ロックマンゼロ~救世主達~
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第54話 マザーエルフの輝き
前書き
オメガ撃破
ルインとゼロは体に走る痛みと疲労を忘れて目の前の信じられない存在に目を見開いていた。
それは倒れたハルピュイアもレヴィアタンもファーブニルも同様に、この場にいる全員が蒼いレプリロイドを凝視していた。
「コピーエックス…?いや、違う」
「ほ、本物…?…嘘…」
そこにいるのはコピーエックスと違って記憶と寸分の違いもない、纏う雰囲気も全く同じのオリジナルのエックスの姿があった。
「ごめん、みんな。遅くなってしまって」
ダッシュで駆け抜け、ゼロとルインを庇うように立つエックス。
「エックス…!!」
突如現れたエックスに、オメガの目が鋭くなった。
忘れはしない…妖精戦争の際に何度も自身に挑み続け、最終的に敗北した屈辱を。
『き、貴様あ…!貴様は確かにボディを破壊されたはずじゃ!一体何故…』
「確かに僕のオリジナルボディは破壊された。はっきり言って、ある人に助けられるまでは間もなく消えてしまうんだと思っていた。」
「え?じゃあ、そのボディはもしかして…」
「僕の恩人が造ってくれた新しいボディだよ。オリジナルボディよりしっくりくる……。さて……」
こちらを鋭く睨み据えるオメガにエックスも鋭く睨み返す。
「久しぶりと言うべきかな?オメガ、そしてDr.バイル。僕は百年前にゼロと共にオメガと戦い、あなたの野望を阻止した…。あの時とほとんど同じ状況だね」
「百年前と同じだと…?」
「ああ、確かにオメガは君のオリジナルボディを使っている。ただ、それだけだ。君の体は確かにコピーだけど……心は紛れもなく君自身、イレギュラーハンターとして戦い続けた、僕達の良く知るゼロだよ……」
「成る程…つまり、ゼロのサイバーエルフがコピーボディに移されて、オリジナルボディにオメガの人格となるサイバーエルフが入れられたんだね」
「そうだよ、オメガはゼロのボディを使っているだけで中身は別物だよ。」
ただし、バイルが奪ったゼロのボディとバイルが与えたオメガの人格の相性は良く、ダークエルフの力を合わせたことでゼロが使っていた以上の力を発揮出来る怪物が誕生したのだ。
オメガの正体をエックスからバラされたバイルは忌々しそうに顔を歪めた。
『ぐ…っ、オメガ!そいつらを…人形共を叩き潰せ!いくらエックスが加わろうが今のお前の敵ではない!!』
「エックス…貴様まで出て来るとは好都合…ここで消してやる…」
妖精戦争の時の屈辱を返す好機と見たオメガはセイバーを握り締める手に力を入れた。
「オメガ…そうだね、僕も僕の宿命との決着をつけよう。」
オメガがエネルギーチャージを終えたバスターショットを構えた。
「ダブルチャージウェーブ!!」
エックスに向けて放たれるダブルチャージショットとソニックブーム。
エックスはそれを上手くジャンプしてかわし、エックスもエネルギーチャージを終えたXバスターを構えた。
「喰らえ!!」
バスターの銃口から巨大なチャージショットが放たれた。
「そのような攻撃!!」
オメガがエックスのチャージショットを横に飛んでかわすが…。
「ダブルチャージショット!!」
もう一発のチャージショットが放たれ、オメガに直撃した。
「ぐっ!?」
「ダブルチャージショットは君だけの専売特許じゃない。寧ろダブルチャージショットは僕の方が先に使い始めたんだ。」
「チッ…!!」
「二人共、今だ!!」
エックスの後ろからゼロとルインがZセイバーとZXセイバーを構えて飛び出し、オメガに向けて振り下ろす。
反応が遅れたオメガの胴体に深い裂傷を刻む。
「滅閃光!!」
構わずオメガは拳を地面に叩き付け、放射状にエネルギー弾を繰り出す。
「下がって!!」
チャージショットを一発撃ち、放たれたエネルギー弾の一部に穴を開ける。
「烈風撃!!」
その穴をゼロが縫うように入り込んでセイバーを構えながらダッシュ突きを繰り出し、オメガに叩き込む。
「エックス!お願い!!」
エネルギーチャージを終えたZXバスターを構え、エックスの二発目のチャージショットと重ねた。
「「クロスチャージショット!!」」
クロスチャージショットがオメガに迫る。
