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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  殺し殺され殺し合う

元六王第三席にして《冥王》レン。

元六王第三席にして【尾を噛む蛇(ウロボロス)】ギルドリーダー《背中刺す刃》フェイバル。

両者が取った行動は単純なものだった。

真正面から、突撃する。


ゴッッ!!と。

球状の衝撃波が、どこまでもどこまでも広がっていった。


空気が悲鳴を上げる。

ほとんど物理的な壁のような厚みを持った衝撃波が、岩石の塊であるはずの岩山の輪郭を驚くほど簡単に揺さぶった。剥がれた破片は落石となってバラバラと落下し、途中にあった茂みを薙ぎ倒す。

ぼんやりと眺めている暇はない。

こうしている今も戦いは続いている。

溢れんばかりの過剰光(オーバーレイ)をもって互いが互いを上書き(オーバーライド)せんと鍔迫り合いを行う中、不気味に顔を歪めた少女の左腕が蠢く。

しなやかな細腕が唸る。

そして――――叩きつけられた。

ドガッガガガギギギャギャギャッッ!!!と。音を振り切るほどの勢いで、数十の針がそれぞれ別の角度から標的を襲う。

だが、それは中途半端な《鎧》としての側面を瞬間的に跳ね上げ、硬度を上げたレンの皮膚に半ば以上が弾かれる。これで《汚染》は確実に進むが、必要な犠牲と割り切る。

『オッ……ァアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!』

ゾゥッ!!と大気を引き裂くように振るわれた黒腕。だが、それはとてもではないが少女に届きすらしない距離――――のはずだった。

闇が蠢く。

腕を取り巻いていた瘴気のごとき過剰光が突如、風で煽られたように新たな方向ベクトルを得て、フェイバルにブチ当たった。空気以外の何かが破裂し、少女の身体が砲弾以上の速度で吹き飛ぶ。

だが同時。

四方八方から飛来した弾丸が少年の《装甲》に音高く火花を散らした。

『な――――んッ!?』

立ち並ぶゴツゴツとした岩山。

その稜線の影、ありとあらゆる死角からぞろぞろと銃口が覗き、夜闇にも眩しい発砲炎(マズルフラッシュ)がモールス信号のように激しく点滅する。紅い輝線――――《弾道予測線(バレット・ライン)》が地面と並走する豪雨のように降り注ぐ。

心意強化されていないとはいえ、衝撃波を伴って飛んでくる鉛弾は立派な脅威だ。僅かに対処を図りかね、体勢を崩したレンの胸部装甲に三本の針が轟音とともに着弾した。

質量差など関係ない。

ノーバウンドで吹っ飛ばされた小柄な身体は、至近の山肌に盛大にめり込んだ。巻き上げられた礫岩と砂埃が一時、全員の視覚を覆う。

それらを薙ぎ払いながら立ち上がる少年に、フェイバルはただ嗤いをもって迎えた。

「やっぱり……《饕餮(とうてつ)》は()()()んだね」

『………………』

その言葉に、レンは《穴の底》で聞いた初代からの言をリフレインする。










いいかい七代目、と少年は言った。

「《災禍》は決してゼロから生まれ出たモノじゃない。造るにはきちんとした手順とコスト……そして何より、それらを束ねる運が必要不可欠なんだ」

具体的には。

「相当な優先度(プライオリティ)を持つ高位装備アイテム。そしてシステムの中にあるそれを、システムの外に飛ばすくらいのセンチメントの爆発。そう、きみたちが心意と呼ぶものだ」

すっ、と初代《災禍》たる彼は人差し指を伸ばし、口を開く。

「《鎧》の依代となっているのは、《七の神器》の一つ《ザ・ディスティニー》だけど、それは五代目の時にほぼ壊れて、六代目で完全に消滅している」

他ならないきみの手でね、と。

どこか他人事のように少年は言う。

六代目――――つまり【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】頭領である《PoH》が《鎧》に憑依されながらも自意識を保っていられたのは、半ば以上これが原因なのだという。

