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竜から妖精へ………

作者:じーくw
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第6話 ナツ vsゼクト



 そして、ゼクトとナツは 周囲の視線を集めながら ギルドの外へと来ていた。色々と質問攻めにあったり、凄く注目されたり、と緊張をしていたゼクトだったが、ナツの勢いもあってか 一度もとめられる事なく外へと。

 そして、2人は互いに間合いを取り合い、正面に立つ。

「いよっしゃあ! じゃあ さっそく戦ろーぜっ!?」

 ナツは、両方の拳をがっちりと打ち合わせてそう言う。臨戦態勢に入ったのもよく判る。両腕に纏わせている炎も、更に増したのが判ったから。

「うん。いいよ」

 ゼクトも、ナツの様に体に力を入れていた。ゼクトは、ナツと違って視覚的には 別段変わった感じは無い。だが、魔力が増していくのは ナツにも感じる事が出来ていた様だ。


――……ギルダーツもそうだけど……、ナツもきっと、凄く強い。


 ゼクトは、そう感じていた。確かにギルダーツは大人で、自分やナツは子供。その差は絶対にあると思える。だけど、ナツには 何か(・・)を感じたんだ。

「手ェ抜くなよッ!? お前ッ!!」

 ニコりと笑っているゼクトを見て、ナツは 釘刺す様にそう言うと、ゼクトも頷いた。

「うん。勿論だよ。 あっ…。そうだ。オレの名前、ゼクトって言うんだ。よろしくね」
 
 まだ自己紹介をしていなかった事を思い出していた。それはそうだ。出会ったその瞬間に始まったのは挨拶ではなく、宣戦布告。勝負を挑まれたのだから、そんな暇はなかっただろう。

「おっ? そっか! わかった!! オレはナツってんだ!」

 ナツも、ゼクトと同じ様に、いい笑顔で笑っていた。

 その笑顔を見て、ゼクトはやはり感じる。

――……なんだろう……。さっきのマスターやギルダーツもそうだったけど……。このギルドの…… 皆の笑顔は。

 そう、ギルドの中を通った時も、皆色々な表情をしていた。恐らくナツの行動はいつも通りだったんだろう。だからこそ、呆れている様な感じもあり、嘲笑したりする者達もいたけれど、皆共通なのは 笑顔だった。

――皆の笑顔……自然と落ち着くんだ。

 落ち着く。或いはその笑顔は、心地いいっていうのだろうか。
 ゼクトも自然と笑顔になっていた。





「おおーい! ほらほら! さっさとやれよ!」

 因みに、ギルドの中にいた皆もついてきた。見物をするかの様に、見ていたギャラリーが野次を飛ばしていた。

「よぉー! ゼクトっていったな?? ナツなんかボコボコにしちまえ!!」

 見物人達の中でも最前線で見ていた上半身裸の男の子グレイがそう飛ばした。勿論、そんな事をいわれてナツが黙ってる筈もない。

「うっせーぞ! グレイ! この後はお前だかんな!!」

 ナツは、ゼクトをそっちのけでグレイの方に行きかねない状態だったけれど、とりあえずそれはなかった。この場で叫んでいるだけだったから。


「ねーねー! エルザ? あのコはだーれ?」

 そんな時、グレイがいる反対側では女のコ達が話をしていた。勿論話題はナツと戦おうとしているゼクトについてだ。

「レビィか。……ふむ。私も、詳しくは知らないのだが、何やらギルダーツが連れてきたコの様だ。最初は、私は客人の類か、っと思っておったが、どうやら、新人らしいな」

 青い髪の女の子、《レビィ》と、赤い髪で鎧を着ている女の子《エルザ》が話をしていた。そして。

「なーんでいきなり、ナツはその新人に戦いを求めてんだ? って感じだよな。実際問題。普通ないだろ。突然バトルって」

 今度は、白い髪の女の子《ミラジェーン》が傍へとやって来た。

「ふむ。私もそう思ってとめようと思ったのだが…… あのギルダーツがつれて来た男のコだ。何かあるだろう」

 エルザは、腕を組んでそう言っていた。このギルドNO.1の実力者であるギルダーツが連れてきた子供、と言うだけで 何かがあると思うのは極自然の事だった。
 それは判るのだが、ミラは 何故か呆れた様子でため息を吐いて言う。

