普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
111 誠愛問答
前書き
今回、SEKKYOU要素があります。ご留意下さい。
SIDE 《Teach》
―あ、それと最後に──≪無槍≫よぅ、お前は〝そちら側〟じゃないだろう? 俺には判るぜぇ? ……お前が人を殺した事が有るのをなぁ…?―
(〝こちら側〟、か…)
それなりに長い間を生きている俺にとって〝殺人〟なんてのは、ある程度は割りきれている事である。〝自分の周りに多大なる不利益を被る奴〟──かつ、〝俺以上に終わっている人間〟を自己的な秤にかけて、殺めた事がある。
もちろん、〝殺人〟についての忌避感も人並み以下だがある。いつぞやドライグに誓った様に、〝人を殺しながらも生きている〟と云う事実から逃げず、真摯(?)に生きている。……とは思っている。
閑話休題。
「……助けていただき、誠に有り難うございました。……でも、どうしてここに…?」
漸く麻痺が解けたのか、ヨルコさんが訊ねてくる。シュミットとカインズ──らしきプレイヤーも不思議そうな視線で見てくるあたり、皆──キリトを除く3人は、俺なりの推理を聞きた気にしている。
「……まず前提として、俺はカインズが死んだとは思わなかった──とは云わないが、〝死んでいない可能性〟を最初から考慮していた。うちのメンバーに悪戯で似たような事をされたからな」
〝まず1つ〟と切り出す。
「〝カインズが死んでない〟と考慮に入れれば、次にこんな疑問も出てくる。……〝カインズはなぜそんな真似をしたのか〟──と」
「ちょっと待て、なぜ俺が死んでないと思ったんだ? ……俺が本当に死んでいた可能性も高かったはずだ。〝殺人ギルド〟がまた新しい手口のPK手法を編み出したとか…」
つらつらと種明かしをする俺に、カインズが突っ掛かってきた。
「……その辺の事はもちろん考えたが、このデスゲームの残酷なまでの〝公平さ〟を考えたらそれも無い。……今更〝圏内〟でHPバーが減るなんて設定してるとも思えなかったし、〝そのテ〟のアイテムを態々用意しているとも思えなかったしな」
これは〝茅場 晶彦〟を知っているから判る事だが、そこは詳しく語るべき事でもないので省略。……更に云えば、茅場さんの目的──このゲームのクリアの事を考えると、〝PK用〟に特化したスキルやアイテムが在る可能性は低いとも見ている。
「でも、どうやって、この場所を?」
「〝この場所〟はシュミットのフレンド位置を探った。……後、何かあるか?」
ヨルコさんの質問に簡潔ながら答え、他の質問を促す。……するとシュミットが口を開いた。
「どうして〝レッド〟が来るのが判ったんだ?」
「〝レッド〟についてはぶっちゃけ勘だったが──まぁ、≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫のトップ3が居るとは思わなかったが」
シュミットの質問に註釈を添えながら答える。……〝レッド〟については、最悪でも〝下っ端〟が4~5人程度の想定だったので≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫のトップ3が居た時は、さすがに肝を括りかけた。
「……ところで話は変わる──いや、変わらないかもしれないが、グリセルダさんが亡くなる理由となった〝例の指輪〟はどこに行ったと思う?」
「「「あっ!」」」
元≪黄金林檎≫の3人は俺のその問いを考えてもいなかったのか、異口同音に間の抜けた声を漏らす。
シュミットをこの【十字の丘】に行くように唆したあと、いざ解散と云う折にアスナが放った一言が俺をこの場所へ来させる理由となった。
―これからも今回みたいな事が起こらない様に、うちのギルドでもレアドロップの扱いを再び周知させておこっか?―
アスナのその一言は今回の〝一連の事件〟の大元となった理由──〝その指輪〟の処遇に対してのちょろっとした、ただ〝他人の振り見て我が振り直せ〟みたいな話だったのだが俺はそのアスナ言葉を聞いた時、〝指輪の行方〟が気になって仕方なくなった。
……そして〝指輪の行方〟を自分なりに考えていくと、ふと〝とある結論〟に辿り着いてしまった。……〝グリセルダさんを殺したのはグリムロックである〟と云うそんな結論に…。
「……そもそも、なんで安全であろう宿に停まっているのに〝睡眠PK〟なんて出来た? ……〝点滅殺人者〟の訪問? これから売ろうと云うレアドロップを持っていたんだ、まず開けないよな。……知り合いの訪問? ……だとしたら──普通、人が居るのに寝るか?」
