SAO二次:コラボ―Non-standard arm's(規格外の武器達)―
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chapter1:Ticket to a new world(新たな世界への切符)
前書き
漸く原作組の登場。
では、本編をどうぞ。
場所は東京。
首都圏たる場所の、台東区のとある裏通りにあるカフェバー【ダイシー・カフェ】。
固定客も多いその店を主に切り盛りするのは、見掛けは黒人巨漢で中身は日本人な、“アンドリュー・ギルバート・ミルズ”という名の男性だ。
見掛けこそ怖いが気さくであり、笑うとなかなか味のある顔をしてる事、そして器量も見た目もいい奥さんと共に切り盛りして居る事もあって、固定客も多いのだとか。
内装の雰囲気も一昔前のモダンさを醸し出しており、そんな渋い大人に似合いそうなカフェバー前の通路で、数人の男女が会話を交わしていた。
黒髪で線の細い中性的な少年、バンダナを巻いた男性、頬にそばかすのあるショートヘアの少女、ツインテールの小さな少女、眼鏡をかけたクールな雰囲気を持つ少女。
合計六人が、談笑しながら【ダイシー・カフェ】を目指している。
「本当に良かったですね。無事、エクスキャリバーが手に入りましたしっ」
「俺はメルアド貰ったし!」
「NPCからだけど」
「……良いじゃねぇかよ! 女性は女性だぜ!」
「ま、アンタの事は置いといて。私たちも頑張ったけどさ? でもやっぱ、今回も【黒の剣士】が大活躍だった訳だけど?」
「よしてくれよ。アレはみんなで頑張ったからこそ、手に入った剣だって」
「その通りね。最後は、私の弓がエクスキャリバーを拾い上げた訳だし」
「は、は、ははは……」
「あ、あぁ……詩乃の技術はすごかったな……」
NPCという単語から分かるように、彼等はVRMMO【アルヴヘイム・オンライン】の中でエクスキャリバーと呼ばれるレア武器の取得クエストをクリアしており、どうも今日はレアアイテム入手のちょっとした記念会の目的で訪れているらしい。
しかし、そんなネットゲームの世界の都合でカフェバー一つを使えるのか……実は【ダイシーズ・カフェ】を経営しているアンドリューも彼等のゲーム仲間であり、だからこそ多少は他の客に対する配慮が居るものの、基本気兼ねなく立ち寄れるという訳なのだ。
「エギ……アンドリュー、居るか?」
「おう和人か。いらっしゃい」
うっかりネット上でのアバターネームで呼びかけ、何とか元の名前に戻した少年・和人に、巨漢黒人のアンドリューはニッカリ笑って出迎える。
おじゃましまーすと、声を出して入ろうとした矢先……端っこなれど、他に客が居るのを見て、声は口から出る事無く止まる。
そこに居るのは四人組で、一人は和人と同年代の少年。
一人は彼よりも背の低い少女で、もう一人はアルビノなのか白神と赤眼が目立つ少女。
最後の一人は外見二十代に見え、恐らくはバンダナを巻いた男性と同年代だろう。
和人は首を捻り、ちょっと考えてからカウンターに近付いた。
「彼等が、時間をずらして来て欲しいって言った理由か?」
「ああ。先に予約して貰ってたからな……元より客があっての商売だ。断るなんて言語道断だろ?」
商売で依怙贔屓などしない。
至極当たり前の事を言われ、キリトもその通りだと頷いた。
と―――カウンター席に座る傍ら、彼等の会話が漏れ聞こえてくる。
「あぁバイク、バイクが……チキショウ……ぶっ壊れちまったッス……! だから嫌な予感したんすよ……」
「仕方が有りませんよ、東雲さん。ハイウェイから落下してしまったんですから」
「十数メートル以上落差ありゃ、そらぶっ壊れるよな……」
「ファミレスの後に気付いたですからねー―――はむ」
「……部品、残ってれば何とかなったかもしれないのに…………三代目ぇ……!」
