FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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欠陥
前書き
前回話を何話かストックしてると書きましたが、それだとあとがきでまるで作者がまだ次の話が出来てないような話をしているのはどういうことかと思われた方もいるでしょう(わからないけど)
実はあとがきは第一段階の話ができた時点でもう書いてしまってるんです。
誤字や脱字を極力(あくまで極力)修正した後に前書きを書いて公開しているからあとがきを書いた段階ではまだ次の話がどうなるかは作者自身もわかってないんです(笑)
その点を踏まえて読んで頂けようご協力よろしくお願いします。
『これは驚きました。蛇姫の鱗の主力3人を相手に一歩も引かないミリアーナとベス!!』
『ミリアーナの猫のような素早い動きとベスの野菜魔法に蛇姫の鱗の3人は戸惑っておるようだね』
実況席の3人はカグラさんを温存しながらもジワリジワリとレオンたちを追い詰めていくミリアーナさんたちに驚いている。
「いてててて・・・こいつら、結構やるぞ」
「そうみたいだね」
「これぐらいでなくては面白くない」
レオンたちはそう言うとミリアーナさんたちの次なる攻撃に備える。
「ネ拘束チューブ!!」
「きゅうりロケット!!」
ミリアーナさんがチューブを、ベスさんが巨大なきゅうりをレオンたちに発射する。
「だが!!」
「ニャッ!!」
「あれ!?」
ユウカさんは2人の攻撃を波動のシールドを作り受け止める。それを見たミリアーナさんたちは驚く。
「俺の波動は魔法攻撃を無効化できるのだ!!」
「ふ~ん。それなら」
「これはどうかな?」
ミリアーナさんとベスさんはアイコンタクトを取ると同時に魔法を繰り出す。
「ニンジンミサイル!!」
「ネ拘束チューブ!!ダブル!!トリプル!!う~んと・・・たくさん!!」
ベスさんの無数のニンジンとミリアーナさんの手から出てきたたくさんのチューブ。ミリアーナさんも数が多すぎてワケわかんなくなってたけどね。
「1度に何本も出せるのか!?」
「私の技だって進化してるんだよ!!」
驚愕するユウカさんと得意気なミリアーナさん。ユウカさんはそのチューブとニンジンすべてを受け止めるべくさっきよりも大きな波動のシールドを作り出す。
「おおっ!!すげぇな!!」
「これだけあればいくらユウカでも全ては防げまい」
ナツさんとエルザさんがそう言う。確かにユウカさんだけなら防ぐことはできない。おまけにミリアーナさんのチューブは自在に動くようだから前方にだけ敷いてあるシールドじゃ全くの無意味に見える。けど・・・
「いや・・・奴らにはあの魔法がある」
ガジルさんもどうやら同じことに気づいたみたい。俺とガジルさんの予想通り、この男が腕を振る。
「―――メイク・・・・・封印の氷地獄!!」
キィィィン
「ニャに!?」
「これは・・・」
レオンが腕を振ったことにより闘技場全体が銀世界と化す。その冷気によりミリアーナさんのチューブもベスさんのニンジンも凍ってしまい、やがて砕け散る。
『出ました!!1日目にミストガンの大技を凍らせた魔法『封印の氷地獄』!!』
『いつ見てもとんでもないパワーだね』
『とっても寒いですね、ありがとうございます』
ドムス・フラウ全体が凍ったことにより気温が激減。俺たちの吐く息もかなり白くなっている。
「ニャア・・・」
「寒い・・・」
どう見ても寒そうな格好のミリアーナさんとベスさんはガクガクと震えながら身を縮めている。
「さすがだな、レオン」
「どうも」
