魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年
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第三十話 文化祭
「はい、という訳でうちの出し物は喫茶店に決まりましたが……ぶっちゃけ、制服をどうしましょうか?」
それは文化祭を三週間後に控えた日の一時限目。この日の一時限目は文化祭の出し物を決めようという話になっていた。
そして、賛成多数により喫茶店に決まったのだが、そこで先ほどの先生の話である。
ぶっちゃけ制服をどうしようか、という話だ。
別に体操服でもいいじゃないか、という話も出たが見栄えが悪いと却下。
学校指定の制服はそもそも汚れる可能性もあるので当然却下。
となると、自分の家から持ってこなければいけないのだが……いかんせん、全員そんなの持ってるわけがない。
「あの、私の家から借りてくるっていうのはどうですか?」
と、手を挙げたのはなのは。
「そうか、高町さんの家は喫茶店をしてたわね。それじゃ、お願い「すいません」何ですか、橘君?」
お願いするわ、と先生が言おうとするのを全は止める。
「別に自分のを持っていれば借りる必要はないんですよね?」
「ええ、そんなに数はないかもしれないし、持ってるんであればぜひって感じだけど……」
「でしたら問題ありません。自分の分は自分で用意します」
「あら、そう?じゃあ、お願いするわね」
そして、聖祥大付属小学校は文化祭準備期間に入ったのだった。
『マイスター、大丈夫なので?』
「問題はない。それにあっち方面の鍛錬もしておかないとな」
『……マイスター。あれは完全にマイスターの師匠様が悪ふざけで言った事だと思いますが』
「問題はないと言っている。それに潜入任務とかでもあれだしな」
『この平和な世の中でいつお使いになるんですか……』
こんな会話があったそうな。
そして迎えた文化祭、当日。
「そっち、引っ張って!」
「オッケー」
「テーブル、こっちでいい?」
「えっとね……うん、そこ!そっちの椅子をこっちに置いて……」
最終調整を当日にしているのはなんともあれだが、これなら何とか間に合いそうである。
ちなみに、調理が出来る人間が調理班、出来ない人間が接客班に別れており、なのは達は客寄せのため、接客班だ。
聖、全も接客班である。あるのだが
「それにしても、橘君どうしたんだろう?」
「だよな、もうそろそろ開店だってのに……」
クラスメイト達のそんな声が辺りから聞こえてくる。
それもそのはず。全がまったく来る気配がないのである。
「あいつ、サボりか?こんな大事な時に……」
聖もそんな全が許せないのか先ほどから貧乏ゆすりばっかりしている。
「ま、まあまあ、その内来るって……」
るいはそう宥めるがそんな確信はどこにもない。
しかし、全の事を前世から知っているため人となりは知っている。こういう事には絶対に参加するし、やるといったらやる人だった。
だからこそるいは信じている。全がやってくる事を。
「え?あの、貴方は……」
と、ドアの法でお釣りの確認をしていた女子生徒が何やら声をあげる。
「すいません、橘全のクラスはこちらでよろしいですか?」
そんな女性の声が響き、教室にいる全員が一斉に声のなる方へと顔を向ける。
そこには、綺麗な女の子が立っていた。黒髪を肩ほどまで伸ばし、前髪を可愛らしいピンク色のピンで留めている。背丈は皆と変わらない位だろうか。目元もくっきりとし、とても快活な感じを醸し出している。
「あの、失礼ですが、貴方は……?」
「ああ、申し遅れました、私橘瑠璃と申します。今日は全が来れなくなってしまったので急遽、私が代理という形で来させていただきました」
「え?橘って……もしかして、橘君の……?」
苗字の所に疑問を抱いた生徒が瑠璃に聞く。
「ええ、全は私の弟にあたります」
「「「「「「「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!????????」」」」」」」
教室にいた全員が驚愕する。まさか全に姉がいるとは思いもしなかったからだ。
「えっと、全が来れなくなったというのは……?」
アリシアが聞く。
「全は昨日、体調が優れなくなりまして……熱を測ってみたら39℃あったんです。ですので、今日は大事を取って休ませていただきました。でも、それではクラスの皆に迷惑がかかると言ってどうしても行くと言ったのででは、私が代わりに行きますという形で……」
「いやいや、大丈夫なんですか!?自分のクラスは!?」
「ああ、大丈夫です。私、ここの学校には通っていないので。それで、制服も持ってきているのですが……どこで着替えればいいでしょうか?」
「あ、えっと。そっちにスペースがありますので……」
「ありがとうございます」
瑠璃はそう言ってペコリとお辞儀をすると脱衣スペースに入っていった。
「な、なあ。今の人、すげぇ可愛かったな?」
「もしかして、彼氏さんとかも既にいるんじゃねぇか?」
「いやいや、流石に小学生で早くねぇか?」
