神の贖罪
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4部分:第四章
第四章
「勝てればですな」
「勝てればですか」
「ははは、無理ですけれどな」
笑って言うドヴァルだった。
「私の馬と馬車に勝つのは」
「無理と申されますか」
「その通り」
ブリアンの問いにも笑って応える。
「勝てるわけがありません。それで宜しければ」
「ならばやって御覧にいれましょう」
「是非」
こうして船と馬車での競争をはじめた。シチリアの者達はまさか船が馬車に、しかも陸の上での競争で勝てるとは思わなかった。ところが。
「えっ、まさか」
「何と」
シチリアの者達は驚かずにはいられなかった。何と船はその速度で馬車に勝っているのだ。それを見て唖然とさえしている。船は平原の上を一直線に進んでいる。
「船が馬車に勝っている!?」
「しかも陸上で」
「まずは一つか」
ブリアン達は船の上で操艦をしている。もう馬車をかなり後ろにしている。勝利は間違いない、しかしそれでも笑顔ではなかった。
「これでな」
「そうだな、兄者」
「一つでしかない」
二人の弟達もまたにこりともせず兄の言葉に頷くのだった。
「まだまだあるからな」
「そうだ。ではこれを終わらせれば」
「次はどうするのだ?」
「ギリシアに行く」
彼は言った。
「次はギリシアだ。いいな」
「うむ、わかった」
「ギリシアだな」
「とりあえずは剣での戦いにならずに済んでよかった」
このことを喜んでいた。彼等とて不要な戦いは望んではいないのだ。
「今度はどうかわからないがな」
「今度はか」
「そうだ」
弟達に対して述べる。その間に競争での勝者となった。しかしそれでも笑顔ではなかった。トヴァル達は勝者になった彼等を出迎えるがそのにこりともしない顔を見て怪訝に思った。
「勝ちましたぞ」
「はい」
「ですがどうして」
トヴァルはやはり笑わない三人を見ていぶかしむ顔で述べる。
「何故貴方達は喜んでおられないのですか」
「またどうして」
「それは聞かないで頂きたい」
「是非」
しかし彼等はこう答えるだけだった。シチリアの者達に対して。
「とにかく。我々は勝ちました」
「それでは」
「ええ、それならどうぞ」
トヴァルはこの問いに対しては気前よく頷くのだった。
「約束ですからな」
「有り難き御言葉」
「ではどうぞ」
王自ら薦めてきた。
「勝者として当然の権利です」
「では喜んで」
「その馬車を」
こうして彼等は馬と馬車を手に入れることに成功した。しかし彼等は目的の一つを達成したに過ぎない。次の目的がもう彼等を待っているのであった。
船に乗りギリシアに進む三人。ここでヨッハルがブリアンに尋ねてきた。
「兄者」
「どうした」
「あの馬だが」
彼はシチリアで手に入れた馬と馬車について兄に話すのであった。
「今まで我等は船だけを持っていた」
「うむ」
「しかしだ」
海を見て言う。ここの海は故郷を出た時のそれとは違い青かった。青く何処までも澄み同じく青である空と果てで一つになっていたのだった。
「馬と馬車を手に入れたな」
「それか」
「これは。大きいことだと思うぞ」
ヨッハルがここでブリアンに対して言う。ブリアンもそれに顔を向ける。
「大きいか」
「うむ。船だけではなくなった」
ヨッハルが言うのはこのことだった。
「それにだ」
「それに?」
「この馬と馬車もまた海も陸も行けるな」
「そうだ。そこか」
「その通りだ。同じものが二つ手に入ったとなると」
彼はさらに言葉を続ける。
「いざという時にも役立つ。船に何かあった時にもな」
「予備というわけか」
「そういうことだ。それに」
「それに?」
「船は細かい場所まで行くことができない」
彼が次に指摘したのはこのことだった。
「馬は違うな。どうだ」
「兄者」
ヨッハルヴァもまた次兄の話を聞いて長兄に顔を向けて口を開いてきた。
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