竜から妖精へ………
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第7話 コミュニケーションの取り方
ナツとの一戦を終えたゼクトは、瞬く間にギルドの皆に周囲を囲まれてしまった。まるで逃がさないと言わんばかりに、だ。
「お前! すっげーな! ってか! なんだ? 今の?? お前、雷の魔法使うのか?」
ゼクトの前に、半裸の男がまっ先に声を掛けてきた。
「あ…うん。まぁ、そんな感じ……かな? それより…」
ゼクトは ナツをとりあえず、横に降ろした。ナツは 木にもたれ掛かる形で座らせた。
「手合わせ…って言っても、ちょっと強く入ったから……さ。大丈夫? ナツ」
ゼクトは、ナツの顔を覗き込んだ。幾ら手合わせ、とは言っても攻撃してしまった事に、ゼクトはしこりを感じてしまった様だ。幾ら周りが言っても、少しも気にしない。……簡単には受け入れる事は出来ないのだろう。
「い…いや…まだ…まだ…しび…れる………」
ナツは麻痺が取れてないようだ。だけど、ゼクトの事を恨んだりはしていない。そんな風には見えなかった。
「ん……、手合わせも 終わったし、治してあげたいけど…… オレ、そう言うのできないから」
治癒の魔法は使えないから、ちょっと悩んだゼクトだったが、首を振ったのはグレイだ。
「いやいや…、だってよ。敗者に情けは無用だぜ?ってか、這い蹲ってんのがお似合いだってな?」
「こ、このっ グ……レイッ! て…めーも! 痺…れやが…れ!!」
ナツは、まだしっかりと麻痺が残っている。身体中が、びりびりしてるのに…、グレイの言葉をしっかり聞いていて、更に口げんかをするのも凄いと思う。
「はははは………」
なんだか、楽しい気分になる雰囲気だった。しこりを僅かながら 感じていたのが、本当に馬鹿らしくなる様に。そう、ゼクトが想っていた時だ。
「ちょっと、そこ退いてっ! グレイ!!」
“バコッ!!”
なぜかはわからないけれど、グレイを蹴り除けて、まさに傍若無人と言えるだろう、そんな感じで割って入ってくる女の子がいた。
「いってーー! なにすんだ!ミラ!!」
白いロングの髪の女の子、グレイの口から、《ミラ》と言う名前だと言う事はゼクトにも判った。ミラは、グレイのブーイングはさらっと無視して、ゼクトの前まで来ていた。
「……え?」
なぜかは判らない。まるで 止まる気配なく、更に更に近づいてくる。そして、もう目と鼻の先だ。
「アンタ………、なかなか やるね……」
ミラは、にやっ と笑みを浮かべながら、そう言っていた。
――ミラは、感じていた。
それは、突然、感じた事だった。
ミラ自身は、初めは 本当にゼクトには 興味なかった。
それに、ナツが誰彼かまわずに、突っ掛かるのは日常茶飯事な事で、それが 新しいギルドのメンバーになるのなら尚更だと思う。
そして、ギルダーツがつれて来たって言う同じくらいの歳の男の子についても 最初は本当に興味は無かった。
ギルダーツに抱き抱えられて、眠っているゼクトを見て、『迷子にでもなったのか?』と思っていた程度だった。そして、その子の帰り道が、家が判らなくなって……、それでギルダーツに拾われてここに来た…って、最終的に勝手に解釈していた。
そして、ギルダーツが、ゼクトは強い。そう言う風に皆の前で言うと、真っ先にナツが反応した。これも、正直 想定の範囲内の事だった。
それが、ナツだったら尚更だ。それだけで理由になる。ギルドの連中なら皆が納得する程だ。
でも、恐らく変わり始めたのは、ゼクトとナツが臨戦態勢に入った時だと思った。確かに、エルザが言うとおり、ゼクトには 自分達とは何か違う魔力を感じた。
自分自身も、勿論感じていた。それが、エルザと同意見って言うのが納得いかなくて色々と言い合っていたけれど、それでもそこから変わり始めた。
この感じ、不思議、と言う感じ。つまり 自分が見た事のない魔法。
それは、以前から何度か感じた事がある。それにナツの魔力だって、不思議な感じがしたのだから。
ナツのは、聞くところによると、《滅竜魔法》失われし魔法だから、滅多に見られない魔力 だからそう言う感じがしたんだと思えた。つまり、その時のような感じだ。
でも―――、少し その時とは勝手が違った。圧倒的に、違った。
それは、ナツには見えた事で、ゼクトには見えなかった。
感覚、だけど 合えて言葉にするとすれば、《底が見えない》と言う事。
――何だろう……? 永久の闇? 深遠の海? 果てしない宇宙?
