学園黙示録ガンサバイバーウォーズ
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第十三話
「どうだい。中々のもんだろ!?」
小室と宮本が親を探しに出発する時がきた。その事を高城の親父さんに伝えて、親父さんはあと二、三日でこの屋敷を脱出する事を伝えた。小室も覚悟を決めていたようであり、必要であれば親の所に残り、期限が過ぎれば自分達を置いて脱出して下さいと伝えたようだ。
歩きでは探すのもきついという事もあり、高城の親父さんは必要となる足を小室達に与えた。
アーゴ水陸両用バギー。最近の呼び方をするならばATV(全地形対応車)という。俺も四輪や六輪タイプのATVは見た事はあるが、流石に八輪タイプのATVは見た事はなかった。ATVは機種によってスポーツタイプとユーティリティタイプの二つに分かれる。スポーツタイプは、道路などが舗装されてない場所でレースをするモトクロスやラリーレイド。ユーティリティタイプは農林業の荷役や巡視用として広く利用されている。
軍では二輪のバイクよりも走破性が強いATVを、オートバイの代わりに軍用として採用している国もある。特に目の前にある八輪タイプのATVは、軍用としての用途が強い。水陸両用タイプは基本的に軍では重要視される。陸や川といった場所で移動制限がない車種は幅広い展開力を好む軍では好まれるからだ。
「こんな軍用モデルのATVを、どうやって入手したんだよ」
「へへ、そこは会長や奥様の手腕のたまものだろうな!」
俺の呟きに反応するようにいい笑顔で笑っている松戸さん。高城の親父さんは俺と違って、軍用モデルのアサルトライフルを自分の力で手に入れた辺りを考えれば、軍用の車両を入手しても可笑しくはないのかな。
まあ、それを言ったら鞠川先生の知り合いも軍用のハンビーを個人入手できる人間であるから、俺の周りはかなり一般人とはかけ離れた異色の人間が大勢いるなと思う。転生してデスバレットのシステムを受け継いで、この世界にいる俺も人の事は言えないだろうが……。
「う、運転できるかな……」
小室は運転できるか不安そうだったが、松戸さんは運転方法はバイクと同じことを伝えて問題ないと言った。小室は、とりあえず操縦性の癖を掴むために試運転を開始する。初めてATVを運転するにしては、かなりの腕前だなと判断する。
実際に軽くドリフトを決めているあたりに、小室は乗り物に対する適正は高い方だと思う。試運転を終えて、その性能に満足する小室だった。
「本当に行くつもりなわけ?」
高城は少し納得がいかない表情で小室に呟く。たった三人で親を探しに行って大丈夫なのかと高城は、小室達に言っているが、小室も自分達の我ままに付き合う必要はないと伝える。それに、最後の別れでもないから気にするなとも付け加える。
「いいわ、行きなさい。おばさまによろしく!」
高城は、小室のお人よしに呆れつつも笑顔で無事に戻ってこいと言う意思表所を出して小室と宮本に言った。
「冴子おねえちゃん……すごい」
ん。ありすちゃんが何がすごいんだ……え?
「さ、冴子さん」
「おお!」
毒島……お前な。いつも狙って登場してないか?動きや易くするために、スカートに切れ目を入れて、足にはプロテクターを装備している。その他にも高城の親父さんから譲り受けた日本刀に、スカートに切れ目を入れたところの腿に、俺が渡した投げナイフのクナイを入れてあるホルダーを装備している。
率直に言うとエロいな。それを示すように男性陣も表情を赤くしているしな。
「なんてーの、その……狙ってない?いつも?」
気持ちは分からなくもないぞ宮本。だけど、毒島の場合は狙ってやるって言うよりは、動きやすいからあのような格好しているだけだからな。まあ所謂、天然というわけだが、狙ってやってないぶん質が悪いわな。いろんな意味で……。
何ともいえない空気になったが、宮本の表情は突然と険しくなった。装備していたモスバーグM590を抱えて走り出した。この突然の事態に、小室も驚きが隠せなかったが、その理由は直ぐに判明した。
「随分とご立派じゃない。紫藤せ・ん・せ・い」
そこには、紫藤がいた。どうやら避難する場所を求めてさまよっていたようでここに来たようだ。宮本が怒りを露わにする理由も分からなくもない。宮本や平野から聞いた話では、アイツは表面上は、確かに模倣的な先生を演じてはいるが、それは自分に取ってプラスとなる生徒に対してだ。
所謂、平野のようにクラスに溶け込めない生徒に対しては紫藤の対応はあまりにもお粗末で、逆にいじめていた生徒に対して褒めるように対応している。強者の生徒に味方して、自分の立場を強固にするあたりで、紫藤は味方も多かったが、逆に言えば敵も多く作るタイプの先生という事だ。
それでも自分に歯向かう事を許さないように、立場を強固にするあたりは、露骨なまでに鼻がきく教師というわけだ。
そして紫藤に銃剣を突き付けて宮本は語る。自分が留年した理由は紫藤によって操作されたものだと。操作された理由は、宮本の親父さんは、紫藤の親父を調査していた。紫藤の親父は政治家であり、政治家にとって表ざたに出来ない資金の出どころを探られていたので、その報復措置で宮本を留年させられたのだ。
