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下水道

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5部分:第五章


第五章

「何だこりゃ」
「賛美歌だぜ」
 二人はそれに気付いた。物陰に隠れながらそれを聞いて怪訝な顔になるのであった。
「下水道に賛美歌ねえ」
「また変な話だな」
「変な話どころじゃないな」 
 フランコはここで首を傾げた。
「カタコンベじゃあるまいし。妙な話だ」
「あれかい?昔のことを思い出して色々とやる宗派じゃないのか?」
 アメリカには様々なキリスト教の宗派が存在している。これは欧州で弾圧を受けたその宗派がアメリカに逃れたことやそもそもキリスト教の信仰が篤いこともある。事情は様々であるがどちらにしろアメリカには様々なキリスト教の宗派が存在しているのは事実である。
 彼等はそんなことを考えながら様子を見ていた。しかもその賛美歌は二人に近付いてくる。向かい側の通りなので遭わないことを僥倖として彼等はさらに見る。するとここでとんでもないことを見て知るのであった。
「司教様」
「うむ」
 見れば彼等は法衣に身を包んでいる。そうして十人程で歩いている。その先頭にいる男は髭を腹のところまで伸ばし髪も切ってはいない。その為かなり異様な外見をしていた。
「昨日揃えるものは全て揃えました」
「で、あるか」
 司教と呼ばれたその男はすぐ後ろにいる男の言葉を聞いて満足したように頷いていた。
「それは何よりだ」
「ではいよいよ決行ですね」
「そうしよう」
 またその男に答えてみせる。
「ここから一気に毒ガスを放てば」
「この堕落した街ラスベガスは忽ちのうちに死の街になります」
「そう簡単になるかよ」
 マクガイアはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「ラスベガスっていっても広いぜ。そうそうは」
「おい、声が大きいぞ」
 フランコは小声でその彼を注意してきた。二人はまだ隠れ続けている。
「聞こえたらやばい。気をつけろ」
「そうだな。マジでカルト団体みたいだな」
 彼もそれは察していた。そもそも真っ当な団体がこのような場所にいる筈がないのだ。いるとすればテロリストかその彼等のようなカルト団体か。何れにしても表を歩けないような、そうした者達であることはわかることであった。
「用心するか」
「そういうことだ。捕まったら本当に何されるかわからないからな」
「そうだな」
 そう言い合ってから二人は身長に言葉を慎んだ。そうしてそのカルト教団の様子をじっと見守るのであった。見れば彼等はまだ話をしていた。
「では間も無く時が来る」
「そうです。我等の理想社会を実現する時が」
「腐敗も堕落もない世界」
 司教と呼ばれる男は血走った目で言っていた。
「それがいよいよ実現するのだ」
「腐り果てた世界が消え去り」
 彼等の目には狂気があった。それに基いて話していた。
「腐敗も何もかもがなくなるのだ」
「その通りです。いよいよ」
「何かああしたカルトっていうのは」
 フランコは彼等の話を聞きながら呟くのであった。
「どうしてああも理想社会とか言ってテロに走るのかね」
「自分達以外の考えや存在を認めないからだな」
 フランコの呟きに大してマクガイアは真面目な感じで応えてきた。それまでの軽い調子は何時の間にか完全に消えてしまっていた。
「だからカルトなんだよ」
「何だ、わかってるんだな」
 フランコは彼のその言葉を聞いて言う。
「そうしたことも」
「警官だぜ。そういうことは頭どころか身体に叩き込まれているさ」
 それまでのマクガイアの顔に戻って応えてきた。
「警官になってすぐにな」
「そうか。それでどうする?」
「どっちにしても放ってはおけないな」 
 マクガイアは真面目な顔に戻って彼に言った。
「ここはやっぱりな」
「上に話すか」
「とりあえず証拠写真も撮った」
 携帯を出してみせてきた。それを使ったのである。
「それも何枚もな。これでいいだろう」
「どうして撮ったかは言うのかい?」
「ああ」
 フランコのこの質問にも答えた。
「街でマンホールに入った怪しい奴を追跡して発見した。これでいいな」
「嘘つけ」
 フランコは今のマクガイアの言葉にはシニカルな笑みで返した。
「それは違うだろうが」
「こういう嘘は許されるだろ」
 だがマクガイアは平気な顔でこう言葉を返すのであった。
「正義の為だからな」
「正義の為には嘘もいいのかよ」
 またシニカルな笑みを彼に向けてみせた。
「警官がそれでいいのかね」
「目的が正しければそれでいいだろ」
 それが彼の返事であった。
 
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