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街路で

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2部分:第二章


第二章

「十字架はキリストだけのものではないからじゃよ」
「キリストだけじゃないって」
「何があるんだよ」
「かつてここにケツアルカトルという神がおった」
 古代マヤ神話の神々のうちでも最も有名であり力のあった神の一人である。穀物と学問の神でありその姿は髭を生やした白い肌の男か若しくは翼を持った白い蛇であった。その姿で知られているまことに古い神である。人間の守護者でもあったことも知られている。
「その神を表すのも十字架だったのじゃ」
「それでか」
「それで十字架なんだな」
「ほれ、持っておるがいい」
 ここで早速だった。老人はその十字架を懐から出して来たのだった。それも丁度二つである。彼等の人数分だけ出してきたのである。
「これをな」
「十字架をかよ」
「金取るってんじゃないだろうな」
「安心せい、金はいらん」
 それはいいというのだった。
「ただ無事に生きていればいいのじゃよ」
「吸血鬼に血を吸われないでか」
「そうしてか」
「吸血鬼に血を吸われればじゃ」
 ここからはある意程度決まった流れであった。そうした存在の餌食になったらばだ。
「自らも吸血鬼になってしまうからのう」
「まあただっていうんならな」
「貰っておくけれどな」
 この辺りは実に現金だった。二人はすぐにその十字架を受け取るのだった。
 そうしてだった。二人は老人と別れた。そうしてその日は仕事の後は居酒屋で飲んだ。まだ若く家族もいない二人はしこたま飲んだ。
 そうして酩酊寸前のまま二人肩を組んで騒ぎながら夜道を歩いていた。足取りもふらふらで今にもこけそうだ。左右の家々も目に入らず好き勝手に騒いでいる。
「へへへ、どれだけ飲んだよ」
「そんなの俺が知るかよ」
 まさに酔いどれそのものの姿での言葉だった。
「テキーラは相変わらず効くしな」
「その通りだな」
「それにしても今夜はな」
「何だ?」
「暗いな」
 ここで一人が言った。
「それもかなりな」
「んっ!?そういえばそうだな」
 そしてもう一人もここで気付いたのだった。今夜の暗さに。
「随分とな」
「月がないな」
 このことにも気付いた。実際に上を見上げるとそこには月も星もなかった。かといって雲もない。真の暗闇が広がっている夜空であった。
「それに星も」
「そうだな。月がないな」
 二人でその夜空を見上げる。そこには確かに月も何もなかった。
 まずはそれだった。月がなかった。
 そして今二人が向かうのは。十字路だった。 
 するとだった。前から。黒い修道僧を思わせる黒いフードに身を包んだ一団がやって来た。その数はざっと見たところ十人程度だった。
「何だありゃ」
「あの連中は何だ?」
 二人はその者達が前から来てそれで目を顰めさせたのだった。
「坊さんか?」
「いや、待てよ」
 ここで一人が昼の老人との話を思い出したのである。
「あの爺さん言ってたよな」
「吸血鬼かよ」
「ああ。月のない夜空で」
 まずはそれだった。
「それで十字路にだったな」
「十人程な」
 この二つも思い出された。
「ってことはあの連中はだ」
「おい、まじかよ」
 一人はここまで話してそのうえで顔を顰めさせた。
 
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