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ソードアート・オンライン -旋律の奏者-

作者:迷い猫
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アインクラッド編
龍皇の遺産
  クエストに出掛けよう03

 ヴェルンドさんが自分で言っていたように、特殊な鉱石があるダンジョンに向かうための道は案外と簡単に開いた。 ヴェルンドさんがやったことと言えば、右手首の腕輪を軽く掲げただけだ。
 たったそれだけの動作で次元の狭間へと至る道を出現させてみせられると、なんて言うかこう、大仰な儀式とか長ったらしい呪文の詠唱だとかを密かに期待していた僕にとって、拍子抜けもいいところだった。 そんなことを考えているから、アマリに『変なところで子供っぽいですねー』とか言われるんだろうけど。

 ちなみにそのアマリは、ヴェルンドさんが現れて以来、一言も声を発していない。 人見知り、と言うわけではなく、人の話しに割り込むのが苦手なのだ。 気心の知れた相手と会話する場合はそんなこともないけど、そうでないとこの調子で、だから、他のプレイヤーから誤解されることもよくある。
 まあ、当の本人は巨大な両手斧を振り回す戦闘狂なので、お淑やかさは皆無だ。 アマリには双子の姉がいて、お姉さんも攻略組に名を連ねている辺り、この姉妹は戦闘の才能に恵まれているらしい。 もっとも、そんな才能はこんな世界でなければ役に立たないものなので、本人たちにとっていいことなのかは微妙なところだろう。

 そう言えば最近、ボス攻略以外でお姉さんに会ってないけど、元気でやってるのかな?

 なんて、思考が横道に逸れていた僕を振り返り、ヴェルンドさんが怪訝な表情を浮かべていた。

 「どうかしたのか?」
 「なんでもないよ えっと、それで道は完成?」
 「うむ。 道を固定できない故、我が外から道を開き続けておらねば消えてしまうが、それでも貴様らが往来することは十分に可能だ」
 「持続時間とかは?」
 「このような方法を試したことがない故、正確には分からんが、連続では1日が限界だろう。 休憩しつつであればいつでも開けるのでな。 もしも向こうで夜を明かしたとしても問題はない」」
 「そう」

 つまり、クエストの制限時間は1日。 インターバルを挟めば、実質的な制限時間はなし。 最悪、件のダンジョンでキャンプすることになっても救済措置あり、と言ったところか。 今のところ、そこまで難易度が高い風には感じられない。

 対策の立てようがない未知のクエストに挑戦する以上、事前に得られる情報は可能な限り得たほうがいいだろう。
 僕は質問を重ねた。

 「鉱脈にモンスターが出たりするのかな?」
 「出るわけがなかろう。 トラップの類いも基本的にはない」
 「基本的には? つまり、あることにはあるの?」
 「うむ。 鉱脈に龍皇様の愛剣が隠されているのだが、その剣には特殊効果があってな。 持ち主の手を離れると自動的に防衛機構が作動し、持ち主の影を生み出すのだ。 影は剣に近づく全てを敵と認識し、当然、貴様らにも襲いかかってくるだろう」
 「それがトラップ、ね……」

 龍皇が使っていた剣。
 興味がないではないけど、近づかないほうが無難だろう。 幸いなことに、こちらから近づかない限りは安全みたいだし、触らぬ神に(いや、影に、かな?)祟りなし。 わざわざ危険を冒す必要はない。

 けど、そんな僕の思考を知ってか知らずか、ヴェルンドさんが言う。

 「龍皇様が亡くなられて以来、奥方様は悲しみに暮れていてな……。 龍皇様は塔の守護を任されているのだから、いつかそんな日が来ると覚悟はしておられたのだろうが、だからと言って割り切れるものでもない。 せめて形見の品としてその剣を、と思いはするのだが、我だけでは鉱脈に立ち入ることができん。 なあ、人間よ。 これは無茶な頼みではあるが、その剣を取ってきてはくれないか?」
 「…………」

 僕の無言をどう解釈したのか、ヴェルンドさんは続けた。

 「もしも貴様らがあの剣を取ってきてくれれば、相応の礼はしよう。 だから……頼む」

 僕はすぐには答えられなかった。
 ヴェルンドさんの頼みを聞いてあげたい気持ちはある。 僕だってシステム上のものとは言え結婚しているのだ。 せめて形見を、と言う考えは理解できる。
 でも、そう思うと同時に、理性は無視するべきだと言っていた。