それを見たオメガは咄嗟に両腕を交差させてクロスチャージショットを防御する。
「ぐ…っ」
「オメガが初めて防御に回った…。」
今まで攻勢に出ていたオメガが防御に回り始めたことにハルピュイアは流れがエックス達に向かい始めていることに気付いた。
「はあっ!!」
ゼロはオメガにセイバーを振るい、オメガもセイバーでそれを受け止めると、強引に弾き飛ばそうとするが、それよりも早くエックスとルインが動く。
「レイジングエクスチャージ!!」
「オーバードライブ!!」
それぞれが自己強化能力を発動し、エックスがバスターをルインがセイバーを構えた。
「ダブルチャージショット!!」
「たああああっ!!」
ダブルチャージショットとチャージセイバーの連続攻撃。
レイジングエクスチャージとオーバードライブで強化されているため、流石のオメガが苦痛の表情を浮かべた。
「ブリザードアロー!!」
力が緩んだところをバスターを向け、至近距離から冷気弾を繰り出すと、傷口に冷気弾を受けたために傷口から徐々にオメガの身体が凍り付いていく。
「小賢しい!!」
即座にダークエルフの力を解放し、傷口を塞いでいく。
セイバーを構えてオメガはエックスにダッシュで距離を詰める。
エックスは接近戦用の武装を持っていないため、距離を詰められると対応が出来ない。
勢い良くオメガのセイバーが振り下ろされた。
「エックス!!」
「くっ!!」
咄嗟にバスターに変形させた腕でセイバーを受け止める。
「何!?」
まさか受け止められるとは思わなかったオメガは目を見開く。
エックスの両腕はバスターを放つために他の部位より固いのは知っていたが、百年前よりアーマーの強度が格段に上がっている。
いや、それよりも気になることがオメガにはあった。
「貴様…何故強化アーマーを使わん!?」
イレギュラー戦争、妖精戦争を戦い抜いたエックスには強化アーマーがあることをオメガは知っている。
エックスのコピーであるコピーエックスにさえあったのだ。
それなのに何故、オリジナルのエックスは強化アーマーを使わない?
「このボディに強化アーマーはない」
その言葉にバイルは嘲笑を浮かべた。
『クーックックック…なるほど…そんな出来損ないのボディで挑みに来るとはな。強化アーマーのない貴様など恐れるに足りん!!』
「それはどうかな?僕はアーマーで強くなったんじゃない。僕の強さは心の中にあるんだ!レイジングエクスチャージ!!」
エックスの体から光が吹き出し、その勢いはオメガすら弾き飛ばす。
『ば、馬鹿な…アルティメットアーマー以上の出力だと!?』
強化アーマーがないエックスなどと嘲笑っていたバイルもこの出力には驚愕するしかなかった。
「当たれぇっ!!」
弾き飛ばされたオメガにダブルチャージショットが放たれる。
「舐めるな!!」
セイバーでダブルチャージショットを弾き、こちらに迫るルインにバスターを向けた。
「消えろ!!」
「オーバードライブ!シャドウダッシュ!!」
PXアーマーに換装してオーバードライブを発動。
シャドウダッシュでダブルチャージウェーブをかわすと、十字手裏剣を繰り出す。
手裏剣を受けたオメガの体が削られていき、それを見たゼロはバスターを構えた。
「バーストショット!!」
手裏剣によって削られた箇所に火炎弾がオメガの傷口に炸裂し、アーマーが弾け飛ぶ。
後、一押しだ。
「ゼロ!ルイン!!」
「OK!久々にやるよ!!」
「構えろ」
三人がオメガにバスターの銃口を向ける。
「エネルギー、フルチャージ!!行くよエックス!ゼロ!トリプル…」
「チッ!!……っ!?」
妨害しようとするオメガだが、横からホーミング弾と火炎弾が炸裂し、ソニックブームがオメガの足に傷を付けた。
攻撃が放たれた方向を見遣ると、傷だらけの状態でありながら残った力を振り絞ってオメガに攻撃し、オメガを睨むハルピュイア達の姿があった。
「「「クロスチャージショット!!!」」」
二百年の時を経て、繰り出された三人の合体チャージショット。
オメガは、トリプルクロスチャージショットをまともに喰らったのだった。
サイバー空間では、エックス達の戦いぶりを観戦していた女神がトリプルクロスチャージショットの破壊力に舌を巻いていた。
「凄いや、エックス君がいるだけでゼロ君やルインちゃんだけじゃなくてハルピュイア君達もこんなに強くなるんだ。」