どうも会話内容からするに―――高所落下で買い換えて三代目になったのだろうバイクが壊れてしまった―――こういった経緯が読み取れそうだが、されど日本にハイウェイなどなかった筈だと和人は首を傾げる。
縦しんばあったとしても、何かが落下したのならそれなりにニュースになったり、ネット上で書き込みが見られるだろう。
もしかすると彼等も、何かしらのゲーム内で事故を起こしてしまったのかもしれない。
……様子を見るに真剣に心配しているのは二人で、残る一人の少女は彼の悲しみを余所に、呑気な口調でサンドイッチをパクついていた。
「ちょっと……薄情すぎねぇッスか……ねぇ」
「でもどうしようもないですよ? はむっ――――覆面ボンボン返りです」
「それ言うなら “覆水盆に返らず” だっつーの」
気だるげな所作で少年が少女の顔を指差し、言いつつも腹は減っているのかサンドイッチを齧る。
少女もまた飲み物に手を付けてから、もう一枚目のサンドイッチに食いつき、白髪の少女もそれにならって口に含めば……男性はうなだれた状態からさらに落ち込んで突っ伏す。
「ん……? !? ふぐぁっ!?」
「ふぇ? ……って、はんぐぅーーーっ!!??」
「ちょ、なになに何事!!」
「へ……!?」
(い、一体何なんだ!?)
―――それは行き成りだった。
白髪の少女が口を押さえて震え始め、抑えきれないか若干だが泣きそうな表情に変わった。
それだけに収まらず……もう一人の少女の笑顔が一転して涙目に変わるだけに留まらず、思い切り籠った悲鳴を上げ、悶えながらテーブルをバンバン叩き始めたのだ。
突っ伏している男性は無反応なのだが、それで済まないのが和人達。
彼等は心底驚いて其方へ視線を向けてしまう。
「……クヒヒ……ヒヒッ」
そんな異常な雰囲気の中、尖った髪の少年だけが明らかに別種の声を抑え込み、毛色の違う感情から身体を震わせていた。
見ると彼の手の中には、『幽霊唐辛子ジョロキア使用! 激辛度MAX・マグマソース!!』と書かれているチューブがある。
……よく考えなくても誰がこの状況を引き起こしたのかが、所作と所有物から易々と見て取れる。
しかしこれは確かにバカバカしくはあるものの、小手先の器用さやタイミングの熟知、行動力や単純なスピードが無ければ出来ない芸当でも有る。
が、折角の能力と技術なのに、無駄遣いにも程があるだろう。
「ねぇ……覚悟は宜しいので?」
「あっはぁ……!」
「あ、やっべ……つい癖で―グハァアアアァァァッ!?」
尤も―――その下るべき制裁はすぐさま、女子二人分の力にて物理的に打ち下ろされ、彼はタンコブを作って机に突っ伏す羽目となったのだが。
「はぁ~……ハ、一々落ち込んでられねーッスわ、これじゃあ」
頭をガシガシ掻きながら、東雲と呼ばれていた男性は呆れた声で呟いて、上半身を起こし苦笑いを作って見せた。
「此処で腐っていても仕方ないし、カラオケでも行きましょうや。叫べば気分もスッキリしそうッス」
「久しぶりにいいかもしれませんね」
「私もいっぱい歌うですよー」
「……うがぁ……ちくしょう……い、痛てぇ……!」
言いながら立ちあがって、割り勘だという事など分かり切っているのか、二人程財布を確認して外へ出ていく。
そして三人が出た後に、白髪の少女が『お騒がせしてすみません』と言いたげな表情で、更に軽く会釈をしてから店を出て行った。
色々と濃い四人組だったが為、暫くの間和人やアンドリューらは沈黙し、硬直してしまった。
「な、何だか物凄く目立つ人達でしたね……」
「全員が全員、コレでもかってぐらい印象深かったからねぇ。そりゃ目立つわ」
「まあ兎も角よぉ、これで貸し切りになる訳だろ? アンドリュー」
「おう……つっても《借り》だけどな」
本当に貸し切っている訳ではない為、アンドリューの返しは妥当なものだろう。