その理由を知っている宮本の親父さんは娘である宮本に泣いて謝ったそうだ。どんなことにも動じない尊敬できる父を苦しめた事を許さないと。
「さ、殺人を犯すつもりですか?警察官の娘でありながら、犯罪者になるつもりですか」
「あんたになんか……言われたくないわよ!!」
だろうな。こいつにとっては父親の言われた通りに仕事をこなしただけに過ぎない感覚だろうが、やられた本人からすればたまったものではない。
いつ紫藤を殺しても可笑しくない宮本に、小室は止めようとするが……。
「ならば殺すがいい!」
その場に現れた高城の親父さんの言葉が周りに響く。
「その男の父親とは、いくらか関わりがある!だが、今となっては無意味だ!望むなら殺せ!」
この発言には周りから異議を出すものがいたが、言い終える瞬間に高城の親父さんの鋭い眼光に当てられて、押し黙ってしまう。それから、宮本と紫藤に周りの視線が集中する。
「いいでしょう……殺しなさい。私を殺してその事実に苦しみ続けるがいい!それこそが、教師である私が、生徒のあなたに与えられる最高の教育です!!」
宮本の判断にゆだねられる。小室達は息を飲んで宮本の決定を見守る。なお、タカトさんは万が一に備えて、ありすちゃんに宮本と紫藤のやり取りを見せないように目を隠している。
銃剣を突き付けて数秒がたった後に、銃剣を下げて後ろを向いて冷めた口調で呟いた。
「殺す価値もない」
その言葉に紫藤は、今までないくらいに屈辱を感じている。その証拠に普段は鉄仮面のごとく隠している感情を表情に露わにして怒りの表情を出している。
宮本は殺さない選択を選んだ……なら、こっからは俺が好きにやってもいいよな。
「よう」
「!?」
俺が声をかけた瞬間に怒りの表情を隠さない紫藤が俺を睨みつける。そして俺はハイパワーを取り出して紫藤に銃口を突き付ける。
「バスに居た時にいったよな。これ以上おれたちに関わるなら心臓か眉間にぶち抜くってな。まあ、今まで猿山の大将を気取った奴に、そこまでの理解を求めるのも無理があったか」
更に怒りの表情を強める紫藤だが動くことは出来ない。銃口が目の前にあるからだ。
「大物政治家の息子も、ここまで落ちぶれたら哀れだな。」
俺の言葉に、紫藤はついに我慢が出来なくなり、感情任せに叫び出した。
「ガキのあなたに、私のいったい何がわかるんだ!!」
その叫びは怒りと同時に、自分の悲劇を分かれと言っているようにも聞こえる叫びだった。
「平凡な家庭に育ったあなたに私の苦痛が分かるわけがない!!あなたと違って大物政治家である私の父の威光に逆らえるわけがありません!父が決めたレールを渡らなければ、実の息子である私を躊躇なく見捨てる程の冷徹な男なんですよ!当然ですよ!父は私に期待など何も寄せていませんよ。何せ父が自分の跡を継がせたいと思っているのは、あったこともない父の愛人の息子の自分の弟なんですから!!」
今までにないくらいに感情任せに叫ぶ紫藤に、誰も言葉を挟む事ができない。あの紫藤を恨んでいた宮本や平野でさえ。
「だからあなたに分かるものかといったんです!平凡な家庭に育ち、将来を自由に選択できたアナタ達に私の苦しみが分かるわけがない、いやあってたまるか!!父に決められたルートを辿らなければ、直ぐにでもゴミくず同然になる重圧を受けて育った私とアナタ達とは根本的に違うんですよ!!」
「だからどうした?」
紫藤が俺を睨む。そんなおもちゃが欲しいみたいに泣き叫んでも俺にとっては関係ないんだよ。お前と俺は確かに生活も育ちも根本的に違うのは理解できる。
だけどな……それだけなんだよ。
「自分が悲劇の主人公みたいに言っても俺には関係ないね。だって、ここで殺す事には変わりはないんだからよ」
「た、田中先輩!」
小室が何か後ろで叫んでいるが関係ない。そして俺は引き金を引いて弾丸が発射されると音と同時に、紫藤は眉間に銃弾を食らって倒れた。
その様子に周りの空気も固まるが、その空気を打ち破ったのは小室だ。
「どうしてあんな事を!!」
「あいつに同情でもしたのか小室?」
「だって……!!」
「なあ……お前はどっちの味方なんだ。宮本か、それとも紫藤か」
この言葉に小室は固まる。こいつの良い所は、お人よし過ぎる所だ。何に対しても面倒だと言っても誰に対しても積極的に対応しようとする姿勢だ。
それが良い所もあれば、今のように悪い事もある。
まあ、小室が言いたいこともわかるよ。実際に大勢から見れば、俺の行為など狂った狂人の行為にしか見えないもんな。小室の対応は後にして、今は紫藤の取り巻きの対処だな。
「おい、とっととこの屋敷から消えな。それとも崇拝していた紫藤様の仇討ちでもするか……俺と一戦交えて」
俺の言葉を聞いた瞬間に、紫藤教に染まっていた生徒達は一目散に逃げていった。ふん、差し違える覚悟で仇を討つという考えにまではいかなかったようだ。
「何か言いたいんだろ。言えよ……」
小室達の視線が俺に集中する。まあ、こうなる事を理解してたくせに、あんな行動をとるんだからな。本当に自分でも救えないくらいに、狂ったようだな俺は……。
だが、次の瞬間。本当の闇となる終末の光が降り出した。そしてこの瞬間に、俺達は本当の闇を知る事になる。
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