ロックマンゼロ~救世主達~
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ロックマンゼロ4
第56話 蒼と朱
前書き
レジスタンスベースを去ったエックス達。
レプリロイド。
それは遥か昔に造られた限りなく人間に近いロボット。
高度な技術により人格を与えられた彼らレプリロイドは人間のために働き、人間と共に歩む最高のパートナーとなるはずだった。
だが、平和に流れる時の中で人間とレプリロイドの歯車は静かに軋み始める。
限りなく人間に近いが故に、レプリロイドは時に人間に逆らうことすらある。
そういった危険なレプリロイドを人間はイレギュラーと呼び恐れた。
イレギュラーとなったレプリロイドは、同じレプリロイドの手で処分させる。
それが人間の導き出した答えだった。
主である人間を守ろうとするレプリロイドたちに選択の余地はない。
こうしていつ終わるともしれない、レプリロイド同士の激しい戦いが始まったのだ。
いくつもの戦いを積み重ね、時が経ち、レプリロイドに守られた人間の理想郷、ネオ・アルカディアが出来てからも戦いは終わらなかった。
そして今、かつてネオ・アルカディアだった場所は、犯罪者のDr.バイルに支配されている。
人間の理想郷はもはや見る影もなく、安全と呼べる場所はなくなり、その地を離れる人は少なくなかった。
自分達もネオ・アルカディアを出て行く者達なのだ。
ゼロ達と別れた二人は、エックスにチェバルを走らせながら周りを景色を見渡すことに集中するルイン。
「見渡す限り、辺り一面砂だらけの砂漠砂漠…自然がほとんどないね…二百年前の時点で天然の自然なんか殆どないけどさ」
「うん、やっぱりあの戦いで地上のほとんどが壊れてしまったからね。仕方ないよ」
地球荒廃のとどめとなったのは恐らく妖精戦争でのオメガの暴走だろう。
「んー、でも少しは残ってるんでしょ?」
「多分ね、ハルピュイアとレヴィアタンが四天王時代に生存圏を拡大してくれたならいくらかは自然が蘇っている場所があるはず」
「ならさ、自然のある場所を探してみない?多分、逃げ出す人達は自然のある場所に向かうと思うんだよね。自然のある場所なら食べ物だって手に入れることが出来るしさ」
「なるほど」
ルインの言うことも一理ある。
確かに何もない場所を探し回るよりも少しでも自然が回復していそうな場所に向かった方が良いだろう。
「よし…僕が覚えているポイントに行ってみよう」
統治者時代に自然が蘇ったと聞いたポイントを思い出しながらそちらに向かう。
エックスが知っているポイントに行ってみたが駄目だった。
自然は蘇っていたが、人がある程度生きられるくらいの規模の物ではなかった。
やはりそう簡単にはいかないかと二人が溜め息を吐いた時であった。
「あらよおっと!!」
「「ん?」」
砂漠には場違い過ぎる明るい少女の声と車の駆動音に振り返ると、数台の大型トレーラーがエックスとルインの横を通り過ぎていく。
そして、トレーラーを追いかけるようにパンテオンに似たレプリロイド、バリアントが飛来してきた。
「ビンゴだよエックス!!」
「急ごう!!」
エックス達もチェバルの最大加速でトレーラーを追い掛ける。
「うーん、まずったかな?バリアント共が追いかけてくるよ。」
バリアントとの距離が徐々に縮んでいくことにシエルと同い年くらいの少女が頬を掻きながらぼやく。
「アリア博士、バイルの追っ手が追いかけてきますよ!!」
助手席に座るネオ・アルカディアの科学者がアリアと言う少女に向かって叫ぶ。
「こうなるんだったらもっと速い車を用意するんだったねえ。あっはっはっは」
「どうしてあなたはこんな状況で笑ってられるんですか!!」
絶体絶命の状況下だと言うのに笑っているアリアに科学者は叫ぶ。
「こういう時だからこそだよ。ピンチの時こそ冷静さを欠いちゃ駄目。パンテオン君達は動けない?」
自分達の護衛を買って出てくれたパンテオン達はどうなっているのだろうか。
『彼らは今、応急処置をしている最中です。まともな資材がない今、とてもではありませんが間に合いません』