「うぅん……」
男子達はすぐさま集まりだし、何かを呟き合っている。
「何だか、お上品な人だったね」
「うん、立ち居振る舞いも結構毅然としてたし……」
「ああいう人が本物の上流階級なんだろうねぇ……」
「「「「わかるわかる!」」」」
女子達も女子達で瑠璃の事で頭が一杯のようだ。
「うぅん……?」
そんな中、頭を傾げているのはアリサだ。
「?どうしたの、アリサ?」
「頭でも痛いの?」
「見当違いも甚だしいわよ、アリシア。違うわ、あの瑠璃って人よ」
「?瑠璃さんがどうかしたの?」
「いや、ね……何だか、あの人、前にもどっかで見たような気が……えっと、あれはどこだったかな……」
どうやら、アリサは過去に出会った事があるのか。その記憶を必死に手繰り寄せようとしている。
「アリサちゃん、そろそろ開店やで。考え事は後や、後」
「あ、ちょっとはやて!もうちょっと思い出せそうだったのに!」
はやてはアリサの腕を掴み、そろそろ開店だから手伝ってくれとばかりに引っ張る。
それによってアリサは考えていた事が頭から消えて、はやてに文句を言った。
しかし、はやてはそ知らぬ顔でアリサを連れて行く。
こうして、喫茶「グリーン」は開店した。
「はい、こちら、オレンジジュースと特製のケーキとなります」
瑠璃は可愛らしいエプロンに身を包み、接客をそつなくこなしていく。
その腕前に客や、果てはクラスメイトまでも感心していた。
何というか、上手いのだ。客の捌き方が。
ある一例を挙げてみよう。
客が何にしようか迷っていた時だ。
『うぅん、何にしようかな……』
『お客様、何か悩み事がおありで?』
『はい?』
『ああ、先ほどからずっとメニューを見てうんうんと唸っておられましたから……」
クスクスとはにかむ。
『あ、すいません。迷惑でしたか?』
『いえいえ、迷惑ではありません。むしろ喜ばしい事です』
『え?』
『悩まれるという事はそれだけどれも美味しそうという事。それが調理されている皆の耳に届けば彼らも喜びますので』
『そうだね、どれも美味しそうで、迷っちゃうんだ……』
『でしたら、こちらのセットメニューなどはいかがでしょうか?』
『え?セットメニュー?』
『はい、こちらはジュースにお好きなケーキをお選びいただけます。しかも、どれを選んでいただいても値段は変わりません。さらに、今ご注文されたお客様には喫茶「翠屋」で使用できるクーポン券がついてきます。こちらのクーポン券をご使用されれば、翠屋のケーキが一品無料で食べられるんですよ?』
『えっ?それ本当なの?』
『はい、今ここだけのお得な情報です』
『じゃあ、この翠セットにしようかな』
『はい、かしこまりました。少々お待ちください』
このように助言をし、客を見事に捌いていく。
その手腕たるや、凄いとしか言えなかった。
「やあ、来たぞ」
「いらっしゃいませ……って!?」
ドアの方で接客していた聖が驚いた声をあげる。
るい達もこぞってドアの方を見るが揃って絶句する。
なぜならそこには
「聞いてたら面白そうだったからな。来てみた」
ミサキ執務官が立っていたからだ。
「あ、あの……」
「何だ?この喫茶店は?客への対応もまともに出来んのか?」
「え?えっと、その……」
なのは達はまだ戸惑っている。それもそうだろう、執務官がやってきたのだ。
普通に出来る方がおかしい。
「失礼しました。お席へご案内致します」
「ほう?普通に出来るではないか、普通に……?」
接客を任せられないと考えたのか瑠璃がミサキを席へ案内させる。
案内されようとしたミサキだったが、瑠璃の顔を見て一瞬立ち止まる。
「?どうかされましたか?」
「……………………………………………………ああ、なるほど。そういう事か」
ミサキはそう言うと、おもむろに瑠璃の頭に手を伸ばし、髪を引っぺがした。
「ええっ!?ちょ、ミサキさん何や…………………て………………………」
るいがミサキに注意しようとするが、ある一点を見つめ、硬直する。
そして、それはクラスメイト全員も同じ様子だった。
そう、ミサキは髪を引っぺがしたのだ。
それが何を意味しているか。
つまり……瑠璃の髪は偽者、カツラという事だ。
「私の前ではそんな変装は無意味だぞ?橘全」
「……………………………ああ、くそ。もうばれたか。予定ではバレない筈だったんだが……」
先ほどまでそこにいた瑠璃の姿はどこにもなく、そこにいたのは今日熱で欠席していた筈の全だった。
結論から言うと、瑠璃というのは架空の人物で、全の変装だったという事だ。
「「「「「「「「………………………………………………………」」」」」」」」
たっぷり、十秒間沈黙が教室内を満たし
「「「「「「「「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!??????」」」」」」」」
倍以上の間、全員が絶叫し続けた。
後書き
ええ、こんな展開誰が予想出来たでしょうか?
いや、誰も予想出来ないと思う、私以外
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