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面倒な依頼
事務所を出たアーノルドが向かった先は、この都市の“スラム街”の入り口だった。
アーノルド達のリア―カム市はそこそこ人口の多い都市である。
特に最近では、西方から人が入ってきたせいで特に人口が増え……奇怪な事件が増えている。
それはあまり喜ばしいものではないとアーノルドは思う。
一般市民としても歓迎できないし、危険な何でも屋の依頼が増えるのも好ましくないのである。
もう一度言っておくが、アーノルド自身は飼猫が迷子とか、不倫調査のほうがよほど安全で素晴らしい仕事だと思っている。
出来ればそういう仕事にありつきたいと思っているのだが、
「……とりあえずは、アリシアが危険に巻き込まれなければいい」
小さくアーノルドは呟き、自身の義腕を見る。
アリシアにはきっとこれが、未だに重荷になってしまっているのだろう。
アーノルドにとっては返せないくらい色々なものをアリシアの両親とアリシアに貰ったのだ。
だからこの程度とアーノルドは思ってしまう。
そう、理由付けしてそれ以上考えないようにしている。
アリシアが抱いているアーノルドに対して抱いている感情は、そのうち他の誰かに向けられるべきなのだ。
但し、どんな男が来るかによってはアーノルドは容赦しないが。
ふとすぐそばを、派手な白いスーツに赤いシャツの、ファッションセンス以前に一般人でなさそうな男が女三人を侍らせて歩いて行く。
それを見ながらアーノルドは、こんなのをアリシアが連れてきたらこのリアーカム市北にあるリット湖に引きずって行って放り投げようと決める。
さて、そんな事を考えている内に、スラム街入り口までやってくる。
人口の多い都市だからこそ余剰の食べ物などが生まれ、それによって生活している人達がいる。
そんな彼らの住処に、時折アーノルドとアリシアは隠れていた。
だから内情については幾らか知っているが、
「あれ、アーノルド、また何か聞きに来たのかい?」
抑揚のない声で告げた声の主をアーノルドが見る。
そこにいたのはボロ布を纏った子供だった。
だが彼は、人ではない。
人間である本体は他の場所にいる。
以前とある事件で知り合ったものの、彼はその能力を隠してこうやって外を自由に出歩いている。
謎の種族による高度文明の遺産“破滅の欠片”。
まれに手に入るそれを使って、遠隔操作の“人形”を作り出しこうやって彼は息抜きをしているらしい。
しかもスラムであれば、そこは訳有りの人間たちも集まる場所であるためか、詮索されない。
そんな彼の裏事情を知っているのと、それを秘密にすることでアーノルドは彼からいろいろな情報をえていた。
スラムの入り口であるがゆえに出入りを知り、そのスラムの中も自由に行き来する、それが彼、カレンノワール。
そんな彼にアーノルドは、
「いつもの面倒くさい依頼さ。……この少女を知っているか?」
試しにその顔写真を見せると、彼は驚いたようだった。
「シャーロットじゃないか。彼女は水を操る“高度知的生命体”だよ」
「……“高度知的生命体”ね。いまいちそれに関しては分からないが……そっちでは何かあったのか?」
「……僕達にはあまり自由がないからね。でもそういえば、近々大きなプロジェクトがとか、秘密裏とか、危険な、だが援護できないとか大騒ぎになっているようだね」
それは今の彼の本体がいる場所の話なのだろう。
聞きながらあアーノルドは、
「また面倒な依頼ばかり押し付けやがって」
「それだけの腕と信頼がアーノルドにはあるんだろうね。そう言えば最近としに来る人が増えているせいかここも様相が少し変わってきているね。もっとも、やっていることはそれほど変わらなそうなんだよね」
「何がいいたい?」
「いや、昨日、50人位かな、ある少女を明日誘拐してこいという依頼があってね。場所は、ウィークスレイ通りらしい」
「時間は?」
「そろそろだと思う。早くしたほうがいいかも」
「分かった、ありがとう」
そう彼に告げて歩き出すアーノルドだがそこで、珍しく彼はアーノルドに、
「アーノルド達の実力は僕が身を持って知っているよ。だから……シャーロットの事はよろしく。数少ない僕の……“友達”なんだ」
「分かった」
短く答えたアーノルドは、あのませた少年であるカレンノアールにしては珍しいと思いながらその場所に向かう。
「デザイナーズチャイルドがらみか」
また変な陰謀に巻き込まれたりしないだろうなとアーノルドは心の中でうんざりしたようにぼやきながら先ほど聞いた場所に向かう。
大きな爆音が聞こえたのはそんな時だった。
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