ユウカさんも寒そうに震えているが氷の魔導士であるレオンとリオンさんは全くそんな様子はない。さすがにうちのグレイさんみたく脱ぎ出すということはないが、普段の様子と全く変わりなく、いつでも戦える状態である。
「ならば俺もそろそろ行かせてもらおうか。
ジュビアのために!!」
「ずいぶんと余裕だな・・・」
「他人のフリしていい?」
魔法を出すのかと思ったらいきなりジュビアさんの方に流し目をするリオンさん。ユウカさんとさすがのレオンもこれにはあきれた様子。
「俺の華麗な造形魔法でジュビアの心をつかんでみせる!!」
リオンさんはレオンたちの反応などお構いなしに両手を合わせて魔力を溜める。
「アイスメイク・・・白虎!!」
リオンさんはミリアーナさんやベスさんの倍は楽にあるであろう虎を作り出す。
「にゃああああ!!」
「うわわわわ!!」
どう見ても力のありそうな虎を前にミリアーナさんとベスさんは青ざめながら背を向けて走り出す。
ドンッ
「「わああああ!!」」
そんな2人に虎は容赦なく前足を蹴り込もうとしたが、2人はなんとか交わして一生懸命に逃げる。
「猫は好きだけど、虎はちょっと・・・」
「そういう問題じゃないよ!!」
ミリアーナさんが虎から逃げる理由にベスさんが突っ込みを入れる。はっきり言おう、ベスさんの言う通りだ。
物凄いスピードで追いかける虎とそれから逃げるミリアーナさんとベスさん。だけど2人は完全にあることを忘れている。今の闘技場はレオンの黒い氷によって覆い尽くされている。つまり・・・
ツルッ
「ミャッ!?」
ガシッ
「ひゃっ!!」
滑りやすくなっている地面でミリアーナさんが足を滑らせ、そのミリアーナさんに足を掴まれてしまったベスさんもバランスを崩して転倒。そのまま2人は冷たくてよく滑る氷の上を滑っていき・・・
ドスンッ
闘技場の壁へと激突した。
「ミャ・・・ア・・・」
「い・・・たい・・・」
2人共運悪く顔面から闘技場の壁に突っ込んでしまい、あまりの痛さに動けなくなってしまう。
それを見届け、これ以上の戦闘は意味がないと判断したリオンさんは氷の虎を、レオンは闘技場全体を覆っている氷を消滅させる。
「カグラちゃん・・・ごめん・・・」
「あと・・・お願い・・・」
力尽きた2人は地面に突っ伏す。その時になぜか飾りだと思っていたミリアーナさんの茶色の尻尾が戦闘不能になった途端に萎れてしまう。さっきまで逆立ったりしてたし・・・あの尻尾ってただの飾りじゃないのだろうか?
『ミリアーナとベス!!共に戦闘不能!!人魚の踵残るはカグラただ1人となりました!!』
いや、今はミリアーナさんの尻尾なんてどうでも良かったな。人魚の踵はさっきまで蛇姫の鱗を圧倒していたが、レオンとリオンさんの一撃で一気に大ピンチに陥ってしまう。なんたって3対1、普通に考えたら勝敗はほぼ決したと言えるほどに不利な状況だ。
「やはり・・・私が出ていかねばならんか」
そんな劣勢状態にも関わらず、カグラさんはまるで気にした様子もなくミリアーナさんとベスさんの前にやって来てリオンさんたちを見据える。
「ようやく出てきたか、カグラ!!」
「ソフィアのお嫁さん・・・ね」
「落ち着けレオン、それ違ぇから」
リオンさんは待ちわびていたカグラさんの登場に今一度気を引き締め直す。レオンが何やらトンチンカンなことを言っていたがユウカさんに冷静に突っ込まれてしまう。
「まずは俺が行く!!」
ユウカさんはそう言うと両手を体の前で構える。
「波動!!」
ユウカさんは青い波動を放ちカグラさんに先制パンチを試みる。
ドンッ
しかしその攻撃はカグラさんのすぐ脇を通過してしまい、直撃当たるということはなかった。
「くっ・・・」
「相手の魔法を無力化する攻撃か。しかし」
ユウカさんは再度カグラさんに向かって波動攻撃をお見舞いする。
カグラさんはそれを見ると右足を一歩斜め前に出し、波動を刀で打つ。