エックスが現れただけでゼロとルインに闘志が蘇り、四天王達もまた攻撃するだけの気力を出せたのだ。
それだけじゃない、さっきまでまるで歯が立たなかったオメガを押し始めているではないか。
「頑張れ、ルインちゃん達」
女神のエールが誰もいないサイバー空間に響き渡る。
「喰らえっ!!」
ルインがオメガにバスターを向けて放たれるチャージショット。
ダークエルフの力で回復しようとしていたオメガはまともに喰らってしまう。
何とか反撃しようとするも、今度はエックスのチャージショットを喰らう。
「「ゼロ!!」」
「ああ」
エネルギーチャージを終えたセイバーを握り締め、オメガに突撃する。
オメガは迎撃しようとするが、エックスがバスターにストックしていた二発目のチャージショットを放ってセイバーを弾き飛ばし、オメガに向けて勢い良くセイバーが振り下ろされた。
「ぐっ!!」
咄嗟に後退したが、かわしきれずにチャージセイバーの衝撃波を受けたオメガは膝をつく。
その時、オメガからダークエルフが出現し、オメガにエネルギーを注いでいく。
「オメガを復活させる気!?そうはさせるもんか!!」
ルインがセイバーを構えてオメガに斬り掛かろうとした時、バイルの声が響き渡る。
『クックック…邪魔せずに見ておけ、世界中の人間とレプリロイドの命を儂が握っていることを忘れるな』
「チッ…」
舌打ちするゼロだが、ここで誤算だったのは傷を押さえながら立ち上がったハルピュイアとオメガにバスターを向けたままのエックスの口から出た言葉だ。
「いや、奴の言っていることはハッタリだ。」
「バイル…いや、オメガがレプリロイド達を操れたのは、オメガの力を抑えるための拘束具としての役割を果たしていたアーマーがあったからだ。そのアーマーを失ったオメガやバイルに大勢のレプリロイド達を操る手段はない。」
そんな虚仮威しは通用しないとばかりにエックスは言い放つ。
『くっ……ダークエルフ!こいつらを…黙らせろ!!』
バイルが叫ぶが、突如ダークエルフの禍々しい光が神々しい物へと変化していく。
「ゼ……ロ………!!」
「何…?ダークエルフが…!?」
「ダークエルフが変化していく…エルピスの時と同じだ!!」
レヴィアタンとルインが変化していくダークエルフに目を見開く。
「どうした…ダークエルフ…!?」
ダークエルフの変化にオメガも気付いたのか、ダークエルフを見上げる。
「エックス様、あれは一体…?」
「ダークエルフに何が起きてんだよ…?」
ハルピュイアもファーブニルもダークエルフの変化に疑問を抱き、エックスに尋ねる。
「恐らく…彼女の…ダークエルフの呪いが解けかけているんだ。」
自分達との死闘の末、オメガにダークエルフとしての力を割き過ぎたためか、ダークエルフの呪いは薄れ始めているのだろう。
「さあ…ダークエルフの力が弱まっているうちに…百年前の決着をつけるんだ…ゼロ!!」
「気が進まないのなら、ゼロ…私がやろうか?」
「いや、俺がやる。あれが俺の本来のボディだと言うのなら…俺が奴を始末しなければならん」
オメガとの死闘でセイバーも限界に達そうとしているが、後一撃さえ保ってくれればいいのだ。
ゼロは一歩一歩、オメガに近寄る。
『止めろゼロ!お前のオリジナルボディだぞ、惜しくはないのか!一生、そんな安っぽい偽物の体で生きていくと言うのか!!』
「君なら出来るさ、本当に大切な物が何なのか。君には、分かっているはずだから…さあ…ゼロ!!」
ゼロはセイバーに力を込め、オメガに向けて振り下ろすと、オメガは一瞬で真っ二つにされ、断末魔の叫びすら上げられずに爆散した。
大規模な爆発にゼロもエックス達も死を覚悟したが、暖かい何かに包まれたような感覚を全員が意識を失う前に感じた。
そして、しばらくして自分達を呼ぶ声がする。
その声に引っ張られるようにルインの意識は覚醒していった。
「ゼロ…ルイン…エックス達も…みんな目を覚まして…!!」
「ん…?あ、あれ?」
ルインが気がつくと自分達はいつの間にかレジスタンスベースにおり、傍らにはシエルやセルヴォ達が、心配そうに自分達を見守っていた。
「ゼロ…!ルイン…!みんなも無事で…良かった…本当に良かった…」
意識が戻ったルイン達にシエルは安堵の表情を浮かべた。
「ゼロさん!ルインさん達も気がついたんですね!!良かったー」