それでも雰囲気的には、客がMMO仲間だけで閉められている所為か、和人等にとってはちょっとした貸し切り気分らしかった。
「あんま長々居座るなよ? 書き入れ時じゃあないとはいえ、元々客は来るんだからな」
「分かってるさ。ちょっと場を盛り上がらせてから、会場を移す算段は立ててあるよ」
「ハハハ、元より承知の上か!」
「おうともよ! 俺が素晴らしい話術を発揮して、皆をあっと驚かせ―――」
「遼太郎さん。貴方の場合、話術は話術でも『コメディアン』系の方だと、私は思うけど?」
「なっ!? ひ、ひっでぇなぁ……」
眼鏡をかけた少女から率直に言われ、バンダナを巻いた男性・遼太郎はガックリ肩を落とし、ツインテールの少女は不謹慎ながらも笑いを堪えられないといった感じで、そばかすの少女と共に身体を震わせていた。
「そういや和人。明日菜とお前の妹さんはどうしたんだ?」
「ああ、二人とも用事があるらしくてさ。先に行ってくれって言われたんだ。けど直葉の奴はもうすぐ来る筈……」
思い出しながら和人が呟くのと同時―――――用意された買うベルが鳴り、客の来店を告げる。
其処には肩口で切りそろえた髪を持つ黒髪の少女と、榛色に近い髪色なセミロングヘアの少女が立っていた。
「ごめん……遅くなっちゃったかな?」
「や、お兄ちゃんお待たせっ」
片方は困り気味な笑顔で、片方は片目をつぶって手を振る様を見て、和人もまた軽く手を振り返す。
「ああ、まだ大丈夫だぞ直葉……しかし明日菜も一緒だったとは」
「途中で偶然にも出会ったからさ、一緒に行こうって事になったの!」
それでねぇ……、と黒髪の少女が言いだした事から、其処から話が広がりそうになった雰囲気を感じ取り、そばかす少女が手を上げ制止する。
「取りあえず立ってないで座りなさいよ。始められないじゃない」
「ゴメンゴメン、里香」
明日菜と呼ばれた榛色髪の少女と、直葉というらしき黒髪の少女は、そばかす少女・里香に急かされいそいそと椅子に腰かける。
全員がそろったのを確認したアンドリューは注文を聞き、皆それぞれのドリンクを配り終えると、和人に問い掛けた。
「それで、クエストの詳細について教えて欲しいんだが?」
「おう。じゃあ、何処から話すか…………」
言いながら考え頭の中を探り、和人は印象深かった出来事を順々に語っていく。
曰く、所謂“制限時間”の設定が焦りを生んだ事。
曰く、囚われていたNPCを助けた際、クライン―――遼太郎がある意味輝いていた事。
曰く、魔法防御の高い敵と、物理防御の高い敵に苦戦させられた事。
曰く、最終ボスに一気に追い込まれてピンチになった時……女性であったNPCがいきなり巨大な男性に変身して手助けされ、二重の意味で非常に驚愕した事。
曰く、崩れていくダンジョンの中脱出し、諦めかけていた【エクスキャリバー】だが、落下するソレをシノン―――詩乃の魔法矢が拾い上げてしまった事。
予想外の連続なれどだからこそ楽しいのだと、和人だけでなく皆の、嬉しそうな表情と声色が雄弁に語っていた。
一パーティー限定クエストだという事もあって、難易度設定もそれなり且つコンビネーションを試される場面もあり、それが試練の中にある確かな楽しさを生んだのだろう。
だが……全員が意気揚々と喋っている中、ツインテールの少女が寂しそうに口を開く。
「かなりおっきめのクエストでしたし……アレ以上の難易度の物となると、早々実装はされませんよね」
行き成り何故そんな事を呟いたのかと、一瞬ばかり沈黙が走る。
しかし、里香は何を言いたいのか気付き、物憂げに息を吐いた。
「あ~……なるほどね? 歯ごたえのあるクエストのクリアと、一区切りつけちゃった時に来る喪失感が、一遍に襲いかかっちゃってるわけ」
「確かに何か区切り付けちまった感じだしなぁ。コレからのALOがつまらねぇ、何てのは流石にあり得ねぇだろうけど……」
