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危機
強気の発言をしつつアリシアは更に逃げていた。
シャーロットが“機械妖精”のメイベルを両手ですくい取る様にして顔いだんを駆け上がっている。
けれど、“蒸気強化”された靴で駆け上がる速度には及ばない。
だから金属製のさびた階段を駆け上がるアリシアはそのままシャーロットを抱える様に抱きあげて、
「少しでも早く移動していからねっ……と」
小さくシャーロットに告げると、ありがとうございますとお礼を言う。
前も思ったけれど、このタイプの子供達は以前一人あっているが、妙に礼儀正しくませている。
特殊な力を持つ子供達、というだけではない気がする。
そう思いながらアリシアは、束ねた鉄骨が見てとれる。
普通の縄で、この程度ならそれほど“有機魔素化合物”は使用しなくても済む。
即座に判断したアリシアは、カチカチとメモリを動かす。
“守護触媒”が少量触れれば良い。
ほんの少し切れ味を高めて、後は……。
狙いを定めてその鉄骨を結んでいる縄を切り裂く。
後は少し進んでからその鉄骨に蹴りを入れてやる。
大きな音と悲鳴が聞こえたが、次の瞬間光が一閃する。
ずっと小さなこすれる音がして、後はガラガラと大きな音を立てて地面に落ちていく。
「あまり私の手を煩わせないで頂ければ助かりますね」
紳士の声には焦りは聞こえない。
本当に嫌な相手だとアリシアは思いながら少しでも先に進もうとする。
遠くに階段があるから更に登った方が良いだろうと思う。
目的は近くの建物の屋根の上を伝いこの場から逃走する事。
割れた窓からはまだ民家の壁が見える。
まだまだ上に行かないといけないようだ。
ただ途中からさびている金属製の床はいいのだけれど、足場が網状になっている。
これでは下からよく見えるのと、後は……。
「う、動くな、これが見えないのか!」
そこで紳士の仲間らしい男がこちらに拳銃を向けてくる。
まだあまり出回っていない小型タイプの物なので、そこまで遠くの人物に攻撃はできないだろうと思われる。
けれどアリシアがそこまで遠くに移動しているというわけではなく、しかも現在アリシアがいる場所は穴があいていて壁としては心もとない。
とはいう物のみすみす捕まるのも嫌なので、アリシアはほんの少し“蒸気強化”を強くして走り、加速する。
やがてすぐ傍の割れた窓の先に屋根が見える。
窓から屋根には乗り移れない。
丁度いい場所は壁がある。
そこでアリシアは、“守護触媒”に触れさせる量を多くしてその剣で壁を一閃する。
するりと紙の様に壁がたてに切れる。
とりあえずは節約のためにあともう一閃、そうアリシアは思い振りあげるけれどそこで、ふっと剣の輝きが切れた。
「! ちょ、待って。あともうちょっとなのに!」
その剣につけられた“有機魔素化合物”が完全になくなっている。
これではただの“剣”でしかない。
パンと大きな音がしてアリシアのすぐ横を銃弾が飛んでいくのが見えて、
「さて、そろそろお追いかけっこは終わりにして頂けると嬉しいですね」
紳士が笑い……そこで下の階からうめき声が聞こえたのだった。
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