とある星の力を使いし者
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第156話
「ダゴン秘密教団・・・だと・・」
聞き覚えのない名前だ。
何を言っているか分かっていない麻生にバルズは笑みを浮かべたまま言う。
「お前を襲ってきた未知の魔術を使ってくる者達に魔術を教え、それらを束ねる者だ。」
その言葉を聞いて息を呑んだ。
「お前が・・・・」
この男が原因でこれほどの被害が及んでしまった。
この男が原因で罪のない人が死んでいった。
この男が原因で愛穂達は死ぬような目にあった。
この男が原因で愛穂は怪我をした。
そう考えると頭に血が上る。
両手両足が未知の魔術で動かせないだとか、痛みで動けないとかどうでも良かった。
今目の前にいるこの男を殺す事ができればすべてに決着がつく。
何より。
星の守護者としてこの男を見過ごす訳にはいかなかった。
この無意識な使命感に麻生は気がついていない。
それでも麻生の中の怒りが爆発した事に変わりはなかった。
「お前が、元凶ッッ!!!」
折れた膝を立ち上がらせ目の前に立っているバルズに向かって、掌底を繰り出す。
掌には杭が刺さったままだが、それをバルズの顔面に叩きつけるつもりだ。
身体をほんの数ミリ動かすだけで意識が飛びそうになるが歯を食いしばって耐える。
その行動にバルズはほう、感心な声をあげる。
避ける動作すらしない。
いや、する必要がなかった。
パチン、と指を鳴らす音が聞こえた。
その瞬間、麻生の周りの重力が変化して立ち上がっていた麻生は地面にうつ伏せに倒れる。
上から押さえつけられる重圧が杭を下へと押し付ける。
「ぎがああああああああ!!!!」
両手両足に刺さった杭に付加させてある呪縛と浸食に似た何かが麻生の身体を蝕む。
ふっ、と麻生にかかっていた重圧が消える。
それでも麻生は立ち上がる事はできない。
今すぐ立ち上がってこの男を殺したくて仕方がなかったが、身体が全く反応しない。
「呪縛が完全に身体に回ったな。
それにしても立ち上がるとは思わなかったぞ。
さすがはあいつの後継者だ。」
バルズの口から後継者と言う言葉を聞いて麻生は何を言っているのか全く分からない。
それでも、この男は麻生の能力を知っていてそれ以上の事を知っている。
顔だけでも動かしてバルズを睨みながら言う。
「お前は・・何を、知っている。」
「全てを知っている訳ではない。
だが、お前の能力、素性などはお前よりも知っている。」
地面に這いつくばっている麻生を憎たらしい笑みを浮かべながらバルズは言う。
「本来なら正式な手順を踏んでその能力や使命などをこの星自身から教えられる。
なのに、どうしてお前には突如星の真理などを見せお前の精神を破壊しようとした?
それには理由があるのだよ。
そうせざるを得ない理由がな。」
この口ぶりからしてこの男は知っている。
麻生が今までずっと探している答えが。
何度も星に聞いても答えてくれなかった答えがすぐ目の前にある。
「知りたくはないか?
