学園黙示録ガンサバイバーウォーズ
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第十四話
何の前触れもなく一瞬にして空が白一色に染まった。それと同時に屋敷全体で問題が発生した。それは屋敷全体の会話を聞けば直ぐに事態の重要性が分かる。
「何でエンジンがかかんねえんだ!!」
「あなた!あなた!いきなりどうしたの?」
「停電と同時にPCが全滅しました!!」
車のエンジンがかからない。屋敷のPCが起動しない。そして鞠川先生も携帯が壊れたと呟く。それ以外にも屋敷にいる人間も大小様々だが、手に持っていた電子機器が使えない事に疑問に思い始める人間が続出した。
「田中先輩、平野。アンタ達のドットサイトを除いてみて!」
俺と平野の銃にはドットサイトが装着されている。俺と平野は、高城に言われた通りにドットサイトを確認する。
「見事に起動してない」
「僕の方も……」
どうやら何の前触れもなく起きた白一色に染まった光となんか関係があるという事だな。
「やっぱり……」
「おい、沙耶。どういうことだよ」
「EMP攻撃よ」
高城の言った事で、現像の状況が読めた。本当に最悪な事態は理解したよ。
「HANE……高高度核爆発ともいうわ。大気圏上層で核弾頭を爆発させると、ガンマ線が大気分子から電子を弾き飛ばすコンプトン効果が起きる。飛ばされた電子は、地球の磁場に捕まって広範囲へ放出される電磁パルスを発生させる。その効果は、電子装置にとっては致命的!アンテナになりうるものから電磁パルスで集積回路が焼けてしまうから」
高城の説明の通り、EMP攻撃は現代社会にとって致命的だ。現代社会にとって電子機器は必需品といってもいい程に普及している。EMP攻撃が『中国』か『ロシア』のどっちかは知らないが、やっかいな事をしてくれるぜ。
「どこの核保有国が攻撃したかは知らないが、大陸弾道弾に積まれている核は高度によるが、EMPの効果範囲は100キロくらいだって聞いた事がある。」
「つまりいま我々は……」
「そう!電子機器が使えない!」
現代の社会で電子機器によって生活が支えられている。これが機能しなくなると、インフラは完全に全滅してしまう。そのため、EMP攻撃を受けた地域は、文明レベルは一気に急降下して、石器時代に戻ったも同然となる。こんな状況で核を撃つ余裕があるのかよと思うが、この状況だからこそ撃ったんだろうな。大国の意地という名目でな。世界が生者を食らうリビングデッドが世界中に拡散して、都市機能も防衛機能も全滅状態だ。そんな状況で、いつ敵国に襲われるか心配な状況だ。
アメリカやロシアを含めて、大陸弾道弾を保有している国は、仮想敵国に対して照準を固定している。平時でさえいつ撃たれても可笑しくない危機にさらされているのに、こんな状況なら敵国に撃っても追撃される心配もないと思う政府上層部は沢山いるはずだ。こっちが敵国の大陸弾道弾に攻撃されるくらいなら、こっちから先制攻撃しようと思ったんだろうな。大国の威信は、時として麻薬常習犯並みに常軌を逸脱した執念があると聞いたことはあるが、それを実際に実行に移すとはな。
「EMP攻撃によって携帯等の通信手段は全滅だ。そして現代の車は電子制御が基本だし、まず使えないだろうな。」
「田中先輩の言う通りよ。EMP対策を取っているなら別だけど、そんなの政府機関のごく一部だけよ」
「治す方法はあるのか?」
いつのまにか、高城夫妻が俺達の話を聞いていた。
「焼けた部品を変えたら動く車はあるかも。たまたま電波の影響が少なくて壊れてない可能性も……勿論クラシックカーは動くわ」
高城は、あの少ない情報だげで冷静に自分の父親に対して説明してみせた。その対応力には俺達は舌を巻くばかりだ。高城は戦闘力こそ低いが、色々な知識を活用できる的確な判断力がある。それは戦闘力が低くとも補うには十分すぎるものを持っている。
「入ってきたあああ!!」
感心していた時に突然の悲鳴が門のある方向から聞こえた。必死な形相で逃げてくる男性だが、その背後に無数の<奴ら>が、その男性に襲いかかり、屋敷に入る前に食い殺された。
どうやらバリケードの何処かしらが壊れて、そこから無数の<奴ら>が侵入してきたという事だな。
「門を閉じよ!急げ!警備班集合!死人共を中に入れるな!」
「会長!それでは外にいる者たちを見捨てることに!」
「いま閉じねば全てを失う!やれ!」
高城の親父さんの指示は的確だ。その指示には迷いなど微塵も感じない程に力強い指示だった。部下達も外にいる仲間を安否を気にする発言はするが、高城の親父さんの言った意味を理解しているので、直ぐに数人の部下が<奴ら>が侵入する前に、門を閉じようとした。
急いで閉めたのだが、そのどさくさに紛れて一体の<奴ら>が侵入したが、その直後に脳天をぶち抜かれて、その場で<奴ら>は倒れ込む。
そこに悪魔もドン引きするほどに良い笑顔で、サムズアップしてFALを構えている平野がいた。そう、ドットサイトを使えないのに、平野はドットサイトを使わないでヘッドショットを決めたのだ。シモ・ヘイへも感心するほどの見事なまでの射撃だよ。
「すまねえ兄ちゃん!俺が間違ってた!」
引き攣った表情で謝罪する中年男性。それに見事に答えるようにいい笑顔を崩さない平野。
「とてもじゃないが、あの数だ。門が耐えきれる保証がないから直ぐに攻撃態勢をとるぞ。出来る限りの武器を用意するぞ!」
俺の言葉に反応すると同時に全員が武器を持ち始める。そして俺は、直ぐにTAR21に装着してあるドットサイトを取り除いて密集している敵に対して最も効果がある武器を取り出す。それは、世界でもっともメジャーな対人地雷の一種だ。
「M18クレイモア地雷……」
平野の呟きに視線が俺に集中する。うん、わかるよ。またどうしてそんなものを持っているんだと……。ついさっきに購入システムを使って入手しました。説明おわり!