「けっ…相変わらず偉そうな口調だな? エルザはよ」

 そう言うと、こちら側でも 似たようなやり取りが始まる。

「……何だ? 言いたい事があるなら、はっきりと言ったらどうだ? 貴様も相変わらずものをはっきりと言えんようだな? ミラジェーン!」

 そう、ついさっきナツとグレイがしていた様な口喧嘩だ。違うのは女のコ同士だと言う事だ。

「あーあー! 誰が言えないだ! 何度でも言ってやるよ! 上から目線! えらそーデブ女!」
「何だと! このガリガリ女が!!」

 違いがあるとすれば、ナツとグレイと違って直ぐ傍にいたから、取っ組み合いが始まった事だった。
 もう、ナツとゼクトの事は関係ない、と言わんばかりに。

「あーもう! なんかほんとにうるさくなってきたな! 良いから、さっさとやろうぜ!!」
「え、えっと……(ナツ……? キミも、多分 その《うるさい》のメンバーの1人だと思うんだけど……)ッ」

 ゼクトは、もう我慢ができないようだった。

「プっ……」
「ん?」

 ゼクトは、小さく吹き出す。そして その1秒後には。

「あははははっ!」

 ゼクトは、気がついた時大きな声で笑っていた。自然と。

「ん?? 何笑ってんだ?」

 笑っているゼクトを見て、ナツは不思議そうにそう聞いていた。ナツにとっては、いつも通りの光景だから、どこに笑う所があったのかが判らない様だ。

「あ、え、えっとね……あ、あははは。ただ……なんだか良いな? って思えてさ。このギルドが……フェアリーテイルがっ」

 ゼクトは、笑みを必死に止めると、眼から流れ出そうだった涙を拭った。

――……自分の感情に間違いなかった。凄く…暖かい感じがするんだ。

 改めて、ゼクトはそう感じていた。このギルドから、その全体から。

「へへ! そーだろっ? なんて言ったって、フェアリーテイルだからなっ!」

 ナツもゼクトと同じように笑っていた。
 ナツは、ギルドのことをそう褒めているんだと感じたようだ。だからこそ、ナツ自身も嬉しく感じたんだろう。


「ほら みろよ? マスター。アイツ…あんな笑顔で笑えるみたいだぜ? さっきの自然な顔も良かったが、オレは今の方が魅力的だと思うな」

 少し離れた位置で、2人を見ていたのはギルダーツとマカロフだ。

「ふむ。そうじゃな。……いい笑顔じゃ」

 マカロフも笑っていた。無表情に、無感情にいるよりは余程良いから。

「はははは。正解だった。 アイツをウチに引っ張ってきて」

 ギルダーツはそう言うと、2人の方へと向かいだした。

「ふむ? ギルダーツ。どうするんじゃ?」
「ああ。和やかなのはいいけどよ? 男が一度戦いを宣言してんだ。有耶無耶になんかできねえだろ? かといってあの感じじゃいつまでもはじまんねーと思うし。だから ちっと合図してくるわ」

 ギルダーツは、手を上げて2人の方へと歩いて行った。


「ほれ。挨拶はすんだんだろ?」

 笑っているゼクト、そしてナツの間にギルダーツが入ってきた。ナツはギルダーツを見て、何かを思い出した様に叫ぶ。

「あ! ギルダーツっ! 約束だからな。こいつに勝ったら!! オレとまた勝負だ!!」
「おいおい……オレは、んな約束した覚えねえぞ? っつーか、別に、んな約束無くたっていつでも相手してやるよ」

 ギルダーツは苦笑いをしながら、答えていた。そして、苦笑いをしていた時だ。

「だが……、それは おもしれえな? 約束、か…」

 ギルダーツが、ゼクトの方をチラっと見て、なにやら意味深ある笑いをしながら、そう言っていた。

「「??」」

 当然ながら、ギルダーツが何を考えているのかは、2人はわからない。

「ゼクトに勝てたら…何でも言う事聞いてやるよ。勝負だろうと何だろうとな…。」

 突然、ギルダーツはそう提案して、笑っていた。

「ほんとかーーーー!!」

 ギルダーツの言葉を訊いて、ナツは盛大に反応。炎もまるで答えているかの様に燃え上がる。ナツは俄然やる気になった様だ。ナツの炎は感情次第で 反応が変わるから、何だか判りやすい。