何度も何度も、形容できる連想を思い浮かべては、ミラは首を振った。有り得ない、とは思ったんだけど、冗談じゃなく、本気でそう思ったから。
それは、恐らく皆もそう感じているだろう。
皆は馬鹿騒ぎしてるけど、どちらかと言えばゼクトに対して驚愕の方、その感じも多いから。
そして、ナツとゼクトの勝負が始まった。
勿論 先制攻撃はナツだった。それは予想範囲内だった。ナツの性質は、猪突猛進だと言う事は周知の事実だから。そして、ナツの拳がゼクトに直撃した。避けた素振りも見えなかったから 間違いない。
確かに、ナツの実力はまだまだ、とミラは思える。なぜなら、何度も喧嘩、つまりミラと勝負をしていたが、話にならない程、実力差はあった。
でも、ミラは決してナツ本人には言わないけど、ナツの攻撃、それを防御する時は注意する。魔力を集中させる。
何故なら、ナツの魔法は《滅竜》。
竜を倒すための魔法。種類としては圧倒的攻撃魔法だからだ。
でも、幾ら魔法が強くても、それを操る術者がまだまだ未熟で弱い。
それでも、幾ら弱っちくても、そのナツの攻撃を笑顔で受け止めていたあの姿には驚愕したし、戦慄した。
丁度 その時、ミラは横目でエルザを見た。多分、エルザもミラと同じだったんだろう。
その表情は強ばっており、額から汗が流れ落ちていた。
あの笑顔で、あやすような感じ。ミラの脳裏には、ギルダーツが浮かんでいた程だった。
そして、ナツ自身は、その感覚を直に感じていたんだろう。
最後には、自分で出来る全て、……全魔力を使った炎、《火竜の咆哮》それに懸けた様だ。
でも、ゼクトがそれをあっさりと打ち消して、更に攻撃の直後だと言うのに、直ぐに動いていた。……かなりのスピードで、だ。ナツの背後に回り込んで一撃。
それでナツは麻痺ってる。
正直、目を見張った。誤魔化したりはしない。冗談抜きでだ。
ゼクトは、少し戸惑っていた。
「いや……あの……」
何故なら、ミラに、先程からずっと睨まれてるから、仕方がないだろう。何か悪い事をした覚えもないから。
今までは主に大人の男。それも、目を見ただけで嫌な感じがする大人達だ。攻撃することも躊躇しないでいける。でも、このギルドの皆は何か暖かい。それが、《フェアリーテイル》と言う名前のギルドだけと言う訳じゃなくてだ。
色々とあって、誰かに睨まれるのには慣れてる、と言いたいけれど。
ゼクトは、何だか嫌だった。それにミラだから。女の子に、だからだ。
「ッ………」
だから、ゼクトは反射的に目を反らせた。ミラの目を直視出来なくなってきた。
「ん…? 何で目を逸らせてんの?」
ゼクトを見て、ミラは不思議そうにそう言っていた。どうやら、ゼクトは睨まれている、と感じていた、実感していたのだが、ミラ自身は、ゼクトの事を睨んでいると言う自覚はなかった様だ。……周囲から見たら、明らかなのだが。
「いや……、あの、な、慣れてないから……」
ゼクトは、少し慌てながらそう返す。
「ん? 何が?」
ミラは、ゼクトの返事にキョトンっとしていた。何の事か検討もつかなかったから。
「その…じっと見られてるの……は………」
ゼクトは そう言うと 言う為にミラと目を合わせていたのだが、直ぐに目を逸らせた。
――……ゼクトのそんな姿を見ると、さっきの勇猛果敢な姿は一体どこへ行ったのだろうか?
