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神の贖罪

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5部分:第五章


第五章

「次兄の言う通りだと思うぞ」
「御前もか」
「そうだ、やはりこの馬も馬車も役に立つ」
「つまり使うべきだというのだな」
「そう、その通りだ」
 彼もまたヨッハルと同じことを言うのだった。
「だからだ。是非な」
「そういえば戦いにも使えるな」
 ブリアンは二人の話を聞いていてこのことにも気付いた。
「ならば」
「うむ、使おう」
「是非な」
「よし、わかった」
 ここまで聞いたうえであらためて頷いたのだった。
「そうしよう。それではな」
「これで決まりだな」
「ではギリシアへ行こう」
 こうして三人はこの馬と馬車を使うことになった。途中彼等は海で荒れ狂う巨大な蛇と遭った。馬と馬車はこの時に早速役に立つことになった。
 三人は早速分かれた。ブリアンが馬車に乗り後の二人が船に残って戦うことになった。海蛇は船に襲い掛かろうとしていた。
「兄者!」
「蛇はこっちに目を向けているぞ!」
 二人の弟はブリアンに顔を向けて叫ぶ。
「こちらに引き付ける!」
「後ろから頼む!」
「わかった!」
 ブリアンは海の上を進む馬車の上から彼等に叫んだ。そうして海蛇を後ろから襲う。後ろから襲われた海蛇は忽ちのうちに窮地に陥り逃げ去った。三人の勝利だった。
「勝ったな」
「うむ。少なくとも難を逃れた」
 戦いを終えたブリアンは船に戻った。その彼にヨッハルヴァが声をかける。
「だが。船だけだったなら」
「こうは上手くいかなかったか」
「そうだな」
 ヨッハルヴァも言う。
「これ程まではな」
「それを考えればやはり」
 彼等はここで馬車の重要性を確認するのだった。これはまさにその通りだった。
「この馬車は使えるな」
「ああ」
 あらためてヨッハルの言葉の正しさがわかった。戦いを終えた彼等はあらためてギリシアに向かう。そしてギリシアに辿り着くとその豚の皮を持つ王トゥイスは三人の馬車や船に乗る競争の申し出も剣も受けなかった。そしていぶかしむ三人に対して言うのであった。
「私はそういうものは好まないのだ」
「競争も決闘もですか」
「そうだ。どちらもな」
 こう三人に対して告げた。玉座の彼は温厚で優しい顔をしている。
「好まない。それでだ」
「それで?」
「豚の皮が欲しいのだな」
 彼が言うのはこのことだった。
「どうしても。そうだな」
「如何にも」
 ブリアンがトゥイスの言葉に頷いた。
「貴方の持っておられる豚の皮を頂きたい」
「是非共」
「だからです」
 ヨッハルとヨッハルヴァも彼に対して言う。
「何でもしますので」
「それは。なりませんか」
「一つ条件がある」
 トゥイスはここで三人に対して告げた。
「貴方達は詩はできるか」
「ええ」
 ブリアンが彼の問いに頷いてみせた。
「できますが」
「なら。見事な詩を詠んでくれ」
 彼が出した条件はそれであった。
「三人共だ。それでいい」
「三人共ですか」
「そうだ」
 またこのことを言うトゥイスであった。
「それならばいい。どうだ」
「ならば」
 ブリアンは彼の問いに毅然として顔を上げて宣言してみせた。
「その豚の皮を詠いましょう」
「私もです」
「俺も」
 ヨッハルとヨッハルヴァもそれに続いた。二人もまた毅然としたものだった。
「詠いましょう」
「その豚の皮の詩を」
「よし、ならばやってみるのだ」
 王は今彼の話を聞き入れて頷いてみせた。
「その詩を聞こう。いいな」
「よし、ならばだ」
「はい、今より」
 三人は早速詩を詠ってみせた。それは忽ちのうちにトゥイスを沈黙させた。そしてその次に目をうるわせ終わった時には感涙していた。それが彼の感想だった。
「見事」
 一言でそれを述べたのだった。
「豚の皮、是非持って行くのだ」
「わかりました。それでは」
「有り難く」
 こうして三人は豚の皮も手に入れたのだった。三人はトゥイスに別れを告げ船に戻った。そして豚の皮を見ながら車座になってギリシアでのことを言い合うのだった。
「我等が詩を司る神でよかったな」
「全くだ」
 こう言い合いながら皮を見ている。
「文芸と芸術と詩歌ならばな」
「我等に勝てる者はいない」
 彼等はそれ等を司る神だった。だからこれは当然の結果であった。
「あの王はそれを知っていたのか」
「知っても知らなくてもだ」
 ブリアンはその皮を手に弟達に見せながら言う。
「我等は詩の力で手に入れた」
「うむ、そうだ」
「剣の力でなくな」
「これは大きいぞ」
 あらためてこのことを言い合う。
「今度は豚の皮だ。あの王の言葉によればだ」
 ヨッハルヴァが言う。
「うむ」
「触れただけで全ての傷と病が言えることができる」
 このことを話すヨッハルヴァだった。
 
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