「七代目、きみは余裕を持っているようだけど、だとしたらそれは即刻捨てるべきだ。今、きみがこうしてぼくと話しているということが異常だと認識したほうがいい。この《深さ》まで潜ってきたヒトなんて、いつも壊れていた。いいか?きみはいつ堕ちてもおかしくはないんだ」

一拍を置いて、少年は語る。

「きみがいまだ堕ちきってないのは、心意(ソフト)面が足りないからだ。――――そう、《鎧》から零れ落ちた三つの欠片の最後《狂哀》だ。だけどきみは、こう考えてないか?身体(ハード)も足りてないんじゃないか、って」

違うよ、というその言葉は、どこまでもシビアで冷たい。

「ギリギリだって言ったろ。もう依代は捧げられてる。……気が付かないかい?《鎧》を構成するほどの高濃度の心意に耐えうるほどの超高優先度の媒体……きみはもう、ソレを持っているはずだ」

「……………………………………ぁ」

そこで、気付いた。

あの世界の自称神様に押し付けられ、そして一匹の子猫さえ守れなかった非力なクソガキを、六王へと押し上げた唯一無二の武器。

そして――――予選決勝でのフェイバルの言葉が正しいのだとすれば、心意との融和性も《七の神器》など比較にならないほど高い性能を誇るモノ。

こくり、と初代は首肯した。

「そう、《饕餮(とうてつ)》だ。きみが使っているワイヤー。それが新たな《災禍》の依代として採用されたのさ」

「じゃあ今《饕餮》は……」

「……残念だけど、原型を留めてない。厳密に言えばなくなった、ではないけど、これはもうそう言ってしまっていいだろう」

「……………………」

胸に浮かんだ感情が何なのか、とっさに判断しかねた。

所詮アイテム。システム――――この場合はGM(ゲームマスター)じきじきに与えられた武器。その程度の認識だった。唯一無二のものではあるが、かといって強い思い入れがあるわけでもない。

だが。

この言いようのない感覚は、分からなかった。

初代はこちらの顔を見、一瞬逡巡してから何も言わないほうがいいと思ったのだろう。あえてそのことには触れずに続きを口にした。

「つまりきみは、これからフランと『素手で戦う』ことになるんだ。鎧化ももどれだけ抑えていられるか見当もつかない。それでも……きみは戦うの」

その問いは。

その問いだけは。

愚問だった。










ピピッ、という場違いな電子音が戦場に響いた。

サテライト・スキャン用に設定しておいたアラーム音だ。十五分間隔で上空を通り過ぎる監視衛星からの情報が、配布された端末に送られてきたらしい。

だが、この戦闘下ではバックパックに吊り下げた端末の画面など見る訳が、とレンが思ったところで、なんと視界端に圧縮された端末画面が出現した。

身体を覆い尽くす中途半端な《鎧》が端末もろとも呑み込んでいるため……という適当な結論を下し、レンはその画面を見て。

そして絶句した。

ない。

第三回バレット・オブ・バレッツ本大会。その戦場であり、会場であった。

孤島全土に散らばっていた光点のほとんどが、今、この場。

南部の山麓エリアに集結していた。

明度の低い――――《死亡》したプレイヤーも含めて、余すことなく。

『お……前…………』

弾丸が、弾幕が、闇色の過剰光にブチ当たり、気体状とは思えない金属音をまき散らす。

だが、ちっぽけな少年にはその音が、傀儡となった者達の血の悲鳴に聞こえた。

『オ前エエエエエェェェェェッッッッ!!!』

起爆する。

漂っていた影が明確な形となって発現する。

ずるり、と。

臀部の辺りから伸びる《ソレ》は、生物的な生々しさを伴ってゆらりと蠢いた――――かに見えた。

ズ…ッンン!!!

