とある星の力を使いし者
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第159話
全身がずぶ濡れになっても麻生は屋上に佇んでいた。
三〇分くらいして桔梗が屋上にやってきて、ずぶ濡れの麻生を見て驚きながら病室に連れ戻した。
さらに手に巻いている包帯が真っ赤に染まっているのを見て、桔梗は麻生に説教をした。
病院服を着替えて、包帯を新しいものに巻き直す。
気が済むまで説教をした桔梗は少しだけ間を開けて聞く。
「恭介、あの時追って来ていた化け物や赤いフードを着ていた男達の事なんだけど。
事情を説明してくれない?」
ベットに座っている麻生の視線に合わせるように桔梗はしゃがみ込む。
その眼を見て麻生は分かった。
興味本意や好奇心で聞いているのではない事を。
麻生があんな危険な出来事に巻き込まれているのを知ってしまった。
自分も体験したのだ、黙って見過ごす訳にはいかない。
話だけでも聞いておきたかった。
新しく包帯を巻き直した麻生の手に自分の手を重ねる。
麻生は何かを決意したのか、小さくため息を吐いて言う。
「あれだけ巻き込まれたんだ。
気にするなって言うのが無理な話だな。」
「それじゃあ・・・」
「俺の知っている事の範囲で教える。
でも、これは愛穂や制理にも話さないといけない事だ。
愛穂が退院してからで構わないか?」
愛穂が目を覚まして、退院するのには時間がかかるだろう。
それでも麻生が答えると言ってくれた。
その事だけでも分かった桔梗は頷く。
桔梗は一応、検査の為この病院に一日だけ入院する事になったらしい。
冥土帰しがそれを進めたらしい。
ベットに戻った麻生に安静にして居るように、と桔梗は言って病室を出た。
しばらくはベットで安静していた。
しかし、気になる事を思い出したので点滴スタンドを片手に病室を出る。
廊下を歩いている看護婦にある病人がいるであろう病室の場所を聞く。
場所を教えて貰い、そこに向かう。
そこは集中治療室と書かれた病室だった。
ガラスの窓の奥にはベットに寝ている愛穂の姿があった。
大量の機械に囲まれており、その表情はうなされているように苦しそうだった。
麻生はそのガラスを軽く殴りつける。
こうして愛穂がベットに横たわっているのを見ると余計に自分に腹が立ってきた。
その時だった。
「麻生・・・」
声のする方に視線を向ける。
そこには一部包帯を巻いた制理が立っていた。
制理は麻生の隣まで移動して、ガラスの窓の奥にいる愛穂の姿を見る。
「黄泉川先生、大丈夫なの?」
麻生や制理が通っている学校の体育の先生だというのは知っている。
何よりあの事件で一緒に行動を共にしていたのだ。
安否くらいは気になったのだろう。
制理の言葉に麻生は答える。
「此処の医者は優秀だ。
だから、大丈夫だ。
それより、お前の方こそ大丈夫なのか?」
「麻生の怪我に比べれば大丈夫。」
いつもの学校のように棘のある声ではなかった。
麻生の身体を本当に心配するような、そんな優しさが籠っている。
ふと、会話がなくなり二人の間に沈黙が包む。
沈黙を破ったのは制理だった。
意を決したような声で言う。
「き、恭介・・・」
いつもは麻生と呼んでいる制理が下の名前で麻生を呼んだ。
少し驚きながら麻生は制理の方に身体を向ける。
制理は少し恥ずかしいのか顔が赤くなっていた。
「私、思い出したの。
子供の頃に恭介が私を助けてくれたことを。
一日だけだけど一緒に遊んだこと。
どうして、あの公園で会った時に私の質問に嘘をついたの?」
あの少年が麻生である事を思い出した制理が一番聞きたい事を聞く。
制理の質問に麻生はすぐには答えなかった。
それでも制理は麻生の言葉を待っている。
「自分でも分からない。
どうして嘘をついたのか何てな。」
あの時に不思議に思った事を正直に話す。
その言葉を聞いて制理は一歩麻生に近づいて、包帯を巻いている手を握る。
「でも、私は思い出した。
あの時の思いも全部。
それが言いたかっただけだから。
早く部屋に戻って安静にしてなさいよ。」
未だに顔を赤くしながら制理は去って行く。
麻生は制理が握っていた手を握り締める。
もうあんな思いはさせない。