「ちょっとした“穴”が開いた感じがあるってことね。やる事やり切ってしまって、チャレンジできる要素が無くなったから」
彼等の言う通り、エクスキャリバー入手クエストはALOの中でも、難易度でも重要性でもかなり注目されていたクエストで、今まで様々なクエストに手を付けた上にそれをクリアしてしまったのさから、一種の虚脱感―――俗に言う『燃え尽き症候群』を味わってしまっているらしかった。
遼太郎が語った様に、まだ見ぬ他者とのコミュニケーションや、まだ手を付けて居ないちょっとした要素もあり、コレからのゲームプレイそのものが詰まらなくなる事は無い。
しかし未知なる事、大きな壁への挑戦という、男女問わず引き付けられる魅力が少々削られてしまう事には違いなく、少しの間は詩乃の言ったような『穴』を埋められないだろう。
ちょっとした事でもいい、何か刺激が欲しい。
彼等は共通的に、そういった思いを抱いているのだ。
「フフフ……」
「え……アンドリューさん?」
すると―――そんな風に寂しそうな、或いは苦笑を浮かべる彼らへ、何故だかアンドリューは共感ではなく意味深な笑いを向けてくる。
素っ頓狂な顔をする一同を代表して、明日菜が彼に問い掛けた。
「そう言うと思ってたんだよ。最近怒涛の勢いで色々手を付けて、エクスキャリバー入手クエストまでクリアしちまった。そんなだからお前らも流石にそろそろ、もっと新しい刺激に飢えてくる頃合いじゃあないか……ってな」
「アンドリュー、お前まさか……!」
身を乗り出した和人の言葉をアンドリューは手で留めると、ニヤリと笑ってカウンターの下へ手を伸ばし、其処から一つのソフトを取り出してきた。
それは商品名や注意書きが“シール”で貼られており、その下にはずらっと英語が並んでいる、明らかに日本制ではないゲームタイトル。
差し出されたそれを和人は手に取り、彼の手元へ皆の視線が必然的に集まる。
「“Non-standard arm's” …………『ノン スタンデッド・アームズ』、か?」
「前までは知る人ぞ知るって感じで、有名じゃあなかったが……なんでも少し前から、ユーザーが増え始めているらしいぞ」
外国製で、マイナーなソフトで、しかも人気は少し前まで無かったと来た。
それならば、和人達が知らなかったのも当然だ。
だが和人達の興味は、既にそんな所には無かった。
「パッケージに描かれている絵、“GGO”とはやっぱり違うな」
「向こうは本気で『荒廃した世界をバックに、銃を構える』感じだったけど……コッチは『機械文明とファンタジーを混ぜた背景に、変な武器を構える』って感じね」
「あ、魔法使いっぽい人もいますね……魔法もあるんでしょうか?」
詩乃が今感想を述べた通り、背景も中々なごちゃ混ぜ具合であり、キャラクターの服装もバラバラで現代7にファンタジー2と其の他1の比率。
極めつけの武器はALOにある様な中世風の武器ではなく、かといってGGOの様な鋼鉄一色でもなく、何処となく機械的……なのにツインテール少女の言った様な、最早格好からすぐに魔法使いだと分かるキャラまで居ると、またもやゴッチャゴチャだった。
此処からゲーム内容を想像しろと言われても、約九割ぐらいが返答に困るだろう。
「なぁアンドリューよぉ、こりゃ一体どういったゲームなんだよ?」
「当然教えるさ。俺も最初そう思ったし……だからこそ、そう言うと思ってたからな」
今度は和人の手元から、タブレットを取り出したアンドリューに視線が集まった。
「まず基礎部分だがALOと似通っていてな、レベルの概念は無いが代わりにソードスキルは愚か、魔法もない。戦闘は基本、プレイヤーの運動能力依存で、やっぱりプレイヤースキル重視だな」
「え、魔法もないんですか!? で、でもさっき珪子ちゃんは魔法使いが居るって……!」
