竜から妖精へ………
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第8話 ゼクト vs ミラジェーン
ゼクトは、ずっとエルザとミラに2人に言い寄られている様だ。次第にエルザとミラの取り合いになっていき、それを傍から見たら、《男の子1人》を取り合っている《女の子2人》に、正直見えなくも無い。話をしている内容自体は物騒なのだが、構図は正にそれだ。
だから、それを周りに集まってる皆がからかう様に言って、益々収拾がつかなくなりそうだ。
そんな皆を後ろから笑ってみているのは、ギルダーツとマスターの2人だ。
「ったく……、随分とマセガキだよな? あいつらは」
そう言いつつも、ギルダーツは笑いが堪えられない、堪えるつもりも無い様に笑い続けていた。それは、勿論マスター、マカロフも同じだった。
「ははっ。確かにのぉ。……じゃが、随分と可愛い。……いつもの暴れん坊のあの2人から あんな表情見られるなんて、正直思ってなかったわい」
エルザとミラも、正直言うと元気が有り余っている。色気より食い気、とは この事である と体現をしているかの様だ。
「アイツは、……ゼクトには こう言った場所が必要なんだよな、って改めて思ったよ。仲間と一緒に過ごして、そんで 馬鹿騒ぎして、笑いあって。……ガキの頃は そう言う事をもっとするべきなんだよな。会った時から思ってたんだが、魔力もそうだけど、なんつーか基本的に妙に大人ぶってる雰囲気だったしよ? それに……、記憶に無い場所を想い続けるより……後に幾らでも作れる記憶に、残る思い出を作った方が、だよな」
そう言いながら、ギルダーツは ゼクトを見た。
まだ、ゼクトは2人に囲まれている。あわあわ、と慌てている様子だ。それを、その姿を見れば本当によく判ると言うものだ。
そう、ゼクトはまだまだ子供。……今の顔は間違いなく歳相応な顔だと言う事が。
ただ、やはり今であっても、持っている魔力そのものは全然歳相応ではないが。
「……そうじゃな。記憶の方は、ワシも頃合を見て色々と確認をしてみるとするわい」
「お? 頼むぜ、マスター。オレは そう言ったのはちょっとばかり苦手でな」
ギルダーツはお手上げだ、と言わんばかりだった。
「んなもん、わかっとるわい」
マカロフはそう言って更に笑い。
「即答されんのも複雑…だけどな。」
ギルダーツは、ちょっと苦笑いもしていたのだった。
そして、ゼクト達はと言うと結局。
「さっ! 戦ろうっ!」
凄く良い笑顔の女の子、ミラの相手をすると言う事になっていた。勿論、最初はゼクト自身の了承などおかまいなしだった。
ただ、ミラのそのはち切れんばかりの笑顔の向こう側には、これまた凄く対照的な顔の女の子、エルザがいて、悔しそうに手を震わせていた。
「くっ……私は次か………」
そう言いながら、随分と怖い顔で。
説明をする為には、ちょっと時を遡る必要がある。
ミラとエルザの言い合いは、平行線を辿っており、ずっと続いていた。その間、ゼクトはただただ、混乱をしているだけで、収拾をつけれる訳がない。
そんな時、ギルダーツが来てくれた? のだ。
『おいおい…… いい女が取っ組み合いなんてするもんじゃねえぞ?』
そう言いながら、ミラ達の傍へとやってきた。
『私が先だ!』
『何を言ってるのだ! お前はさっき断られただろう! だから私だ!』
エルザとミラは、ギルダーツに全く気づいていない。この不毛な争いは続いていた。
『ったく…こいつら聞いちゃいねえな……』
随分と近くに来ていると言うのに、全く気づいていない2人を見て、ギルダーツは頭を掻きながら。更に一歩踏み込み、2人の間に入った。
『おおい、2人とも、訊けって』
『何だ!』
『邪魔するなっ!』
どうやら、漸くギルダーツに気がついた様だ。それに対してもギルダーツは苦笑いをしながら 言った。
『ったくよ、お前らものの見事にオレを無視してくれやがって……。あのな? お前ら。良い女ってヤツは、取っ組み合いなんざしねえし……それにな?』