責め立てる様に語る。……それこそ、〝その可能性〟に導いていく様に。
3人の顔からは、みるみる血潮特有の赤みが引いていく。
……ちなみに〝点滅殺人者〟と云うのは、〝カルマ回復クエスト〟で犯罪者と一般人を行ったり来たりしている奴の事である。まるで信号の様にマーカーの色が変動するので、信号機と云われている。
閑話休題。
「……そう考えれば、グリセルダさんの泊まっている部屋に入れて、グリセルダさんが唯一〝寝姿〟と云う無防備な姿を曝せるまでに信用している奴が1人だけ居るんじゃないか?」
「グリセルダさんを殺したのはグリムロックだと云うのか──まさか、嘘だっ!」
「グリムロックへの侮辱よ、それは!」
「グリセルダとグリムロックの夫婦仲はあんなに良かったんだ。……そんな事有り得てたまるか!」
元≪黄金林檎≫の3人から否定の声が飛んで来る。……それは、どれだけ〝グリセルダさんがグリムロックに尽くしていたか〟──そして、グリムロックがどれだけ〝このゲームに潰されない様に我慢していたか〟の表れだった。
……この3人には〝弱い人〟がどれだけ追い詰められていたか判る人物は居なかったらしい。……そう考えれば〝≪黄金林檎≫は潰れるべくして潰れた〟──そんな風にも思えた。
「……〝愛しさ剰って憎さ100倍〟──と云う様に、〝愛〟と〝憎〟は表裏一体だよ。〝グリ〟セルダ、〝グリ〟ムロックと、態々キャラクターネームを初期ロット10000本のこのゲームで揃えているあたり、多分〝現実世界〟でもそれなりに親しい関係だったんだろうさ──アスナ、彼をここに」
「……やぁ、皆。久しぶりだね」
アスナの細剣での先導で現れたのは、コートを羽織っている──そこはかとなく胡散臭さが溢れている男性だった。
「初めましてグリムロック。俺は、〝なんちゃって探偵〟なんて役職に収まっているティーチだ。……でこっちとそっちが助手の──」
「キリトだ」
「アスナです」
適当に礼をする俺達3人。グリムロックは一度だけ考え込んだ様な素振りを見せると、徐に口を開く。
「〝なんちゃって探偵〟ね、確かに面白い──然も筋が通っていそうな推理だったが、探偵君の推理には幾つか大きな穴がある。……確かに私とグリセルダは親しい間柄だった。……なら、なぜ私がグリセルダを殺さなければならない」
「……だったらグリムロック、貴方とグリセルダさんの間柄を訊いてもいいか? その前提如何で〝答え〟が変わるからな」
「おいティーチ」
キリトは俺のマナー違反──〝リアルの詮索〟に忠言を呈するが、グリムロックは大した反応見せず──寧ろキリトを宥めるかの様なポーズすら採る。
マナー違反は重々と承知しているが、これは是非ともグリムロックの口から聞ききたい事である。……とは云っても、大体の関係性の推測はついているのだが…。
「夫婦だよ。私の3歩後ろを歩きながら私を立ててくれる可愛い妻だった。……〝鴛鴦の契り〟、〝連理の枝〟とは正に彼女との事をいうのだろう」
グリムロックのその言葉を聞いた時、これまでの情報が纏まっていき──俺の中で1つの解へと集約していった。
「……なるほど、そうか…。……恐かったんだな」
「っ!!? ……私が、何を、恐れたと、云うのかな…?」
俺の言葉は、飄々としていたグリムロックを崩すには十分過ぎたようだった。強がる様に絞り出した反論はいっそ痛々しくすらあって、それはもう〝私がやりました〟──と、言外に自白している様なものだった。
「この先の見えない──一寸先は闇のデスゲームに磨り潰されていく貴方からしたら、グリセルダさんが恐かったんだ。自分に背を向け、自分の足でこんなゲームのど真ん中に飛び込んでいく様に進んでいくグリセルダさんが恐かったんだよ。……グリセルダさんって聞いた限りじゃ中々のプレイヤー──」
「お前の様な──〝愛〟を知らない様な若造が私のユウコへの愛を、然も判った様な口振りで語るなっ!!」
「そんなの──」
「アスナ、今は抑えてくれ」
「ティーチ君…」
「頼む」
「……判った」
「悪いな」
それは自白と云うべきか自爆と云うべきだったか。淀み無く語る俺がグリムロックからしたらお気に召さなかったらしい。……そのグリムロックの叫言にアスナが激昂しかけるが俺はそれを〝俺のバトルフェイズは終了してない〟とばかりに宥める。
