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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第157話

 
前書き
一週間ほど更新を停止してしまって申し訳ないです。
風邪をひいておりました。皆さんも気をつけてください。 

 
両手が杭の呪縛で封じられて動かせないはずだ。
なのに、麻生の両手は何事も無いように動き自分の顔を掴んでいるバルドの手を掴む。

「ッ!?」

息を呑んだ。
自分の手から何かが来ると、と直感したバルドはすぐさま麻生の手を払って距離をとる。
麻生の魂に干渉して星の真理を知る一歩手前まで来た。
それなのに誰かに邪魔をされた。
バルドはその時に聞こえた声と顔を知っている。
頭の中で疑問が膨れ上がる。
今の麻生はバルドの魔術により手足がまともに使う事はできない。
しかし、今は両手は力なく下がっていて足も弱々しい雰囲気を感じるが確かに立っている。
何より、麻生が掴んだバルドの手には星の力を送り込まれた。
バルドにとって星の力は身体を蝕む猛毒の様なもの。
自分の手を確認すると真っ白になっていて崩れかけている。
あのままもう少し手を払うのが遅かったら浸食は身体の半分はいっていたと、バルドは考える。
真っ白になった手を切断すると、切断面から肉を練り込むような音と同時に新しい手が生えてくる。
その調子を確かめながら麻生に視線を送る。
さっきような余裕は感じられない。
むしろ、今の麻生に警戒をしている。
その時だった。
手足を貫いていた杭が音を立てて木端微塵に砕け散った。
麻生は身じろぎ一つしていない。
杭が勝手に砕けたように見えた。
この男は本当に麻生恭介か?
バルドはそう思わざるを得ない。
あの杭は今の麻生恭介の力では破壊する事はできない。
今までの部下の報告や戦闘レベルを把握して作った。
なのに破壊された。
疑問がさらに膨れ上がるが次の瞬間、疑問が解消される。
少し俯いている麻生の顔が上がり麻生の視線とバルドの視線がぶつかり合う。
目を合わせた瞬間だった。
白昼夢のような現象がバルドを襲った。
フラッシュバックのように昔の記憶を思い出す。
それは封印した過去。
バルドにとってある条件の元に復活するように封じ込めた記憶。
疑問が確信へと変わる。
バルドは今までにないくらいの笑顔を浮かべ、両手を広げる。
まるでようやく再開した恋人を向かい入れるような、そんな感じだ。

「ようやく・・・・」

その言葉を発しながら噛み締める。

「ようやく、再会できたな。
初代(・・)星の守護者、ユウナッ!!」

バルドは大きな声をあげて麻生に言い放つ。
確かにその場にいるのは麻生恭介だ。
見た目も服装も何一つ外見は変わっていない。
バルドの言葉を全く気にすることなく、『麻生』は背中を向ける。
足の向かう先は気絶している愛穂と何とか血を止めようとしている桔梗の所だ。
その背中は隙があったがバルドは無視している。
再開をしたことで心から溢れる感激に身を委ねている。
『麻生』が近づいてくるが必死に血を止めようとしている桔梗は気がつかない。
しゃがみ込んで、愛穂の肩に刺さっている杭を握り締める。
そこでようやく『麻生』の存在に気がつく。

「恭介・・・」

言葉をかけて『麻生』の顔を見た瞬間だった。
何か決定的な違和感を感じた。
そこにいるのは『麻生』である事に間違いはない。
なのにいつもの『麻生』とは全く別の雰囲気を感じる。
これは長年幼い頃から見ている桔梗だからこそ分かったのかも知れない。
肩に刺さっている杭を握り締めた『麻生』はそれを強引に引き抜いた。
それに生じた強烈な痛みに気絶していた愛穂の意識は目覚める。
そして、悲痛な叫び声をあげる。