「魔法攻撃を使わなければ無意味!!」
カグラさんに打ち返された魔法は闘技場の壁へと激突する。その激突音が開始の合図のようにし、カグラさんがユウカさんに素早く接近する。
『なんということだぁ!!人魚の踵のカグラ、やはり抜刀せず相手を圧倒しています!!』
接近戦になったユウカさんvs.カグラさん。カグラさんは納刀したままユウカさんに次々と繰り出し、その技のキレと速度に対応できないユウカさんは少しずつダメージを受けていく。
しかしそれで黙ってやられるわけにはいかないユウカさん。爆転しつつカグラさんから1度距離を取る。
「波動!!」
三度波動の衝撃波を放とうとするユウカさん。だがカグラさんはすでにユウカさんの前にはいない。
「遅い!!」
「!!」
ユウカさんの後ろに回り込んでいたカグラさん。その刀はユウカさんの背中へと振り下ろされ、後ろにいたことをわかっていたユウカさんに振り向くことすら許さずに地面へと沈めた。
「「「「「ワァーーーー!!」」」」」
『すごい!!反撃の隙も与えずユウカを倒してしまいました!!』
蛇姫の鱗の実力者であるユウカさんの攻撃を1度も受けることなく早々に倒してしまったカグラさん。彼女はそのまま振り返り、次なる標的たちに視線を向ける。
「抜刀せずに1人倒したか。なかなかやるな」
「すごい身のこなしですね、あっという間でしたよ」
ラクサスさんと俺はカグラさんがユウカさんを倒したのを見てそう言う。
「カグラ・ミカヅチ、相当な手練れというわけか」
「俺の鉄竜剣ともいい勝負できるかもしれねぇな、ギヒッ」
エルザさんとガジルさんもカグラさんのその実力に感心しているようだ。
「ヒュウ♪すごいな、この人」
俺たち同様にカグラさんの実力に感心している者がいた。それは・・・
「レオン、感心している場合じゃないぞ」
「それもそうだね」
対戦者であるレオンであった。いつも思うけどあいつのんびりし過ぎなんじゃないか?対戦相手なんだからもう少し付け入る隙を探すとかあっただろ。
「リオン・バスティア・・・お前の噂は聞いている。かつて零帝と名乗りデリオラと戦うために危険な儀式を試みたそうだな」
カグラさんは相手の1人であるリオンさんに向かって話しかけている。というかリオンさんって昔そんなことしてたんだ。
「昔の話だ。今は蛇姫の鱗の魔導士リオン。それ以上でもそれ以下でもない」
リオンさんはカグラさんに対してそう返答する。ちなみにレオンは2人のやり取りを見ながら次のチョコバーを食べようとしていたが、ポケットの在庫が切れていたのか、がっかりした後に棒つきキャンディーを舐め始める。あいつ絶対やる気ないだろ・・・
「お前こそ、昔の俺にどこか似た匂いがするぞ。憎しみに刈られ、何かを見失っていた頃の俺にな」
リオンさんはそう言う。俺から見るとよくわからないけど、かつての自分と同じ感じがするというのはわかる人にはわかるんだろう。
カグラさんはリオンさんのそれには何も言わず、レオンの方へと視線を向ける。
「レオン・バスティア・・・貴様は他の誰と比べても高い魔力を持っているというのは今までの戦いを見てわかった」
「そうですか?」
魔力の高さを誉められたレオンだったが本人には全くそんな自覚はないようだ。
「だが、それだけ高い魔力を持ちながらなぜ今まで大魔闘演舞に出てこなかった?」
今大会が初出場のレオン。1日目とこのバトルパートで見せたドムス・フラウを一瞬で凍らせるほどの魔力、さらには3日目のMPFで見せた力。それだけでレオンの高い能力が見受けられる。だけどそれだけの力があるなら去年までの大会にも出てきてもおかしくないだろう、とカグラさんは思ったらしい。
「なぜって・・・そんなの決まってるじゃないですか」
