ベスト・パートナーは貴方だけ
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“機械妖精”のメイベルは、その“蒸気機械兵”にひっつくと同時にそのロボットがググッと体を傾かせて、やがて大きな音を立てて倒れた。
先ほど“有機魔素化合物”の流れを、乱してとあのメイベルが言っていたのだが、確かにエネルギーを変換できなければあのロボットは動けない。
そうアリシアは思いつつ、けれどそれはメイベルにとっても諸刃の剣だと知る。
“蒸気機械兵”は確かに“有機魔素化合物”がないと動けない。
けれどそれは“機械妖精”とて同じこと。
現に先ほど“蒸気機械兵”に張り付いたメイベルは、ふらふらと落ちそうになってシャーロットがそれを受け止めている。
「メイベルありがとう、無理をさせてごめんなさい」
「いいよぃ~、でももうナビゲートできないから、ちょっと後はよろしく」
「はい、おやすみメイベル」
そしてそんなシャーロットの会話を聞いたアリシアは、
「シャーロット、先に逃げて。すぐ私も後を追うわ」
「はい!」
「残念だけれど、一緒に踊るのはすぐに終わってしまいそうね」
軽口を叩く程度に状況はこちらに有利だとアリシアは思っていた。
けれど相変わらず紳士は笑顔のまま、
「ふむ。なるほど。あのデザイナーズチャイルドが逃げてしまえば、私と戦う必要はないと」
「ええ、私も危険に身をおくのは得策でないと思っておりますから」
「では何故こんなふうに彼女を助けようとしたのかね?」
「さあ、困っている人を見たら手助けしたくなったというのと、むしゃくしゃしていたから、かしら?」
「一時の激情で行動するのはあまり賢いと思えませんな」
笑う紳士を見ながら、アリシアは何故か不安が自身に膨れ上がる。
“蒸気機械兵”は既に動くことは出来ずシャーロットは逃げ出したはずだ。
ここで適当に紳士を食い止めてからアリシアも逃走する予定だった。
状況は紳士にとって都合の悪い方向に動いている。
なのに彼はどうしてこんなに余裕が有るのだろうか?
アリシアの中の不安が更に膨れ上がる。
そこでたったったと足音が聞こえてきて、
「アリシアさん、すみません、ここが囲まれていて逃げられませんでした」
そんなシャーロットの声にアリシアはしまったと思う。
彼らだけが敵だと思っていたが、そうではなかったのだ。
少し考えれば分かることだった。
そして追われたシャーロットは再びここに戻ってきて、その後ろを誰かが追いかけてくる。
次はどうやってここから逃げるかだが、ここの周りには家しか無い。
だが、その家の上を伝っていけば外にはでられるか?
迷ったのは一瞬。
アリシアはシャーロットに告げた。
「シャーロット、階段を登って上の階へ」
「はい!」
そう答えて階段を登っていく。
それを確認してから紳士とアリシアは距離を取ると、
「おや、自ら袋のネズミになりに行くのですか?」
「そう思っているのは貴方だけかも知れなくてよ?」
応える必要はないけれどそう言い返して、アリシアはシャーロットの後を追っていったのだった。
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