今度はギルダーツは、首をくるりと捻り、ゼクトの方を向けて、片眼を閉じた。所謂、ウインクと言うヤツだ。
『??』
当然、それが何の意味なのか判らないゼクトが、不思議がってると、全ては始まった。
『良い男ってのはよ、頼み込んだ良い女を何度も断ったりしねえよ。ミラん時は、あまりにいきなりだったから、慌てたんだろうさ。だから、もういっちょ頼んでみ? ぜ~ったい断ったりしないと思うぜ? それに、順番なんざジャンケンで決めりゃ良いだろ?』
そう言い、終えるとギルダーツは、2人の頭を撫でていた。
勿論、ゼクトにも、その話の内容は聞こえている。暫く言っている意味が判ってない様子だったが、直ぐに気づく事が出来た。
『え…? えええっ!??』
どうやら、下手をしたら ミラだけではなく、エルザとも、2人ともと戦う事になる様だ。断ったのにも関わらず、ギルダーツが断らない、と決めつけたから、また頼まれる事になるだろう。確かに、ゼクトは、何度も頼まれる事には正直弱い部分が勿論ある。それが、フェアリーテイルの皆であれば,尚更だ。
そして、慌てている間にも、エルザとミラは、互いに良い笑顔になり、ジャンケンを始めた。
何度かアイコが続いている様で、ジャンケンでも白熱とした戦いが続いている。
『っつーわけだ! がんばれよ? ゼクト!』
いつの間にか、ゼクトの直ぐ傍に来ていたギルダーツは、これまた、にやっといい笑顔でそう言い、右手の親指をぐっと突き上げた。
『ちょっと! アン…じゃなく! ギルダーツっ! いったい何をっ!?』
突然決まった戦い、それも、本人(ゼクトのみ)の意思とは関係なくだ。当然、その事に物申した。ギルダーツは、別に気にした素振り、悪気もまるで無さそうだった。
『別に良いだろ? ほれ、さっきのナツとの一戦で疲れた、感じがしてねえしよ。いや 間違いなく』
『い、いやいや……! そもそも、オレは女の子と戦うなんて、嫌なんだよっ! そんなの、男がすることじゃないよ!』
ゼクトは、慌ててそう言う。本当の想いを。彼女達には伝わらなかったから、せめてギルダーツには、と。それを訊いたギルダーツは更に笑う。
『なーに いっぱいしな事言ってんだ? 色気づいてよ?』
『いや…そんな事じゃないよ、だ、だって 普通……、そうなんじゃなのっ!?』
『はははっ……、まあ 確かに その面は間違っちゃいねえが、それでもよ?』
ギルダーツは笑い続けながら、まだ決まらないあのゼクトが言う女の子達の方を見た。
『……たぶんよ? お前さんが断り続けたら……あいつらきっと傷つくぜ? それこそ、男が女にする事じゃねえと思うんだけどなぁ? 期待に答えないなんて事も、良い男はしないと思うぜ?』
ギルダーツは、そう言うけれど、内心は別の事を考えていた。。
「(まあ、あいつらの場合は、傷つく…っというより、すっげー怒るだろうな? んで、ゼクトには、こういっときゃあ……)」
そう思いながら、ギルダーツは改めてゼクトを見ると、効果覿面だと確信した。
『あ、う……』
ゼクトは、言葉に詰まっていたからだ。
『ははっ…… お前、記憶が無えって言うのに、そう言った感性はあるんだな? ガキの癖に、紳士なこって』
『……流石にそれは酷い。それにオレは、あの場所……、それにここ、それが 何で好きなのか。それがわからないだけで…、そのくらいはあるよ』
ゼクトは、ため息しながらギルダーツにそう言い終えた所で ギルダーツはまた、笑った。
『はははっ、悪かったよ。……おっ? 向こうもおわったみたいだぞ?』
『えっ…?』
ギルダーツの言葉を訊いて、ゼクトも振り向く。すると そこには、笑顔でVサインをするミラの姿と、負けて殺気をワナワナ……っと出している実に対照的な2人がいたのだった。
『ええっと……これって』
『決まりだな?まあ、がんばれ!』
『もう……っ』
『はははっ、まあ 答えてやれ。つまりは 良い男の特権なんだ。っていうか、義務だ』
ギルダーツは、そう言い終えると、少し真面目な顔をした。
『……まあ、後気をつけるとこっつったら、顔は狙うなよ?』