「なら、ハッピーのマネしろ~~~!!」

 ナツは、そう指差して宣言した。ハッピーとは 誰の事なのだろうか? とゼクトは思っていた所で。

「あい!!」

 青く、翼を持っている猫が元気よく手を上げていたから、よく判った。

「はぁ? なんだそりゃ? ま、良いさ。但し、ゼクトに 勝てれば…の話だけどな?」
「あの……さ。オレをそっちのけで、妙な事を言うのはやめてよ……」

 ゼクトは、自分をダシに 楽しんでいる様な感じがして、ゼクトは、嫌がっている様だ。

「はははっ……、わりーな? んじゃあ、お前さんが勝ったら、ナツに何でも好きなこといっていいぞ?」

 ギルダーツは、そう言って笑う。そしてナツは更に気合が入った様だ。

「それ良いな!! 燃えてきたぞ!!」

 互いに同じ条件の方が良いらしい。ゼクトも大体察した。

「あ…はははは。うん。わかった。……戦ろう!」

 色々とあったけれど、ゼクトは 自然とまた笑顔になる事ができた。


 今、幼きドラゴンの魔道士との対決が今始まろうとしていた。

 
 2人の少年が向き合う。互いに もう笑顔は無い。真剣な表情、そして互いに高めている魔力の強張りだけが 場に集中していた。


「ねーねー! ミラっ! エルザっ! もー喧嘩はやめてよっ!」

 その外では、レビィがミラとエルザの2人を止めていた。だけど、2人も結構ヒートアップしている様で、中々反応しなかったのだが、再三の言葉で漸く反応したが。

「「邪魔するなッ!! レビィッ!!」」

 勿論簡単にとまる筈などは無かった。

「もーー! 今はそれより、ナツたちだよ??」

 レビィそう言うと、2人はきょとんとしていた。何を言っているのか、一瞬判ってなかった様だ。つまり、今回の件を、時分達の件で、忘れていたようだ。

「でさ? でさ?? ミラとエルザは、どう思う? あの2人の事っ!」

 レビィは、2人にそう聞いた。ナツの喧嘩はいつも通りなのだけど、何と言っても、今回は相手が違いすぎるから。

「ふむ……」

 エルザは、2人を見比べていた。ナツの顔は毎日のように見ているから、主に集中して見たのは新人?であるゼクトの方だ。

「どっちでもいーさ。大した事ないって。」

 ミラはと言うと、正直な所 あんまり興味なさそうだった。だが、エルザは違った。

「そうか…? あの男…身にまとう雰囲気…それだけで只者じゃないと思うが…?」

 エルザは、ゼクトの方を見続けていて、不思議な魔力を感じていたのだ。

「……はぁ? あの男がか? ん~……まあ、そう言われたら、そうだな………」

 ミラは、ゼクトの方を見るとそう言っていた。最初から、真面目に見ていなかったのだろうか、ゼクトの姿を見るなり、先程の話から、直ぐに撤回していた。

「やはり間違ってなかったか。……ミラもそう感じるのであれば……只者じゃない、な。ギルダーツが連れてきた、と言う事もあるしな」

 エルザは、ミラの言葉を訊いて、確信いったようだ。珍しく2人が同じ意見だった事に、レビィは少しだけ驚いていた。

「(へぇ……でも、珍しい事…あるんだね~~)」

 珍しい場面を見れた。それだけでも、2人に訊いて満足だったみたいだ。
 喧嘩をする事もあるし、喧嘩するほど仲が良いとも言うけれど、やっぱし仲良くするのが一番だから。


 ……っと、レビィは 笑顔を見ていたんだけれど。



「何でお前と同意見なんだ? なんか納得いかないな……!! 脳筋女となんかよぉ!」
「む? 一瞬でも見直した私が馬鹿だったよ! この単細胞!」


 結局は、最初に戻っただけだった。

「あははは……、でもまあ、これもいつも通り…かな?」

 レビィは、確かに仲良くが一番だと思っているのだけれど、これはこれで良いか、とも思って笑っていた。

 
 そして、2人の戦いは始まる。



「いっくぞーーー!!」
「……よしっ! こいっ!!」

 先制攻撃はナツからだ。
 まだまだ小さな身体だと言うのに、その何倍にも見えるかの様に、身体全体に炎が吹き出していた。熱気の影響で、空間が歪んで見える。その炎が集中した先が右拳。

「おらああああ!! 火竜の鉄拳っっ!!」

 その炎を集中させ、先程の会話のやり取りの時とは比べ物にならない程の熱気と魔力を右拳に集めると同時に、その拳をゼクトに撃ち放った。

 着弾と同時に、爆発が巻き起こり 炎も同時に巻き上がった。

「ニッ! どーだ!」

 ナツは、確かな手応えを感じた様だ。ぶつけた拳は躱されたりしてない。しっかりとゼクトの身体に当たっているのだから。だから、ナツは自信満々だった。《火竜》が放つ《鉄の拳》。ナツの()が教えてくれて、これまでも、磨いて来た技だった。……だったのだが。

