FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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バトル・オブ・ドラゴンスレイヤー
シリルside
『興奮冷めやらぬ会場ですが、次のバトルも目が離せないぞ!!』
「さて・・・行くか」
ガジルさんにそう言われ、次のバトルパートに出ることになっている俺とナツさんも待機場所から出ていく。
「ナツ」
出入り口から出ていこうとしたところでまずグレイさんがナツさんを呼び止める。
「あんな奴等に負けんじゃねぇぞ」
「ああ」
ナツさんはそれに短く答える。
「ガジル」
「ああ!?」
次にラクサスさんに声をかけられたガジルさんはどこかのチンピラみたいにがんを飛ばしながら振り返る。
「また乗り物酔いとかすんじゃねぇぞ」
「するわきゃねぇだろ!!」
ラクサスさんなりの声援だというのはわかるけど、ガジルさんが怒る気持ちもよくわかる。頑張れの一言くらいかけてもいいのに。
「シリル」
そして最後はエルザさんが俺を呼ぶ。
「勝ってこい。私はそれだけを信じて待っているぞ」
「はい!!」
俺はうなずきながら返事をする。そして俺たちは闘技場へと向かうべき待機場所を後にした。
カツカツカツカツ
静かな通路。そこに響くのは俺たち3人の足音だけ。会場の観客たちの歓声も、ここでは何も聞こえない。
「あ、ちょっと待ってくれねぇか?」
ナツさんが何かを思い出したように立ち止まる。その場所は丁度ルーシィさんやエルフマンさんが眠っている医務室の前だった。
「バニーのとこか?」
「おお」
ガジルさんもどうやらナツさんが誰に会いに行くのかわかっていたみたい。でも前から気になってたけどバニーって一体何なんだろ?ルーシィさんのどこにもそんな感じの言葉は隠されてない気がするけど。
「なら俺もちょっと行ってきていいですか?」
ウェンディは今はルーシィさんの看病のために医務室にいるはず。声ぐらいかけていきたいしな。
「俺は先に行ってるぞ」
ガジルさんはそう言うと闘技場の出入り口の方へと歩いていく。
「行くか」
「はい」
ナツさんと俺は医務室の扉を開け、中に入っていく。そこには眠っているエルフマンさんとそれを見守っているエバーグリーンさん。そして1枚仕切りを挟んでルーシィさんがスヤスヤと眠っていた。だけど肝心のウェンディの様子がどこにもない。
「あれ?ウェンディは?」
俺は近くにいたエバーグリーンさんに質問する。
「さっき試合の様子を見てくるって出ていったわ」
「そうなんですか・・・」
どうやら魔水晶ビジョンは医務室では見せてもらえず、闘技場の方まで試合の結果を見に行ったらしい。
「次あんたたちの試合?頑張りなさいね」
「俺たちの分まで暴れてこい」
2人は俺たちがここに来たことで試合が近づいているのだと悟り、応援してくれる。それに対しナツさんは「おお」と俺は「はい」と返事をする。
「ウェンディいないみたいですし、俺先に行ってますね」
「ルーシィに声かけないのか?」
先にガジルさんの元に戻ろうとした俺にナツさんはそう言う。
「ルーシィさんはナツさんにお任せします」
「そうか。わかった」
ナツさんはルーシィさんの近くにいくと寝顔を覗くように椅子に座る。俺は彼女を起こさないように静かに扉を開け、闘技場の出入り口へと向かう。
「シリル!!」
俺の背中側から聞きたかった声が聞こえる。いつもずっとにいて、聞き慣れた可愛らしい声が。
俺はそちらの方に振り返るとそこにはやっぱりいた。ウェンディが。
「ウェンディ」
ウェンディは俺を見つけるとすぐに走ってきたのか、少し息を弾ませて俺の前に来る。
「あれ?シャルルとセシリーは?」
そんな彼女の後ろにも横にも一緒にルーシィさんの看病をしていたセシリーたちの姿がない。
「ルーシィさんに何か買ってくるってどこかにいっちゃった」
「そっか」
逆によかった。ウェンディと2人っきりの時間って最近ほとんどなかったし、こうしてゆっくり話すにはツンツンのシャルルとお騒がせなセシリーは邪魔なだけだ。
「いよいよだね」
「うん」
大魔闘演舞は5日間で行われる大会。今はまだ4日目のため最後という訳ではない。