……何もアスナがこの──思考を停止させている男に掛けてやらなければならない言葉なんて無い。〝蛇の道は蛇〟と云うべきか。思考停止には〝思考停止〟がするのが一番である。
「……〝愛〟を知って──それが喪われようとした時、君達もいずれかは判るよ」
「〝愛〟、ねぇ…」
「……何が言いたい…?」
然も悟ったかの様なグリムロックの言葉に、鼻白む様な体で茶々を入れれば──やはりと云うべきか、グリムロックは、一旦は治まっていたその怒りを再燃させていく。
「何でグリセルダさんは、こんなゲーム──泥の底を這いずり回らなければならない様なデスゲームで頑張れたんだろうな?」
「それは〝ユウコ〟が──〝グリセルダ〟になったからで…」
「いや、違う。……貴方を愛していたに──貴方が居てくれたからに他ならないからだよ、グリムロック」
「っ!!」
俺の言葉が心底意外だったのか、グリムロックは目を黒白とさせる。俺はそんなグリムロックの様子を〝知ったことか〟、と矢継ぎ早に続ける。
「だって、考えてもみろ。愛している夫の元気が日に日に無くなっていくんだ。……グリセルダさんが〝私が夫を支えよう〟と決意しても、なんら不思議な事でもない」
「……っ、どうして、私を愛していたと言い切れる。……ユウコ──いや、夫である私でも無いのになぜ決め付けられる…っ」
「結婚式って、なんでやるんだろうな。……周りに自分の伴侶を見せ付けるため? いいや、違う。〝永遠の愛〟を誓うためなんじゃないか? ……結婚式で神父の言葉になんて答えた?」
グリムロックの中でも〝病める時も〟──〝いついかなる時も〟と云うフレーズが浮き上がったらしく、顔を蒼白とさせていく。
「そんなのは証拠にならないっ! もし私を本当に愛してくれていたならっ、それを私に口から伝えてくれて良かったはずだ!」
「貴方を信じていたからに決まっているだろう、そんなの。グリセルダさんは〝有言実行〟──ならぬ、〝不言実行〟を体現していたんだよ。……グリセルダさんは貴方に〝前線へ出てほしい〟と、一度でも言ったか? ……貴方が〝それ〟に気付いてくれると信じていたんだよ…っ!」
俺の声がフィールドに反響していたのを自覚し、それを誤魔化す様に咳払いを1つして──グリムロック以外の5人も置き去りにして、更に続ける。
「……でも貴方は、そんなグリセルダさんの──ユウコさんの信頼を踏みにじったんだ」
「そんな…っ、じゃあ私のした事は一体…。……私は、私はぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺の言葉がトドメとなったのか、グリムロックはその場に崩れおちる。……漸く〝自分のしでかした事〟が身に沁みてきた様でもあった。
〝根が真面目な人ほど許容量が低い〟──と云うのは俺の持論で、グリムロックは偶々俺の持論に当てはまっていたらしい。
………。
……。
…。
「じゃあ、俺達はこれで」
「グリムロックの処遇は私達に任せてください」
「ティーチ、助かった」
〝一件落着〟の折り合いを見せた頃合い、カインズ、ヨルコさん、シュミットは各々に言う。
「ティーチ君、だったね。……最後に聞かせてくれ。……私はどうすれば良かった?」
「……俺がグリムロックの立場だったら、まずは鍛冶スキルの完全習得を目指していたかな。まあ、言うほど簡単な事じゃないけど。……このデスゲームを生きていくのは〝戦闘〟だけが必要ってわけでもないし──寧ろ職人系列の方が大切だったりするしな…」
そこで一旦句切る。
「そして、下を向いてうじうじ悩んでいる奴より、前を見据えて1歩1歩をしっかりと歩いている奴の方が格好いいだろう? ……人として、夫として──何より〝男〟として」
「っ……そう…だね。……出来れば、君の様な人間にもっと早く会いたかったよ」
グリムロックは憑き物が落ちたかの様な、晴れ晴れとした様子で語る。……それで漸く〝一件落着〟となった。
……しかし俺には懸念する事があった。
(≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫…。……これ以上このアイクラッドでのさばるのなら、俺にも考えがあるぞ)
「あ、まだやらなきゃいけない用が有ったな。キリトとアスナは先に上がっててくれ」
そう1人、内心でごちながらアスナとキリトを二人きりにできる様に一芝居打つのだった。
SIDE END
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