普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
110 探偵ごっこ
SIDE 《Teach》
「……シュミットへの渡り付けを頼みたい?」
「……そんな然も〝がっかりした〟みたいなアクションをされても困るんだが…。てか、他に俺がティーチに〝頼みたい事〟があるならそれはどんな事か詳しく聞きたいところだが…。……まぁ、シュミットに渡りを付けて欲しいのは間違いない」
昨日、キリトからメッセージが飛んできた。
……曰く…
[ティーチに頼みたい事がある。なので明日あたりにギルド本部に居てほしい]──と。
……アスナとゴールインして、遂には〝アスナとの結婚式の仲人を頼みたい〟とでも頼まれるかと思ったら、何とも色の無い頼み事だったので、なんだか肩透かしを食らった気分になった。
ちなみに、アスナがキリトへ長いこと〝好き好き光線〟を送っているのは我がギルドの内の公然の秘密で、〝いつゴールインするか〟──と、そんな風に下世話な賭けが水面下で行われているのはアスナとキリトには秘密である。
閑話休題。
「……シュミットに連絡をとるのは構わんが──〝なんでシュミットに連絡をとる必要性が出来たのかは〟教えてくれるんだよな?」
「ああ。……あー、まずは結論からで良いか。……〝圏内〟で人が死んだ」
「……ふぅん…? 〝圏内〟でねぇ」
とりあえず、〝落ち着いている体〟をとってはいるが、内心では驚いていたりする。……何しろ、人が死んだのだ。いくら1度死んだ身とは云え──いくら100を超える人数の〝客観的かつ主観的に見て死んだ方がマシ〟な人間を冥土送りにしたとは云え、〝人死に〟を茶化す事は出来ない。
……それに、今のところは〝〝圏内〟で人が死んだ〟と聞いただけなので、少し前に横行していた〝睡眠PK〟の毒牙に掛かった可能性もある。……しかし、それなら「〝睡眠PK〟が起きた」──と、簡潔に言えば良いだけなので、キリトの口振りからして、どうにも勝手が違うらしい。
「……それは本当か?」
「ああ、この目でポリゴン片になるのを見た。あれはアスナと──」
………。
……。
…。
キリトの話を纏めると、事の起こりは57層【マーテン】で、アスナとキリトがデートしている時に起きた様で、アスナとキリトがレストランでお食事デートしている途中に悲鳴が聞こえたのが始まりだったらしい。
……その悲鳴に駆けつければ、《マーテン》の鐘楼塔に宙吊りになっていた人物がポリゴン片になるのを、多数の人物が確認したとの事。
そして、悲鳴の主──ヨルコさんとやらに詳しい話を聞いたところ、ポリゴン片になったのはカインズと云う男性プレイヤーで、ヨルコさんとは知己の仲──元、同じギルドに所属していた関係だった模様。
……さらにヨルコさんが所属していたギルド──≪黄金林檎≫とやらはリーダーの死亡で既に消滅しているらしい。
「……とりあえず聞きたい事が幾つかある。……《生命の碑》の確認は?」
「〝カインズ〟と云う名前は《生命の碑》に数個有ったから判らない」
「ふむ…。……だったら、装備フィギュアが破壊されただけの可能性は考慮したか?」
「っ!!」
キリトは俺の指摘〝その発想は無かった〟とでも言いたげに目を黒白させる。
キリトの〝ポリゴン片になるのを見た〟とな言い方から、〝ポリゴン片になったところしかを見てない〟と感じた俺は、エイプリルフールにユーノからやられた──わりとシャレになってない悪戯に嵌められた時の経験を元に、キリトへと訊ねる。
……ちなみにその時は、本気でユーノに心配させられたので──そして、割りと貴重な転移結晶を無駄遣いされたので、キツめに灸を据えてやった。
閑話休題。
「……そうか、その手が有ったか…。装備フィギュアが破損する瞬間に転移結晶を使えば可能か…。……でも──だとしたら、なんでヨルコさん達はこんな事を…?」
「……まぁ判った。シュミットには俺から連絡を付けておく。シュミットも俺の誘いなら悪い顔はしないだろうし。……あ、それと、俺も急に気になってきたから俺もその事件(?)に何枚か噛ませてもらっても良いか?」
「? ああ、ティーチが居たら心強いから別に良いけど…」
キリトからこの件に介入する許可を貰えたので、〝まず始めに〟と、キリトにとある提案をする。
「……とりあえず、そのヨルコさんとカインズとやらの茶番に乗ろう」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ヨルコさん、ですよね? キリトから話は窺っています。……あ、俺も自己紹介しておきましょうか。俺の名前はティーチ。不肖ながら≪異界竜騎士団≫の団長を務めています」
「ティーチさん…。……あ、もしかして貴方が〝あの〟≪無槍≫ですか?」
シュミットに連絡してから翌々日。シュミットやヨルコさんとの予定を照らし合わせた結果、シュミット、ヨルコさんとの会談は日を隔てた今日となった。
……ちなみにヨルコさんが言った≪無槍≫と云うのは俺の≪先生≫に続く二つ名で〝アインクラッドにてその槍に貫けぬ物無し〟の略で──更には〝無双〟とも掛かっているらしい。
閑話休題。
場所の提案をしたのはヨルコさんだった。……カインズが〝あんな事〟になったのは昨日の今日なので、あまり塒としている宿から出たくなかったらしい。その言葉をヨルコさんから聞いた時、正直、内心で感嘆した。
〝よく設定出来ている〟と思ったのだ。