ここだけは、本当に大真面目に語るギルダーツだが、それを訊いたゼクトは 少しだけ怒っていた。
『もうっ 狙わないよ! 当たり前っ!』
怒っていたゼクトだけど、もうどう足掻いても結局戦うって事、避けられない事を理解した。
『ん~~……うがぁっ!!』
だから、ゼクトは気合を入れなおすと、ウジウジするの止めた。
『おおぅ?』
ギルダーツは、突然気合を入れたゼクトを見て、ちょっと驚いた様だ。それを見た、ゼクトはちょっとした仕返しになった。そう思うとしてやったりな気持ちだが、とりあえず ギルダーツは置いといて、更に気合を入れた。
『よし…覚悟決めたよ。……もうっ』
ぐっと…力を入れると、はぁ……っと、さっきとは対照的に、ため息しながら 笑顔で待っているミラの元へと向かっていった。
「ははっ…アイツ、コロコロ表情変わっておもしれえな♪ それに マジで連れてきて良かったな」
ギルダーツは若干猫背になってるゼクトを見ながら苦笑いする。そんな時。
「よぉ、オヤジ」
背後から声が聞こえた。いつの間にか、誰かが傍にまで、来ていた様だ。
「おう。ラクサスか? オレの後ろ取るなんざおめえも随分腕上げたか?」
ラクサスを見て、ギルダーツは 笑いながらそう言っていた。随分と気分が良い様だ。
「アホな事言ってんじゃねえよ。それよか、アイツの事だよ。アイツ」
ラクサスは、そう言うと、ゼクトを指差していた。その後ろ姿は、まだ猫背になってる。
「アイツ…かなり出きるな? いったい何者だ?」
ラクサスは、ナツとの戦いを影で見ていたのだ。
最初は別に気にならなかった。ナツが誰彼 突っかかるのは日常茶飯事だと言う事をラクサス自身も知っているし、相手をした事もあった。
だけど、ラクサスが実際に見ようと思った訳は、マスターのマカロフの言葉と、ギルダーツが連れてきたと言う事実があったからだ。
その戦いでの動き。それは確かに目を見張った。確かに、その動きを見切る事は十分に出来た。それに、自信過剰と言う訳ではなく、自分自身の力量、魔法を考えたら、あれ以上の速度で動こうと思えば問題なく出来るだろう。
だが、それは勿論魔法の力。己が使う魔法、雷を付加した上での事だ。
ゼクト自身は、魔法を使ったわけでもなく、純粋な身体能力と感じた。身体能力が高い以上、そこに魔法の力が加われば、その力量は何処まで上がるか判らない。考えがつかないのだ。
「ははっ、ナツ、ミラにエルザ。今度はお前か、ラクサス。アイツ、こんな短期間で人気モンになったみたいだな」
「また、あほみてえなこと言って。今、オレまで突っかかるわけ無いだろ。このままじゃアイツ3連戦だろうが。んな時につけこむか」
「あん? へっ…多分アイツならやれると思うがな? 問題ないって」
ラクサスの言葉を訊いて、ギルダーツは不敵に、意味深に笑った。
「……んだと?」
「まあ、純粋な能力、魔法の力だったら……の話だ。アイツは何でかわからんが、このギルドが、好きで好きでたまらないみたいでな? さっきみて判ると思うが、男であってもだ。最初のナツと戦うのにも、大分躊躇った、と言うか出来ないって言ってたんだぜ?」
「…それは別に良い。それよりも、だ。オヤジはアイツとオレ……、戦ったらアイツが勝つって思ってんのか? 問題ない、って事はそう言う事だろ?」
ラクサスの問いにギルダーツは不敵に笑みを見せていた。
「さあ…どうだろうな?」
ただ、否定もせず、肯定もしなかった。だが、ラクサスにはそれだけでも十分だった。
「おもしれえな……」
最後には、ラクサスも笑っていた。
ギルダーツの実力は十分すぎるほどラクサスは知っている。
間違いなくこのギルドNo1の魔道士だと言う事もだ。それは、恐らくマカロフを含めてだ。そして、そんな男が、そこまで言うってことは、あの男の力も、考えている以上に上だろうという事も判った。
「今日の結果次第でオレもアイツと戦ってみるか………」
ラクサスはそう言うと、もうギルダーツから離れていった。
「ほんっと、人気者だな……」
ギルダーツは、離れていくラクサスを見て、思った。