明日菜の疑問は尤もで、ツインテール少女・珪子の発見した魔法使いキャラは決して恰好だけのパチモノではなく、ちゃんと“魔法”と思わしき火球を纏っている。
なのに魔法が無いと言われれば、困惑するのが当然だ。
「すまんすまん、言い方が悪かったな……厳密的に言うなら、ALOみたいな魔法は無いってことだ」
エギルが詳しく言うには―――
スキルとして存在するALOの魔法とは違って、『Non-standard arm's』の魔法は武器やアイテムの一種らしく、属性毎や種類毎で効果が変わるので、好みに合うモノを購入してセットする感じになるらしかった。
攻撃魔法にも援護魔法にも其処まで数は用意されておらず、近接武器に銃火器まで存在する世界なのだから優遇されている訳でもない……が、当然詠唱も無いので露骨な隙は出来ず、残弾続く限り連発し放題なのがメリットか。
「なーるほど、そう言う事かよ」
「順々に説明して行くから、まだ魔法についての詳細はよしてくれよ? ……じゃ、次は近接武器の説明に行くぜ」
アンドリューは苦笑し、カウンターに置いていた大型タブレットの画面を指でスライドしながら画像を選ぶと、和人達の前に移動させて画面内を指差した。
「剣も槍も斧もあるけど、ソードスキルが無いのは辛そうだな」
「何か銃火器もあるみたいだしさ、遠距離武器とか魔法の一辺倒になっちゃわないの?」
「それが大丈夫なんだな。……何でも、単純に“剣技”が存在しないだけで、スキルそのものはあるらしい。それぞれ対応した武器に補正を掛けてくれるとさ」
和人と里香の疑問に軽く答えてから、だが……とここで前置きしアンドリューは続ける。
「此処でびっくりなのが攻撃力補正とか命中補正じゃあ無く、動作の補正らしいんだな、これが」
「動作の? って、何よ?」
「いわば簡易的ソードスキルさ。ぶれた剣筋を直したり、不格好な振りを矯正してくれたり……チュートリアルでも対応した武器の、基礎の構えや振りを教えてくれるらしいから、意外と親切なんだよ」
例えば、片手剣に属する武器を振った場合、スキル無しで行うと見た目通りの動作で再現してしまう所を、スキルを装備していれば様になった物まで、ある程度だが自動で補正してくれるというのだ。
しかしスキルレベル上昇による機動補正の恩恵上層は無く、能力ボーナス付属やパッシブスキルが身に付いたり、武器装備レベルが拡張されるだけらしい。
その後語られた詳細で、補正もソードスキルほど便利かつ有能な物ではないらしい事が分かり、更に言えば当然相手も同条件且つ防御や回避を行うので、スキルがあれど楽々と戦闘が運ぶ訳ではないのは言わずもがな。
が、しかし初心者にとってはこの上なく有り難い機能だ。
つまりその基礎の扱いを起点に、プレイヤースキルを高めていくのが、この『Non-standard arm's』の近接戦闘らしかった。
「……なら、銃はどうなっているの?」
「GGOとは違って銃メインじゃねぇから、弾道やダメージ算出の仕組みは複雑じゃあないが、代わりにバレットラインやバレットサークルも出ないらしい」
「まあ、当たり前ね」
「だがこっちもスキルを取ってれば、ちゃんと補正して命中させてくれるらしいぞ。……まあ、出鱈目にやったって勿論当たらねぇし、ちゃんと銃口向けてしっかり当てた方がダメージ高いのは言わずもがな、だけどな」
更に語られた事をまとめると、剣のスキルと違ってスキルレベル上昇に応じ命中補正も上がるようで、加えてスキル値そのものは若干ながら上がり難いのだとか。
だが銃の性能が事態が聞ければよかったのか、詩乃の顔には安堵の色があった。
続いて魔法の更なる詳細や、大まかなルールの説明に入り、ALOとどう違うのかを本格的に語る。
