下水道
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4部分:第四章
第四章
「そんな顔してるだろ」
「顔でそこまでわかるかよ。しかし本当に何が出てもおかしくはないな」
また周囲を見回しながら言うのだった。
「ここは。急にアナコンダが顔出してきたらと思うと怖いな」
「全くだぜ。けれどあれだろ?」
ここでフランコはふとした感じで言うのだった。
「アナコンダってでかいよな」
「ああ」
これは言うまでもないことであった。だからこそ有名なのだから。
「それがどうしたんだい?」
「餌、あるのかね」
彼が考えたのはそこであった。
「そんな百フィートかそこいらありそうなのがここで生きていけるのかって考えてな。そこんところはどうだい?」
「ニューヨークじゃ鰐がいるじゃないか」
マクガイアもまたニューヨークの話は知っているようであった。やはりこの話はかなり有名であるらしい。
「それじゃあラスベガスにアナコンダがいても不思議じゃないだろ」
「餌は鰐のそれと同じか」
「ここは鼠もでかいしな。数が多い」
見れば確かにだ。脇に時々いる鼠はかなり大きいしそのうえ数も結構なものだ。それだけこのラスベガスが繁栄していて鼠の栄養となるものも多いということなのだろう。なおニューヨークのサウスブロンクスの鼠はそれこそ猫よりも大きくなっているとさえ言われている。
「それを食ってるんじゃないのか?」
「鼠ねえ」
フランコはそれを聞いてまた考える顔になった。
「だといいけれどな。いや」
「いや?」
「何かアナコンダだったらまだいいかもって思えてきたな」
今度はこう言うのであった。
「何となくだがね」
「何となくでも随分物騒なことを言うな」
マクガイアの問いは苦笑いを含んだものになっていた。
「あれかい?やっぱり宇宙人がいるって言いたいのかい?」
「まあ俺の会社はそうした記事が大好きなんだがね」
フランコの方でもそれは否定しなかった。
「実際のところ」
「まあ記事は記事だな」
マクガイアはそれと現実を分けるように言い表すのであった。
「実際のところ現実は違うさ」
「そうありたいね。けれどもう結構歩いているけれどな」
また下水道の周りを見回す。目は慣れたら見えるものは殆ど変わらず彼もどうにも退屈したものを感じるようになってきていた。
「何も出ないな」
「いるのは鼠だけか」
「どうする?続けるかい?」
フランコはこうマクガイアに尋ねてきた。
「それとも帰るかい?」
「おいおい、俺に振るのかよ」
マクガイアは彼の言葉を受けてまた言葉に苦笑いを含ませて言ってきた。
「そりゃお門違いってやつだろ」
「決めるのは俺か」
「そうさ。それでどうするんだい?」
彼はあらためてフランコに尋ねてきた。
「続けるかい?どうする?」
「そうだな。飽きてきたしな」
フランコは一旦はこう言う。
「じゃあ帰るのかい?」
「いや、もう少し続けよう」
だが彼はここでこう言うのであった。
「上に上がっても特に何もすることはないしな」
「酒とか博打もかい」
「酒はともかく博打はな」
フランコはそちらにはいい顔をしなかった。どうたら彼としてはあまり好きではないらしい。
「別にどうでもいい」
「そうなのか」
「だからな。特にすることもないし」
また言う。
「もう少し見回ってみるか」
「そうするか。といっても何もなさそうだな」
マクガイアはここでまた辺りを見回す。やはり何もない。下水と暗く湿ったコンクリートの通りと壁、それと鼠が見えるだけだ。後はマンホールの上りだけである。
「只の散歩と変わらないな」
「散歩だったら奇麗な女の子と一緒にしたいね」
「言うねえ。まあこんなところ女の子と一緒には行かないな」
「そういうことだな。んっ!?」
ここで遠くに灯りを見るのだった。
「職員の見回りか?」
「そうかもな。隠れるか?」
「ああ。見つかったら色々と面倒だしな」
「そうだな」
フランコとマクガイアの意見が一致した。丁度角を曲がったところだったので角の陰に一旦隠れる。光は前からやって来ていてしかも反対側の通路であった。かちあう可能性がないのが二人にとってはまずは幸運なことであった。
「何か声が聞こえるな」
「ああ。何だこれは」
二人はその灯りのところから声が聞こえるのに気付いた。それは何か歌っているようであった。さらに聞いているとそれが何の歌かもわかった。
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