ちょっと煽っただけで、あのラクサスもやる気を出したのだから。
最近のラクサスは、本当に複雑な心境だった筈なのだ。
それは、ギルド・マスターの孫と言う重荷、それが必要以上にラクサスにのしかかっていただろう。
それに戦いこそが最大のコミュニケーション、とまでは言わないが、少なくとも、全力でぶつかれば相手が、その相手の事が見えてくる。それは戦いだけではない。勉強にしたって遊びにしたって……全てにおいてだ。
どんな事であっても、全力で、互いに全力でぶつかり合えば。
そんな男が、これから仲間になるんだから。ラクサスにも良い影響がでるだろう、とギルダーツはおもえていた。
「……ま、どうだろうな? 正直未来までは。……先のことはわからねえし?」
思うだけであり、最終的には良い方向に行くだろう、と根拠がない確信を持つのだった。
そして、場面は元に戻る。
ナツの次はミラ。ギルドの皆も更に興味を持った様だ
初めはグレイが、ミラに乱暴に突然割り込まれた事から、色々言ってたんだけど、そこに、エルザまでが来てから、そこからは 口を出さずに下がった。白旗を上げた様だ。
そして、対峙するゼクトとミラ。
「さあ! 私とやるぞ!」
ミラのとても良い笑顔だ。本当に戦いの前の顔とは思えない。
「うん。お手柔らかにね?」
もう完全に覚悟を決めたゼクトは、そう言って ミラの前に立った。
「む? 手を抜くなよっ?」
ミラは、念を押した。優しい性格だと言う事は もう理解出来たからの念押しだ。
「……そんな事はしないよ。だって、相手に失礼だから」
頷くゼクト。嘘をついている様には見えなかった。
「ふふっ…楽しみだ」
だからミラは、腕を振り そして拳を作り、ポキポキ、と鳴らした。
そして、次の瞬間 ミラの身体は、魔力とそして光に包まれたと思えば、次の瞬間には、そのミラの身体が先程のものではなくなっていた。
ミラの身体には尻尾や羽が生えて、それに目つきも先程に比べて遥かに鋭くなっていた。
「ははっ! 驚いた?」
驚いていたゼクトを見て、ミラはちょっと嬉しそうにそう言う。
「これは、《サタン・ソウル》って言うんだ。全身接収。《悪魔の力》を身に纏わせる!」
ミラは、遥かに向上した魔力を、掌に溜め、球状の塊を作り出した。
「………凄い、ね……」
そう、ゼクトは本当に驚いていたのだ。相手は女の子だと言うのに、こんな力があると言う事に。それは、少し差別だと思えた。女の子だから、ってそんな風に思うのは本当に失礼だった、と諌めていた。
「ははっ! そーだろっ? まぁ でも……ちょっと、目つきが、悪くなっちゃうのが 気になっちゃうけど……」
どうやら、ミラにはその鋭くつりあがってる目が気になる様だった。
「さっ! そんな事はいいでしょ! やるよ!」
「うん。OKだよ」
ゼクトとミラは向き合って、そして構えた。
その間にはギルダーツが入り、ナツの時同様に、合図をしてくれた。
「ほれ! はじめっ!」
ギルダーツが合図をした途端だった。大きく翼を広げたミラは、羽撃くと、そのまま、低空飛行で滑空をして、一気に距離をつめてきた。
「わっ!?」
ゼクトは、ミラには翼があるから、空を飛ぶとは思ったけど、ちょっと流石に面食らったようだ。
「……先制でいきなりだけど悪く思わないでね?」
間合いを詰めたミラは、殆ど密着した状態で にこっ、と笑みを見せた。
その笑顔に、怖い印象さえある今の状態のミラだったが、ゼクトは一瞬見惚れそうになった。
その瞬間だ。
「イビル・スパークっ!」
両手の先から迸る黒紫の雷撃。その両手をゼクトに付け、黒紫の雷撃をそのまま身体に放った。
雷撃はゼクトの身体を貫き、凄まじい雷光と轟く雷鳴が響き渡り、そして その威力から地面にも振動が起きて、周囲に砂埃を舞い上げていた。
ミラは、自身が放った雷撃のせいもあって、砂埃が舞って見えないが、あの至近距離故に、確実に直撃をした筈だから、倒れていると思っていた。勝負あった、と思っていたのだ