「あれだけの数だ。こいつ一つで対した効果もねえと思うが、ある程度の<奴ら>を戦闘不能にできる筈だ」
「またどうしてそんな……いや、もういいわ。アンタ相手にツッコミを入れるのも疲れてきたから」
「ああ、ツッコまないでくれ……あ、そうだ平野。イザって時に備えて援護よろしく」
「わかりました」
何か言いたそうな高城だが、もう諦めたといった表情であった。そして俺は直ぐに屋敷の門の所に駆け足で向かう。そこにクレイモア地雷を設置して準備は完了だ。
「おっさんたち。早く門から離れろ!地雷の巻き添えになりたいのかよ!!」
「じ、地雷!どうして兄ちゃんがそんなもんを!」
「細かい事は気にしねえで早くこいよ!!」
俺がそうやって逃げるように叫び、おっさん達も巻き添えは御免だと言わんばかりに一斉に駆け足で走り出す。それと同時に門から骨や肉の軋んだり折れたりミンチになる嫌な音が聞こえてくる。起爆コードを抱えながらの走りはきついが、それでも少しでも早く走らならなければ生き残る可能性が低くなると判断して、クレイモア地雷の巻き添えにならないように体を隠せる遮蔽物に身を隠す。
そして門が壊れる音が聞こえた。大勢の<奴ら>が一斉に屋敷の中に集中した。<奴ら>が大勢押し寄せた事により避難民達はパニック起こしている。起爆スイッチを押すと避難民もクレイモア地雷に巻き込んでしまうが、悪いが運がないと諦めてくれ。
「起爆」
ホッチキスと類似している起爆スイッチを押した。ガチャガチャという音が鳴ったと同時に屋敷に爆風が起きた。クレイモアに装着されているC4が爆発したのだ。たった一つの地雷とはいえ、700個の鉄球が面で襲いかかる。密集して行動しているほどその効果は絶大だ。確かに脳天をぶち抜かなければ、人の肉を食らう事を諦めないリビングデッドでも、対人地雷の爆破+鉄球=破壊力には脳天も体も関係なく吹き飛ばす。胴体まで吹っ飛べばさすがの<奴ら>も行動不能だ。
俺は辺りを見回すと、門周辺にいた大勢の<奴ら>がグロテスクな肉片となっている光景に改めてクレイモア地雷の威力に舌を巻いた。なお、クレイモア地雷の最大加害射程が250メートルであるため、それ以上の距離から離れて使用する事が前提だが<奴ら>が、十分に屋敷に入って密集していた所に使用したために、どうやら誤爆は免れたようだ。門の近くにいた避難民を除いてはだが……。
俺は急いで小室達と合流した。小室達が俺に向ける視線が厳しい。理由はわかるよ。いくら大勢の<奴ら>を倒すためとはいえ、避難民を巻き添えにしてクレイモア地雷を使用したんだからな。
「先輩……」
「言いたいことは分かるよ。この危機的状況を抜けだしたら、いくらでも聞いてやるよ」
「小室君。彼の言う通りだ。今はこの状況を乗り越える事を第一と考えよ!」
高城の親父さん。この瞬間は助かるよ……みんなも俺に対して何か言いたいそうな表情だが、クレイモア地雷で大勢の<奴ら>を吹き飛ばして危機を脱したように見えるが、そうではない。俺が吹きとばした<奴ら>は前座で、ここからがメインとなる<奴ら>が押し寄せてくるんだからな。
副官と思われる男性が、高城の親父さんに近づいて報告する。
「会長。二階から確認しました。隣家に配置した者たちはまだ襲われていません。門の修復も可能です!」
この報告を聞いた後の高城の親父さんの行動は早かった。部下達に隣家に向かう為にクレイモア地雷で<奴ら>を大勢吹き飛ばしたが、それでも門の外には多くの<奴ら>がいるなかを中央突破すると命令した。そして生き残った避難民にも戦う気概があるなら戦えと命令をだす。この親父さんの提案に高城は異議を唱えて、家の中に立てこもった方がいいと伝えたが、高城の親父さんは鉄門すら破るほどの力がある<奴ら>相手に立てこもっても無意味だと伝えた。これに関しては高城の親父さんの言った事が正しいと思う。
そして高城の親父さん達の部下は、屋敷の中で既に肉片となっている死体の山を乗り越えるように進む<奴ら>に向けてアサルトライフル、ボルトアクションライフル、拳銃……etc。ありったけの銃器を揃えて、<奴ら>に照準を合わせる。
