MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
041話
前書き
まさかの一日で2話分の更新をするのでした。
止まりませんでした、執筆の勢いが
最終決戦第三戦。ここに至るまでの戦歴はジャックがヴィーザルに勝利、アルヴィスがロランに勝利。二勝している、ここで勝利する事が出来れば後続のメンバーが勢い付き戦いの主導権を得る事が出来る。それほどまでに勝負の折り返しとなるこの第三戦は重要な対局となる。
この第三戦はメルの中でもギンタと同じく無敗を誇るドロシーが出る事になっている。膨大魔力と無尽蔵にため込んでいるARMを巧みに使うこなすだけではなく恋人であるジークに教え込まれた魔力と風を用いた近接戦闘術を使用した彼女の戦闘はメルの中でも屈指の戦闘力を誇りメルの一同を必ず彼女が勝つという安心感を齎すほどに素晴らしいものであった。
それに対するは仮面をつけた不気味なナイト"キメラ"。常に表情を隠しそのうちに何を伏せているのかは不明だがウォーゲームの参加資格を得るためのテストでガイらをたやすく倒しているだけにその実力は計り知れない。だがドロシーからしたらそんな奴などどうでもよかった。いま彼女が思っているのはチェスに対する怒りのみ。
ジークという最愛の恋人を攫われたという怒りや憎しみ、そして嫉妬などといった感情が彼女の中には渦巻いており彼女から溢れ出ている魔力はそれを豊富に含んでいた。
「最終決戦第三戦、メル ドロシー!! チェスの兵隊 キメラ!!開始!!!」
開始の合図が放たれた瞬間キメラは魔力を放出し地面から無数の傀儡を召喚する。掌握ない行の悪魔達は不気味な声を漏らしギョロリと瞳を動かしドロシーへと向かっていく。
「こんなものでドロシーちゃんを倒そうなんて、舐められた物ね!!」
迫りくる傀儡など彼女にとっては唯の雑魚同然。瞬時にゼピュロスブルームを展開し風を一転に集中させ思いっきり振りきる。爆風の壁が展開され傀儡を吹き飛ばすと同時に全てを粉砕していく。だがこの程度で攻め手に詰まるキメラではない。地面へと一気に魔力を流しこみ瓦礫と衝撃を壁へと向けて飛ばし強引に風の中に道を作り出す。
「なんて強引!!でもまだ甘いわよ!!!」
強引に生み出した風の中にできた真空の道を通って突撃してきたキメラが攻撃してくるのを読んでいたのか箒で攻撃を防御するドロシー、だがその際に見てしまった。キメラの名に相応しい異形の腕を。
「このぉ!ブリキン!!!」
再度襲い掛かってくる異形の悪魔の如き腕。それを箒で捌きつつガーディアンARM アーマーゴーレムを展開しキメラを踏み潰しに掛かる。召喚されたゴーレムはその巨体の足でキメラを踏み潰そうとするがキメラはそれを僅かな差で回避する。回避されたのを見たドロシーはゴーレムを戻し後ろへと振り返ったがその際に零れるように落ちたキメラの仮面。その下に隠されたいた素顔を見てしまった。
「その程度かい魔女、それなら大した事ないね。あそこの老人と同じ」
仮面に隠されていた素顔は紛れも無く女の物であったがそれは異形の物であった。人間の頭の中にあった常識という思考では判断しきれない醜悪で恐ろしく怪異なもの。右目があった筈であろう場所には無数の剥き出しの目玉が顔を覗かせている。その一つ一つが不気味な程に真っ直ぐでこちらの心を見通すような印象を受ける。
「"ゴーストARM"、魔女ぐらいならこのARMを知ってるよね」
「み、自らの身体を使って繰り出す禁断のARM……!!ま、まさかあんた……」
「そうその使い手さ!!!ハウリングデモン!!」
邪悪な輝きな共に変化していく右腕、悪魔の口となったそれは大口をあけに酌むべき世界を破壊したげに破壊の叫びをあげた。
「拙い!風の神の鉄槌!!」
風と共に魔力を箒へと込めそれを一気に振りおろし叫びを粉砕し空へと四散させる。叫びは無数に分かれていき空を巡る流星となって消えていった。
「あんたなんでそんなARM使ってるのよ!?もう人間に戻れないのよ!?」
「私は捨てたんだよ人間を、あの日から」
彼女の口から語られたのはその場に恐怖と狂気を感じさせる話であった。
―――彼女はある日幸せの絶頂にいた。心の奥底から愛する男との結婚をする筈だった、その男は元チェスのメンバーである事は知っていたがそんな事など気になどしないほどに愛していたのだ。そして新婦の前で愛を誓おうとした時、多くの人達が教会へと乗り込み揃えてこう言った。
―――チェスの残党だ。
―――殺せ。
―――チェスを皆殺しにしろ。
女は男と引き剥がされた。男は女に直ぐに戻るから待っていてくれと笑顔で言った、愛した男の言葉を信じ女は協会で神に祈りながら彼の帰りを待ち続けた。きっと彼は帰ってくる、そう信じ続けた女の前に一つの腕が投げ捨てられた。