「あははっ……、 いきなりでゴメンネ~~? でも アンタ、凄く強そうだったし? ギルダーツも『はじめ』って言ったんだし。……だから、やっぱし全力でしなきゃ 相手に失礼だと思ってね?」
ミラは、あまりに 手ごたえがありすぎたので、ちょっと本当に申し訳なさそうにそう言った。
なぜなら、今までここまで本気で打ち込んだ事などないからだ。
ナツやグレイ達みたいに喧嘩するときは勿論。エルザとするときだって、全力の魔法なんか使ったりしない。……喧嘩だし、そこまでするのはもう喧嘩っていわない。本当の戦いだと言える。
でもたまに、今回みたいな手合わせ、みたいなのは見た事はあっても、直接的に、したことは無かったのだ。魔法は仕事先の敵に対してぶつけるものだから。
それは、当然エルザも同じだった。
だけど、いつかは 決着をつけてやろうとは思ってたけれど。
ミラは 砂埃が舞っているところに向かって、合掌をしていた。
だが……、次に有り得ない事が起こる。
「あは、別に謝らなくてもいいよ?」
ミラの背後から、声が聞こえて来たからだ。
「っ!!!」
振り返ったその先には、あの男が、ゼクトがいた。
「でも、オレも謝らないと……。そうだよね。どこかにまだやっぱり、女の子と戦う事なんて、いくら今回みたいなことでもしたくないって思ってたみたいでね……」
頭をすこし掻きながら、更に付け加えた。
「それに……キミの事も、キミの魔法も、力も見縊ったみたいなんだ」
ゼクトは、身体を確認しながら、そう言った。
先程の雷撃の一撃、その威力は本当に凄まじかった。
ミラの前の戦い、ナツとの一戦もある。
ギルダーツと比べようとした自分が本当に悪かったって思ってる。ギルダーツが、最初に会った時に感じたとおり、は規格外であり、次元が違うってことを改めて知ったから。
そういった想定でナツを攻撃したら、ナツは目を回して倒れてしまった。
「ん………」
ゼクトは、ナツが倒れてる方を見る。どうやら、まだ、麻痺が抜けてない様で、身体を少し痙攣させていた。リサーナに抱えられながら。
手合わせとはいえ、遊びだ、と言っていたとは言え やはりちょっと、気が引ける。それが、大好きと思えるギルドの魔道士なら当然だ。
流石に直ぐに割り切れたりしない。
でも……ギルダーツが言っていた言葉の中で、一番心に残ったのが『女の子が傷つく』だった。
それを聞いたら、もう出来ない。戦わない事よりも、傷つくのなら。
「……うん。もう侮ったり見縊ったりしないよ」
ゼクトは、そう言って 再び構えた。
遊びでも……手合わせでも、もう敬意を持ってやる。本当にそう決めた瞬間だった。
「私の今の一撃……効かなかった…?」
ミラは、ゼクトを見て本当に驚いた。目を見開いて驚いた。
自分の手には、あの感触が残っている。攻撃をした感触、まだ確かに残っている。
それは、黒紫の雷撃。悪魔の雷撃だ。
それが 全く効かない、効いた様子がないのだ。確かに、まだまだ自分自身が未熟だって事はわかる。
だけど今戦っているのは、見た感じは同年代の男の子が相手だ。
なのに、それなのに、簡単に防がれた事に驚きを隠す事が出来ないのだ。
「いいや……痛かったよ」
ゼクトは、否定する様にそう言った。だけど、それは何の慰めにもならない。
「……っ! そんな顔で、簡単に言われても説得力がないわよ!」
だからこそ、激怒したミラは、すぐさま魔力を手に集中させた。その慰めは、彼女のプライドに触ったようだ。
「これならどうだっ!!」
両手に魔力を集中させ、生み出したのは闇の系譜の魔法。相手の体力を奪い、且つ黒き衝撃を生み出す暗黒の波動を集中させた。
「ダークネス・ストリームっ!!」
集中させた暗黒の波動は、ミラの両手から打ち出され、曲線を描き、縦横無尽に動き回った。
まるで、意志があるかの様にうねり、動き回る波動を避けきるのは、初見では絶対に無理だ。ここまで近づいていれば、尚更だ。
「くらええっ!」
ミラは、魔力の限り、己の魔力が尽きるまで、撃ちはなった。
「《エレメント・ドライブ》」
ゼクトは、ナツの時同様、手を合掌させる。
その間、ミラの放った波動は四方八方、ゼクトを取り囲んでいた!