 70層のフロアボスだった龍皇ーースヴァローグ・ザ・エンペラー・ドラゴンと同等の強さだとするのなら、このクエストが2人パーティー限定なんて言う条件であるはずがない。 フルレイドである48人で挑むべきクエストだ。 2人パーティー限定クエストである以上、それは2人パーティーでのクリアが可能な難易度に設定されているだろう。 そこは今までのSAO生活で得た経験から信じてもいい。
 問題はクリア可能なレベルに僕たちが達しているかだ。

 僕のレベルは95。 アマリのレベルは97。 レベルやスキルに関しては誰も語りたがらないので正確なところは分からないけど、多分それは、攻略組でもトップクラスのレベルだと思う。 少なくとも、結婚しているプレイヤーに限って言えば、間違いなく最高値のはずだ。
 僕たちがクリアできないクエストなら、それは誰にもクリアできないクエストだと、この場合は言い換えてもいいだろう。 でも、だからと言って、油断はできない。
 何しろ、ヴェルンドさんの頼みを聞けば、弱体化しているだろうとは言え、スヴァローグ・ザ・エンペラー・ドラゴンとの戦闘が必須になる。 あまりに危険。 あまりに無謀。 そもそも、弱体化している保証だって、あくまで僕の経験則であって、明確に記載されているルールではないのだ。

 断ろう。

 その結論をヴェルンドさんに伝えようとした刹那、今まで沈黙していたアマリが優しい声音で言った。

 「フォラスくん」

 アマリが僕を見て、そして笑う。

 「難しく考えすぎですよ。 それはフォラスくんの悪い癖です」
 「いや、でも……」
 「好きな人が死んじゃって、手元に何も残らないなんて寂しいじゃないですか。 私はそんなの嫌ですよ」
 「……危険があるって、分かっての?」
 「あっはー、変なことを言うですねー。 危険? そんなのどうだっていいです」

 緩い口調はいつものままに、それでもキッパリとアマリは言い切った。
 それがなんでもないように。 危険なんてどうだっていいと。
 いつもと同じだらしない笑顔。 僕の大好きな笑顔でアマリは言う。 それが当然のことのように、それが当たり前のように、アマリは言う。

 「何を迷ってるですか? どうして迷うですか?」
 「…………」
 「情報がない? ボス戦がある? 死んじゃうかもしれない? あはっ、それってつまり、最っ高のシュチュエーションじゃないですか!」

 焦点の定まらないアマリの瞳は、狂った熱を孕んでいる。
 狂気。 あるいは狂喜。
 きっと、この状況を心の底から楽しんでいるのだろう。 アマリはそういう狂人だ。

 「立ち塞がるなら踏み砕く。 それが私たちですよ。 今更迷うことなんてないのです。 殺す。 全部殺す。 殺して殺して殺し尽くす。 難しく考える必要なんて皆無っ! 全部殺せばいいだけですよー」

 どこで入ったのか定かではないけど、どうやらアマリの狂人スイッチが入ったらしい。
 そんなアマリの狂人具合を目の当たりにして、僕は笑った。 そう。 笑ったのだ。

 「ふふ、そうだね。 そうだったよ。 全部殺す。 目に映る全てを殺す。 それが僕たちだ」

 なんのことはない。
 狂人のアマリが大好きな僕もまた、ただの狂人なのだ。
 自分が狂っていることは知っている。 アマリが狂っていることも知っている。 でも、それがどうした。 
 

 
後書き
 エアコンを買い換えるべきか、空気清浄機を買い換えるべきか迷いながら、結局どっちも買い換えました。
 と言うわけで、どうも迷い猫です。

 さあ、きっと賛否両論あるであろう今回のお話し。
 なんて言うか、オリキャラ2人には気持ちよく狂ってもらいました。
 最初の後書きで王道を目指すとか言いながら、明らかに王道を外れた2人組が主人公です。

 まだ始まったばかりなので、色々と話せないことが多いですが、安心してください。 この2人、これからキチンと王道しますから。 多分……。

 ではでは、迷い猫でしたー。 
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