レオンは普段通りに飄々としたまま、キャンディーを口から1度出し、こういった。
「弱いからでしょ」
「・・・」
さっきまでの会話をいきなり全否定されたカグラさんはなんと返せばいいのかわからずに押し黙る。レオンは話終えたので再び棒つきキャンディーを食わえ、両手を体の前で合わせる。
「あまり話してるとオババ様に回されちゃうから・・・そろそろ行かせてもらいますよ」
「それもそうだな、来い!!」
カグラさんはレオンの魔法に対抗すべく、刀に手を伸ばし構える。
「俺も混ぜてもらおうかな」
リオンさんもレオンと同様に両手を合わせ、カグラさんと向かい合う。
「アイスメイク・・・・・」
「アイスメイク・・・」
2人の手の周りに冷気が漂っている。
「イーグル!!」
「ホーク!!」
リオンさんが大量の鷹を、レオンが数羽の鷲を作り出しカグラさんへと放つ。
「ん?」
「なんだ?今・・・」
すると突然エルザさんとガジルさんが何か違和感を覚えたような声を出す。俺も何かおかしな感じはしたが・・・なんだろう?よくわからない。
「なるほど・・・そういうことか」
カグラさんは小さくそう呟くと全ての鷹と鷲を素早い動きで避け、リオンさんたちに接近していく。
「アイスメイク・・・・・」
「アイスメイク・・・」
レオンとリオンさんはカグラさんを近づけさせないために、次なる一手を繰り出す。
「白虎!!」
「スノーライオン!!」
リオンさんとレオンはそれぞれ虎とライオンを作り出す。だがここでも俺たちにはある違和感が襲ってきた。
ざわざわ
会場の観客たちもその違和感に少しずつではあるが気づいているみたい。昨日までは全く気づかなかったけど、リオンさんとレオンが並ぶと明らかにある点がおかしいことに気づく。それは誰から見てもわかるような大きな違いだった。
シェリアside
「ジュラさん!!やっぱりバレちゃったみたいだよ!!」
あたしは隣にいるジュラさんに向かってそう言う。ジュラさんは「ふむ」とだけ答え、顎に生えた長いお髭を触っている。
「リオンもリオンだよ!!なんでわざわざレオンと一緒に魔法を使おうとするのかなぁ?」
「確かにリオン様らしくないですわね」
あたしとシェリー姉もそう言う。いつもは依頼で一緒に行ったりしても必ずタイミングをズラしてるのに、なんで今日は一緒に魔法を出すかな・・・
「ふん。どうせミリアーナやベスに変に苦戦したせいで慌ててたんだろ。おかげで他のギルドの連中にレオンの弱点がバレちまった」
オババ様もリオンのらしくない行動に不機嫌さを隠そうとしない。レオンの弱点・・・それは・・・
「なるほど。わかったぞ、貴様が今まで出てこれなかった理由が」
「ん?」
対戦者のカグラもレオンの欠陥に気づいちゃったみたい。レオンは未だに自分の欠陥がバレてないと思っているのか、それとも誤魔化そうとしているのかよくわからないけど首を傾げる。どうしよう、今はそんな時じゃないってわかってるのに少し可愛く感じちゃった。相手男の子なのに。
「どうやらお前は、造形の速度が他人と比べ遅いようだな」
そう、レオンは他の造形魔導士に比べて造形魔法を繰り出す速度が遅い。リオンや妖精の尻尾のグレイはかなり早い分類に入るけど、レオンは一般的な造形魔導士のそれと比べても明らかに遅い。まぁ造形魔法をきちんと使うようになってまだ1年も経ってないからしょうがないといえばしょうがないのだけど。
「どうしよう・・・レオンの弱点が・・・」
「オオーン!!心配すんなよ!!スピードのことしかバレてないならまだなんとかなるぞ!!」
「そこはキレなくていいでしょ」
あたしが心配しているとトビーがキレぎみにそう言う。いつも突っ込むユウカがいないからシェリー姉がトビーに突っ込みを入れてくれ、トビーは照れたように頭をかきむしる。