だけど今日までの競技パートをやりバトルパートに入るという形は今日で終わりになるらしい。それに明日1日休日ということで日程が空くことになっている。
つまりはこれから行われる今日の最後の試合が1つの区切りなる。それも参加を決めてからずっと倒さなければならないと掲げてきた剣咬の虎が相手。中盤戦を締め括るのにこれ以上の敵はない。
「俺・・・必ず勝ってくるから」
「うん!!私、信じてるよ」
笑顔のウェンディを見て気持ちが昂ってくる。やっぱりこの子は元気を与えてくれる天使なのかもしれないと思ってしまう。
「じゃあ、行ってくるね」
俺も笑顔でそう言いウェンディに背を向けようとする。
「待って!!」
しかしウェンディはその俺を見るといきなり両手で俺の頬を押さえ、顔をそちらに向けさせる。そしてそのままウェンディは瞳を閉じた顔を近づかせ・・・
唇と唇を合わせてきた。
「!?」
あまりにいきなりだったので一瞬困惑してしまったが、思いの外すぐに冷静になれ、俺も目を閉じウェンディの体をより一層近づける。
どのくらいの時間だったのだろう、おそらくたかだか4、5秒のことだったのだろうが俺にとってはもっと長く感じた。
ウェンディがそっと唇を離してくるので俺も後ろに回していた手をゆっくりと離す。
人生初めてのキス。付き合い始めて1ヶ月ぐらいの時間が経った今、俺と彼女は初めて唇を重ねたのである。
今までの俺たちだったら今ので耳まで真っ赤になっていたことだろう。だけど今はそんな様子など一切ない。逆に冷静過ぎて怖いくらいだ。それは目の前の少女も同じようだった。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
俺はそう言葉を交わすとウェンディに背を向け歩き出す。ウェンディはそれを見えなくなるまで見守ってからルーシィさんたちの待つ医務室へと入っていった。
「お待たせしました」
「おう」
闘技場の出入り口のすぐそばの壁に背を持たれかけ、腕を組んで俺たちのことを待っていたガジルさん。ナツさんはルーシィさんが寝てたこともあるし、もう少し時間がかかるかもしれないな。
「1つだけ言っていいか?」
「?なんですか?」
何やら改まって話し出そうとするガジルさん。まさか「一緒に頑張ろうな」とかいうらしくないことでも言おうとしてるのか?
「キスするならもう少し見えないところでやれ。丸見えだったぞ」
「なっ////」
なんとさっきのウェンディとのキスをガジルさんに見られていたらしい。そう考えるとさっきまでの冷静さが嘘みたいに恥ずかしくなってくる。たぶん今の俺はエルザさんの髪のように真っ赤になっていることに違いない。
「見てたんですか・・・////」
「たまたまだ。わざとじゃねぇよ」
そういってギヒッと笑うガジルさん。この人が笑うと悪意しかないように見える俺は心が狭いのだろうか?
「どうしよう・・・どのくらい殴れば記憶って消えるのかな?」
「しれっととんでもねぇこと言うな、おい」
いけない。なんだか最近暴力に頼ろうとしすぎてる気がする。これはきっとナツさんやエルザさんの影響に違いない。そう思わないとやってられないぜ!!
カツカツカツ
そんな俺の後ろから足音が聞こえてくる。それと共に近づいてくる仲間の匂い。
「もういいのか?」
「ああ」
ルーシィさんとの会話を終えたナツさんに声をかけるガジルさん。ナツさんはいつになく表情が引き締まっており、気合いが入っているのがありありとわかる。
「さっさと勝ってきてルーシィたちを喜ばせてやろう」
「そうですね」
俺はウェンディももちろん喜ばせたい。そしてこのギルド全員が喜んでくれるように。
「ナツ!!」
すると今度は出入り口の前からちょっと高い声がナツさんを呼ぶ。
「ハッピー・・・」
そこにいたのはナツさんの相棒であるハッピーだった。
第三者side
『観客の皆さんもこの一戦を心待ちにしていたことでしょう』
先程までの大歓声からは想像ができないほどに静まり返っているドムス・フラウ。そこに響くのは実況者であるチャパティの声と闘技場に姿を現した6人の男たちの足音だけ。
『7年前最強と言われていたギルドと現最強ギルドの因縁の対決』
6人は相手の見える位置まで来るとそこで足を止め、自らが意識する相手を見据える。