冗談ではなく、比喩抜きで。

緩やかな動作。それだけで闇夜に沈む岩山、そのシルエットが一息の合間に三分の一ほど削れた。

その過程、というか余波の端っこほどの勢いで操られていたプレイヤー達の半分ほどのアバターが消し飛ばされたが、それを見ていた少女の笑みは欠片も揺るがない。

「くすくすッ!《尾》まで生えたか!これでまた《鎧》に近づいた!!」

『どんだけ人ヲ巻キ込めバ気が済むんだッッ!!』

バゴギャギャギャギャギャッッ!!!!と。

乱舞する針と、それを迎え撃つ尾。

鼓膜が吹き飛ぶほどの轟音をまき散らし、両者は再び音の速度を越える。

―――まだか。

流れ弾ならぬ、流れ針で真後ろにいたプレイヤーの身体を爆散させながら、少年はひた思う。

このクソッタレで最高に無意味な殺し合いを終わらす、逆転の一手。

メキリ、という音が響く。

肩口だ。尾の迎撃から漏れた一撃に耐えかねたように、纏わりつく過剰光が薄くなっていた。

もともと、現在レンの使っている力は中途半端な《災禍》だ。しかも、その依代たる《鎧》は消滅し、代わりにあてがわれたのは武器である。防具としての機能がまだあるのは、単純に《鎧》だった頃の《核》たる初代がいるせいだろう。

だが、それにも限界がある。

もとより《災禍》の力は借り物もいいところだ。精度などほとんど取れていない。その隙間を通すかのように、対物ライフルの弾丸も余裕で置いてけぼりにする威力を誇る一撃が飛来する。

―――まだか!

次撃、次々撃。

積まれるほどに詰んでいく戦況。

金属バットで殴打されるような衝撃に止まりそうな息を無理矢理吐きだし、少年はともすれば暴走しそうになる《災禍》の力を振り回す。

その度に自分の中のナニカが、さらさらと手のひらから零れ落ちる砂のように消えていくのを感じたが、それら全てを塗り潰す勢いで絶叫した。

『コ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!』

景色が。

景観が。

プラスチックで作られたハリボテのように、端から蹴飛ばされていく。

―――まだかッッ!!?

―――解けた!!

チリッ、と一瞬にも満たない刹那で弾けた、心の内からの声にレンはすぐさま反応した。

すなわち。

《災禍》に呑み込まれていた、二匹の《鬼》が解き放たれた音だった。

―――力貸せ!《()()》、《()()》ッ!!

ヴッ!!という音にならない蠕動がその場にいる全ての者の耳朶を揺さぶる。

それがフェイバルの中で具体的な危機感に切り替わるまで、数秒を要した。そしてその時間の間に、《準備》は抗いようもないくらいに整っている。

鬼法(ディアボロ)天墜(てんつい)》!!』

瞬間。

禍々しいくらいに眩い光の柱が、何の前兆もなく屹立した。

それはピンポイントでフェイバルがいた空間座標を貫き、赤茶けた岩盤を容易く融解させる。ドジュウウゥッ!という焼け爛れた音が響き渡り、大気が唐突に表れた超のつく熱源に身震いした。

――――だが。

「くすくす。ぬるい、ぬるいなぁ~」

ぬらりとした、声があった。

岩石が結晶化――――ガラスと化している高熱の地獄の中から、悠然と歩を進める人影が吐き出される。

「《天墜》は光を心意で捻じ曲げ、一点に集約させてから堕とす技。こんな夜中に満足のいく結果が出せると思ったのかな?まして私は《狂哀》を君と同じように飼いならしている。その程度の火力じゃあ、この防御は破れないに決まってると思うけど?」

『あァ』

その声に、その問いに、答えた声は。

少女の真後ろ。

「―――――――ッ!?」

最初(ハナ)から思ってないよ』

がしィ!と。

鈍く光る手のひらが、フェイバルの小さな頭を鷲掴みした。

『行ってこい、主人公(ヒーロー)



呪法(ディアボロ)傀儡(かいらい)》 
 

 
後書き
なべさん「ほい始まりました、そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「前回に引き続いて熱い展開が繰り広げられてるな」
なべさん「この作品の方向性がひん曲がりそうな勢いだよね」
レン「他人事みたいにいうなよ…」
なべさん「まぁ今回のGGO編の主軸は、あえてレン君本人からズラして書いている――――まあつまるところ、今回の主役は一人のちっぽけなヒーローとお姫様というメルヘン(硝煙付き)な物語なので、普段のテンションからはいくぶんズレるのもあにはからんやというトコかもしれない」
レン「おぉ、久しく見ていなかった語りだ」
なべさん「失敬な」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
――To be continued―― 
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