白夜
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第三章
「よく描けた白夜だ」
「両親にも言われました」
「そうだろうね、いいよ」
「いいですか」
「よくこんな絵を描けたものだ」
唸る様にしてだ、先生も言うのだった。
「凄いよ」
「はじめて描いた絵で」
「ここまではないよ、というかね」
「と、いうかといいますと」
「どうして描いたのかな」
その絵を描いた動機をだ、先生はアルノルトに尋ねた。
「白夜の絵を」
「はい、この白夜が凄いと思いまして」
外を見た、ここで。見れば外はまだ白夜だ。
「それでなんです」
「白夜が?」
「だっていつも太陽が出ていますよね」
「昼だけじゃなくて夜もね」
「こんなこと北欧だけですし」
「けれどこの街ではね」
先生もこう言うのだった、その白夜について。
「普通だけれど」
「この街では普通でも」
「他の場所では普通じゃない」
「はい、ですから」
それで、というのだ。
「それが凄いと思いまして」
「それで描いたんだ」
「そうでした」
こう話すのだった、先生に。
「こうした場合インスピレーションっていうんですよね」
「そうだよ、何かを見て芸術的なものを受けてね」
「それがインスピレーションですよね」
「つまり君は白夜にインスピレーションを受けたんだね」
「そうなりますよね」
「うん、確かにね」
「皆何でもないって言いますけれど」
この街の人達はだ、先生にしても彼のクラスメイト達にしても。
「僕はその白夜にです」
「そういうことか」
「そうです」
「成程ね、じゃあよかったらね」
「よかったら?」
「君さえよかったらだけれど」
彼の意志に任せるという前提を置いての言葉だった。
「どうかな、美術部にも入ったら」
「美術部にもですか」
「僕が顧問をしているけれどね」
美術の先生が美術部の顧問をしている、ありきたりであるが適材適所と言っていいことである。日本では餅は餅屋と言う。
「そこにも入ったらどうかな」
「美術部にもですか」
「君はバスケ部だったね」
「はい」
「それと掛け持ちでね」
どうかとだ、先生はアルノルトを誘った。
「そうしたらどうかな」
「わかりました、それじゃあ」
「入部してくれるかな」
「そうさせてもらいます」
このことは少しぼんやりとした感じでだ、アルノルトは答えた。
そしてだ、そのうえでだった。
彼は美術部でも活動をはじめた、それでまた白夜の絵を描いたが。
今度はその白夜の下で遊ぶ一組のカップルの絵だった、先生はその絵も見てだった。アルノルトに首を傾げさせて尋ねた。
「その絵は何かな」
「実は前に遊んでいるカップルを見まして」
「白夜の下で?」
「はい、そうでした」
まさにというのだ。
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