「撃て!!」
高城の親父さんの号令と共に銃弾は一斉掃射される。基本的に<奴ら>はのろのろと動くだけで、無数の銃弾の雨を容赦なくあびた。これに策という策もない<奴ら>は、バタバタと糸が切れた人形のように倒れていく。それでも、外にいる<奴ら>の数は多く、<奴ら>から肉の間溜まりとなった物の山を越えてくるように次々と進んでくる。
「手榴弾、ダイナマイトを投げよ」
密集している<奴ら>にめがけて手榴弾とダイナマイトを投げるように指示を出す高城の親父さん。次々ととてつもない爆発音が響き渡る。アサルトライフル、短機関銃、拳銃に加えて手榴弾にダイナマイト。そして俺が使った対人地雷のクレイモア。いくら世界が崩壊したとはいえ、この屋敷という狭い空間で戦争が起きている。
銃弾の雨に、爆発のオーケストラに鈍器や刃物のドラムといった戦争という狂気の世界がこの屋敷で繰り広げられていた。
俺は思わず見とれてしまっていた。そんな時に平野から声がかかる。
「先輩!車庫の方に来てください!」
平野の言われた通りに俺は車庫の方に向かう。どうやら車を使って逃げるようだが、ハンビーは確か予算削減でEMP処置はされてないはずだし、俺の出したLMVも購入システムで出したものだからEMP処置があるか分からないからな。
車が使えるとは思わないんだが……。
「ラッキーですよお嬢様。ハンビーの方は完全にお釈迦ですが、LMVの方は対EMP処置されてます!」
どうやら俺が購入したLMVはEMP処置されていたようだ。メカニックの松戸さん曰く、マニアックな持ち主がいるもんだなんとのこと。
「じゃあ、この車動くんですよね」
「ええ。でもダメージを受けているので調整に時間がいります。もう一台の方も見とかないといけませんし」
そこにはATVが置かれていた。いつのまに、こんな車庫に移動していたかは疑問に残るが、今はそんな事を考えてないで自分の役目を忘れないで仕事に移ろう。松戸さんが修理に専念できるように俺達で、この車庫を<奴ら>に奪われないように護衛するのだ。
警戒はしていたが、そこまで多くの<奴ら>が来ることはなかった。数体程度がこの車庫の近くにくるだけであった。どうやらあっちでボカボカと派手にやり合っている高城の親父さん達の方に<奴ら>が集中しているんだろうな。
俺はタカトさんに、壊れたハンビーの中に置いてある荷物をLMVに積む様にお願いした。こんなご時世に仕える荷物は多い方がいいからな。
そしてしばらくしてエンジン音が車庫に響く。
「みんな戻って!」
鞠川先生が皆に戻るように声をかける。
どうやらLMVは本当に問題ないようだ。それにATVも問題なくエンジンがかかり走れるようだ。
「LMVに沢山の荷物を詰め込み過ぎたな」
「だったら僕がバギーの方に乗ります!」
「よし、なら俺が護衛したやるよ」
俺はLMVからセミオートショットガンのサイガ12と回転式グレネードランチャーのアーウェン37を取り出す。
それをATVに詰め込んで、各々が車両に搭乗する。これで全員が乗り込んだ。
「松戸さん。乗ってください!」
「惚れてる女が、みんなと一緒だからね」
レンチを持って男くさい笑みを浮かべた。たく……かっこよすぎるよ松戸さん。どうしてこんなにカッコいい大人が、死んでいくんだろうな。
「沙耶お嬢様お元気で!」
「私はいつも元気よ!」
高城の声と共に互いの車両はアクセルを全開にして<奴ら>を避けるようにして進んでいく。その途中で高城の親父さんがいたが、俺は目にもくれずに回避できない<奴ら>にめがけてサイガ12をぶっ放す。セミオートの為に、モスバーグM590のようなポンプアクションでないため、いちいち銃口を下げないでスライドを引く事もないので、照準の微調整は簡単だ。
そして<奴ら>を避けて門を突破した俺達は、高城の屋敷から脱出したのだ。
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