街路で
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3部分:第三章
第三章
「じゃあれか!?あの連中がか」
「そうじゃねえのか?吸血鬼な」
まさにそれではないというのだ。それは疑問ではなく確信であった。
「あいつ等こそがな」
「おい、やばいだろ」
一人はここで大いに狼狽した。
「それだったら俺達血を吸われてそれで終わりだぞ」
「あの連中の仲間にか」
「吸血鬼になりたいのか?」
今は肩を組み合っていない。それで顔を見合わせてそのうえで路上で話をしている。幸いまだ吸血鬼達は遠くである。そこで話をしているのだ。
「あの連中の仲間によ」
「馬鹿言え、俺にもやっと彼女ができたんだぞ」
こう返す一方だった。
「御前ももうすぐ結婚するんだよな」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ死にたくないよな」
こう相棒に告げるのだった。
「御前もな」
「当たり前だろうが。何で死にたいんだよ」
「じゃあここはあれだ」
あれだというのである。
「あれを出すぞ」
「あれをか」
「そうだよ、あれしかないだろ」
こう言い合いながら出したものはというとだった。十字架である。
あの老人から貰った十字架を出したのである。そうしてそのうえで二人共それぞれの胸にかける。そうしてそのうえで言うのだった。
「これで大丈夫だよな」
「そうじゃなかったら終わりだろ」
二人で言い合う。二人共本当に吸血鬼が出て来たと思ってがたがた震えている。
彼等は祈っていた。まずはキリスト教の神に。しかしだった。
「待てよ」
「んっ!?どうしたんだ?」
「いや、御前何の神様に祈ってる?」
一方が相棒に尋ねたのだった。
「御前な。何処の宗教の神様に今祈ってるんだ?」
「御前は?」
彼は逆に問い返したのだった。
「御前はどの神様に祈ってるんだ?」
「どの神様って。キリスト教のだけれどな」
「俺もだよ」
問うた彼の返答である。
「俺もキリスト教の神様に祈ってるよ」
「何か違うかな」
「違うんじゃないのか?」
祈ったところで気付いたのである。
「それな。違うんじゃないのか?」
「違うか」
「だってあれだろ?あの連中ここにキリスト教が来る前からいたんだろ」
そのことに気付いたのである。二人してだ。
「確かな」
「そういえばそうだよな」
もう一方も気付いたのだった。ここでだ。
「じゃあキリスト教の神様に祈っても仕方ないか」
「そうなるな」
「じゃあどの神様に祈ればいいんだ?」
ここであらためてその話になった。
「どの宗教のな」
「ええと。確かあれだったな」
話していて思い出してきたのだった。その神とは。
「ケツアルカトルだったな」
「そうだよ、それだよ」
言われて思い出したのだった。その神のことをである。彼等が話しているその間にも吸血鬼達は迫って来る。そうしてそのうえで言うのだった。
「その神様だよ」
「よし、じゃあ祈るか」
二人で言い合う。それから必死に祈るのだった。その神にだ。
「なあ。それでな」
「それで?」
「どうやって祈ればいいんだ?」
ふとこのことに気付いたのだった。
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