もう一台のトレーラーの運転手からの通信にアリアは溜め息を吐いた。
「そっかあ…でも諦めないよ。私は私を信じてついて来てくれた子達の命を背負ってんだから」
このトレーラーにはネオ・アルカディアから逃げる際に、遺伝子操作を受け、高い能力を生まれついて持っている子供達が乗っているのだ。
あんな地獄と化したネオ・アルカディアにあの子達を帰すわけにはいかない。
「…アリア博士」
自分よりずっと年下の少女が、諦めずにいるというのに、既に諦めかけていた自分が恥ずかしくなった。
「そうですね、アリア博士。最後まで抗いましょう」
「そうこなくちゃ♪」
バリアント達がトレーラーの前に回り込み、科学者がここまでかと顔を顰めた時であった。
「うーん、どうやら私達はラッキーだったようだねえ…(まさか、別行動するとは思わなかったけどね、エックス君、ルインちゃん)」
トレーラーの横を通り越し、バリアント達をチャージショットで撃ち墜とすエックスとルイン。
「ていっ!ふっ!やあっ!!」
HXアーマーに換装し、トレーラーの荷台に着地するとメカニロイドとバリアントをダブルセイバーで斬り捨てる。
「わおっ、あの最新鋭のバリアントが雑魚扱いだ」
「あ、アリア博士…まさかあれは…」
「レジスタンスじゃない?君も聞いてるでしょ?ネオ・アルカディアから逃げてきた人間達をレジスタンスが助けているって話。」
「聞こえますか!?あなた方の拠点まで護衛します。そのまま走行して下さい!!」
「OK、ありがとう。レジスタンスのお二人さん!!」
「?」
運転席の窓が開き、シエルと同い年くらいの少女が礼を言ってくるが、エックスにはあの少女にどこかで見覚えがあった。
「さあ、拠点までかっ飛ばすよ!!」
「ア、アリア博士!もう少し、安全運転で…!」
「お馬鹿!車はかっ飛ばすためにあるんだよ!」
「今度から私が運転します…」
アクセルを踏んでトレーラーのスピードが上がり、エックスもチェバルを加速させ、トレーラーに攻撃を仕掛けようとするバリアントを撃ち墜とす。
ルインも上空のバリアントを返り討ちにし、トレーラーはそのまま直進したのだった。
しばらくしてトレーラーは追っ手を振り切り、かなりの規模の施設の前で停車した。
ルインもトレーラーから降り、エックスもチェバルから降りる。
アリアも運転席から降りると、エックスとルインの元に歩み寄ってきた。
トレーラーに乗っていた人間達も同様に。
「やあやあ、ありがとうね。助けてくれて…私はアリア、ここの…かつてレプリフォースの極秘施設を拠点にしている人達のリーダーなの」
「レプリフォース?」
聞き覚えのある名前にルインは目を見開く。
「ここの施設はね、二百年前のイレギュラー戦争でジャングルの自然のコントロールユニットがシグマウィルスによって暴走して、中がジャングルのようになっちゃったの。それから永い永い年月が過ぎて、シグマウィルスは消え去り、今ではジャングル化した施設だけが残ってるわけ」
「(そうか…この施設は…ユーラシア事件でシャトルのパーツを手に入れるために訪れた…まだ残っていたのか……)」
シグマウィルスで自然のコントロールユニットが暴走して、施設がジャングルと化し、一体のイレギュラーを生み出したがこの施設がネオ・アルカディアから逃げ出した人々の拠点となるとは思わなかった。
こうして見ると、シグマウィルスも害悪だけではなかったようだ。
シグマとしては自身がバラまいたウィルスが後に人間達の役に立つことになるとは夢にも思わなかっただろうが。
「とにかく助けてくれて本当にありがとう。君達も用事があるかもだけど、休んでいきなよ」
「え?私達レプリロイドですよ?」
「命の恩人に人間もレプリロイドも関係ないよ。それにここにいるみんなはレプリロイドに好意的なんだ」
「そうなんですか?」
「ここにいるのは、ネオ・アルカディアの人間優位の政策に疑問を持っていた人達だけなんだよ。まあ、殆どレプリロイド工学員か人間の子供達だけど」
「やはり、人間達にも疑問を抱いていた人はいたんですね」
