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神の贖罪

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6部分:第六章


第六章

「死に掛けた者であってもな。つまりだ」
「我々は不死身に近くなったな」
「そういうことだ。今度の旅に大きいぞ」
 長兄に対して話すのだった。そしてここでヨッハルがさらに言ってきた。
「しかもだ。水に漬けたならその水がだ」
「葡萄酒になるのだったな」
「これも素晴らしいことだ。酒にも困らなくなる」
「そうだな。今まで酒なぞ考えもしなかったが」
「それが変わってくる」
 そのことを認識すると三人は勇気が出て来た。最早何も恐れることはなかった。
 三人は葡萄酒を楽しむこともできるようになった。今度は一旦陸を超えてそれからまた海に出た。今度辿り着いたのは黄金柱国だった。そこにあったものは。
「七頭の豚ですか」
「そう、それです」
「それを頂きたいのです」
 黄金柱国の王であるアサルに対して申し出ていた。三人はこのことを話すのである。
「宜しいでしょうか」
「無論。その為には決闘でも歌でも何でもやりますので」
「いえ、どちらも結構です」
 しかしアサルはそのどちらも受けようとしなかった。
「決闘も歌も」
「宜しいのですか」
「競争も詩もです」
 それもいいというアサルだった。
「どれもいりません」
「ではどうしてもお渡しできないというのですか?」
「そうも言ってはいません」
 アサルはそれも否定した。
「そうも。つまりですね」
「ええ」
「私が欲しいのは他のものです」
「他のものといいますと」
「今この国には一つないものがあります」
 ここでアサルは顔を曇らせてきた。
「実はです」
「実は?」
「葡萄酒がありません」
 こう三人に対して話す。
「ですから。それを欲しいのです」
「そうだったのですか。葡萄酒ですか」
「ええ。それに」
 アサルが欲しいものはまだあるのだった。
「多くの者が怪我を負っていまして」
「怪我を」
「実は葡萄酒がないことにも関係していまして」
 アサルの顔がさらに曇る。どうやら今この国は深刻な事情を抱えているようだった。三人もそれを察して顔を曇らせた。何があったかとアサルの言葉を待つ。
「葡萄畑で地震が起きまして」
「それで葡萄がなくなったのですね」
「ええ、そうです」
 そういうことだった。それを聞いて顔をさらに曇らせるアサルだった。
「それで。怪我人も多く出まして」
「わかりました」
 そこまで聞いて頷くブリアンであった。
「それなら何とかなります」
「なりますか」
「ええ。お任せ下さい」
 こうアサルに答えるとまずは申し出た。
「まず大きな穴を作りそこに水を満たして下さい」
「水をですか」
「はい。そしてですね」
 ブリアンがアサルに対して述べていく。
「怪我人を集めて下さい。宜しければ他の病の者も」
「他の病の者もですか」
「そうです。この際皆やってみます」
「まさかと思いますが」
 アサルは王の言葉を聞いて怪訝な顔になった。
「皆治すことができるのですか」
「はい、その通りです」
「ですからすぐにでも」
「わかりました。それでは」
 ヨッハルとヨッハルヴァも言った。アサルは半信半疑どころかまるで信じていなかったがそれでも三人の言葉を受けたのだった。そうして三人に言われる通り途方もなく大きな池を作り国中の怪我人と病人を集めた。三人はまず池に豚の皮を入れた。するとその池は忽ちのうちに。
「なっ、まさか」
「この様な」
 黄金柱国の者達は目の前で起こったことが信じられなかった。何と池の水が葡萄酒になったのだ。赤いかぐわしい香りの葡萄酒にだ。
「間違いない、これは」
「葡萄酒だ」
「うむ」
 皆その葡萄酒を飲んで口々に言う。中には酔いだす者さえいる。
「何故こんなに簡単に」
「湧いて出たというのだ」
「この豚の皮のおかげです」
 三人はこう一同に説明する。
「そしてですね」
「ええ、今度は一体」
「何でしょうか」
「さあ、皆さん」
 三人は今度は集まってもらっている怪我人と病人達に声をかけた。
「この豚の皮に触れて下さい」
「さあ、どうぞ」
「それで宜しいのですね」
「ええ、それだけでいいです」
「ですからどうか」
「わかりました」
 怪我人達はわからないまま三人の言葉に頷いた。病人達もだ。こうして次々に触れていくとそれだけで。彼等の怪我も病気も消えていった。見る見るうちにだった。
「嘘だ、こんな簡単に」
「怪我も病気も治るなんて」
「こんなことは有り得ない」
 皆口々に驚きの声をあげる。しかしそれは真実だった。彼等の怪我と病は消えてしまった。気付けば国中の怪我人も病人も消え去ってしまっていた。
「その豚の皮のお力ですね」
「はい、その通りです」
「これによってです」
 三人は呆然とするアサルに対して答えた。
「如何でしょうか、これで」
「七頭の豚は」
「ええ、どうぞ」
 アサルはにこりと笑って三人に述べた。
「持って行って下さい、是非」
「有り難き御言葉」
「有り難いのはこちらです」
 満面の笑顔で言葉を返すアサルだった。
「これだけの葡萄酒があれば次にできるまでに葡萄酒には困りません」
「そうですか」
「ええ。それに怪我人と病人がいなくなりました」
 これも非常に大きなことであった。
「ですから。その御礼にです」
「左様ですか」
「さあ、遠慮なさらずに」 
 こうまで言うアサルであった。
「お持ち帰り下さい」
「はい、それでは」
「是非」
 こうして三人は七頭の豚も手に入れたのであった。彼等は豚を何時でも食べられるようになった。しかもこの豚の肉は食べれば以後病になることがない。このことも彼等には非常に大きかった。
 
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