その答えを。」
バルズは麻生に手を差し伸べる。
何も言わないがこの手の意味は麻生には分かっていた。
交渉。
つまり、この手を取ればバルズの配下になる事を意味していた。
その対価に答えを知る事ができる。
いつの間にか左手の痛みが少しだけ引いていた。
それにいつも通りには動かせないが、それでも動かせない訳ではない。
おそらく、バルズが動かせるようにしている。
彼が行っている魔術だ。
それくらいの事はできるだろう。
そして、この手をとれば麻生は戻って来れないだろう。
混沌と狂気の世界に入り、この星を蝕む存在になる。
あそうはゆっくりと左手を伸ばす。
その手はバルズの手を掴む。
そう思っていた。
だが、麻生は手ではなくそのままバルズの顔に向けられた。
その掌から蒼い光がバルズを襲う。
星の力が麻生の掌から放出されたのだ。
回避する事もできず直撃する。
光が晴れるとバルズの姿はどこにもなかった。
それでも麻生は言う。
「確かに・・・魅力的な、提案だ。
でもな、愛穂達をこっち側に引き込んだ元凶の手を素直に掴むと思ったか。」
返事を期待していなかった。
「そうだろうと思っていたがな。」
声は上から聞こえた。
見上げる事もできずに胸に何かが突き刺さる感触がした。
麻生は確認できないがそれは長さは違えど同じ木の杭だった。
右の胸に刺さり、激痛が麻生を襲う。
「ごぁああああああああああああ!!!!」
叫び声と共に口の中から血が吐き出される。
痛みで苦しんでいると麻生の右手に持っていた魔道書の感触が消える。
バルズはいつの間にか麻生の右側に立っていた。
その手にはブリジットが持っていた魔道書がある。
「この魔道書は返してもらう。
貴重な本なのでな。
さて、長々と話をしてしまったが仕事を始めるか。」
殺すつもりか?
そう考えた麻生だがバルズは麻生から離れていく。
向かっている方向は倒れているブリジットの方だ。
先程の衝撃音や悲鳴などで目が覚めたのかブリジットは両手を手錠されているが、それでも深く頭を下げる。
「ば、バルド様!
まさか、このような所でお会いできるとは。」
ブリジットの方も予想外の出来事なのだろう。
その声は動揺が混じっていた。
対するバルドは何も声をかけることなく。
「えっ?」
突然、ブリジットの胸を貫いた。
あまりの出来事にブリジット自身も何が起こっているのか分かっていない顔をしている。
貫いているバルドの腕と顔を交互に見つめる。
口の端から血が流れていく。
「ば、ばる、ど・・さ・・・・ま・・・?」
最後までどうしてこうなったのか分からないまま、ブリジットの身体は貫いた胸を中心に徐々に石になっていく。
数秒で全身が石になり、バルズは腕を引き抜く。
それと同時にブリジットの身体は粉々に砕け散った。
それを麻生は唖然と見つめていた。
助けるのかと思っていたが、実際は全くの逆だった。
その光景を見ていた麻生にバルドは話しかける。
「星の守護者に負けたのだ。
既にこの男は死んでいるのだよ。
その男が生きていることなど許されない。」
カーナックの書を少しだけ読みながら麻生に近づく。
「私の部下は多忙でな。
なので、私自身が向かう事になった。」
カーナックの書は虚空へ消える。
麻生に近づいて手を伸ばしてくる。
先程の違いと言えば、麻生の顔を掴もうとしているという所だ。
その時、パン!!という発砲音が聞こえた。
この状況で発砲音など一つしかない。
バルドはほんの少しだけ視線を奥に向ける。
肩に杭の刺さった愛穂が何かに耐えながらハンドガンをこちらに向けていた。
声すら上げる事ができなかった。
ただ呆然と見る事しかできなかった。
制理は化け物に追いかけられていたがあの時はまだ動く事ができた。
行動に移す事ができた。
でも、今は違う。
バルドの姿を視界に入れるだけで身体が鈍くなる。
呼吸が荒くなる。
胸を圧迫する重圧。
さっきまでのとは比較にならなかった。
それは桔梗も同じだ。
麻生の胸に杭が刺さった時も声をあげる事すらできなかった。
何も出来ないでいた。
そんな時、傍にいる愛穂だけは違った。
