ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第44話 真祖の覚醒
ジャックが朱染城の傍まで着いたのはモカの誕生日の翌日だった。
急いで出たとは言え、陽海学園との距離はそれなりに離れていたから、と言う理由がある。
「(確か 今日の朝… アカーシャと亜愛が…)」
ジャックは、現在時刻と朱染城までの距離を考えて、逆算した。
今の時間じゃ戦いを止めに行くのは、恐らくは間に合わないだろう事が判るのは早かった。
つまり、彼女達が戦うのは 避けられないだろうという事も。
この世界にとって、異物も同然の自分自身が生まれた事で、この世界はどこまで歪んだのかまでは分からない。だが、唯一判る事はある。
―-勿論、アルカードの事だ。
一度、見た事があるからこそ、判るのだ。あの異常な力を。
だからこそ、分岐点とも言えるモカの誕生日だけでも把握しておくべきだったと、あの城で、アカーシャ達と会えた事で満足しきってしまっていた事を、後悔していた。
だが、それも一瞬だ。
「(後悔してても仕方ないか… やれる事をやる…だけだ!)」
あの異常な力で。自分のせいとも言える異常なアルカードとも言える力で、アカーシャだけじゃなく、モカも………。そんな最悪の未来を回避するために。まだ 少し離れている朱染城へジャックは全力で向かった。
~朱染城~
それは、丁度同刻。
「後悔してないの? アカーシャさん。モカをここから追い出した事……」
広い朱染城にいるのはたった2人だけ。アカーシャと亞愛だけだった。
「大方……私の「正体」を知って避難させたんだと思うけど…正直意外だったもの。あなた達親子は何があっても離れないと思ってたから…」
亞愛は、更に続けた。
「いつも一緒……、 2人は当然のように支えあって、誰よりも深い絆でつながっているようだった… ずっと羨ましいって思ってたな……」
亞愛は少し悲しそうでそれでいて羨ましそうな表情をしてつぶやいた。
「モカはね……、すごい難産で…… 生まれた時には殆ど死んでいたの……」
亞愛の話をじっと窓から外を見ながら訊いていたアカーシャは、ゆっくりと口を開いた。
「死んでいた……?」
その話が見えなくなり亞愛は、訊きなおした。
「そう… その時 初めて神様に祈ったわ。そして何よりもあの人にも…。「モカを護って…私はどうなってもいいから…この子だけは助けてください」って…」
――あの人??
亞愛は口を挟もうとしたが躊躇った。
「その想いは今も何1つ変わってないわ」
優しい笑顔でアカーシャは言い切った。亞愛は、その言葉を感じゆっくり目を瞑りながら、呟いた。
「…私も大好き… モカの事、一緒にいるだけで不思議とあったかい気持ちに慣れる」
「あなたには特に懐いていたものね」
亞愛の言葉に、アカーシャは笑いかけながら話した。
「是是♪ だって、性格は正反対なのに逆にそれが相性ピッタリで~♪」
つられて 亞愛も笑いながら答えた。
「……だから感謝しているの あの子を館から避難させてくれて。本当はもっと早くに行動するつもりだった…… でも、モカの事を考えるとどうしても二の足を踏んでしまって 気付けば1年以上が過ぎていたわ……」
亞愛はアカーシャにゆっくり近づきながら、表情を一気に変えた。
「だってあなたが死んだら モカは酷く悲しむでしょう?」
傍から見れば、悲しそうな表情に見えるのだが……その顔は酷く冷徹な顔にも見える。まるで 悪魔の様に。
「私には目的がある それはかつて最強と呼ばれたアルカードのように「真祖」の力を得ること… だから血が必要なの アルカードを倒して三大冥王と呼ばれたあなたの…「真祖」の血が!」
明確な殺意とその目的を訊かされたアカーシャだったが、決して笑顔を崩さなかった。
「それで……真祖になってどうするの? アルカードのように自分を苦しめた人間達の世界を滅ぼすつもり?」
それを訊いて、亞愛は少し表情を崩した。
「……いいのよ 遠慮しないで、私は逃げも隠れもしないし、今日この棟に誰も近付かない様言ってある…… 邪魔は入らない」
「……謝謝恩にきるよアカーシャさん」
アカーシャは笑顔のままで
「亜愛…人間を苦しめるのだけはダメ……。 だって、あの人が命に変えてでも。自分の命を捨ようとしてまで、護った存在だから。それだけは分かってもらうわ」
亞愛、そしてアカーシャ2人の間には、戦う前の緊迫感等はない。ただただ、複雑な想いが交錯していた。……だが。
「かかってらっしゃい亜愛…あなたが抱えている想い私が全部受け止めてあげる……」
アカーシャのその言葉で、2人は完全な臨戦態勢に入るのだった。
アカーシャと亜愛
アカーシャは己の妖力を完全に抑えている上に、今回の相手は義理の娘である《亞愛》。相手にするには、分が悪すぎる。優しすぎる彼女だからこそだ。
だから、亞愛が繰り出す、この世に斬れぬものはない、とされる世界最強の刃、《崩月次元刀》を防ぎきれず、その身体に幾らか食らってしまい、傷を負っていた。
亞愛が優勢だが、それでも明らかに本気を出していないアカーシャに苛立ちを感じていた。
「ん~ どうしたの? 私の事受け止めてくれるんでしょ? 私が欲しいあなたの「力」…こんなものじゃないはずよ。 真祖とは星のように気高い存在… その強さは普通の吸血鬼を遥かに凌ぎ、強大な妖気は漆黒の闇よりも深く…、そして美しいのだという…」
アカーシャの血の付いた血を振り払い近付いていった。