「でもそうだよね、レオンももう1個の弱点はそう簡単には・・・」
あたしがそう自分に言い聞かせていると、カグラさんが衝撃の一言を放つ。
「それに、もう1つの欠陥も見つけたぞ、レオン・バスティア」
シリルside
「もう1つの欠陥?」
カグラさんがレオンを見据えそう言ったのを聞き、俺は首を傾げる。レオンの造形がかなり遅いと言うのはわかったけど、もう1つの弱点って・・・
「何か気づきました?」
「いや、俺は特には」
「俺もよくわかんなかったぞ」
俺の問いにガジルさんとナツさんもよくわからないと答える。しかしそれに対しエルザさんとラクサスさんが反論する。
「なんだお前たち、気づかなかったのか?」
「むしろこっちの方がかなりの欠陥だと思うぞ」
かなりの?俺たち3人の滅竜魔導士は顔を見合わせ考える。一体何がおかしかったんだ?全然わかんない・・・
「「「う~ん・・・」」」
俺たちが腕を組んで考えていると、通路の壁に寄りかかっているグレイさんが教えてくれる。
「造形のバランスだな」
「造形のバランス?」
グレイさんの言葉にナツさんが反応する。
「ああ。造形魔法は両手で行わなければ不完全と言われている。それは片手での造形はバランスが悪く、本来の力を発揮できないからだ」
そういえばラキさんもリオンさんも両手で魔法を使っている姿しか見たことないな。造形魔導士と言われる人で片手で魔法を使っている人なんて見たことがない。
「ただ造形魔法というのはかなり繊細さを求められる魔法。グレイやリオンのように幼い頃からその魔法を使い馴らし、常に磨いてきた魔導士なら完璧なバランスの造形を作り出すことができる」
「だがあのレオンって奴の造形はかなり崩れている。昨日までは作った後にすぐに消してたからなかなか気づけなかったが、今じっくり見、さらにリオンという実力者と並ぶとかなり見劣りする」
それが奴の欠陥だ、と続けるラクサスさん。造形魔法のバランスって今まで気にしたことなかったから全然気づかなかった。そう言われてみるとレオンのライオンはリオンさんの虎と比べてかなりアンバランスな上に歪な形をしている気がする。
「そんな造形では本来の力の半分も出せないだろう」
カグラさんはそう言うと納刀したまま刀を振り抜き、迫り来るライオンを大きく砕き、その破片でリオンさんの虎をも粉砕する。
「くっ・・・アイスメイク・・・・・」
レオンはさらなる造形を作り出そうとする。しかしそれよりも早くカグラさんがレオンの懐に入る。
「その崩れた造形であれだけのパワー。確かにすごいことはすごいが・・・私の敵ではない!!」
「ぐはっ」
前日のMPFのことを言っているのか、カグラさんはレオンを誉めた後にそのお腹を打撃し、ユウカさん同様レオンも倒される。
『ダウーンッ!!蛇姫の鱗レオン、自らの弱点を見抜かれ、なすすべなく倒されてしまいました!!』
圧倒的優勢に位置していたはずの蛇姫の鱗だったが、レオンが倒されたことで1対1の全くの五分になる。
『いよいよカグラとリオン!!1対1!!』
両ギルドのエース格同士の戦いということになり、会場のボルテージは一気に高まる。
「ふっ、さすがの一言に尽きるな」
リオンさんは自分のいとこであり、かなりのパワー系であるレオンの弱点を見破り倒したカグラさんに称賛の声をかける。だがカグラさんはどこか不機嫌な顔をしている。
「どういうことだ?」
「何がだ」
「貴様がこの男の魔法とタイミングを被せなければこの弱点を見破ることはできなかった。だがお前は敢えてそれをした。まるでこいつの弱点を皆に見せるかのように」
確かにそうだよな。レオンの造形の速度が遅いことはなんとなくわかりそうだけど、バランスが悪いというのは普通なら絶対に気づかない。というか気にしない。
