ベスト・パートナーは貴方だけ
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怪しい依頼
楽しそうに笑うメルシーにアリシアが、
「だ、誰が子猫よ!」
「あら、アリシアちゃんの事よ。それとも可愛い子犬の方が良いかしら。アーノルドに懐いている、ね?」
その言葉に更に苛立ったようなアリシアが、
「……貴方と会話していると、苛立ってくるわ。……ええ、お望み通り帰らせてもらうわ」
捨て台詞を吐いてアリシアが部屋から出ていく。
メルシーに口で勝てないことはアリシア自身が、今までの経験上理解しているのだろう。
だから逃げた。
ただ今回の依頼は部外者は邪魔……正確にはあまり表沙汰にしたくない理由があるのだろう。
それに気づかないほど愚鈍ではないアリシアだから、それも気付いてアーノルドの邪魔をしないよう出て行ったのだろう。
そこでそんな肩を怒らせてアリシアが出て行った方を見ながらメルシーは楽しそうに笑い、
「相変わらず可愛いわね、アリシアちゃんは」
「……お前にはあげないからな」
一応だが釘を差しておく。
できる女なメルシーは、その性癖も奔放……性別で恋人を選ばないタイプだった。
しかもいつもならば如才なく相手をして追い出したり色々するのに、アリシアやアーノルド相手ではどうも違うのだ。
頭痛のする話だが。
この女を上手く操れるのは彼女と仲が悪いようで仲がいいお互い天敵のような、彼女の上司の男だろう。
もっとも彼は彼で、アーノルドにとっては頭痛のする相手だったが。
さて、アリシアはやらないとアーノルドが告げてやるとメルシーが驚いたように演技をして、
「あら、どうして私があの子を狙っているって分かったのかしら」
「俺に対しての意地悪な対応と同じだったからだよ」
「貴方も私の好みだってようやく納得してくれたのかしら?」
「納得したからと言って受け入れられるかは別だ。そもそも節操無さ過ぎだろうが」
「この好み相手に粉のをかけておくのが、恋愛に関しては常套手段でしょう?」
メルシーの言葉に頭痛がしたように頭を押さえながらアーノルドが、
「だからアリシアに手を出すな」
「それは、アリシアに手を出していいのは貴方だけだってことかしら」
「……アリシアは俺の恩人の娘で、妹の様なものだ。そんなのに手を出せるか」
[あら、でもあの子は貴方の相棒になる気満々なようだけれど?」
「……その内、諦める様に手を打つさ。それで、そんな冗談を言うためにここに来たわけじゃないんだろう? ……要件を言え」
楽しそうにからかってくるメルシーに辟易しながらアーノルドが促すと彼女は一枚の紙を取り出す。
「この少女を保護して欲しいの」
「……シャーロット、ね。俺に頼むのは理由があるから、か?」
「もちろん。保護したくても、こちらから人を送れない状況なの」
「この前もそれがらみで酷い目にあったな……まあいい。報酬は?」
「今回は諸事情でちょっと色をつけておいたわ」
それを聞きながら、アーノルドは胡散臭い依頼だと思いつつ、
「それでこの少女を探して、この場所に連れていけばいいんだな」
「そうよ、よろしくね」
ニコリと微笑むメルシーからは、どんな裏があるのかは読めない。
何でも屋で使い勝手がいいとはいえこんな仕事ばかり回ってくるとアーノルドは心の中で溜息をつく。
出来れば日々、猫を探してといった平和な依頼だけを受けて生活をしていきたいと思う。
なのに来る依頼は荒事ばかりなのがな……そう嘆息しながらアーノルドは自身の義腕を見る。
“蒸気強化”の一種でこれを動かすのにも“有機魔素化合物”が必須だった。と、
「そういえばアーノルド、その義腕はそろそろ最新式に買い換えないのかしら」
「家の家計はそこまで裕福じゃないんだ」
「旧式は“有機魔素化合物”を喰うからどちらがお得なのかしらね。ああ、アリシアが確か格安で提供してくれているんだったかしら。でも、かかわらせたくないんだったら最新式のほうが効率がいいわよ?」
「……最新式よりも旧式のほうが使いやすいんだ」
「進化した最新式のほうが色々機能もついて便利だと思うけれど……」
「進化は進歩と退化を含む。こうやって進化していくことで、切り捨てられているものがあるんだよ。それが俺には“必要”だっただけだ」
「面白いはね。誰かの受け売り?」
「……俺の恩人たちが言っていた言葉さ。俺達は蒸気機関の発達、それも“有機魔素化合物”という特殊なエネルギー効率すらも上昇させる液体を得たがゆえの発達によって、どんな進歩の“可能性”を失ったのかてな」
「蒸気機関以外の進歩ね。夢のある話だわ。もしかしたならその生まれるかもしれなかった進歩の萌芽が踏み潰されて今があると」
「まあこんな雑談をしていても仕方がないから、そろそろ……」
「そうね、邪魔したわね」
メルシーが次の仕事の前に何処かでランチでも食べようかしら、と呟きながら部屋を去り、アーノルドが一人残されて。
「……人探しでこれだけというのも、奇妙だが。とはいえ仕事を選んでいられるほど裕福じゃないから仕方がないな」
愚痴をこぼすように呟いてアーノルドが呟き、事務所から鍵をかけてでたのだった。
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