「どう!? もう逃げ場は無いぞっ!!」
完全に逃げ場を、逃げ道を防いだミラは 更に魔力を込めた。
「防げるものなら…! 防いでみろーーーっ!!」
ミラの怒号と共に、一斉にゼクトに襲いかかる暗黒の波動。それは、止める事の無い暗黒の連撃。そして、魔力同士のぶつかり合いで発生した黒煙があたりを包み込んだ
「うぐぅぅぅぅぅぅ!!!」
ミラ自身の全魔力を込めたのだ。だからこそ、ミラももう余裕は無い様だった。
どうやら、ミラもナツの時の様に、自分自身の攻撃を防がれた事で、簡単に防がれた事に衝撃を受けたのだろう。だから、ナツの様に これを最後の攻撃として、今 持てる全ての魔力をこの一撃にこめたのだ。
あの黒紫の雷撃を…認めたくないがあっさりと防いだというのなら。悪戯に攻撃しても、長引かせても、魔力を消耗して、最終的には負けてしまうと思ったからだ。
それは、なぜか確信出来たのだ。相手の魔力の底はまるで見えないから。
「(くぅっ………、ち、力が抜けそう……)」
ミラは、大量の魔力を放ちながら、同時に脱力感に襲われた。そう、魔道士の魔力は、そのまま生命力にも直結するから。だから、ミラは身体全身に疲労感が襲いかかっていたのだ。
そして………。
「く……あっ……、サタン・ソウルが……。」
魔力が完全に消耗しきってしまったのだろう。その姿が、先程の戻ってしまっていた。
だが、今のは全魔力を使った連撃であり、全力の魔法だ。だから 黒煙はまだまだ晴れなかった。
「おいおい……ミラジェーンやりすぎなんじゃないか?」
「お…おねーちゃん………」
「アイツ…大丈夫か?」
周りの反応も、お祭り騒ぎのようだが、内容は変わってきている。
殆ど全員が、『ミラ! やりすぎだろっ!!』と思ってるいる、そんな雰囲気だ。
だけど、ミラの最初の一撃を簡単に防いだゼクトの姿も見ているから、そこまでは慌てたり、騒いだりはしていなかった。
「ふっ……ふう……」
全魔力を消費した脱力感は…半端じゃない。これが仕事の最中だったら。下手したら命に関わりかねない程だからだ。だから、ミラは暫く膝をついていた。
そんな時。
「今の一撃…、いや違う連撃だね。凄い威力だったし、ほんとに申し分ない、って思ったけど……」
声が、聞こえて来た。また、自分の背後からだ。倒れるまで、膝をつくまでは 油断してなかった。目を離してもなかった。なのに、声が聞こえてくるのは後ろからなのだ。
「そ…んな………」
ミラは、認めたくは無い。認めたくなかった。自分の出来るる全て、ほんとのほんとに、全てを出し切ったのに、命中させたのに、いつの間にか背後を取っている事に。その上、全く気配を感じなかったのだ。
「うん。本当に危なかった。魔法の形態を、変えてなかったら、危なかった」
そう言うと、ゼクトはミラの頭に手を、チョップする様に当てた。
コツン、と軽い衝撃があって、それを感じた瞬間、ミラは目を瞑っていた。
「っ………。」
そして、ミラは一瞬震えていた。
そして、その後。
「そこまで。勝者ゼクト」
ギルダーツが、終了の合図をした。
それと同時に、ミラは膝を付くだけでなく、完全に地面に倒れ込んだのだった。
倒れていたミラの頭に過ぎっていたのは、《敗北》の二文字だった。
それも 明らかに相手は全然全力じゃないって感じる。
なぜなら相手は、攻撃の【こ】の字も使ってないのだ。全部攻撃は自分だけであり、相手は攻撃らしい攻撃なんかない。その上、自分に触れたのは、攻撃でではない。………最後に頭を撫でる様に叩いたあれだけだ。
こんな、完膚なきまでの敗北は、生まれて初めてだった。
ギルドでの喧嘩でもそう、勿論、エルザとの喧嘩ででも。初めてだった。
「う……うぅぅ………」
そして、涙を流すのも初めてのことだ。
拭っても拭っても、止め処なく、目から流れてくる涙。
「ふぅ……」
