戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二百三十九話 伊賀攻めその五
「我等は退きましょう」
「ここでの戦いはもう終わりです」
「では、ですね」
「ここは去り」
「次の戦いに挑みましょう」
「こうしたことは過去幾らでもあった」
老人の声はこうも言った。
「そうだったな」
「はい、確かに」
「こうしたことは確かにです」
「我々では常でした」
「魔界衆の歴史においては」
こう言うのだった、周りの十二家のそれぞれの主達も。もっと言えば松永以外の者達が。
「そうでしたね」
「退かねばならぬことも多かったです」
「では今度もですな」
「この敗北を怨みに思い」
「忘れずに」
こう話してだ、そしてだった。
彼等は闇の中から何処かへと去った。そして。
他の者達も続いた、彼等はその誰も知らない道に向かいつつ話した。
「今回はな」
「仕方ないな」
「織田信長、思ったよりやる」
「うむ、強い」
「森での戦がわかっておる」
「森の中でも迷いなく鉄砲や弓矢を使うとは」
このことを言い合いつつだった、彼等は下がっていた。
「やりおるわ」
「しかし最後に勝つのは我等よ」
「我等はまだまだおる」
「我等自体はまだまだ健在じゃ」
「しかもあの方々は皆ご健在じゃ」
闇の具足を着たまま言うのだった。
「戦はこれからじゃ」
「我等の力を侮るでないぞ」
「必ず勝つ」
こう口々に言ってだった、彼等はその道に入り消えていった、織田の軍勢は戦い続けていたがそれを尻目に。
その中でだ、織田の兵達は倒した魔界衆の骸を調べてあることがわかった。
「これは傀儡か」
「こちらは式神か」
骸がだ、木の人形や紙になっていたのだ。
「やはりな」
「上様の仰った通りじゃ」
「人でない者が多いわ」
「魔界衆にはな」
「そういえば一向宗との戦の時もな」
「そうであったな」
こう話すのだった、足軽達も。
そして信長もだ、本陣においてその人形や紙が送られてきたのを見て言った。
「やはりな」
「魔界衆の多くはですな」
「こうしたものじゃ」
こう信忠にも言うのだった、傍に控える彼に。
「数は多いがじゃ」
「その実は」
「こうしたものじゃ」
「術で操られているものですか」
「道理で何処からでも出て来てしかも休むことがない筈ですな」
森がかつて自分が戦った時のことを思い出しつつ述べてきた。
「やはり」
「そうじゃな、御も危ういところじゃったな」
「はい、近江では」
「思えばあの時から妙じゃった」
「次から次にと湧いて出て来て」
「しかも休むこともです」
「具足や鉄砲も揃っていましたし」
森はまた言った。
「それを考えますと」
「うむ、全て傀儡だったのじゃ」
そして式神だったというのだ。
「あの者達が操るな」
「そうであったのですな」
「しかし死んだ者は少ない」
肝心の人間は、というのだ。
ページ上へ戻る