付けられてるとは思いもしなかったんだろう。
「黒歌、この子は私の眷属よ。指一本でも触れさせないわ」
「あらあら何を言ってるのかにゃ?それは私の妹。上級悪魔様にはあげないわよ」
部長と黒歌との間で一触即発の雰囲気が出る。
「よお、クソザルさん。ヴァーリは元気かよ?」
「ハッハ、まあねぃ」
「誰、この子?」
「例の赤龍帝だぜぃ」
「ああ、そいつがヴァーリの言ってた」
「おっぱい好きの」
「ヴァーリの奴を退けたらしいが。とてもそうは見えないな」
白髪の男がイッセーの事を一瞬だけ見ると、視線をイッセーの側で震えている神楽の方へ向ける。
視線で貫かれ、神楽はますます震える。
「どうしたんだ、神威?」
神威と呼ばれた白髪の男を訝しんで、日本刀を持つ男が尋ねる。
「別に」
「その子、知り合いか?」
「……妹…いや、元妹だ」
「「「「っ!?」」」」
俺達は一斉に神楽の方を向く!
「………神威……お兄ちゃん……」
神楽は消え入りそうなか細い声で、神威の名を呼ぶ。
あいつが神楽の兄だと。そんな事一度も。
「元って、どう言う事だ?」
「俺が縁を切っただけの話だ」
「縁を切ったねぇ。つかお前、その子に何したんだ?スゲェ怯えてるぞ?」
確かに。あの男を見てから、神楽の様子がおかしくなった。酷い怯えようだ。
「別に。そいつの親を殺しただけだ」
なっ!?神楽の親を殺したって事はつまり!?
「それって、自分の親を殺したって事だろ?なんだってそんな事を?」
「お前なら大体察せるだろ?」
「ああ、なるほどねぇ」
日本刀を差した男は勝手に自分で納得していた。
「おい、なに一人で勝手に納得してるんだ!いや、それよりも、さっきのは何のマネだ!?」
俺は声に怒気を孕みながら男に言う!
「さっきのって?」
「とぼけるな!会場で俺に向けた殺気の事だ!?」
「さっきの殺気…てか♪」
「「寒っ……」」
「ふざけるなッ!!」
「冗談、冗談だよ。さっきお前に向けて放った殺気の事だろ?いやなに、なんか項垂れてたから、ちょっとシャキッとさせようかなって思ってな。効果てきめんだったろ?」
冗談なのか、本気なのか微妙な言い方だが、雰囲気から察するに本気みたいだった。
「……確かにてきめんだったよ。あんなもん向けられれば、嫌でもシャキッとしなきゃなれねえからな」
「まあ、本当はお前と話したかったからなんだけどな」
「……何?」
「殺気を向ければ嫌でも追ってきてくれると思ったからな」
「なんで俺なんかと?」
「いやなに、冬夜の弟とちょっと話をしてみたいって言う単純な好奇心だよ」
「っ、兄貴を知ってるのか…?」
「『賞金稼ぎ』ならあいつの事は誰でも知ってると思うぞ?」
確かに『魔弾の竜撃手』の兄貴は『賞金稼ぎ』の間では有名だろう。だが、あいつの口ぶりは明らかに知り合い以上の関係を仄めかしていた。
「ま、それ以前にあいつとは同期でダチだからな」
「何!?」
「ん、俺の事冬夜から聞いてねえのか?って、そっか。まだ、俺の名前言ってなかったな」
ヤハハと笑いながら、奴は名乗る。
「俺は竜胆。夜刀神竜胆ってんだ。周りからは『三狩王』の一人『風の剣帝』なんて呼ばれてるな」
後書き
二人目の『三狩王』やら神楽の兄貴の登場です。
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