ゼクトは、身体から力を抜いた。集中させた魔力を鎮めていった。どうやら、それに集中していたせいか、ミラが泣いている事に今 初めて気がついた様だ。
「あっ……その、だ、大丈夫…? ひょっとして……痛かった?」
ゼクトは、慌ててミラに駆け寄って申し訳なさそうに言っていた。
その姿を見て、言葉を訊いて、ミラは悔しさからか、本当に腹が立った。
「悔しい…悔しいんだよっ! 何よっ……アンタ……攻撃はいっさいしなくてッ。私を嘲笑うようにしてっ……! そ、そんなに、わたし、わたしを、見下したいの……っ」
ミラは、そう言って泣き続けた。
これが、八つ当たりだってこと。敗者が何を叫んでも、負け惜しみにしか聞こえないって言うのは、判る。判っている
ナツだって、何度も私に負けて、色々と騒いでいた。
その時、自分自身にはそう聞こえていたのだ。いざ、自分の立場になったら、同じように泣き喚く。その自分自身にも腹立たしさをミラは覚えていた。
「……………」
それを訊いて、ゼクトは、黙った。何も、言えなかった。
だけど、ミラは止まらなかった。
「なによっ………! な、なんか言ったらどうなのッ!」
ミラ自身は、言いたくないのに、言ってしまった。全然止まらないのだ。
涙も、そして口から出る言葉も。
負けたのは自分なのに、こんなに傲慢で怒鳴り散らすように言ったら、それも勝者にそんな事を言ってしまったら。相手がどう思うかなんかよく判る。自分自身に当てはめたら本当によく判る。
「……ッ!」
だから、これから、ゼクトに何を言われても、覚悟していた。その言葉に耐えられるかどうか判らないけど、覚悟はしていた。
「……今、オレが何言っても、信じてもらえないかもしれないけど………」
だけど、帰ってきた言葉は、全く違う種類のものだった。
「え……?」
だから、ミラは少し驚いていて、ゼクトの目を見た。その声は、一瞬だけど、凄く柔らかくて、何よりも優しく感じた。
「オレは、ギルダーツにも言ったし、初めにも……似たような事言ったけど、……女の子と戦うなんて、本当は嫌だった。……それは、君と戦うのが嫌だ、って事じゃないんだ。……オレは ナツとは戦ったけど、でもキミは嫌だ。って言うのじゃなくて……女の子を傷つけるなんて……、男がすることじゃないからって…、でも、そう思って戦う事、それ自体が、キミに対しての侮辱だったんだよ……ね? ……キミを、結果的に、傷つけて、本当に、ゴメン……なさい」
ゼクトは手をださない、そう、攻撃しなかった事、女だから戦いたくないって思ったこと、それが相手に対して侮辱だった。最低限度の攻撃手段だけをして、直接的な攻撃は全くしなかったのだ。
でも、それが相手の目には手加減だと映った。無論、全力で回避をしたし、攻撃の手段にも全力を尽くした。だけど、そうは見えないだろう。……だから、わかってなかった。勘違いしていた……。
だから、ゼクトは頭を下げていた。
「え……え? なん…で?」
ミラは、ゼクトから怒られたり、罵られたり、何を言われても、何を言われても仕様がない、当然の報いだ、と思っていたのに。ゼクトの口から出た言葉は、全く考え付かないような事だった。
「わたし……アンタに負けたのにっ、こんな事言って…なのになんで? なんで、アンタが、頭を……」
だから、ミラは思わずそう言っていた。
「オレ……、このギルドが大好きなんだ。だから、皆と仲良くしたい……。皆、皆……大好きで。 ……でも…オレが考え無しに、そう言う戦い方をして……キミを傷つけたから、……本当に申し訳ないなって思ったから」
『そんなのは、勝者がすることじゃない。敗者にそんなことをするなんて……だから、それも私に対する侮辱なんだ!』
そう、ミラは言ってしまいたかったけど、口から出る直前に、飲み込んだ。
心から、このギルドが好きで、本当に皆と仲良くしたい。
