とある星の力を使いし者
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第158話
ゆっくりと目を開ける。
麻生は目が覚めると知らない天井が目に入った。
首を横に向けると右腕には点滴が刺さってある。
ベッドサイドモニターには自分の心拍などを測ってある。
消毒液などの薬品が混じった臭い。
ここは病院である事に麻生は気がついた。
まず思い浮かぶのは疑問。
自分はどうやってここに来たのだろうか?
バルドと言う男はどうなったのか?
様々な疑問が浮かぶが何より一番知らなければならない事があった。
愛穂達の安否だ。
杭で刺された腕を動かせるか確認する。
軽く動かすだけで激痛が走るが、動かす分には問題なかった。
足も同様に痛みが走るが動かせる。
胸に張ってあるパッドを手で引っ張って外す。
ベッドサイドモニターは甲高い音を立てているが麻生は無視する。
自分が此処にいるのなら愛穂達も運ばれている可能性はある。
特に愛穂は左腕と右足を切断されてかなり重症だ。
足が震え上手く歩く事ができない。
点滴を引っかけている点滴スタンドに掴みながら個室の病室を出ようとする。
扉の取っ手を掴もうとした所で、扉が開く。
そこには手に包帯などを巻いた桔梗の姿があった。
桔梗は麻生が病室を出ようとしている事に驚きながら、今にも倒れそうな麻生を支える。
「恭介、起きたのね!
どうして寝ていないのよ!」
相当重症である事を分かっているのか、桔梗はきつく麻生に言う。
病室内を歩いただけなのに、苦しそうに息を吐きながら麻生は言う。
「愛穂、は・・・どう、なった・・・
制理は無事、なのか?」
麻生の質問に答えたのは桔梗ではなかった。
「二人とも無事だ。」
桔梗の後ろにはカエル顔の医者がカルテを持って立っていた。
冥土帰しと言う異名を持つ医者だ。
その口調はいつものように飄々としたものではない。
「制服を着た少女なら心身共にかなり疲弊していたからね。
個室を一つ貸してあげて、今は寝ている。
怪我も彼女と同じ様に擦り傷程度だ。」
制理が無事である事を聞いた麻生は少しだけ安堵の息を吐く。
しかし、彼は言葉を続ける。
「問題は黄泉川君の方だね。
左腕と右足を切断されている。
切断された部位は腐敗して接続手術は不可能。
出血も多量で今は集中治療室にいる。」
その言葉を聞いて麻生は唇を強く噛んだ。
守れなかった。
何があっても傷つけさせないと誓ったのに結果はこの様だ。
星の力があれば守れると思っていた。
あれほど毛嫌いしていた能力だったが彼女達を守る事ができる。
その点だけは感謝していた。
麻生は自分がどれほど弱い人間である事を再確認する。
井の中の蛙である事を。
知らずに慢心していた事を。
悔しさと憎しみが麻生を襲う。
バルドに対してではない。
自分に対してだ。
「君の方も結構重症だ。
両手両足を貫いた穴と右胸に空いた穴。
本来なら死んでもおかしくない傷だけどね。
あまり使いたくはなかったが、少し特殊な治療方法をさせて貰ったよ。」
自分の右手の掌を見る。
穴が空いている感触はしない。
どんな治療をしたのかは分からないが、完全ではないが穴が塞がったようだ。
「看護婦の一人がストレッチャーを入り口に急いで運ぶ所を見てね。
追い駆けてみると君が病院の玄関で倒れていたんだよ。
そのまま緊急オペをして今に至る訳だ。」
彼はカルテを見ながら答える。
時間はあれから数時間しか立っていないらしい。
バルドに頭を浸食された時以降の記憶がない。
だが、そんな事はもうどうでも良かった。
麻生の頭には守れなかった、という事実しかない。
支えている桔梗から離れてフラフラ、とおぼつかない足取りで病室を出て行く。
「どこに行くの?」
桔梗が後ろから声をかける。
それを無視して麻生は歩く。
桔梗は追いかけて無理やりにでも病室に戻そうとしたが冥土帰しが止める。
「一人にしてあげなさい。」
「でも・・・・」
「彼なら大丈夫だ。」
何を根拠にしているのか彼は力強く頷いた。
桔梗はそれを見て麻生の方に視線を移す。
彼はゆっくりと階段を登って行って見えなくなった。
数十分かけて麻生は屋上に辿り着いた。
未だに雨は降っていた。
傘も差さずに麻生は雨の中屋上を歩いて行く。
落下防止用の腰の位置まである鉄柵の所まで歩く。
点滴スタンドから手を放して、その鉄柵を掴む。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
喉の奥から獣のような雄叫びを言い放つ。
その叫びは夜の学園都市に木霊していった。
そして、強く鉄柵を叩く。
叩いた衝撃で激痛が走ったがそれでも何度も叩く。
掌の穴ができた傷口が開いたのか包帯が血で滲んでくるが何度も叩く。
まるで自分に罰を与えているようだった。
何十回叩いただろうか。
激しく息を切らしながら麻生は雨雲を強く睨みつける。
「ダゴン秘密教団。」
自分の敵がどれほど強大なのか身をもって知った。