『妖精の尻尾ナツ&シリル&ガジルvs.剣咬の虎スティング&グラシアン&ローグ。しかもこの6人は全員が滅竜魔導士、全員が竜迎撃用の魔法を持っている』
さらにはここにいる全員が幼き頃、竜に育てられたという共通点を持っている。彼らはたくさんの共通点を持った、運命によって引き合わせられた存在なのかもしれない。
(待っていたぜ、この瞬間を)
スティングは自分の一番の憧れであるナツを見つめる。ナツもその視線を受け鋭い眼光を飛ばす。
(ガジル・・・)
ローグはスティングと同様にガジルを睨む。ガジルも悪い目付きをさらに威圧感のあるものへと変え3人の対戦者を見る。
「さて・・・どんなもんか見せてもらうか」
真剣な表情で全員が緊張感を高めている中、グラシアンだけは不敵な笑みを浮かべている。自信の現れなのか、それともこの緊張感を嫌ったのかは定かではないが。
『夢の滅竜魔導士対決ついに実現です!!』
失われた魔法として古に忘れ去られたはずの魔法。それを扱う魔導士たちのぶつかり合いとあってさっきまでの静かさから一転しドムス・フラウに観客たちの大歓声が響く。
「ガツンとかましてこい!!」
「俺たちの分までな」
「勝利を信じているぞ!!」
グレイ、ラクサス、エルザがシリルたちに精一杯の声援を送る。
「そろそろ始まる頃ですね」
「ナツなら大丈夫。きっと勝てる」
ウェンディとルーシィがそう言う。するとポーリュシカがさっきまで見させてくれなかった魔水晶ビジョンを映す。
「グランディーネ?」
「この試合だけだからね」
そっぽを向いて話すポーリュシカ。ウェンディとルーシィは顔を見合わせて笑った後、その魔水晶ビジョンへと視線を向けた。
『ついに激突の時!!勝つのは妖精か虎か!?戦場に6頭のドラゴンが放たれた!!』
「思いっきりやるが良い。後は何も言うまい」
マカロフは自分のガキどもも信じ、ジエンマはただ静かに闘技場を見下ろしている。
(この時をずっと待ってたんだよ、ナツさん)
スティングはいよいよ待ちかねた瞬間の到来に鼓動が速くなる。
「楽しみにしていたのは私も同じカボ!!制限時間は30分!!試合開始!!」
ゴォーン
「行くぜ!!」
「ああ」
「おうよ!!」
銅鑼の音と同時に動き出したかは剣咬の虎の三大竜・・・かに見えた。だが実際には違った。
「!!」
三大竜よりも早くナツ、シリル、ガジルの3人が一気に迫ってきており、目の前に現れたシリルたちにスティングたちは驚き足を止めてしまう。
ドカッ
ナツ、シリル、ガジルのストレートパンチがスティングたちの顔面を捉える。
勢いが乗っていた上に自分たちも走って接近をしようとしていたため反動が大きく、後方へと大きく投げ出される三大竜。
その中の1人、スティングが地面に落ちるよりも早くナツは脇腹に蹴りを入れる。
「水竜の・・・鉤爪!!」
「ぐおっ!!」
ナツと同じようにシリルもグラシアンに蹴りを叩き込み、地面に叩きつけられる。
ナツの攻撃を受けたスティングはなんとか着地を成功させると、すぐに近くにいるナツに攻撃を放つ。
「白竜の・・・咆哮!!」
「レーザー!?」
スティングの口から出されたのは光輝くレーザー光線。ナツは体を仰け反らせその攻撃を交わす。
「どわっ!!」
そのレーザーはナツの後ろにいたシリルに直撃しそうになった。が、シリルはギリギリで反応することができその攻撃を回避する。
「ヒャハー!!」
スティングはレーザーを吐き出しながら顔を動かす。それによりレーザーは大きくしなりながらガジルの方へと向かっていく。
「!!」
ガジルはそのレーザーの輝きですぐに気づき、空中へとジャンプして避ける。
「影竜の斬撃!!」
ローグは地面にガジルが着地した瞬間を狙おうと黒色の魔力を掌に集中させ、ガジルの元へと飛ぶ。
ガンッ
狙いは完璧といえるほどによかった。だがガジルは左腕を剣へと変化させるとその斬撃を簡単に受け止める。
「!!」
「ギヒッ。オラァ!!」
ガジルはローグを空高く投げ飛ばす。その間にグラシアンは立ち上がると自分を蹴り飛ばしたシリルに手を向ける。
「幻竜の・・・破壊光線!!」
手から出されたのは紫の高速レーザー。シリルはそれを見るやいなや体を横に飛ばし交わす。
ニヤッ