その言葉が嘘偽りなくと言う事が判った。心に響いてきた。だから、言えなかったのだ。
「あ…う……」
ミラは、何を言っていいのか判らなかった。
そんな時だ。
「ほら。ミラ」
固まっていたミラを、ギルダーツがひょいと手を握って引っ張りあげた。
「きゃっ!」
ミラは、突然手を引っ張られた事に、驚いていた様だ。それ程、今 周りが見えてなかったようだ。
「ミラよぉ。悔しいって思う事はいいんだぜ? ……今、お前はゼクトっつー目標を知ったんだ。どんどん強くなる為の一歩。歩き出す為の一歩をな? 何も恥じる事なんかないさ。それに……」
今度は、ゼクトの方を見た。
「コイツは、ちぃとばっか、人付き合いってヤツが苦手、殆どしてなくてな。だから、正直付き合い方をあんましわかってないみたいなんだよ。………本気で、さっき言っていた様に思ってんだ。だから、お前に、そう言われて。八つ当たりをして、普通なら怒るって思うような事を言っても……、アイツはそう返す。……嘘じゃなく、本気でな? 中々、気持ちに整理がつけれないと思うが、ここは、ノーサイドって事で、握手でもしてやれ。……ゼクトもよ。 コレだけ思いっきりぶつかり合えたんだ。嫌われるわけないだろ? 確かにお前さんの今の戦い方じゃそうとられても無理はないと思うがな」
ギルダーツは、そういった。
「え……? ど、どーいうことっ……?」
ミラは、ギルダーツに聞く。《戦い方》と言う言葉を訊いて驚いた様だ。ゼクトは何もしてなかったと、ミラは想っていた、感じていたから。
「ん? 見た目、一切攻撃しなかった、って所にだよ。それに…気がついてないかも知れねえが、ゼクトは、お前に色々してんだぜ? 直接的な攻撃はしてなかったがな。お前の目には一切攻撃してないって捉えてもおかしくない。それ程上手く、欺く様に、巧みに魔法を使ったんだ。全力で拳をぶつけるよりも、遥かに難しい戦術だ。……だから、お前を嘲笑う為にそうしたわけじゃねえ。嘲笑って上から見下ろして……そんな腐った男じゃねえ、それはオレが保障する」
ギルダーツはそう言って笑う。
「あ……う……うん」
ミラは、ギルダーツの言葉を訊いて頷いた。ギルダーツの言葉だから、と言う理由もあるが、勿論、ゼクトを見てたら、そう感じは全くしない。
さっきは、それほど取り乱してたって事だ。だから自分を落ち着いて、見直すことができるほどに回復したみたいだ。精神も、魔力も。
「ギルダーツ………」
ゼクトは、少しだけ、笑みを戻す事が出来た。
ギルダーツを見て、そして言葉を聞いて、嬉しかった。それにさっきの戦いでした事、どうやらギルダーツも見抜いていた様だと言う事も判った。
そして……。
ゼクトはミラ方に手を差し出した。
「……その、オレと……友…達に、なってくれない……かな? えと、み、ミラ」
そう、改めて言った。
全力でぶつかれば、判り合える。ギルダーツの言葉を信じて。
その申し入れを訊いたミラはと言うと。
「ッ……//」
少し、顔が赤くなっている事に自分自身でも気づいていた。思えば、本当に近くでゼクトの顔を見ていたから。
「お~いど~したんだ~~?? ほれ、返事してやれよ?」
ギルダーツは、そんな自分に気づいた様で、ニヤニヤと笑っていた。
「ッ! うっさい!!」
顔を、赤くなっている顔を見られたから、ミラは反射的に、ギルダーツの脛目掛けて蹴りを放った。
「うげっ!!」
中々の攻撃力。戦いの後で、疲れているのにも関わらずの一撃に、ギルダーツは足をピョンピョンさせていた。
「あ…あの……」
「う……うん。その…こちらこそ…よろしく…ね? その……ぜ、ゼクトっ」
ミラは、頬を染めながら、そう言って握手した。
ゼクトにとって初めて女の子の友達ができた瞬間だった。
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