―――その腕は女が結婚する筈だった男、マルコの腕だった。マルコは死んだ、口を割らなかったから殺したと言われた。だから次はお前を拷問すると周囲の人間は言った。何度も何度も行われる拷問は最早チェスの残党を吐かせる為に物ではなくチェスへの生まれた憎しみを晴らすために行われていた。
漸く逃げ出した時彼女は既に女とは言えない状態だった。深く絶望し愛する人を奪って世界を、人を憎んだ。そんな時にチェスに手渡されたのがゴーストARMだった。修練の門に潜り自らの身体を食わせ続け戦闘マシーンへと変える日々を続け、ついに彼女は身も心も作られた魔物へと変化した。
その話を聞いていた全員が身を震わせた、自分たちの思いがこの女をこんな姿へと変えてしまったのかと。戦争は憎しみしか生まないというのを体現したかのような女、彼女の憎しみは世界を燃やし続けるしか終わらないだろう。
「そう………アンタと私は似てるわね」
キメラを話を聞いてドロシーはそう思った。そして一つのARMを取り出した。それは自分が唯一所有しているゴーストARMであった。
「私も恋人をチェスの兵隊に攫われて絶望を味わった。何度もこのARMを使おうと思った、そりゃそうよね。憎しみを晴らすには怒りに身を任せるのが一番だからよ」
彼女もキメラも酷く似通ってしまっている。愛する男を奪われ憎しみに包まれてしまった、そんな思いを晴らすには絶対的な力が最適。
「そうだよな使いなよ。その力を」
「使ってしまえばどれだけあんたを楽に倒せるだろうね………でもね」
ドロシーはゴーストARMを握り潰した、それは同時にキメラの憎しみを否定した瞬間でもあった。
「そんな私を見て、ジーくんは喜んでくれない。心の奥底から愛してくれないと思う、私は私さ。それにアンタと同類になるなんてごめんだよ!人間としての幸せさえも感じなくなった化け物!!!」
「上等!!その綺麗な身体、醜くして私のコレクションにしてやるさ。あのギドとかいうポーン兵みたいにね」
ギド、それは蟲にされてしまったというイアンの大切な人であった。それを蟲に変えてのがこのキメラというのがはっきりした。それを見ていたイアンは飛び出しそうになっていたがその首筋に突き付けられた剣で動きを止めていた。
「―――おい、誰だてめぇ。オレっちの邪魔をするのは」
「キメラとは後で相手をさせてやる、今はウォーゲーム中だ。邪魔は許さん」
「………解ったよ。だがちゃんと相手させろよ」
「―――ああそれは約束しよう」
「オーガハンド!!」
「トトッ!!」
キメラの腕が巨大なものへと変化し襲い掛かってくるが召喚された都とがそれを食い破りさらに前進していく。
「この犬っころがぁああああ!!!」
「おいでウロロン!!!」
『おう!!!』
駄目押しと言わんばかりに召喚されたウロボロス、トトによってオーガハンドを失ったキメラは新たなARMを展開しようとしたがそれよりも早くウロボロスが蹴りを入れた。
「はぁああああ!!!」
「がっはっ………!!!!」
とどめの一撃は二体のガーディアンを消し瞬時に接近したドロシーの箒により刺突であった。それが急所に入ったのか苦しみながら動かなくなったキメラ。そして
「最終決戦第三戦、勝者ドロシー!!」
「キャピーン♪」
ウォーゲーム全戦を通じて全勝を達成したドロシーはVサインを笑顔で作った。
「人間なんか皆殺しだ、ウォーゲームも関係ない。見てろよ………」
「お前は消えろ、無様な敗者」
キメラが憎しみで染まりきった瞳を向けドロシーに毒を吐こうとした瞬間に敗者は転移させれた。そして歓声で湧きあがっていた城は静寂に包まれていた、全ての視線はその声の出所である柱の上に向けられていた。そこにはギンタ達に姿を現した赤いないとピアスをつけた男とイアンが立っていた。
「約束だ。キメラは好きにするがいいイアン」
「誰だか知らんが感謝するよ」
「この男をキメラのもとへ。アンダータ」
イアンを転移させるとその男は競技台への上へと降り立った。耳につけられたピアスはチェスの物である事を証明し周囲に戦慄を覚えさせた。
「最終決戦第四戦は俺が相手をする。俺の相手は―――お前だスノウ姫」
男が指をさしたのはスノウであった、唯一対戦相手が決定しなかった彼女からしたら相手が決まるのは望む所だった。ギンタはファントム、ナナシはペタ、アランはハロウィンという相手がいる。なら自分が出るしかない。
「いいわ受け立つ!!」
自信満々にそれを受けるスノウに口角を上げる男。
「俺の名はシグルド、クイーン付きのナイトだ。明日、楽しみにさせてもらうぞ」
ページ上へ戻る