杭を肩に受けて感覚が麻痺しているからなのか。
左腕を動かしハンドガンのグリップを握る。
視界に入れるだけで言い様のない恐怖が愛穂を襲うが、それでも指を動かし引き金を引く。
理由は簡単だ。
目の前にいる最愛の男が自分よりも怪我をしていて、それでも自分達を守ろうとしている。
彼が必死に頑張っているのに、自分だけが痛みに苦しんで何もしない訳にはいかなかった。
銃弾はバルドの眉毛辺りに当たった。
当たった筈なのに傷一つない。
たかがハンドガン一つで傷を負わす事など出来ないと思っていた。
彼女の目的は少しでも注意を逸らす事だった。
バルドの視線が愛穂に少しだけ移る。
眼と眼が合う。
呼吸が止まりそうになるがそのすぐ傍に麻生がいる。
それを思っただけで何とか気力でその視線と向かい合う。
手が震えている。
それでも銃口はバルドをしっかりと捉えていた。
「一本とはいえ呪縛と浸食の中でよく狙える。
下等生物だが称賛に値するぞ。
私と向かい合って息をしている事にな。」
愛穂は返事をしている余裕はなかった。
この男はさっきの男より遥かに危険だ。
引き金を引く。
弾丸はバルドを捉えるが傷どころか赤いローブすら何の変化もない。
それでも引き金を引き続ける。
やがて、カチカチという音がハンドガンから聞こえる。
弾が切れたのだ。
バルドは少しだけ考えて。
「これ以上何かされても目障りだな。」
ゾクリ、と悪寒を感じた。
隣にいる桔梗を左腕で突き飛ばす。
不意の行動に桔梗は対応できずに濡れた路面に尻餅をつく。
そして、声が聞こえた。
本来聞き取れる筈のない言葉を。
いあ いあ はすたあ
ヒュン、と風を切る音が聞こえた。
その後にボトリ、と何かが落ちる音も。
身体に違和感を感じた愛穂はゆっくりと自分の身体を見下ろす。
拳銃を持っていた左腕と右足がなくなっていた。
綺麗に切断された腕と脚は濡れた路面に落ちていて、それらは一気に腐敗していった。
そして、遅れて切断面から大量の出血と痛みが襲い掛かった。
「あぁぁぁぁぁぁあががあああああああああああああ!!!!!!」
「ひっ!?」
それを目の前で見た制理は腰を抜かしてしまう。
こんな光景を見て平然としていられる訳がない。
ましてや、制理はこんな世界とは無縁の世界の人間だ。
全く耐性がなく身体が大きく震える。
親友が腕と足が切断された光景を見た桔梗は急いで駆け寄る。
「あ、愛穂っっ!!
何てこと・・腕と足が。」
急いで白衣を脱いで、腕の大動脈を強く縛り付ける。
足の方もズボンのベルトできつく縛る。
このままにしていれば出血多量で死んでしまう。
桔梗の行動が少しでも遅ければ出血多量で死んでいた。
だが、危険な状態である事に変わりはない。
出血量も多く、愛穂は気絶している。
傷口から細菌が侵入したりなどこのままの状態にしておくのは非常に危険だった。
(このままじゃ愛穂が!!)
急いで携帯を取り出し、あの冥土返しに連絡するがテレビの砂嵐のような音しか聞こえない。
何度もかけ直してもそれは同じだった。
顔色はどんどん悪くなっていく。
「てめえええぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
麻生の絶叫が聞こえた。
何が起こったのか把握したのだろう。
麻生の身体を蒼い何かを纏う。
何か行動を移そうとするが、その前にバルドが麻生の顔を掴んだ。
バルドはぶつぶつと呟くとその杭は怪しい黒い光を放ち、麻生を纏っていた蒼い何かが四散していった。
片手で麻生を持ち上げる。
「殺しはしない。
用があるのはお前の頭の中だ。」
麻生は何も答えない。
杭による呪縛や浸食が格段に強さを増して口を開ける事すらできない。
それを分かっているのかバルドは言葉を続ける。
「お前の中には星の重要な情報が入っている。
それは星の守護者しか知らないモノだ。
自覚はないようだがお前の中にも確かにある。」
バルドは再び呟く。
麻生の頭を掴んでいたバルドの手からバチバチ!!、と電気のようなのが発生する。