「すっげー威力だ…ろ…?」

 炎の中から、ナツの拳の先から出てきたのは、笑顔のゼクトだった。

「うん。そうだね。ちょっと…熱い、…かな? やっぱり。でも、オレ 慣れてる(・・・・)から」

 ゼクトは 笑いながら、ナツの炎の拳をけ止めているのだ。

「なっ!! ななっ!!」

 当然ながら、ナツは驚いてた。
 その驚く理由は、ただナツが放った《火竜の鉄拳》を 止めた事に対してだけではない。笑顔で受け止められた時、感じたのだ。受け止めたゼクトの姿が、ある人物とかぶって見えたのだ。


「(この感じは……ギルダーツの………あの時のと……)」





 そう、ナツの感じたのは、その脳裏に過ぎったのは、《ギルダーツ》の姿だった。



 それは、ナツとギルダーツの嘗ての戦いの記憶。

 いや、嘗て戦い、と言っても それはつい最近ので、戦いって言うより、ギルダーツが遊んでやってる? っと言う感じのだ。

 ナツからしたら、ギルダーツとの勝負なのだろう。

『ほーう。随分と熱くなったじゃねえか。ちったー威力あがってんなぁ。ナツ』

 ギルダーツが笑顔で受け止めているのはナツの炎の拳だった。褒めてくれているのは、確かに嬉しい。だけどナツは。

『くっそーーー! そんな楽々止められるなんてーーー!!』

 ナツはちょっと悔しそうだった。全力で放った攻撃を簡単に受け止められたら、やっぱり 男としては悔しいだろう。

『いやいや! 痛え痛えよ……っと!』

 ギルダーツは、左手でナツの拳を受け止めた状態で、右手の指に力を込めて、ナツの眉間に《でこぴん》を放った。 単なるでこぴん、なのだが……、ドゴンッ! と言う凡そ、指ではじいただけとは思えない音と衝撃が、ナツの頭を突き抜けた。その一撃を喰らってしまって、ナツの頭の上に星が何個かまわってしまうだろう。

『いでええええええ!!』

 ナツは、悶絶しながら、頭を抑える。完全なノックダウンだった。

『はっはは、まだまだだな? ナツ』

 その勝負の時のギルダーツは、終始笑顔だったんだ。笑顔で何度も何度も攻撃をして、受け止めていたんだ。



 

 そして、場面は元に戻る。

 今、自分の拳を受け止めているゼクトには、ギルダーツの時と同じ感じがするのだ。

「よっし……次はオレから行くよっ! ナツ!!」

 ゼクトは、ナツの拳を押し返すと同時に、両の手を合わせた。

「ッッ! お、おうっ!! どっからでもきやがれ!!」

 ナツは、これまでに同じ位の歳の相手に、それ程力の差を感じた事は 今まで無かった。確かに強い相手はいる。何度も叩かれたりしているエルザだったり、ミラだったり、……そして ラクサスだったり、と。だけど、例え負けた事があったとしても、それでも ギルダーツの様な感覚がしたのは、初めてだった。

 ……そう、初めての事だった。

 だから、戦いの最中、それも始まったばかりで、動揺しかけていたのだ。


『エレメント・ドライブ 《ヴォルト》』

 両の手から、突然 光を放ち出した。
 そして、ゼクトを中心に魔力が増加してゆく。その姿は、ナツが自分自身の炎を身体に纏わせているのと見た目は変わらなかった。……だが、内包している魔力、その何か(・・)が違ったのだ。

「な……ななッ!!」

 ナツは、今回は 完全に驚いていた。
 ギルダーツと同じ感覚がした時も、驚いていたのだが それどころじゃない。さっきまでと、魔力の質がまるで違うのだから。全く別質のモノがゼクトに宿った様な気がしたのだ。


「……ッ! ま、負けるか! いくぞーーーっっ!!!」


 ナツは、ゼクトが放つ光と、強い魔力に一瞬怖気づきそうになったのは確かだ。
 だが、同世代の男に負けたくないと言う思いが強い。持ち前の根性で、その動揺を跳ね返して、攻勢に出たのだ。