それが、トリガーだった。
「あはははっ! ゼクトって、なんだか、かっわいいね~~!!」
ギルドの1人がそう言うと更に沸いた。
「さっきのいったいなんだったんだよ? ナツを ここまでぼこれんのは、ギルドでもあんましいねえかもしれないのによ?」
「全くだな……」
自然と、皆の笑顔が増えていた。広がっていた。
「だーーーっはっはっは!! かわいいじゃねえか! ってか! ミラに惚れたか?? お前さ?」
笑顔、笑い声、それらが膨れ上がって、もう殆ど騒ぎ立てている。
「ちょっ!! 皆、何言ってんだ!? わ、私は…ただ…………(私は、コイツと戦ってみたいって、思っただけで……)」
ミラは、思わず顔が赤くなってしまっていた。今まで異性から、そんな目で見られたこと無いからだ。女の子に見られて恥ずかしい。そんな風に見られた事が、ないから。
いつも乱暴者、と言う気配濃厚なミラを見ていたら、普段が普段なだけだから更に茶化してやろうかと皆が思えてきた。きっとその場で、顔を赤くしているミラを見た全員、そう思っただろう。
そう、皆が考えてた時、ゼクトは口を開いた。
「ええ…?? いや…オレは…そう言うのちょっと……慣れてなくて……ん……きっと慣れるから」
ゼクトは、自分のせいで こんな感じ、よく判らない空気になってしまったから、弁明をしていた。
「いやいや! そこは男だろ? もうちっと空気読めって……。ミラの立場ってヤツをよ……?」
ちらっ、横目でミラを見ると、あからさまに機嫌を悪くしていたミラがそこにはいた。
その理由がよく判らない。だけど 不機嫌になったのはよく判った。
「そーだよ? あ~あ、ミラ姉ぇ~かわいそだよー」
ブーイングを上げたのは、リサーナだった。いつの間にかナツの傍に来ていた。いや、ナツを抱えていた。ナツはまだ麻痺状態で目を回していた。
「え??? 何で…? 何がかわいそう? オレ、何か悪い事……?」
ゼクトの発言で、どうやらそっち方面には疎いのは十分理解できたようだ。その場にいた皆、全員。
「ったくも~………」
最初こそ、イラっとしていたミラだったが、もうすっかり毒気抜かれたようだった。
「って!! それよりっ!!!」
ミラは調子が元に戻った事で、さっさと本題に戻した。
「えっ? な……何が、かな?」
ミラの突然の大声だ。驚かない方がおかしいだろう。特にゼクトであれば尚更。
「次は私と! 戦らないか? ゼクトって事だ!」
どうやら、ミラは次戦に立候補したい、と言う事だった。
ゼクトは、それを訊いて……、直ぐに返事を返した。
「戦るって……。それは嫌だよ」
今度は、ゼクトは あっさりと拒否をした。
「はぁ!? ナツとは戦って、私とは嫌だって言うのかよ!?」
まさかの返答を訊いて、ミラが怒ってしまった。別に、そんな意味じゃないのにだ。
「いや…そのね? えっと「じゃあ先に私だ!!」ええ!?」
突然だった。
ミラに割り込むように、もう1人。このギルドは、いやに割り込んでくる人多い。
「私はエルザだ! 私もお前と戦ってみたいのだが……私もダメか?」
まるで、親に強請る様に聞く。
戦いこそが真のコミュニケーションだと思ってるのだろうか。ここの皆は。
「ええ……っ。き、きみも…?」
ゼクトは、更に戸惑ってしまった。
拒否をした理由は勿論ある。
「(あ、う……そもそも……、オレ、女の子と戦うのが、嫌なだけなんだけど……)」
そう言う事、だった。
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