「さぁな、自分の頭で考えるんだな!!」
リオンさんは不敵な笑みを浮かべると、お馴染みの造形魔法の体勢になる。
「アイスメイク・・・ドラゴンフライ!!」
リオンさんは鷹の時と同じようにたくさんのトンボを作り出し、その群れがカグラさんにかなりの速度で突進する。
しかしカグラさんはそのトンボの隙間を縫うように走り、リオンさんに徐々に接近していく。
「ちっ・・・アイスメイク・・・イーグル!!」
リオンさんはそれを見ると次なる攻撃として鷹を作り出す。さすがはリオンさん、すぐに自分の手元に鷹を作り上げることができた。だが、
ガンッ
「うわっ!!」
カグラさんの動きはその速度を上回っており、リオンさんの手に現れた鷹もろとも彼を弾き飛ばし、リオンさんは地面に倒される。
『やはり強い!!カグラ!!リオンは手も足も出ないのか!?』
「くっ・・・」
すぐに立ち上がろうとするリオンさん。リオンさんもかなり強い方なんだけど、カグラさんはその上を行き過ぎている。はっきりいって分が悪い。
「どけ」
するといきなり俺のことを押し退け、前に一歩出た人がいた。
「何やってんだリオン!!」
そう避けんだのはさっきまで興味がないように壁にもたれ掛かっていたグレイさん。グレイさんは防戦一方になりつつあるリオンさんに檄を飛ばす。
「それでもウルの弟子か!?お前の力はそんなもんじゃねぇだろ!!さっさと本気出しやがれ!!」
なんやかんや言ってもやっぱりリオンさんが心配なんじゃないですか。シェリアで言うところのいわゆるひとつの“愛”ってところなのかな?
「その通りだ。そろそろ本気を見せてみろ。リオン・バスティア!!」
カグラさんもまだまだリオンさんが実力を出しきれていないのを感じ取っていたらしく刀を構えながらそう言う。リオンさんは顔に付いた土を袖で拭いながら立ち上がる。
「ああ。時間もないことだしな!!アイスメイク・・・白虎!!」
リオンさんは自分の右側に虎を作る。でもそれじゃあさっきまでとあまり変わらないんじゃないのかな?
俺がそう思っているとリオンさんはさらなる動きを見せる。
「アイスメイク・・・大猿!!」
なんと今度は左側にゴリラを作り出す。
「アイスメイク・・・スノードラゴン!!」
さらにそれだけでは終わらない。今度は後ろに巨大な竜を出現させる。つまり3体同時造形と言うわけだ。
「さすがのお前もこれなら逃げられんだろ」
3体の氷の生き物たちは合わせたようにカグラさんに飛び付く。
カグラさんはその攻撃を上へとジャンプして避ける。
だが空中では次の動きに入るのに時間がかかってしまうという難点がある。リオンさんの竜はジャンプしているカグラさんに突進し、カグラさんは地面へと落とされてしまう。
「同時にこれだけ作り出せるのか」
バランスを整え地面にうまく着地したカグラさん。彼女も俺たちと同じようにこれだけの造形を一瞬でできるリオンさんの魔力の高さと速さに感心している。
「しかし!!」
カグラさんは刀の構え直すと、闘技場の上空に見覚えのある魔法陣が出現する。
「!!」
その魔法陣に吸い寄せられるように浮かんでいくリオンさんと造形たち。
「あれはユキノとの戦いで見せた・・・」
「重力変化の魔法!!」
ピスケスとライブラの力を完全に殺したこの魔法。カグラさんにはまだこんな手が残っていたのか。
「なんて力だ・・・」
重力変化により空に吸い寄せられるリオンさんたちは全く身動きができない。
「はっ!!」
カグラさんはまずは動きを封じた3体の造形を一瞬で破壊する。
「これで終わりだ!!」
そしてとどめの一撃をリオンさんに打ち込むべく、上から自らの重力だけを通常通りに戻し、その場で動けないリオンさんに斬りかかった。
カンカンカンカン