「火竜のぉぉ………」


 ナツは、空気を思い切り吸い込んでいく。一体どこまで その身体の中に入るのか? と思えてしまう程であり、ナツの腹部がまるで風船の様に膨らんでいる。そして、次の瞬間、腹の中に溜めた炎。ナツの魔力を吐き出した。


「咆哮ォォォォォォ!!!!」


 その吐き出された炎は、今までの炎とは規模が違った。まさに《火竜》そのものだと思える程だ。息が続く限り、息の代わりに炎が吐き出され、弱まる気配さえ見えない。


「おおおおおらあああああああああああ!!!!!」


 炎を吐き出し続けるナツ。
 その炎は、一直線にゼクトへと向かってきた。

『……凄い。本当に火竜、だね。遠距離の攻撃。規模は大きいけど、魔力は拡散知てるから……。……ならっ!』

 ゼクトは手に、魔力を集中させた。両手の中に集中させるのは まるで光の玉だ。その色は黄色に見える。黄色い玉は、バチっ バチっ と 放電をし続けているのだが、一箇所に留まろう、留まろうと圧縮され続けている。

 そして、ナツの炎めがけて、ゼクトは作った光の玉を撃ち放った。

『ヴォルト・インディグニション』

 ゼクトが撃ち放った光の玉、いや 雷の玉 と言った方が良いだろう。ナツの炎と衝突したと同時に、抑えに抑えていた雷撃が暴れ狂い、炎を吹き飛ばしたのだ。


「なっ!!!」

 ナツは、確かにあの瞬間見た。
 それは、自分にとって、今出来る全て。……力いっぱい、腹いっぱいに溜めた渾身の竜の咆哮。それを、拳大程の大きさの魔力の塊? をぶつけられただけで、相殺、いや 一方的に吹き飛ばされてしまったのだ。
 もしも、あの玉に当たったのが、遠距離攻撃である咆哮ではなく、拳だったら、間違いなく自分自身が吹き飛んでしまう事は判ったから。

 その、ナツの一瞬の動揺。その心理の隙間を狙って攻撃を狙うのはゼクト。

『後ろ……がら空きっ!』

 ナツにとってみれば、それは 突然背後から声が聞こえた様にしか感じられなかった。

「ッ!!!!!!」

 燃える様に熱かった身体だったのに、一気に寒気が全身を貫いた。まだ、身体には、炎を纏っていると言うのに、冷たいのだ。

『いくよっ!!』

 ゼクトは、拳に魔力を集中させた。それは、ナツが最初に放った炎の拳に似ている。だが、その性質は違う。炎ではなく、雷。

「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!」

 ナツの身体に、ゼクトの拳から放たれる雷が走り回った。
 あまりの電撃、いや雷撃によるショックで、ナツは倒れてしまった。 


「なっ! ナツっ!!」
「ナツぅ~~~!!!」

 途中から、ナツ程ではないが、驚きから 騒ぐ事を忘れて魅入っていた者達は叫んだ。
 中でも、ナツを慕っているハッピーや白い髪女のコ、ミラの妹である、リサーナも心配になって駆け寄ろうとしていたのだ。

『あ、え、えっと……』

 ゼクトは、自身に纏わせていた魔力を止めた。

「あ…ナツ! ナツは!?」
「ナツっ、だ、だいじょうぶっっ!?」

 リサーナとハッピーが驚き、もう駆け寄ってきた所で、ゼクトは手を挙げた。

「あ、あの、ごめんね。……皆に心配かけちゃったみたいだったね。うん、大丈夫だから」

 大丈夫、と言っているゼクトの肩にはナツの腕が回されていた。

「あぎゃ……、び、びり、びり……、くっそ……そんな、魔法、使うなんて……、し、しび…れた……、」

 ナツは、眼を回しながら、体を痙攣させていた。
 どう見ても、戦いを継続させるのは無理だろう。



 それを判断したギルダーツは、ゼクトとナツに近づいた。

「ほい……。ナツは戦闘不能だな? そこまで、勝者はゼクトだ」

 そう言うと、ギルダーツは ゼクトの右手を上げた。

「あ…、ちょ、ちょっと……っ」

 ナツが大丈夫な事を皆に説明をしたかった事。そして、何だか恥ずかしかった事も合わさって、慌ててしまったゼクトだったが。


「「「「「「おおおおおおおおおおおお!!! すげえええええええ!!!」」」」」」


 そんなゼクトとは、対照的に静まっていた周囲が一気に沸いていたのだった。



 
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