「な、何をしているのよ!!」

正気とも思えない行動に愛穂は『麻生』に強く言い放つ。
それでも『麻生』は表情を変えずに言う。

「この杭があれば血を止める事ができません。」

声も『麻生』の声なのだが口調など何かが違う。
桔梗が疑問に思っていると、『麻生』は立ち上がる。

「血は止めました。
 早くここから離れて下さい。
 車はそこに用意しておきました。」

『麻生』が指差す方に視線を向けると、白い四人乗りのワゴン車があった。
最初にはなかった物だ。
麻生は言葉を続ける。

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の所に向かってください。
 彼なら彼女のなくなった腕と足の代わりを作ってくれるはずです。
 後、そこの女性も一緒に。」

呆然と濡れた路面に座っている制理の事を言う。
『麻生』は制理に近づきしゃがむ。

「しっかりしてください。」

肩に触れるとそこではっ、と意識が戻る。
あまりに常軌を逸した現象を前に本能が逃避していたのだろう。

「彼女達と一緒にあの車へ。」

それだけを言って立ち上がり、バルドの方に向かって歩き出す。
桔梗は愛穂の容体を考え、ここを離れる事にする。
だが、その前に聞きたい事があった。

「貴方、一体誰?
 その子の身体を使って何をするつもり。」

その言葉を聞いて『麻生』は足を止める。
振り返り、少しだけ笑みを浮かべる。
その笑みも麻生ではない誰かの笑みのように見えた。

「私はユウナ。
 この子の先輩といった所ですよ。
 大丈夫、あの男を何とかしてからすぐにそちらに向かいますから。」

そう言って再び前を向きバルドの方に歩いて向かう。
まだ聞きたい事はあったが愛穂の苦しそうな声を聞いて断念する。
制理を呼んで愛穂を車まで運ぶのを手伝ってもらう。
現状を再び理解した制理は身体は自然と震えている。
この場から離れたい気持ちで一杯だったが、それでも『麻生』が心配になって視線を向ける。
『麻生』の後ろ姿を見た時、制理の視界に映ったのは麻生の姿ではなかった。
腰まで伸びた黒い髪を首の辺りで纏めてある。
服装は制服ではなく蒼いコートを着ていて複雑な紋章が描かれている。
手には黒の革のグローブがつけられている。

「えっ?」

思わず声が洩れる。

「どうしたの?」

桔梗が心配そうな声をかけてくる。
それに気をとられて『麻生』から視線を外す。
もう一度『麻生』の後ろ姿に視線を戻すとさっきとは違い『麻生』が歩いている。
混乱しそうになったが、桔梗が早く移動しようという言葉を聞いて考えを中断する。
車に乗り込み、愛穂を後部座席に寝かせるように乗せて桔梗が運転席に乗る。
制理は助手席に乗り、最後にサイドミラーで後ろを確認した。
そこには『麻生』ではなくさっきの黒い髪の人物が映っていた。





ゆっくりと近づく。
バルドとの距離はお互いに一〇メートルくらいだろうか。
未だに再会が嬉しいのかその言葉では言い表せない感情に身を委ねている。
『麻生』は声をかけることなく、一瞬で距離を詰めて左手を握り締めバルドに向けて一気に殴りにかかる
拳は地面に突き刺さり、その衝撃波は周囲のアスファルトにひびを入れる。
手応えはない。

「こちらが再開を噛み締めているのにいきなり殴りかかるとはな。」

声は前から聞こえた。
突き刺さった拳を抜き、前を見ると五メートル先にバルドが立っている。

「貴方相手に言葉とは必要だと思う?」

桔梗達と話していたような丁寧な口調はどこへ行ったのか、乱暴な言葉遣いで話す。
それがまた嬉しいのか笑顔を浮かべたまま言う。

「何十年ぶりの再会だ、お互いに祝おうではないか。」

「私は会いたくなかった。
 貴方がそっち側に堕ちて行った姿なんて見たくなかった。」

「お前は何も知らない。
 この数十年の私の苦しみも何もな。」

だが、と言葉を区切ってバルドは言葉を続ける。

「お前との再会は今のこの時まで待ち望んでいた。
 あらゆる魔術を研究してお前の身体を完璧に構築させた。
 しかし、魂だけは再現は出来なかった。
 私の記憶を元に作ってもそれはユウナではない。
 だからこそ、星から魂の情報を手に入れる必要があった。
 まさか、お前の魂がその形のまま二代目にあったのは嬉しい誤算だったがな。」