リオンさんに刀が打ち込まれる瞬間、鐘の音がドムス・フラウに響き渡る。
「タイムアップ!!30分経過!!両者引き分けカボ!!」
どちらのチームも1名ずつ30分間戦い抜いたことにより、この大会のバトルパートのルールに基づき試合の終了が告げられる。
『結果はドロー!!30分では決着付かず!!』
この結果を受け人魚の踵は惜しかったと残念がり、蛇姫の鱗は九死に一生を得たと安心しているようだった。
第三者side
「やっぱ強ぇな、カグラは」
「まだ本気を出しているとも思えん」
「毎年そうさ。カグラが本気になったところなんて誰も見たことねぇんだ」
試合を終え、倒れていたユウカの元に歩みより会話をしているリオン。そんな2人の横で顔をうつ向かせ明らかに落ち込んでいる様子の男がいた。
「大丈夫か?レオン」
レオンに声をかけるリオン。レオンはそれに気づくと下を向いていた顔を上げる。
「え?別に全然問題ないよ」
普段通りに冷静で飄々とした様子のレオン。リオンはそれに対し顔をしかめる。まるで自分の想いが届かず、空回りしてしまったかのような・・・
「カグラちゃん・・・」
「ごめんなさい・・・」
一方人魚の踵のバトルパート参加者たちは自分達の待機場所に戻ろうとしている中、早々に倒されてしまったミリアーナとベスはカグラに謝っていた。
「あのリオンという男、筋がいいな。これが試合でなく殺し合いであったならば・・・死んでいたぞ」
「「うっ・・・」」
カグラの言う通りだと思っているミリアーナとベスは表情を歪ませる。
「もっと強くなれ、鍛え直すぞ」
「うん!!」
「はい!!」
カグラに優しい声をかけてもらい、気持ちを切り替えたミリアーナとベスはその後について闘技場を後にした。
(しかし・・・リオンは何が目的だったのだ?まるでレオンを潰そうとしているかのようだった)
カグラは試合中に感じたある違和感に疑念を抱いていたが、その考えを自分がわかることはないだろうと思い、この後に行われる戦いの観戦に入ることにした。
「なんとか引き分けましたわね」
「でも危ないとこだったぁ」
「リオン全然らしくなかったよねぇ」
シェリーとシェリア、ラウルが先の戦いを見て感想を述べる。
「女のことなんか考えてるからこうなるんだよ。 帰ってきたらとことん回して回して回して回して・・・回しまくってやる!!」
オーバは不甲斐ない戦いをしたリオンたちに苛立っており、お仕置きすることをすでに確定させていた。
「でも結果は引き分けだけど・・・」
「とってもまずいことになりましたわね」
だが運良く引き分けで済んだ彼らだったが誰1人としてそれに喜べる者はいなかった。理由はもちろんあの事である。
「レオン・・・明後日大丈夫かな?」
そう呟くラウル。彼らの心配事は今日の戦いで弱点を露呈してしまったレオンのことだった。
五分であるはずの人魚の踵と蛇姫の鱗。しかし内容事態は全くの別物だった。
勝利こそ逃したもののチームに勢いを残せた人魚の踵。
対する蛇姫の鱗は完全に押されていた上に主力メンバーの重大な欠陥の露呈。
明らかに不利的状況に陥ったように見えた蛇姫。しかしこの結果が最終日に大波乱を巻き起こす糸口になることはこの時、誰も予想することはできなかった。
後書き
いかがだったでしょうか。
アニメだと本当に蛇姫の鱗が押されっぱなしだったので今回は中盤までは五分と五分になるようにしてみました。
そしてついに・・・次から4日目の注目カードに突入します!!
もうおおよそのバトルのイメージは出来上がっているので後は文章にするだけですよ!!それが一番難しいんだけども!!
次回もよろしくお願いします。
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