魔法がアイテム扱いだという事はアンドリューも最初に述べていたが、他にも単に投げ放ったり指輪から射出する物もあれば、銃弾代わりに使ったり爆弾のように扱ったりと正に“補助アイテム”な代物も存在し、思った以上に種類があるのだとか。
またPK(プレイヤーキル)に関しては、水晶こそされて居ないだけで、プレイスタイルとしてはありらしい。
が、勿論ルールはある。
PKされた側にデスペナルティーが振り掛るだけでなく、PKした側にもデメリットが掛り……いき過ぎた行いをすれば、物価が高くなったりアイテムドロップテーブルも不遇になり、最悪街中に居るだけでもNPC攻撃されてしまうのだ。
ALOに比べ、意外と良心的な配慮が存在する事を、和人達は理解した。
しかし……未だ拭えない疑問が一つあるか、和人が手を軽く上げた。
「アンドリュー。最初に、少し前から人気が出始めたって言ったよな」
「ああ、言ったな」
「火のない所に煙は立たぬと言うし……何もなしに、ぱっと盛り上がる訳ないからな。人気が出た要因は、一体何なんだ?」
和人の問いにニヤリ、アンドリューはまたも含みのある笑いを見せて、タブレットを持ち上げ画面を繰る。
クリックとスライドを交えて画面をいじる後、そっと溜めを作ってクリックすると、彼は無言でタブレットを皆の前に置いて見せる。
中では動画が再生され始めており、実況者の物らしき大声が日本語で響いて来ていた。
『次の闘いはこれまた注目どころぉ! “Ederika” VS “SolidGuy”! 絶叫張り上げる準備は良いかぁ!?』
砂漠化が進んでいる自然をモチーフにしたステージの上。
水色と鶯色の髪をポニーアップにし、ブレザーの様な服を装備した少女と、ガスマスクを付けDJにも似た灰色の服装で固める、短髪の青年が中央で向き合っている。
「武器は―――女の子の方は小剣だな。大小二つあるみたいだ」
「でも何か光ってるしよぉ……持ち手の形が、一回り小せぇ穴開いた四角っぽくて変じゃねぇか?」
「男の方は形状からして、どうも旋棍みたいね」
「それにしては、結構ゴツいですけどねー……」
所変われば品変わるというが、それにしたって行き過ぎだろうと断言しても良い位に、その造形は彼等の知るモノとはそこそこ離れている。
何度見返そうとも……今までのゲームで見てきた武器群とは如何見ても違う造形のウェポンに、皆一様に首を傾げていた。
そうこしている内に、実況者の喋りが終わったか、もう既に合図を出そうとしている。
『開幕までぇ、3! ……2! ……1!』
一瞬、ほんの刹那の間、会場はシンと静まり返り―――
『―――――begin!!!』
一際鋭い掛け声とともに……ソリッド・ガイが掻き消える。
『ハッ!』
『……』
エーデリカがすぐさま上に跳躍すれば、音を響かせ右のトンファーを突き出している、ソリッド・ガイの姿がある。
そのままクルリ一回転して逆さまになると、“紅く” 光り出したダガーを眼下に向けて何度も振い
……その刃から何と『半月状の火炎』が勢いよく噴き出して、連続でソリッド・ガイに襲いかかった。
「今のって!?」
「多分これが、向こうの魔法……!」
聞くと見るとでは大違いな代物に驚きつつ、今度はみんなソリッド・ガイへと目を向ける。
避けるのか、武器を構えて防ぐのか―――――否、どちらでもない。
『―――っ!!』
一波目を右旋棍で力強く打ち払い、二波目を手首を返して半回転させ、長棒側を前にし再び薙ぎ払い。
三波目は何処からか “炸裂音” を響かせ、短棒側尖端でぶん殴って撃ち砕く。
四、五波目は何とそのままグルグル回転させて、簡易的な円形シールドを作り防ぎきって見せる。
そしてまたも響く炸裂音を合図に、反動無しで勢いよくソリッド・ガイは跳び上がっていった。
『くぅ……!』
悔しそうにしながらも予想の範囲内か、空中戦に備え、片方のダガーを逆手に構えなおすエーデリカ。
しかし……和人達はそれに注視するどころではなかった。