「当たり前だよ、性能が低い、イレギュラー化の危険性がある、エネルギー不足を理由に自分が造った子供達を殺されたんだよ。許せないに決まってる。」
「そう言えばここの子供達は?」
物陰に隠れながら興味深そうにこちらを見てくる子供達にルインはアリアに尋ねる。
「ああ、あの子達?あの子達はね、ネオ・アルカディアの…でかい声じゃ言えないけど…遺伝子操作を受けた子達なの…あのままネオ・アルカディアにいたらきっとバイルの糞爺に悪用されるに決まってる。だから連れてきたんだ。」
遺伝子操作を受けているため、普通の人間よりも優れた能力を持ったあの子達をバイルを利用しないはずがない。
それを防ぐために連れてきたのだ。
「子供ってのは順応性高すぎ、大人達が四苦八苦してるのにあの子達は普通に暮らしてるんだもん。ねえ?」
ニヤニヤとしながら隣の若いレプリロイド工学員を見遣るアリア。
「面目ない」
頭を掻きながら謝罪する工学員にアリアは笑みを浮かべる。
エックスは知らずに安堵の息を吐いていた。
レプリロイドと分け隔てなく接してくれる人間達がまだいたことに。
「アリアお姉ちゃん」
「ん~?どうしたの?」
栗色の髪の少女がアリアの服を掴み、自身に意識を向けさせた。
「今度は何を持ってきてくれたの?」
「今日も食料とか大量だよ~。腕によりをかけてご飯作ってあげるからね」
「わあい」
ほのぼのとした光景にエックスとルインは顔を綻ばせた。
「ああ、そうそう」
アリアはエックスの耳元に顔を近付かせ、口を開いた。
「ボディの調子はどう?オリジナルエックス君?」
「え!?」
アリアから放たれた言葉にエックスは目を見開く。
「エック…おとと…」
驚いているエックスにルインは目を見開きながらこちらに顔を向けた。
エックスの名前を言いそうになったが、慌てて止めた。
「みんな、中に入っててね。子供達をお願い」
「はい」
工学員の女性が子供達を連れて施設の中に入っていき、全員が施設の中に入ったのを見ると、エックスに向き直る。
「さてと、オリジナルエックス君、久しぶり。ボディの調子はあれからどうかな?」
「やっぱり…あなたは…めが…」
「ノンノン!!ア・リ・ア、私のことはアリアと呼んで」
エックスの言葉を遮り、エックスもまた彼女がどういう存在なのかを思い出して口を閉ざした。
「アリア…さん。やっぱりあなたが…」
「え?え?どういうこと?」
「ルイン…この人が…僕のボディを造ってくれたんだよ」
「え?この人が?」
「そうだよ~。まあ、この超美少女天才科学者の私の手に掛かれば、余裕余裕大余裕だけどね」
胸を張って鼻高々に言うアリアにルインは彼女の手を握って感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます!エックスを助けてくれて!!」
「いやいや、困った時はお互い様だよ。私は愛と慈愛で出来ているスーパー科学者だからね」
「…でもあなたは、ゼロとルインがオメガと戦い始めた時には既にボディを完成していたのを教えてくれませんでしたよね?」
「え?」
「まだ根に持ってるの?超絶お馬鹿だなエックス君。ピンチになってからヒロイン助けに行った方がドラマチックで格好いいじゃん。エックス君、君はヒーローの鉄則って物を理解してないね」
あっさりと悪びれずに言い切るアリアにルインは開いた口が塞がらない。
エックスも頭を抱えていた。
「フフフフ、まあ、とにかく中に入りなよ。子供達の相手をしてくれれば嬉しいな」
「「は、はあ…」」
「そうそう、ここの人達は、あの“エックス”君がコピーだって知ってるんだ。正体を言うか言わないかは君の判断に任せるよ」
「わ、分かりました…」
正体を言うか言わないか…子供達の相手をしながらエックスはかなり悩んだ末に正体を言った。
エックスの正体を聞いた人間達からは今まで何をしていたのかと質問責めされたのは言うまでもなかった。
エックスはしばらくここにいることになりそうだと、人間達の問いに答えていくのだった。
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