……とは云っても、〝怖がっている〟ヨルコさんが開け放たれている窓を背にしているので、今度はヨルコさんが〝どうやって死ぬ〟のかが何となく判った気がした。
窓の外からの奇襲──の〝振り〟と云うところだろう。……もちろんそれは〝この前の事件がカインズとヨルコさんの共謀だったら〟──とな註釈は付くが。
ヨルコさんとシュミットの間で交わされる話の推移を俺、キリトとアスナの3人で見守っていると、ヨルコさんは徐に立ち上がりながら憂いを帯びた様な──いっそ恍惚としているとすら錯覚するほどの表情で良い放つ。
「やっぱり、カインズが死んだのはグリセルダさんの幽霊の仕業だったと思うの」
「……馬鹿を言うなっ! そんな事があり得てたまるか!」
【ソードアート・オンライン】──この剣撃と魔獣が犇めく世界では、〝幽霊〟などとな存在はナンセンスで、よしんば出てきてもアストラル系列のMobくらいなものである。
……シュミットはヨルコさんの〝グリセルダさんの幽霊〟とな言葉を無視出来なかったのか激昂しながら否定する。
(……なるほど、そう云う風に持っていくか)
〝どこを見ているか判らない〟──鬼気迫るヨルコさんの〝演技〟に魅入りながら、シュミットのプレイスタイルを俺なりにトレースしていると、〝ヨルコさん達がやりたかった事〟も何となく判っってきた。
……些か横着かつ穴だらけ推論ではあるが、〝壁は小心者が多い〟──と云うのが持論だったりする。その心を堅牢な〝鎧〟で守るのだ。……シュミットも俺の持論に洩れないターンだったらしい。
……ここで間違えてはいけないのが、このデスゲームに於いては〝小心者〟は必ずしも悪とはなり得ない事である。〝臆病〟と〝慎重〟、〝大胆〟と〝無謀〟。……それらの振り幅さえコントロール出来るのなら、それは良い剣士に成るだろう。
「ねぇシュミット、私ね──」
途端、ヨルコさんは言葉途切れる。……そして、その〝背中に刺さった短剣を見せ付ける様に〟俺達全員に背中を向けながら、開け放たれていた窓から物理的に急転直下していった。
「ヨルコっ!」
落ちたヨルコさんを追うように窓から下の通りを見れば、パリン、と最早聞き覚えすぎてしまった小気味良い音と共にヨルコさんは消滅した。……その時、この一連の事件が狂言であるのを強く再確認した。
「ヨルコさんっ!」
アスナは驚いた──〝振り〟をしながら消えた彼女の名前を叫ぶ。……そう、アスナにもカインズさんの事──〝ヨルコさん・カインズの共謀事件(仮)〟の真相は話してあったりする。
その後は茫然自失なシュミットをグリセルダさんの墓がある場所に行く様にけしかけ、一件落着とした。
……アスナが〝とある事〟を言うまでは。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
シュミットをグリセルダさんの墓がある場所にけしかけた俺達は、シュミットのフレンド位置を追いかけ19層の【十字の丘】に来ていた。……のは良かったが、どうも様子がおかしい様にも思えたので、俺とキリトは〝その場面〟への介入を決定した。
「おっと、この場は俺達に──≪異界竜騎士団≫に預からせてもらおうか」
「ティーチ…さん」
〝麻痺〟にあてられたらしいヨルコさんとシュミット──そしてやっぱり生きていたカインズらしき男性と、〝そいつら〟との間に踊り出る。
……予想外の人物達が──否、【十字の丘】のおどろおどろしい背景にマッチングしていると云う意味では〝この場所〟に居てもおかしくななさそうな人物達が居た。……簡潔に云えば〝殺人ギルド〟である≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫が居たのだ。
≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫。このゲーム──デスゲームと化したこのゲームで最大のタブーとされている〝殺人〟を是としている、〝アインクラッド内最大の癌集団〟である。
「お前は≪異界竜騎士団≫の団長≪無槍≫にナンバー2の≪黒の剣士≫か…」
「おっと、別にドンパチかますのは良いが、≪異界竜騎士団≫のメンバーを始めとした、総勢24人の攻略組がここに来るが構わないのか?」
ポンチョの男──《PoH》と思わしき人物が武器を抜こうとしたところ、キリトがハッタリで牽制する。……具体的な人数を提示する事でハッタリに真実味を出しているあたり、我が弟にはギャンブラーとしての才があるらしい。
「……撤退するぞ」
「……マジかよ、頭~!?」
「俺達は〝戦い〟がしたいんじゃない。……足手まといな〝猪〟なら置いてくぞ」
「りょ~かい」
「≪黒の剣士≫、お前は、俺が、殺す、精々、縮こまって、おくんだな」
いっそ和気藹々なムードを漂わせながら≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫は走り去って行く。……帰り際にポンチョの男──《PoH》と思わしき人物はこんな置き科白を残して行った。
「あ、それと最後に──≪無槍≫よぅ、お前は〝そちら側〟じゃないだろう? 俺には判るぜぇ? ……お前が人を殺した事が有るのをなぁ…?」
「………」
俺はその言葉に何も返さなかった。
SIDE END
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