「い、今のって魔法破壊じゃない!?」
「魔法の弾速もソコソコ速かったし……アレを簡単に撃ち落とすなんて……!」
ALOではその煩雑さゆえに、魔法を撃ち落とせるものは現状、和人一人しか存在していない。
そして目の前で繰り出された魔法は、ALOの物にこそ劣るがそれでも中々の速度を持ち……なのにソリッド・ガイは、ごく普通に叩き落として見せた。
魔法の判定点が大きいのだとしても、アソコまで鮮やかに撃ち落とすなど、ALOでは判定の度合いを再現したとしてもまず不可能だろう。
その反応を待っていたのかエギルが意地悪い声で、更に驚愕の要素を追加してくる。
「ああそうだ。言っとくが “銃弾相手” でも同じ事が出来るらしいぞ? それこそ装備揃えて、頑張って練習すりゃあ誰でもな」
「お、お兄ちゃんがGGOでやった反則技持ちが、『Non-standard arm's』にはゴロゴロいるって事!?」
「言ったじゃねぇか、『出鱈目に撃っても当たらねぇ』って」
「だからって、 “叩き落とす” 方だとは普通思いませんよぉ……!」
文句を言いあいながらも闘いは続き、ぶつかり合う度に戦況は変わる。
エーデリカはどうも接近戦が苦手なのか、右のダガーを防がれると同時に蹴られ、それを防御してもソリッド・ガイはトンファーを半回転させてリーチを伸ばし、胸部を強かに打ちすえてくる。
と、エーデリカが後退しかけた瞬間……何を察知したか側宙を決め、空中に居るまま『青色に光る』ダガーから氷の刃を射出する。
ソリッド・ガイが魔法攻撃を右トンファーで流したのと同時、左トンファーから『破裂音』が響いたかと思うと、長棒側の尖端が火花を上げる。
何が起こったか、一瞬和人達は分かりかね―――しかしこの手の“音”に詳しかった詩乃が、真っ先に驚きの声を上げた。
「若しやとは思っていたけど……アンドリューさん、今のってまさか“銃声”……?」
「正解。即ち長い棒から飛び出ていたのは、銃弾の一種ってわけだ」
「いやトンファーに銃撃機能プラスするって、いったいどんなトンデモ武器よ!?」
「どうりであのトンファー、かなりゴツかった訳だ」
皆が茫然とする間にも、ソリッド・ガイは銃撃の反動を利用してタメ無く接近する。
持ち手を長棒の方へ変えると、短棒と持ち手の成すL字型の形状を活かし、大きめなダガーをガッチリと受け止め外させない。
『くぅっ……!!』
『―――――』
その一瞬に右の旋棍と左のダガーでも攻防が行われ……エーデリカによるダガーの一発目を弾くと、ソリッド・ガイは即座に発砲。
すると宛ら『杭打ち機みたく』短棒側が前方に飛び出て、エーデリカの腹を爆速にて穿ち、後方へと吹き飛ばしてしまった。
『まだまだっ!』
『―――!』
叫んび両手のダガーを腰へ打ちつけると、ダガーはその刀身をより一層青く光らせる。
僅かな為を入れてから、エーデリカはまるで舞うが如き優雅な、しかし決して遅くはない動作で後退と攻撃を同時に行い、次々中空へ向けて氷刃を乱射する。
一方のソリッド・ガイもまた、突き進みながら発砲による車線変更で回避し、走行しながらの攻撃で魔法を叩き潰し、徐々に接近していく。
『――――!?』
そして何回目とも知れぬ軌道変更をした途端……唐突にソリッド・ガイのバランスが乱れ、体勢を大きく崩してしまう。
みると、足元は氷の刃の影響で若干凍りついており、それに引っ掛かってこけ掛けてしまったらしい。
ただ闇雲に乱射していた訳ではなく、これをもエーデリカは狙っていたのだろう。
『ハッ……ハアッ!!』
『―――――ッ!!』
気合を込めて放たれた魔法刃を弾けず、物の見事に直撃したソリッド・ガイは、先程の意趣返しとばかりに転がされた。
されど、それも三回転ばかりで、すぐさま発砲によって起き上り再び突貫してくる。