「おがああああああああああ!!!!」
その電気を受けた麻生は悲鳴をあげる。
呪縛で口を開ける事すらできないのにそれでも声が漏れるほどの激痛。
それを見たバルドは笑みを浮かべる。
「殺しはしないが、脳の神経や焼き切れるかもしれないがな。
廃人になるかもしれないが、死にはしないだろう。」
麻生の脳に干渉してそこから魂へ。
最初は何度か拒絶されるがやがて麻生の中に侵入する。
それは地獄だった。
バルドが最初に見たのは原初の地獄。
あらゆる生物の存在を許さなかった星の姿。
生物の死の声と精神を焼き殺す業火がバルドを襲う。
だが、バルドはそれを受けても顔色一つ変えない。
あらゆる精神汚染を受けてもバルドに変化はない。
何十、何百、何千という時間が過ぎただろうか。
実際にバルドの現実にある肉体が感じている時間はそれほど経っていない。
ただ精神が感じている時間はあまりに膨大だ。
それほどの膨大な時間をかけた精神汚染をバルドは苦も無く耐えた。
すると、辺りは突然黒く染まる。
それを見てバルドは笑みを浮かべる。
待ちわびたかのような意味も含んでいる。
バルドの周りには大きさの違う扉が出現した。
一番小さい扉で高さは三〇センチ程度。
鉄の扉にドアノブがついているだけのシンプルな扉だ。
模様も何一つ描かれていない。
扉の数は百を超える。
しかし、その六割が鎖で厳重に封印されている。
バルドは一番近くにある鎖で封印されていない一メートルくらいの鉄の扉を開ける。
扉から光が洩れるとバルドはまるで映画でも見るかのように映像を見る。
それは教室で麻生がツンツンした黒い髪の男と青い髪をしてピアスが特徴的な男と金髪の不良少年のような男と話をしている場面だった。
実際には三人が話しているのを横で麻生が適当に聞き流しているだけなのだが。
それを確認したバルドは扉を閉める。
それで確信した。
ここは麻生の記憶が記録されている所だ。
鎖で封印されているのは麻生自身が思い出せない記憶だ。
バルドは封印されている扉も無視して適当に前に進む。
どれくらい歩いただろうか。
やがて、高さ五〇メートル、横三〇メートルの超巨大な扉が見えてきた。
その扉は何重もの鎖でガチガチに固められており、扉の形状が全く把握できないほどだ。
ついに来た、バルドはそう思った。
(この扉の先にこの星の全てが記憶されている。
ようやく、私の計画が始まる。
これはその第一歩!)
正直、抑止力が発動するかと思っていたがその気配はない。
バルドは目の前の自分の腕の何倍もの太さの鎖に手をかける。
魔術を唱えて、一気に鎖を引き千切る。
一つの鎖が引き千切られると連鎖するように他の鎖も千切られていく。
今までの扉とは一線を分けていた。
その扉には大きな紋章とその中心には人が描かれていた。
人を中心にして天使のような形をしたモノや北欧神話の神々。
他にも様々な神話に出てくる神などがその人を中心にして崇めるように描かれている。
その中にもちろん人間もいた。
まるで、中心にいる人と人間は別のようだった。
扉にバルドの両手がかかる。
ドアノブははるか上空だが、掌で押すと扉は内側に動き出す。
(ようやく・・・ようやく・・・ッ!!)
歓喜の笑みを浮かべ、内側から漏れる光に身を任せようとした時だった。
バルドの左手首を突如、横から掴まれる。
すぐさま手首を掴んだ人物に視線を向けた。
そして、息を呑んだ。
その人物は黒い髪に腰のあたりまで伸びていた。
足首まで伸びた蒼いコートに特殊な紋章が描かれている。
手には黒い革のグローブにも同じような紋章が描かれている。
蒼いコートの下には黒い服にズボンはジーンズを履いている。
彼女はバルドに告げる。
「させない。」
その一言と同時にバルドの手首を掴んでいる彼女手から蒼い光が発生して、その光がバルドを呑み込んでいった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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