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計算外
アーノルドが聞いた爆音は、アリシアが引き起こした物だった。
切り裂いた瞬間に起こった爆発が先ほど爆音だったのだ。
今、アリシアの前にいたその“蒸気機械兵”の右腕が地面に落ちて、一部光の粒といった“蒸気”と緑色の液体をこぼしている。
そこで再びアリシアは自身の持つ剣の一部に触れる。
“守護触媒”。
これに“有機魔素化合物”を触れさせる量によって、出力が変わってくる。
他にも“有機魔素化合物”の“質”に影響されたり他にも……それはおいおい説明するとして。
さて、そんな凄い剣とはいうものの、全力で使用すれば“有機魔素化合物”をその分消費してしまいすぐに、ただの剣になってしまう。
そうなってしまえば、先ほどの様な切れ味は出せないので、使う時を見定めて出力をアリシアは調整していた。
つまり切り裂く時に特に出力を上げているのである。
そこで先ほどの初老の紳士が唸る様にそのアリシアの剣を見て、
「“蒸気振動剣”か。珍しい貴重な物をお持ちのようだ」
どうやらこの剣について知っているようだ。
普通のゴロツキならば、この剣の威力に未知の恐怖を覚えて引くものなのだが、“蒸気機械兵”を引き連れて行くような相手なのだから知っていても不思議ではないかと舌打ちしたい思いをしながらも、別な理由からこの状況はまずいと理解していた。
助けを求められたのと八つ当たり発散もあって引き受けたわけだけれど、よくよく考えればアリシアは自分の考えが甘かったと心の中で舌打ちをしたくなる。
それにい訳をするならば、知っていたとしてもこの剣に対抗するのは難しいと気づくはずなのだ。
けれど、彼は引かない。
つまり何らかの別の手を隠し持っているのかもしれない。
とはいえ一度足を突っ込んだのでここでこの少女を見捨てるわけにはいかないので、アリシアは余裕であるかのように笑い、
「そうよ。それで、私の相棒“蒸気振動剣”の威力を見ても、まだやる気かしら」
「そうですね。まだ我々が完全に負けるとは言えそうにありませんので続けさせて頂きましょうかね」
おどけたように初老の紳士は言う。
やはり引かないのを見てアリシアは思う。
――まさかこんな事になるなんて思わなかった。完全に私の考えの甘さが原因。自業自得yね。
再度思う。
やはり“有機魔素化合物”の量を常に満タンにしておけばよかったと今更ながらアリシアは悔いる。
少しでもアーノルドに喜んで欲しくて、自分の分を後回しにしてしまったのが今更ながら悔やまれる
。
さて、どうしよう、まだ彼は奥の手を隠しているだろうか? 実はハッタリだと嬉しいが、もしも奥の手を隠しているかと考えると……そうアリシアは考えて、自分の後ろにいるシャーロットを見る。
デザイナーズチャイルドの噂は聞いていたし、以前接触したこともある。
だがこんな所で遭遇するとは思わなかったとアリシアは思いながら……決めた。
スカートの内側に隠していたある瓶を一本取り出して、その相手に投げつける。
陽の光で酸化して劣化してしまうのでスカートのに隠していた、その遮光用の色硝子茶色い小瓶とそれに入った液体。
それが地面に落ちると同時に割れて、そこから白い煙が噴き出し辺りを覆う。
「小癪な……」
そんな悪態が聞こえたが、この間も同じように待ってやるほどアリシアは愚かではない。
カチッと自分の中の何かが変化すると同時にアリシアの視界には、煙のない状態の世界が見える。
以前飛行船で旅をしていた頃も役に立つ自身の不思議な能力で、雲といった蒸気の様な水の粒、もしくは特定の蒸気を視界から消しされ、アリシアの目に映る。
特別なアリシアの能力で、母親と同じ力だと以前父に聞いたのを思い出しながらそれはすぐにアリシアの脳裏から消える。
いまはこの子を守らないといけない。
そう思ってシャーロットの手を引き、“蒸気振動剣”を起動させて自分の背面の壁を切る。
“蒸気振動剣”は切れ味は言いが何かを受け止めるのも、そして、こちらに飛んでくる物体の威力を殺すには向いていない。
これはただ切るのに優れた剣なのだから。
そして廃工場へと道が開けたその場所に、アリシアはシャーロットの手を引いて走り出したのだった。
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