レジスタンス兵は他の仲間に知らせようと走っていく。
「おーい!みんなー!ゼロさん達が起きたぞ。無事だったぞー!やったー!!」
意識が戻ったゼロ達はオメガにやられたダメージもあって多少よろめきながらも立ち上がり、辺りを見回す。
「また、ここに来ることになるとはな…」
ハルピュイアがレジスタンスベースの屋上に咲く花を見渡しながら呟いた。
「ここは……レジスタンスベース……か。一体…誰が……」
「ゼ…ロ…」
「ん?何、この声…?」
「おい、あれ…」
レヴィアタンが声に反応して周囲を見渡し、声の発生源に気付いたファーブニルが上空を指差したことで全員が上空を見上げると、呪いが解けて本来の姿に戻ったダークエルフ…否、マザーエルフがいた。
「ダークエルフ…?いや…お前は……」
「マザーエルフ…あれが本来の彼女の姿なんだ。」
ゼロが彼女の変化に気付き、エックスがあれが本来の彼女の姿であることを説明する。
「彼女が君達をここまで運んでくれたんだ」
セルヴォの言葉に全員がマザーエルフを見上げる。
「…ゼ…ロ…」
「なんて優しくて…暖かな光……」
「あれがマザーエルフ……バイルにかけられた呪いが解けたんだ……あんなに綺麗だったなんて…」
シエルとルインがマザーエルフが放つ光に微笑みを浮かべ、マザーエルフはゼロ達の無事を見届けるとそのまま空へと飛んでいく。
「…追わなくていいのか……」
「やっと自由になれたんだもの…バイルのこともあるけど…今はそっとしておいてあげましょう……」
「エックスも良いの?」
「うん、僕もシエルと同じ意見だよ。百年間も彼女はバイルの呪いに苦しめられていたんだ…自由にさせてあげたい」
ゼロとルインがシエルとエックスに尋ねるが、マザーエルフはしばらくそっとしておくことにした。
シエルは目を閉じる。
「ゼロのこと…ゼロとルインがバイルの研究所に向かった時に…エックスから聞いたわ」
「…そうか」
「あなたが、何も気にしてないって私…知ってるけど……」
「……?」
「あなたの体が例え…コピーであったとしても……あなたの心が、あなたである限り、あなたは、ゼロ…。ゼロ以外…何者でもないわ……」
シエルはそう言って、ゼロを見つめる。
ゼロは無言でシエルの横を通り過ぎると、口をゆっくりと開いた。
「シエル………ありがとう…」
「ゼ、ゼロ……!!」
ゼロは夕日を見ながら静かに呟く。
「俺は俺でしかない…俺は………ゼロだ」
ゼロの呟きに、シエルも笑みを浮かべながら頷き、ゼロの隣に寄り添う。
そして一方で、エックスとルインは見つめ合っていた。
ルインがエックスに触れると、ちゃんとしたレプリロイド特有の感触に口を開いた。
「本当に…エックスなの?本当に?」
「うん、心配かけてごめんね」
「今更だけど、コピーエックスじゃないよね…?」
「酷いな…オメガとの戦いの時にも言ったけど、このボディはある人に造ってもらったんだ。どんな人かは言えない。“造ってやる代わりに口外するな”って」
「そ、そう…その人にお礼を言いたかったけど…」
他にも何かを言おうと思ったのだけれど、その何かは言葉にはならなかった。
短い間に様々なことが起こり過ぎていたし、オメガを倒し、エックスがボディを持って帰ってきた歓喜で存外に胸が詰まっているみたいだ。
「エックス様………本当に…何と言えばいいのか……俺は…」
エックスの復活に感極まったのか、拳で目元を擦るハルピュイアにエックスとルインは一度だけ目線を合わせると、ハルピュイアの肩に手を置いて優しく囁いた。
「「君もよく頑張ったねハルピュイア。お疲れ様」」
「っ…はい…!!」
ファーブニルもレヴィアタンも今回ばかりはからかう気はないのか、三人の姿を静かに見つめていた。
「エックス」
「ん?」
ルインの浮かべる笑みにエックスも笑みを返した。
「お帰り」
そのままエックスの胸に飛び込み、エックスの背中に両腕を回した。
「…ただいま、ルイン」
エックスもルインの背中に両腕を回し、強く抱き締めた。
こうして百年前の決着をつけたゼロ達であった。
後書き
一応エックスってカーネルのサーベルを腕で受け止めているし、イレハンでも格闘してたから徒手空拳でも戦えるんだろうな。
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