もう一度強く誓う。
彼女もまた麻生の大事な人だから。
少しだけ愛穂を見つめていた麻生だが、医者に病室に戻るように言われ戻る。
そのままベットに寝転がり寝るのだった。
次の日。
九時ごろに目が覚めた麻生。
目が覚めると同時に部屋がノックされる。
入ってきたのか看護師だった。
手には病院食が持たれている。
看護婦は麻生の容体や点滴などをチェックして、病院食を置いて部屋を出て行った。
メニューはご飯にみそ汁、きゅうりの漬物に焼き鮭。
牛乳に大根の煮つけなどシンプルなものだ。
焼き鮭を口に運ぶが味はお世辞にもうまいとは言えない。
そもそも病院食は一般の食事と異なり、各々の病院で、個々の入院患者の病状や体質が処方される。
歯応えのあるものを避け、味付けが薄く、香辛料などの刺激物を控える傾向があり、さらには 集中調理されるため配送に時間がかかり、患者の口に入る頃には味が損なわれていることも多い。
それでも麻生は淡々と口に料理を運び、綺麗に食べ終わる。
これからどうしようかと、考えた時だった。
ノックもなしで扉が開く。
そこには桔梗が息を切らして立っていた。
「どうした?」
麻生が聞くと桔梗は言う。
「愛穂が・・・愛穂が目を覚ましたの。」
「本当か!?」
その言葉を聞いて麻生もベットから出る。
点滴スタンドを掴んで急いで集中治療室に向かう。
身体が全快ではないので早く走る事ができない。
集中治療室に向かうと愛穂は冥土帰しの健診を受けていた。
俺達がやってきた事に気がついたのか視線を麻生達に向ける。
桔梗と麻生は集中治療室に入ると中には制理もいた。
冥土帰しは健診を終えたのか長くならないようにね?、と一言告げて出て行く。
「愛穂、身体は・・・」
麻生がそう言うと愛穂は無くなった左腕と右足を軽く動かす。
「見ての通りじゃん。」
彼女は麻生が深く思いつめないように冗談めいた感じ言う。
それでも麻生は俯いてしまう。
「すまなかった。
俺がもっとしっかりしていればお前は・・・・」
「恭介のせいじゃないじゃん。
ウチは恭介を助けたかったから行動してその結果がこれじゃん。
だから、後悔なんてしないよ。」
愛穂はそう言うが麻生は依然と俯いたままだ。
それを見かねて桔梗がベットの傍に近づいて言う。
「思っていた以上に元気ね。」
「桔梗も吹寄も元気そうで何よりじゃん。」
「先生、本当にあの時はありがとうございました。」
改めて制理は深く頭を下げる。
あの時、愛穂達が制理を助けなかったら制理は死んでいただろう。
桔梗には昨日の内にお礼を言っていた。
「気にしなくていいじゃん。
ウチは警備員であんた達の教師じゃん。
助けるのは当たり前じゃん。」
「でも、その腕と足じゃあ警備員の仕事は・・・」
桔梗は切断された腕と足を見る。
冥土帰しの適切な治療のおかげか、包帯を巻いているが出血はしていない。
「その事なんだけど、さっきの先生に言われて義手と義足を用意してもらう事になったじゃん。
何でも神経に直接繋げて、人間の腕と寸分変わらない物を用意するって言ってたじゃん。」
「そんな事を彼は言ったのね。
本当に規格外な医者ね。」
呆れたような口調だが、内心では感謝している。
「義手と義足の用意にそれらを動かすリハビリ。
何とか早めに終わらせるつもりじゃん。」
「あの子達の面倒はしばらく私が見ているわね。」
「お願いするじゃん。」
あの子達の面倒とは一方通行と打ち止めの事だ。
だが、愛穂は一方通行がどうなったかは知らない。
桔梗はその事を伝えずに話を終える。
そんな話を他所に麻生はずっと俯いていた。
そして、愛穂に近づいて右手を強く握りしめる。
突然の行動に愛穂達は首を傾げる。
「今度は絶対に守る。」
真っ直ぐな眼で愛穂の眼を見る。
桔梗、制理の順に彼女達の眼を見回して言う。
「絶対に君達は守って見せる。
もう、あんな事には絶対にさせない。」
目の前で大事な人が傷つく所を何もできずにただ見ている事しかできない。
あんな思いはもうしたくなかった。
だから、彼女達の前で麻生は誓った。
後書き
次くらいからSSに入ると思います。
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