「そんな事の為にこの子や関係のない人々を殺してきたのね。
 ダゴン秘密教団だなんて組織も作って、本当にくだらないわ。」

心底呆れたような顔をする。
その時だった。
バルドは高らかに笑い出したのは。

「何が可笑しいのよ。」

「いやな、その身体に入っている間に頭の方が劣ってしまったのかと思ってな。」

「貴方、一体何を考えているの。」

何か不安を感じた。
この男は何を考えているのか全く分からなくなってきた。

「お前の魂の復元は私の目的ではあるが、あくまで星を掌握するためのついでに過ぎない。
 最も最優先すべき事はある。
 この星の掌握などそのスタートに過ぎない。
 このクトルゥフの魔術や神話生物などそれを利用するための道具。
 私の目的はその先にあるのだよ。」

本能が警報を鳴らしている。
この男は今ここで殺しておかないとまずい事になる。
この星だけの問題ではなくなる。
自然と拳を握り締めていた。
腕や足や右胸は杭によって穴が空いているが能力で血流操作をしている為、出血による死はない。
全身に痛みが走るがそんなのは関係ない。

「貴方は危険よ。
 初代星の守護者として貴方を殺すわ。」

五メートルの距離など関係ない。
気がつけば目の前に移動して拳をバルドの顔面に向けて突き出す。
『麻生』が拳を振うがバルドの身体は虚空へ消え、拳は空を切る。
すると、空から無数の剣が降り注いでくる。
『麻生』は拳を空に突き上げると両手から蒼い光が円状に広がる。
それは盾となって、剣を妨げる。

「絶対貫通を想定したのだが、流石は星の力と言えるな。」

バルドはまた五メートル前に立っている。
手にはブリジットから手に入れたカーナックの書を持っている。

「お前に会えたのは嬉しい誤算だった。
 それだけで今日は来た意味はあった。」

バルドは背中を向ける。

「お前が存在するという事はまだ星の意思は存在しているという事。
 再び対策を考えねばな。」

その言葉を察するにこの場から離脱するのは明らかだった。

「逃がすと思う?」

「逃がさるを得ないさ。」

その時、バルドと『麻生』の間を埋めるように空から何かが舞い降りた。
その姿はゾウアザラシよりも大きい、太った白い蛆の様な姿で、半ばとぐろを巻く体の体節程の太さの尾を持つ。
体の前端の白い円板にある顔の中央には、開閉を繰り返す口裂が醜く開き、浅い鼻孔の上にある、左右迫った眼窩からは血の様に紅い玉が次々とこぼれ落ちている。
外宇宙からイイーキルスに乗ってやって来た異次元生物ルリム・シャイコースだ。
ルリム・シャイコースは大きく口を開ける。
舌打ちをして、『麻生』は左手を強く握りしめルリム・シャイコースの胴体に一撃を与える。
何かを叫ぼうとしたがタッチ差で『麻生』の一撃が早く、左手から莫大な星の力を注ぎ込まれ、内側から一気に破裂する。
その際に血の玉が舞い上がり、雨となって降り注ぐ。
全身が血で染まるが『麻生』は気にする様子は全くない。
バルドの姿はどこにもなかった。
あの一瞬でどこかに行ってしまったのだろう。
追い駆けたい衝動に駆られるが、自分の身体の傷を確認して息を吐く。

「彼に診て貰わないとね。」

独り言を呟いて、踵を返す。
目指すはカエル顔をの医者の病院。
『麻生』は能力を使って向かうのだった。 
 

 
後書き
風邪には用心を。

感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
 
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