同じ手は食わないとばかりに、そしてダメージを覚悟してでも己の有利なレンジに持ち込もうと、先よりも銃声多く高速で走りよっていく。
『行け行けっ!!』
だがそれもエーデリカにとっては計算の内。
ほんの一瞬の感激を狙って地面へ向け連続で氷の刃を打ち込む。
ソリッド・ガイはまたも引っ掛かってしまい、スピードからか今度は大きく宙を舞う。
『―――――!』
不意にソリッド・ガイは、トンファーの持ち手の先端を打ち合わせた。
焦ったのか、一体何がしたいのかと疑問が生じた―――――その矢先にトンファーが変形し真っ直ぐになって、更にその端がくっ付いき瞬く間に『棍』と化す。
その棍を猛烈な勢いで回転させ、氷の刃を防ぐや追加で発砲。
空中から反動を付けて着地し、今までよりもより離れたレンジから打突一撃。
エーデリカの肩を派手なエフェクトを上げて殴打した。
「……何、アレ……」
「……もう何も言えないわ……」
度重なる変形に、画面内の完成と比例して、最早盛り上がる事すら無くなってしまう。
その後―――――後半部分、エーデリカの奮闘が目覚ましく、乾いた木々を燃やす事で目暗ましをしたりと再び健闘する。
だが、後一歩という所でクリティカルが決まってしまい……結果はソリッド・ガイの勝利となった。
画面内の観客は盛り上がってこそいるものの、和人達は言葉一つ発する事なく、茫然としていた。
「これが、『Non-standard arm's』の人気を後押しした、動画のうち一つだ」
「あぁ、どんな物かってのは理解したさ。無茶苦茶っぽいけど、中々面白そうじゃないか」
「……確かに初見殺しが多すぎで唖然となっちゃったけど、キリト君の言う通りやってはみたいかも」
「私としては、未知なる魔法が気になるけどなぁ」
「というか明らかに武器が複雑そうなんだけど、鍛冶屋とか居るのコレ?」
「……銃って、まだまだいろんな使い方があったのね……」
「刀一本にかける俺としては、何か不安が募るけどよぉ」
己々感想を言い合いながら、最初こそ漂っていた不安感も、徐々に晴れていく。
そして話し終わる頃には……全員の意見は一致していた。
「じゃあ、やっぱり行くのか?」
「何言ってんだよアンドリュー。あんな映像を見せて置いて、やらないって方が無理だろ?」
「ハハハ、まったくだ!」
アンドリューの笑い声に同調したか、皆からも次々笑い声がもれ、満場一致の意見はさらに強固な物へ変わっていく。
「それじゃあ今週土曜。皆で『Non-standard arm's』に集まりましょ」
明日菜の鶴の一声とも言える提案で絞められ、和人達はまだ見ぬ世界に思いをはせて、先に盛り上げなかった分を塵戻そうとするかの如く、二度目の乾杯からはしゃぐのだった。
・
・
・
・
・
「じゃあな、また!」
「ああ、またな」
“カラン、カラン……”
「……………行っちまったか。……さて、客に備えて下準備でも―――」
“カラン、カラン……”
「……おお、いらっしゃい」
「さっき彼等を見かけたけどさ、教えて置いてくれた? 『Non-standard arm's』の事」
「ああばっちりだぜ。最初茫然としてたけどな、最後には盛り上がって参加する気満々だったよ」
「良かったよかった。これだまた数人、ユーザーが増えてくれるな」
「新規が居ないと、やっぱり詰まらないか」
「……そりゃそうさ。玄人や中堅だけじゃあ無く、初々しいプレイヤーもいてこそのMMOだからな」
「そういうなら、“大会” とやらも張り切ってくれよ―――
―――天城来人さんよ」
「ハハハ、勿論だ!」
後書き
クラインの本名はウィキペディアにも書いてある、Web時代の物を使っています。
なので、本編にはまだ出ていませんし、もしかしたら違う可能性もあります。
ご了承をば。
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