進撃の幼子。
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【第1部】
【第1章】幼子世界を超える。
第一町人の名前。
不運?にも立体起動の訓練中、小さな幼子と遭遇してしまったこの男の名はリヴァイ。
巨人の駆逐や壁外での調査を任されている調査兵団の兵士長でした。
一般人がいるはずもない訓練地区で部下たちの訓練を監視中、急遽調査兵団の本部へ呼び出されてしまったため、馬を駆ることなく立体起動装置を使い帰還中にこの幼子と遭遇してしまったのです。
何気なくアンカーを遠くの木へ刺し、通り過ぎた時、子供の泣き声よりも赤子のように幼い声が聞こえたことに不思議に思い何の気無しに引き返してみたところ、座りこんで泣き叫んでいる幼子を見つけたのでした。
リヴァイは自分の顔が絶望的に子供に怖がられることも知っていましたし、母親らしき人物さえ見当たらない中で1対1でこんなにも小さな幼子と向き合うことも今までになかったため、本気で心の中で『どうすりゃええねんっ』という心境でした。
ですが小さな手から受け取った手紙には、その幼子の母親からであろう女性が書いたのだろう、弱々しい文字が並んでいて、その内容はこの幼子の名前と歳、誕生日、『この子をどうかよろしくお願いします』という身勝手な内容が書かれているものだったのです。
瞬時に目の前の『ゆず』という幼子が母親に捨てられたことを悟ったリヴァイは、まさかこんな一般人が来ることもないような場所に我が子を捨てる親がいるなんてと、信じられない気持ちになりました。
壁内だとはいえ、こんな人気のない場所に生まれて数年しか経たない幼子を1人にしたなら、最悪の場合、野犬に襲われるか、珍しい東洋人だと人攫いに会い、売られてしまうか、餓死してしまうか、そうでなくてもこの寒い季節、日が暮れてしまえば一晩も持たずに凍死してしまっていたでしょう。
取り合えず調査兵団本部へ向おうと、先程まで泣いていたからか体温の高い幼子を腕に抱き上げると、立体起動装置で飛び上がったのですが、その恐怖にまたもや大泣きしてしまった幼子にため息が漏れるのを止められませんでした。
調査兵団本部が見えてくると、腕の中にいた柚子が静かになっていることに気づいてリヴァイは目線を自分の腕へ向けましたが、そこには泣き疲れたのかスヤスヤと眠っている穏やかな寝顔が見えます。
「ふっ。眠ってる時は少しは可愛げがあるんだがな。」
ぽつりと呟いたリヴァイでしたが、自分の口元が緩んでいることに気づくとバツが悪そうに『チッ』と舌打ちしました。
そしてなるべく揺らさないように歩き出すと、本部の門へ向かいますが、門兵をしていた兵士が右手を心臓に当てる敬礼をした後、リヴァイの腕の中にいる幼子へ視線を向けて驚いた表情で固まってしまったのを横目で見て、更に苛立ちを感じるのでした。
足早に自分を呼び出した上司がいる団長室へと足を向けたのですが、門兵と同じように通り過ぎる兵士たちは信じられないものを見たという顔をするので、リヴァイの機嫌はどんどん下降していきます。
近くで固まって口が開いたまま呆然とこちらを凝視している兵士には、人を殺せそうな視線を送り、地響きのしそうな声で言いました。
「・・・おい。何見てやがる。さっさとそのだらしのない口を閉じろ。削ぐぞ。」
「は、はいっ。申し訳ありませんっっ!!」
心臓に手を置き、慌てたように敬礼した兵士は、何も見なかったと自分を言い聞かせながら去って行きました。
団長の部屋の前で立ち止まったリヴァイは、そのまま扉を強くノックすると、返事を待たずに入室し、その勢いに驚いた部屋の主である調査兵団の団長、エルヴィンは、執務机の上の書類を見ていた視線を上げます。
「リヴァイ。ああ、驚いた。遅かったね。どうしたんだ?そんな顔して。・・・?その子供は?」
「訓練地区で拾った。」
「訓練地区・・・?あそこは一般人の立ち入りは禁止されてるはずだが。」
「知らん。立体起動で本部へ帰還中にガキだけがいた。・・・捨て子だ。」
リヴァイの最後の言葉にエルヴィンはピクリと眉を動かすと、リヴァイの抱いている幼子に視線を移したのでした。
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