それを見たグラシアンはなぜか笑みを浮かべる。シリルはその笑みを見てグラシアンの狙いに気づいた。
「引っ掛かったな!!」
グラシアンはそう言うと指を鳴らす。それと同時にシリルが交わしたレーザーが姿を消し、新たにシリルの目の前にレーザーが現れる。
「幻覚か!?」
「食らいな!!」
完全に決まったと思われた攻撃。しかしシリルは両腕に水を纏わせると手をガッチリと合わせてそのレーザーにぶつける。
「水竜の顎・・・横バージョン!!」
なんとレーザーを打ち返したシリル。グラシアンの高速レーザーがシリルに返されたことによりさらに速度を上げ彼へと迫る。
「がはっ!!」
まるで光の速さで返されたかと思われるほどの超高速光線。それを避ける術などあるわけもなく、グラシアンは吹き飛ばされる。
さらにはその飛ばされた場所が悪かった。先程までガジルに高々と投げられたローグの方へと飛んでいき、2人は見事に直撃する。
「ローグ!!グラシアン!!」
ぶつかった仲間を心配するスティング。だが2人を心配している暇など彼にはなかった。
「!!」
突然ローグとグラシアンの顔に手が伸び、2人の顔はガッシリと掴まれる。
掴んだナツは1度地面を強く蹴るとスティングの元へとジャンプ一番飛んでいく。
「オラァ!!」
「「「ぐっ!!」」」
ローグの頭がスティングの顔を、グラシアンの頭が腹へと直撃し怯んでしまうスティング。ナツはローグとグラシアンの頭を掴んだまま腕に炎を纏わせていく。
「火竜の翼撃!!」
その炎がまるで竜の翼のように広がり三大竜は打ち上げられる。
『こ・・・これはどういうことでしょうか!?あのスティングとローグとグラシアンが!!フィオーレ最強ギルドの三大竜が押されている!!』
仲間の猛攻に沸き上がる妖精の尻尾と静まり返る剣咬の虎。スティングたちは空中で体を一回転させながらバランスを立て直すと闘技場の地面へと着地し被害を最小限に抑える。
「おいおいマジかよ」
「やっぱ強ぇなぁ、こうじゃなきゃ」
「ガジル」
予想外の力に驚きを隠そうとしないグラシアン。スティングは頬を拭いながらナツたちの強さに嬉しそうに笑みをこぼし、ローグはガジルを忌々しそうに睨み付ける。
「お前ら、その程度の力で本当にドラゴンを倒したのか?」
「はっきり言いますけど全然手応えがないんですけど」
ナツとシリルがあまりに押されっぱなしの三大竜にそう言う。それを聞いたスティングは笑いながら答える。
「倒したんじゃない。殺したのさ、この手で」
手を握りしめ得意そうに言うスティング。ナツはそれを聞いてある疑問をぶつけてみることにした。
「自分の親じゃなかったのか?」
「あんたには関係ねぇことだ」
それを聞いたシリルは少し怒ったように3人を見る。
「親を手にかけるなんて・・・躊躇とかしなかったんですか?」
「躊躇したら殺せるわけがねぇ。迷いなんか捨て去るべきなんだよ」
グラシアンのその答えを聞くとシリルはますます怒りがこみ上げてくる。だがナツが妙に冷静なのを見ると気持ちを落ち着けようと深く深呼吸する。
「見せてやる。その竜殺しの力をよ!!」
スティングはそう言うと左手を横に広げる。
「ホワイトドライブ」
スティングの回りに白いオーラが現れる。しかしそれだけでは終わらない。
「シャドウドライブ」
「ナイトメアドライブ」
ローグの回りに黒色の、グラシアンの回りに紫のオーラが出現し、彼らを包み込む。
「!!」
「魔力の感じが・・・」
「変わった?」
ナツとガジル、シリルは3人の魔力の変化を肌で感じ取る。
「さてと・・・んじゃ」
「行くぜ!!」
自らの魔力を体に纏わせ構える三大竜。シリルたちはそれを受け同じように戦う姿勢へと体を動かす。
竜を殺し、自らをハイブリットと豪語する三大竜。彼らの実力がどれ程のものなのか、そしてシリルたちさそれに対しどう戦うのか、ドムス・フラウの全ての者がその姿を見下ろす。
後書き
いかがだったでしょうか?
とりあえず序盤はやはりシリルたちの圧倒的優勢で始まりましたね。
そしてついにシリルとウェンディの初キスをしてしまいました。うまくできてたかな?
ここからどう展開していくか、次回もよろしくお願いします。
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