「そろそろ見せてよ アカーシャさん。伝説にまでなった真祖の実力を」
アカーシャは黙って聞いていた。だが、表情は決して変えない。
「ふふ… 確かに強いのね。でも あなたこそまだ遠慮しているんじゃないの? この程度じゃ 私にダメージは与えられないわよ……」
アカーシャは、ゆっくりと身体を亞愛に向きなおしていた。その僅かな間で。いや 殆ど一瞬だった。全身を斬られていたアカーシャの傷が。
「………! 何…(傷が… 治癒していく…!)」
完全に塞がっていたのだ。周囲に飛び散った血痕すら残っていなかった。
「あなたは自分が思っている程 冷徹な娘じゃないわ。たとえ血が繋がって無くても「母親」の私にはよく判る……」
アカーシャは、この時初めて表情を崩した。幾ら亞愛の攻撃を受けても、表情を変えなかったアカーシャが。……悲しい顔に。
「辛いならやめたっていいのよ亞愛……」
それは、生涯孤独で過ごした亞愛。もう、二度と温もり等得られないと想っていた亞愛。
だから、母の愛などとは無縁で過ごしてきたからこそ、亞愛は顔を赤くしながらも激情した
「……ッ!何をッ!!」
その表情を消そうと、己の脳裏に焼き付きかけたその顔を切り捨てようとしたその時。
「やめてぇぇ!!」
叫び声が、響き渡った。
その声の主は、異変を 胸騒ぎを感じて、そして何よりも、アカーシャにくれた《ロザリオ》を取りに、館に戻ってきたモカが叫んだのだ。
「どうなってるのこれ……… 何でお母さんが血まみれなの? ひどいよ! 亞愛姉さん お母さんを傷つけないでぇ」
モカは叫ぶと同時に、アカーシャの元へと駆け出した。
「モカっ どうして戻ったの!? ここに来ちゃダメっ!」
近付いてくるモカを見て、初めて動揺したアカーシャが叫んだ。
「………モカ……」
亞愛は、悲しそうな顔をするモカを見つめた。
モカが亞愛を見る目はいつもの温かい目じゃない。怒りの目、亞愛が見た事が無い目、そして表情だった。
「(ああ… そうか、アカーシャさんの言う通りだね… 私はまだ躊躇ってたんだ… あなたを悲しませる事 あなたに憎まれる事… おかしいなぁ、出会ったときからいつかはこうなるって分かってたのに… わかってたのにーーー…」
亞愛は目を瞑り上を見上げ…、その次の瞬間 惨劇が起きた。
「危ない母さんーーーーーッ!!」
次元刀、亞愛の手刀がアカーシャの身体をゆっくりと、確実に迫って、……アカーシャの身体を。
鮮血が舞い散った。亞愛は、先程までアカーシャに対して敬意を示していた目ではなく、あの時モカを殺そうとしていた連中を見る様な目。敵を見る鋭い目で。
「………… お世話になりました」
アカーシャに対して、これまでの、そして今の対話に対しての礼を言ったのだった。
「お母さんーーーッ!!!」
身体を裂かれ、明らかに死を意識させられるに十分な状態だったが、モカはそれを決して認めず、倒れた母に駆け出そうとした時だ。
「来ないでモカ…… 見ない方がいい……」
亞愛が、アカーシャまでの道筋に立った。まだ、しなければならない事があるからだ。……アカーシャの血を奪うと言う最終目的が。
「どうして…… どうして……」
モカは、その身体を震わせた。 目からは溢れる、止まらない涙を、只管流しつづけた。
「ごめんね……モカ… これが本当の私…… 昨日館の地下で見せたでしょ? 今も眠り続けるアルカードの姿を…。 人間を憎み…世界を憎み…その全てを破壊する事で運命に抗おうとした孤高なるバンパイア……」
アカーシャの返り血を舐め、モカを見つめた。
モカは、その目を知っている。その表情を知っている。
まるで、悪魔の様な目つき。……そう1年前館の外で惨殺した中国の妖達を見るような目、そして一筋の涙を流し、答えた。
「私はその遺志を継ぐアルカードの血族なの…」
モカは、もう 亞愛を見ていない。ただただ、顔を俯かせた。そして、静かに呟く。
『…………け…』
その呟きが聞えなかった為、亞愛はモカの方を見つめ直したその次の瞬間だ。
「どけぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
凄まじい衝撃が亞愛の頭部を貫いた。
それは、中国拳法をベースとし向上させてきた亜愛が回避できないほどのスピードと重さの蹴り。
それが、亞愛の左側面頭に直撃したのだ。
「がふ…」
辛うじて反応する事が出来た為、頭への直撃そのものは回避する事が出来たが、防御した左手、そして首の骨が完全に折れ、そのまま吹き飛ばされた。
「う うう う うわああああああああああ!!!!」
モカが泣き叫ぶと同時に、今度はモカを中心に凄まじい妖気が沸き起こり、可視化された妖気に包まれていた。
「なっ… こ……これはっ……(凄まじい妖気…まるで漆黒の闇があふれ出てくるような…)ま…まさか あなたが……」
亞愛は自分の目が信じられなかった。なぜならそれはアカーシャにある筈のモノ、なのだから。
「(真祖……! そんな…どうして? 真祖の力は遺伝しないはずじゃ…)」
有り得ない事態。それに、亞愛が混乱していたその時だった。
“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ ズ ズ ンッ!”
凄まじい衝撃、そして揺れを感じた。
そう、運命の歯車は回りだしたのだ。
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