何も分かっていない。
この星の事も。
自分自身も。
今まで少し気にしている程度だった問題が大きくなってきた。
知らなければならない。
この力を与えられた意味。
自分の事を星の守護者と呼ばれる意味。
何より強くならなければならない。
大切な人を守る為に。
麻生は桔梗が屋上に上がってくるまでずっと雨の中屋上で佇んでいた。
麻生の容体を纏めたカルテに健診結果を書き記す。
冥土帰しは先程、集中治療室で愛穂の容体を確かめた結果をカルテに追加記入していく。
愛穂の容体がギリギリだった。
切断されたのも重症だが出血が特に多かった。
桔梗が適切に処置しなければ死んでいたかもしれない。
どんな病気・負傷であっても治せる彼だが死という結果だけは覆す事はできない。
彼は必要記入を書いてから机の電話機に手を伸ばす。
外線ボタンを押してから、シャープを数回叩く。
乱暴なようでいて、一定のリズムがあった。
その後に、特殊な番号を次々と打ち込んでいく。
受話器に耳を当てると、普通の呼び出し音は聞こえなかった。
ワンコールもなく、即座に相手へ繋がった。
「おはよう、アレイスター。
さんざん好き勝手に暴れた気分はどうかな?」
『とてもとても。
ようやく第二段階へシフトできた、という所だ。
この程度で好き勝手などと呼ぶのはまだはや」
「一つ言わせてもらおう。」
音質はとてもクリアで、同じ電話回線を使っているかと疑問を抱くほどだった。
アレイスターの言葉を遮って彼は言う。
彼の声は今までと決定的に違った。
別に声が変わった訳ではない。
その声には言い様のない何かがあった。
「彼らを利用しようとしているのなら早々に手を切った方が良い。」
『ダゴン秘密教団の事かな。』
「君は何も分かっていない。
彼らは僕達の頭では理解できない位置にいる事を。」
『そんな事は分かっている。
だが、私は引けない所まで来ている。』
「そんな言葉が出ている時点では何も分かっていない。
学園都市の闇何かでは比べ物にならない何かを持っている。」
『まるで、行ってみた事があるみたいな言い方だな。』
アレイスターの言葉を聞いて彼は一瞬だけ黙った。
そして、口を開けて言う。
「僕は元ダゴン秘密教団所属だ。」
アレイスターは彼の言葉を聞いて何も言い返してこない。
それでも言葉を続ける。
「僕がこれほどまでに治療に優れているのは彼らの力があったからだ。
あまり話したくない過去だから多くは語るつもりはない。
でも、これだけは言わせてもらう。
君も僕の患者だからね、忠告くらいはさせてもらう。
彼らを甘く見るな。
彼らの闇はこの宇宙のように果てしなく深く、光が一切届かない地獄そのものだ。
僕が言いたかったのはそれだけだ。」
彼はそれだけを言い終えるとアレイスターの言葉を聞かずに電話を切る。
ふぅ~、と大きく息を吐いて窓の外を見る。
依然と止まない雨の中、静かに思う。
(バルド、君は一体どこに向かっている?)
とある個室。
その部屋には何もなかった。
部屋はそれほど広くはなく、四畳半くらいだ。
中央に木製の椅子が置いており、そこには一人の男が座っている。
ダゴン秘密教団教皇、バルド=ロメルトは思い出し笑いでもしているのか静かに笑みを浮かべている。
部屋には上下左右にあらゆる魔方陣が描かれている。
その部屋の扉がゆっくりと開かれる。
入ってきたのは黒いメガネをかけて、服装は足首まである黒いワンピースを着て下には白いシャツ、上半身を紫のストールが覆っている。
髪色は黒色でショートヘヤー。
ダゴン秘密教団の幹部の一人、フレア=アルファンヌスだ。
手には花柄のティーカップとポットが持たれていた。
「一杯どうですか?
良いハーブが手に入ったので。」
「いただこう。」
フレアがにっこりと笑みを浮かべてティーカップに紅茶を注ぐ。
その行動に一切無駄がない。
注いだカップを受け取りバルドは口に含む。
「良い出来だな。」
「ありがとうございます。
ところでバルド様、何か良い事でもありましたか?」
「分かるか?」
「ええ、それは。
こんなに嬉しそうなバルド様は始めて見ます。」
「一番会いたかった人に会えてな。
フレアよ、幹部達に星の調査を始めからやり直させてくれ。」
突然の命令にフレアは少しだけ首を傾げる。
その疑問にバルドは答える。
「星の力はほとんどなくなっていると思っていたが、案外そうでもないらしい。
もう一度調べ直す必要がある。」
「了解いたしました。
すぐに知らせてきます。」
一礼をしてフレアは部屋を出て行く。
バルドはティーカップに入っている紅茶を飲みながら呟く。
「ユウナよ、これから楽しくなりそうだな。」
後書き
ようやく0930事件が終わりました。
次はSS編です。
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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